アトゥム・シラク准尉
何事にも前向きな茶髪癖毛の青年。アフリカ方面に左遷されることとなったが、レビル将軍からMSを貰う。
ジョシュア・ニグニット曹長
才色兼備で生真面目な金髪碧眼の美青年。アトゥムの訓練兵時代からの親友。元々アフリカ勤務が決まっていた。
アトゥムとジョシュアの乗るトラックはリビアの街を抜け、アフリカ基地のすぐそばまで来ていた
「見えてきた!あの建物かぁ~」
アトゥムは前方に見えてきた建物を指差した。
「思っていたより小さいな。まあ中隊だからあんなものか」
ジョシュアは少しがっかりした様子だった。
それからしばらくしてアトゥムたちのトラックはアフリカ基地に到着した。
「んー、遠くからだったから小さく見えたと思ったんだけど近くで見ても小さいな」
アトゥムはトラックを降りながら基地を見渡した。
「俺たちが初めての中隊勤務だから小さく感じるんだろ。その内慣れるさ」
ジョシュアはトラックにロックが掛かっているか確認しながらそう言った。
アトゥムとジョシュアが言う通りこのアフリカ基地は他の基地に比べて小さい。だが、外から見る限りだとMSや兵器の格納庫や訓練所までしっかり設備されている。中隊基地にしては申し分ないと言えるだろう。
「てかさぁ、もう車3台止まってるんだけど、もう中に入っているのかな?」
アトゥムは自分たちのトラックより奥に止めてある車の存在に気づいた。
「どこにも見当たらないしもう中にいるんじゃない?時間より少し早いけど入るか」
ジョシュアは腕時計を確認した。時刻は11時50分を示していた。
「いやー楽しみだな~」
入り口の前でアトゥムはボサボサになっている髪を整える。彼は癖毛のせいですぐに髪が跳ねるのだ。
「正直俺は緊張してる…」
ジョシュアは特に身だしなみに乱れがなかったため基地の中を覗きこんだ。しかし、二重扉になっているので中が見えなかった。
「じゃあジョシュ、俺先に入るよ」
アトゥムは緊張しているジョシュアは気遣い、先に中に入った。ジョシュアがそれに続く。
「おっと、アトゥム!急に止まる…えっ」
前を歩いていたアトゥムが急に止まり、何事かと思ったジョシュアだったが、その瞬間目を疑うような光景が広がっていた…
アトゥムたちの前方に3人の連邦兵が倒れていたのだ。見た感じ女性2人、男性1人だ。さらにその倒れている3人の前に物凄くがたいのいい褐色肌の男が立っていた。この光景を見た誰もが、この褐色肌の男が連邦兵たちを倒したと思ってもおかしくない状況だ。
「………」
アトゥムとジョシュアは唾を飲み込んだ。褐色肌の男がこちらに気が付いたのだ。
「………」
アトゥムとジョシュアはアイコンタクトを送りあった。逃げよう、というサインだ。しかし、アイコンタクトを送り終えた次の瞬間…
「やばっ!」
褐色肌の男がこちらに走ってきたのだ。
二人は2方向に別れて逃げた。
「ちょっとマジかよ…」
アトゥムは苦笑いした。褐色肌の男はアトゥムを追いかけてきたのだ。
「速すぎんだろ…おい…」
アトゥムはどんどん距離を詰められた。
「やってみるか…よし来い!」
アトゥムはこのまま逃げてもいずれ捕らえられることを確信して褐色肌の男の方を向き、戦闘体制をとった。
「ふんっ!」
「いけるか…」
褐色肌の男の左手がアトゥムを襲う。アトゥムはそれに対応して右手で拳をつかんだが、手のひらに激痛が走る。
「いっ痛っ!」
「はあぁ!」
褐色肌の男は左手を掴まれていることを気にせず右手でアトゥムに殴りかかった。
「なんの!」
アトゥムは右手でやったのと同じように左手で拳を掴んだ。やはり激痛が手のひらに走る。
しかし、間を入れずに右足の蹴りが飛んできた。
「ふんっ!」
「まだだ!」
アトゥムは左足を上げ、すねで防御した。
「くっ…そ…」
しばらくつばぜり合いが続く。
褐色肌の男の攻撃を受けてアトゥムは感じていた。
(こいつ手加減しているのか)
ムキムキな身体、並大抵ではない走力、そんな身体能力を持つ褐色肌の男の攻撃が一般的な軍人である自分に受け止められるなんてありえない。アトゥムはそう思っていた。
