アトゥム・シラク准尉
主人公。陸戦型ジムのパイロット
ジョシュア・ニグニット曹長
アトゥムの親友。早くMSが欲しい
ハウシャール・カムル大尉
アトゥムたち第1MS小隊隊長。宇宙用ジムのパイロット
シグ・ワット
第1MS小隊の一応副隊長。MSを貰うのは最後でいいらしい
エリー・トロイア
富豪の一人娘。MSに乗らなくても十分に戦える自信がある
レイラ・コーガン
第1MS小隊最年少。MSのことをあまりよくわかってない
チャール・エルライン准将
アフリカ中隊部隊長。今一ぱっとしない経歴と性格を持つ
ライト・ウィル・ハンツ大佐
アフリカ中隊副部隊長。物静かだがいつもイライラしてる苦労人
セバスチャン・ブロンズ
整備班班長。紳士的な性格で腕もたしか
カイト・ナカハラ
整備班所属。新人であがり症だがセバスチャンも認めるほどの腕。日本人
アリス・コットン少尉
オペレーター。低身長と名前がコンプレックスの27才
マイ・コウ伍長
オペレーター。長身でモデル体型。よくアリスと比較される。日系人
チャール中隊が始動した日の深夜、静まり返っている砂漠とは裏腹にアフリカ基地には緊張感が漂っていた。
アトゥムたちがジオンのシャトルを目撃したすぐに後、各小隊の小隊長たちが緊急召集された。そしてつい先ほど第1偵察小隊が偵察に出た。ほかの小隊は待機状態の命令が出された故に今の状況に至る。
「コーガン伍長まだ起きていたのか」
部屋の水が切れてしまい食堂に代えを取りに来たアトゥムだったが、そこで椅子座り何かをしているレイラの姿を発見した。
「あっ、アトゥム准尉どうしました?」
「俺は水を取りに来ただけだけど伍長は何してるんだ、こんな遅くに」
レイラのきょとん、とした返事にアトゥムは苦笑した。
「私はですね~これです」
そう言いながら手元にあるメモ帳を広げて見せた。
「おーすごいな」
メモ帳にはこの中隊に所属している隊員名とその人物の特徴が書かれていた。
「やっぱコミュニケーションを上手く取るためには名前を覚えるのが重要だと思うんですよ」
アトゥムに向けての言葉だったが何故か頷きながらそう言った。
こうして見ると普通の女子学生にしか見えない、アトゥムは内心でそう思ったのと同時にあることを口にしていた。
「伍長はさ、どうして軍に入ろうと思ったの?俺が言うのも何だけどまだ若いじゃん。まだ遊び足りない歳だと思うんだけど…」
「あ、ごめん!変なこと聞いちゃったよね」
最後に謝罪の言葉を述べたものの、内心アトゥムはレイラの返答を期待した。
「ええぇ~いきなりですね~」
レイラは戸惑いの表情を浮かべたものの素直に答えてくれた。
「私、元々同級生に推されたんで軍に志望したんですよ。オペレーター志望で。結構軽い気持ちだったんですけど、テストを重ねていくうちにパイロットとしての適正が高いことが判って気がついたら歩兵になっていたんですよ。ハハッ、おかしいですよね?」
レイラはいつものように冗談混じりな感じで過去を話してくれたが…
「でも調度その頃私の故郷が滅茶苦茶にされちゃったんですよねジオンに…」
その口調は先程とは一転して暗く、アトゥムに重くのし掛かった。
「でもロシア地方ってジオンの制圧圏じゃなかったっけ?」
「はい、でも私の故郷は反ジオン派が多かったんですよ。だから私も連邦に志願しましたし。それで故郷の人達が抵抗運動を行ったらしいんですけど、過剰な鎮圧行動で知り合いはほとんど死んでしまいました…」
「そんなことが…でもなんでそのことを、故郷には帰ってないんでしょ?」
「何とかして生き残ったお母さんと友達が手紙をくれたんです。その手紙にはこう書いてありました。“お前が最後の希望だ”…って」
口調は相変わらず暗かったが、アトゥムには彼女の表情が少し明るく見えた。
「そこで初めて、私は軍で頑張ろう、って決心したんですよ。故郷の奪還のために!」
レイラの力強い言葉にアトゥムの心は打たれた。それと同時にレイラの返答を期待した自分に罪悪感を覚えた。
「ごめん、辛いこと言わせちゃって…」
「別いいですよ~、だって私元々親に軍に入るの反対されてたんですもん。知りたくないものをしるかもしんないから~、とか言われて…子供扱いし過ぎですよ!」
レイラのその明るい喋りっぷりにアトゥムは安堵の表情を浮かべた。
アトゥムがふと時計に目をやると1時を指していた。