「ふっ…」
アトゥムがニヤリと笑った。決して手加減されてることに対してではない。彼は褐色肌の男の後ろに注目していたのだ。金髪の男がこちらに走ってくる。そうジョシュアだ。
「はあぁぁぁぁぁ!」
ジョシュアは全速力で走り、勢いを乗せた拳で褐色肌の男の背中を突いた。
ゴスッ
鈍い音が鳴り、沈黙が流れる。
誰もがジョシュアの勝利を確信しただろう。しかし、アトゥムは判っていた。ジョシュアが負けたのだと。アトゥムが掴んでいた拳の力が全く弱まっていないのだ。
「いい突きだ…だが!」
褐色肌の男は目を見開き背筋に力をいれた。
「なっ!」
次の瞬間ジョシュアが後ろへ吹き飛んだ。
「ぐっ!…」
ジョシュアは背中を強打し気絶した。
「なんてこった…」
褐色肌の男の恐るべき力を目の当たりにし、アトゥムから力が抜けていった。
「終わりだ…」
褐色肌の男はアトゥムの両手から自分の拳を抜き、アトゥムの頬を殴った。
「げふっ…」
倒れているジョシュアが目にはいったのを最後に、アトゥムの視界が真っ暗になった。
「…ん…はぁ…ん?」
アトゥムは目を覚ました。そして仰向けのまま首を横に向け部屋の見渡した。そこは見覚えのない病室のような場所であったが、ベッド以外なにも置いていない。彼の斜め上に掛けてある時計が12時30分を示していたことから彼はあまり寝ていなかったことに気が付いた。
「えっ…マジか…」
アトゥムがもっとしっかり部屋の中は確認しようとベッドから起き上がった時、正面の壁にあの褐色肌の男が立っていたのだ。アトゥムは先ほどのことを思いだして硬直した。
褐色肌の男はアトゥムを直視し口を開いた。
「怪我は大丈夫か?」
「えっ、あっ、はい」
アトゥムは予想外な展開に目を丸くした。そして、殴られた頬に湿布が貼ってあったことに今さら気付き、湿布を押さえながら呆気なく答えた。
褐色肌の男はきょとんとしているアトゥムに構わず続けて喋った。
「そうか、なら俺に着いてこい。すぐに状況を把握させてやる」
褐色肌の男はそう告げるなり部屋から出ていった。
「………行くか」
アトゥムは少し着いていっても大丈夫なのか疑ったが、部屋にいてもなにも解らないと思い部屋をあとにした。
部屋の外では褐色肌の男がアトゥムのことを待っていた。褐色肌の男は「こっちだ」とだけ言い歩き出した。
アトゥムは褐色肌の男に着いていく前に今いた部屋の外装を見た。<病室>と書かれたプレートが貼ってあったことで、アトゥムはこの建物がアフリカ基地の中だということに気が付いた。
「ここだ」
褐色肌の男は扉の前に立った。そこには<休憩室>というプレートが貼ってあった。
「ん…ああ、わかりました」
アトゥムは褐色肌の男が扉から少し遠ざかったのを見て“先に入れ”という合図を受けたことを理解した。
ウィーン
アトゥムが扉を開けるとそこにはいくつかの丸テーブルが置いてあり、その中の1つに連邦軍の制服を着た者が4人座っていた。そして、その4人のうちの一人がジョシュアだということにすぐに気が付いた。
「あ、こんにちは」
アトゥムは4人がこちらを向いてきたことに気づき軽く会釈しながら挨拶をした。
そして、アトゥムはジョシュアの隣に座り、ジョシュアに話し掛けようとしたその時
「よし、全員揃ったようだな。これよりオリエンテーションを始める」
褐色肌の男が席に着くなりそう言った。
「えっ」
「はい?」
「なっ」
褐色肌の男の予想外の発言に他のメンバーたちは耳を疑った。
「とりあえず落ち着け。俺はハウシャール・カムル、大尉だ。今日からお前たちの小隊長を勤める。よろしく頼む」
褐色肌の男、ハウシャールはそう言い軽くお辞儀をした。
「大尉…小隊長!?まさか今ここにいるメンバーで小隊を組むのですか?」
ジョシュアは椅子から立ち上がりハウシャールに向かって質問した。
「ああ、そうだ。それとお前、立ったのだったら自己紹介をしろ」
ハウシャールはニヤリと笑いながらジョシュアに言った。
「えっ…じ、自分はジョシュア・ニグニット曹長であります。イギリス南支部より参りました。」
「イ、イギリス…!?」
ジョシュアが“イギリス”と言った時、ロングウェーブでクリーム色の髪が印象的な如何にもセレブって感じの女性が少し動揺した。
「ん?じゃあ次はそこのお嬢さんよろしく」
その反応に気付いたハウシャールはその女性を指名した。
女性は咳払いをしたあと右手を胸元に当てながら自己紹介をした。
「私は イギリス中央支部より参りました エリー・トロイア曹長、由緒正しきトロイア家の一人娘ですわ。」
「ジョシュ知り合い?」
さっきにエリーの動揺やイギリス繋がりのところからアトゥムは隣のジョシュアに呟いた。
「自己紹介中だ。あとで話す」
「まったく真面目だね~」
ジョシュアの返答にアトゥムは苦笑いをした。
「次はニグニット曹長の隣のお前にしよう」
ハウシャールはアトゥムを指名した。今の話が聞かれていたのだろう。
「自分はアトゥム・シラク准尉です。ワルシャワ支部より参りました。」
「わざわざワルシャワからこっちに飛ばされるなんて」
エリーはアトゥムを少し小馬鹿にしたがハウシャールがすぐにフォローに入った。
「シラク准尉は元々オデッサ作戦選抜隊に所属していたが、本来こちらに来る者が事故で亡くなったため急遽この中隊に配属されることになった。レビル将軍から推薦されたらしい」
ハウシャールは真面目に話したが、アトゥムはハウシャールとジョシュアを除いたメンバーから「左遷かよ」といった視線を浴びた。
「ゴホン、では自己紹介に戻るとしよう」
場の雰囲気が怪しくなりだしたからかハウシャールは咳払いをして仕切り直した。そして、次の人を指名しようとした時だった。
「はい!私がやってもよろしいでしょうか!」
銀髪ポニーテールで色白な肌の少女が立ち上がりながら手を挙げた。
「ああ、それじゃあ頼む」
ハウシャールの発言は少女の活気的な言動とは対照的で素っ気なかった。
アトゥムとジョシュアは「そんなんでいいのか」と思わせる視線をハウシャールに送っていた。
「私はレイラ・コーガン伍長です。フィンランド支部よりやって来ました!多分この中で一番年下であると思いますがよろしくお願いしますぅ!」
レイラはハウシャールの指名の仕方を全く気にせずにハイテンションに自己紹介をした。アトゥムと先ほどからあまり喋っていない青年は「よろしく」と一声掛けたが、ジョシュアとエリーは少し迷惑そうな顔だった。
レイラが席に着いたなりハウシャールは全員の顔を確認しながら自己紹介してない者を探した。
「最後は…お前か、よろしく頼む」
「はい」
外見には目立った特徴がない寡黙な青年が静かに立ち上がった。
「私はシグ・ワット少尉です。よろしくお願いします」
シグは必要最低限なことだけを言うと静かに席に着いた。
「ふぅ…すまないな。こういう進行役みたいなのは得意じゃないんだ。」
ハウシャールはため息を吐きながら首を掻いた。
アトゥムとジョシュアは「そういうことだったんだ」という代わりに目を合わせた。
「簡単な挨拶であるが我が小隊へようこそ、よろしく頼む」
ハウシャールは座ったまま敬礼した。
「よ、よろしくお願いします」
アトゥムたちは突然のことで今だ小隊に加わった実感が沸いていないがハウシャールに向かって敬礼をした。
「自己紹介も終わったことでまず入り口での行為について説明したいと思う」
その時エリーが間を入れずにつっこんだ。
「そうそれですわ。私は自己紹介をしにきたんじゃなくてさっきのことを聞きにきたのですのよ」
他のメンバーたちはそういえば、という感じだった。自己紹介をしていたことで忘れていたようだ。
「俺は小隊長を勤めるたびに抜き打ちで小隊員の肉弾戦の能力を調べている。今回もそれを行ったんだ。少し手荒いのは申し訳ないと思っている…すまん」
ハウシャールは軽く頭を下げた。アトゥムとレイラはなるほど、と頷いていたのに対してジョシュアとエリーはあり得ない、といった表情をしていた。シグは少し考え事をしているようだった。
そして、シグがハウシャールに質問した。