「もうこんな時間か、明日も早いんだし早く寝るんだぞ」
「了解しましたっ」
アトゥムはレイラより一足先に自室へ戻った。
しばらくしてレイラも自室に戻ろうとしたがある事を思い出した。
「あっ、アトゥム先輩のことも聞こうと思ってたんだ。まあ…いいか!」
翌朝
ウーウーウー
基地に緊急起床音が響き渡る。
「…はっ!襲撃!?」
アトゥムはベッドから飛び起き野戦に着替えた。
調度その時、基地全体にアリスの声が響き渡った。
「第1MS小隊、至急ブリーフィングルームへ集まって下さい。その他各員は緊急事態に備えて自室待機をお願いします。」
「マジかよ!…ってあっ」
部屋を飛び出そうとした時、鏡に映った自分の寝癖が酷いことに気がついた。
「くそー時間がないのに!」
アトゥムは洗面器に頭を突っ込み水を浴び、タオルで頭を拭きながら部屋を飛び出した。
ウィーン
「来たか」
ブリーフィングルームには既にシグ以外のメンバーが揃っていた。
「す、すいません!」
「おおっ!」
アトゥムのすぐ後にシグが走りこんできた。
「何、慌てる必要はない」
ハウシャールがシグを嗜めた。ハウシャールの額にうっすら汗残ってるあたり、差詰めみんな来たばかりなことが伺える。
「よーし!早速だが俺たちの最初の仕事だ」
仕事、ハウシャールのその言葉に緊張が走る。
「昨日の夜出動した偵察部隊が敵の拠点を発見した。しかしながら帰還中に敵のレーダーに引っ掛かってしまい敵から追われるはめになってしまったんだ。偵察部隊は追っ手を撒くことに成功したのだが、敵の進軍はまだ続いている。このままだと早くも基地の情報盗まれる危険性がある。今回俺たちはその追っ手の迎撃を行う」
「僕たちが召集されたってことは敵ってまさか」
もう薄々と気づいてはいるが念のためシグが質問する。
「そのまさかだ。敵は陸戦仕様のザク3機だ」
「待ってください!今出られるMSって宇宙用ジムと陸戦型ジムだけですよね。2機で3機を相手するなんて…しかもまだ試し運転もしてないのに」
ジョシュアがこの作戦の無謀性を主張した。
「それでは曹長、他に何か作戦でもあるのか?まさかとは思うが…ガンダムの到着を待つ、とか言い出さないよな」
ハウシャールの言葉にジョシュアは反論出来なかった。
「何、心配するな。保険は既に打ってある」
「それに進軍より防衛の方が有利ですから大丈夫ですよ」
不満そうなジョシュアを納得させようとハウシャールとシグは気を聞かせたが、彼はどうも納得してはくれない様子だった。
「それで隊長、今回出撃するのは誰なんですの?」
一連のやり取りを聞いていたエリーが退屈そうに言った。
「今回の作戦は宇宙用ジムに俺が、陸戦型ジムにシラク准尉、ホバートラックにニグニット曹長とコーガン伍長、この編成で行く。トロイア曹長とワット少尉は待機だ。」
「なんで6人編成じゃないんですか!?」
編成に不満があったわけではないがシグはこの編成に疑問を抱かずにはいられなかった。
ハウシャールは一瞬間をおき息を吐いたあとにゆっくりと話し出した。
「MSのテスト…いや、俺と准尉の実力を図るつもりだと考えられる。てかそれしかないな」
「期待されているってことですね」
ハウシャールの感情とは裏腹にアトゥムの表情は希望に満ちていた。
「いったいその自信はどこから?」
エリーが呆れ顔でツッコミをいれた時だった。
「第1MS小隊ブリーフィングが終わり次第至急格納庫へ集まって下さい」
再び基地内放送が流れた。今度はマイの声だった。
「よし!準備はいいな!」
ハウシャールの力強い言葉に答えるように小隊員たちは力強く返事をした。
「はい!」
格納庫
「准尉、機体と装備の確認は済んだか?」
「はい、思ってたのより性能良さそうです」
MSに乗り込み最終確認をする二人、そこに通信が入る。
「陸戦型の方は本来の性能を発揮できるはずです。宇宙用の方は…本来の性能の保証はできません。大尉、頼みましたよ。」
セバスチャンの通信内容はハウシャールを不安にさせるようなものであったが彼はほとんど動じなかった。
「任せとけ、足が動かなくても撃つことは出来る」
「さすがたいちょー」
ホバートラック内ではレイラが笑みを浮かべていた。
「作戦前だ。あんまりはしゃぐんじゃない」