「しかし隊長、私たちはここに来て初めて小隊のメンバーが分かるのですよね、なぜ隊長は私たちが小隊員だって知っていたのですか?」
確かに「端くれ」は現地で初めて小隊のメンバーを知ることになる。
「ここの基地の中隊長に掛け合って俺の小隊のメンバーだけを予定時刻より1時間早めて招集してもらったんだ。だから俺はお前たちが自分の小隊員だってことが判るんだ」
その言葉を聞くなり、アトゥムたちは壁に掛けてある時計を見た。12時40分を示している。
「てことは20分後が本当の集合時間なのですか?」
アトゥムは時計を指差しながら少し間抜けな声でそう言った。
「ああそうだ、50分にはオリエンテーションを終えるようにするから安心しろ」
「そういう問題じゃないんですよ…」
ジョシュアが力ない声で小さく呟いた。
「そんなことやってなんの意味があるんですの!」
エリーはハウシャールに不満の目を向けた。その表情は少し怒っていた。
「簡単な話だ。俺はお前たちの戦闘能力を見抜くことが出来た。これから小隊を組むにあたって重要なことだろ」
ハウシャールは語るように答えた。
「なるほど…一理あるかもしれない…」
少し前まではエリー側の考えであったジョシュアは納得したようだった。しかしエリーはまだ納得出来ないようだった。
「見抜くって…あんな短時間でどうやって」
「そうだな…トロイア曹長、お前は体力はあるようだが肉弾戦は全くの素人だな、殴り合いのケンカとかもやったことないだろう」
ハウシャールはエリーの戦闘能力を簡単に分析してみせた。そしてさらに続けて話した。
「この際だ、他の者たちの評価も教えよう」
ハウシャールは物凄く生き生きとした表情だった。それとは逆にアトゥムたちは緊張していた。
「まずワット少尉、お前は応戦しろ。戦場だったら死んでいたぞ。しかし中々いい肉体を持っているな、護身術ぐらい身につければその辺の敵兵には負けなくなるぞ」
「ありがとうございます。精進します」
シグは自分の筋肉量を見抜かれていたことに驚いていたが口には出さなかった。
「次にコーガン伍長、お前はどうして連邦に入隊出来た?戦闘能力以前に運動能力が皆無じゃないか。まずは毎日ジョギングからだ」
「いやー、私自分で言うのもなんですが勉強は結構出来るので入隊はそこで頑張りましたよ~」
レイラは褒めていないのに何故か照れていた。
「次はシラク准尉、それなりの戦闘経験があると見た。だが少し筋力不足だな、打たれ弱いところを補えればグッドだな」
「結構見てますね、凄いです。ありがとうございます」
アトゥムは思ったことを素直に言った。
「最後はニグニット曹長、お前武道の経験があるな」
「はい、休暇のときのみでありますが空手をやっております」
「やっぱりな、俺は曹長のような奴に会えて非常に嬉しい。まだ荒削りだが筋は良い、これから俺がみっちり鍛えてやろう」
「ご好意は嬉しいのですがそのような時間はあるのですか?」
「むぅ…すまん、少し熱くなりすぎた。時間があるときに少しずつやっていく形にしよう」
「その方向でお願いします」
ハウシャールと同じようにジョシュアも生き生きとしていた。その一方、二人の話しを聞いていたアトゥムたちはたいへん興味なさそうにしていた。
「おっとすまない、お前たちの評価はこのような感じだ。トロイア曹長、今ので納得してくれたかな」
アトゥムたちの視線を感じ、ハウシャールは話を元に戻した。
「まあ…そうですわね、隊長が凄い方だってことは分かりましたわ」
エリーはハウシャールと目を合わせずに言ったが、さっきの不満な表情は消えていた。
コツコツ
部屋の外で足音がするのが分かった。
「よし、そろそろ指令室に向かうとしよう。少しずつ集まってきているようだ」
ハウシャールが立ち上がるとアトゥムたちも続いて立ち上がった。
シグは胸に手を当てて緊張をほぐしてた。レイラは軽く伸びをし、エリーは身だしなみを整えていた。ジョシュアは落ち着かない様子だった。そしてアトゥムは呟いた。
「この小隊上手く行く気がする」
アトゥムたちは部屋をあとにした。