レイラとは対照的にジョシュアは非常に真剣な表情を浮かべていた。生真面目な彼の性格から作戦前は私的なことは許せないらしい。正しいかといえば正しいのだが、その事が災いして今まで様々仲間と衝突してきた。
そうこうしている内に司令塔から音声通信が入った。
「初めてのMS戦で辛い戦闘になると思うが今回の作戦が上手くいけば我々の士気は非常高まる。諸君の健闘に期待する。第1MS小隊出撃!」
チャールの出撃命令に押されるようにアトゥムたちは出撃した。
「僕たちはどうします?」
出撃したMSを見送りながらシグはエリーに訊ねた。
「私は部屋に戻りますわ。ろくに身支度も出来ていないので。」
エリーは既に格納庫から出ようとしていた。
「本当に1面砂漠だ~、すぐに敵と遭遇しちゃいそうですね~」
基地を出てから約10分、先ほどジョシュアから受けた注意など忘れ、レイラは声を弾ませてはしゃいでいた。隣のジョシュアは苛立ちを隠せずひたすら貧乏揺すりをしている。
「知っているか伍長、砂漠は1面平らに見えるがよく見ると結構起伏があるんだ。だから意外に遠くは見にくいうえに、相手からは俺たちが見えるのに俺たちからは相手が見えない、とかはよくあるんだよ。もちろんその逆も」
「へぇーなるほど~」
これからの戦闘のためか、ハウシャールはレイラに砂漠についての知識を教えた。しかし、その光景は叔父が姪に知識を披露するようにしかアトゥムには見えなかった。
それからさらにしばらくして、ハウシャールがジョシュアに指示を出した。
「曹長、索敵を頼む」
「了解」
ジョシュアはソナー機能を使って索敵を行った。
それから3分、5分と経過していくが一行に敵を感知出来ないでいた。
「………」
もう少し進軍しよう、ハウシャールがそう言おうとした時だった。
「正面約7キロ先に敵影3確認」
ハウシャールは空かさず機体の望遠機能を最大にした。
「ザクの頭が見えた。あちらの方が土地が低いから俺たちは見つかってると思え。まずは平地に誘き出すぞ。」
宇宙用ジム(宇宙用と表記)はグレネードを敵方面へ投げ込んだ。
「お返しってか!?」
しばらくして無数のミサイルがこちらへ向けて飛んできた。
「歓迎されてるねぇ」
陸戦型ジム(陸戦型と表記)と宇宙用は全てのミサイルを避けてみせた。
「初乗りなのにやるなぁ!」
「隊長も慣れてない機体でさすがです」
会話する余裕もあるようだ。
「さーて、ここらへんで待ち伏せしますか」
平地にたどり着き、ハウシャールが次の作戦を練ろうとした時だった。
「隊長、自分に1つ作戦が…………」
「敵MS、装甲車を発見!MSは1機しか確認出来ません。」
しばらくしてザクが宇宙用を発見した。ハウシャールの予想通り既に敵に見つかっていたらしく、陸戦型がいないことに警戒心を強めていた。
しかし、そんなことお構い無しにハウシャールが叫んだ。
「いくぞぉ!作戦開始!」
「りょーかいです!」
ガガガガ
威勢のいい返事をしながらレイラはホバートラック唯一の攻撃兵器20mmガトリング砲をぶっ放しながら後退した。宇宙用が先導している。
「そんなへぼい弾幕なんて!」
3機のザクは回避しながら距離を詰めようとしたが…
「当たるかよ!」
「た、隊長!ミサイルポッドに被弾!左足が使えません」
「なんだと!?」
2機のザクは回避に成功したが残りの1機が被弾した。しかも運の悪いことにミサイルポッドがやられ、その被害が機体にも及んでしまった。
「お前はそこで待機してろ!俺たちは奴らを追う」
隊長機のザクはそう言い捨てると、まだ遠くへは逃げられてない宇宙用とホバートラックを追いかけた。
緊迫感漂うジオンとは裏腹に逃走中の宇宙用とホバートラックは盛り上がっていた。
「たいちょー!作戦通り出来ましたよ~」
「射撃能力が高いとは聞いていたがまさかあそこまでやれるとはな」
「そんな…あんな容易く…」
どうやらさっきの有効弾はまぐれではなく元々あのザクを狙うために行った射撃らしい。ハウシャールも当たればラッキー程度にしか思っていなく、それをきっちりと命中されたレイラに衝撃を受けた。ジョシュアに関しては自分より様々なキャリアが低いレイラがこのような戦果をあげたことに劣等感を抱いていた。
「敵追ってきてますね」
「アトゥム頼んだぞ」
約2キロ先まで迫ってきてる敵を目にしてジョシュアは祈るようにアトゥムに望みを託した。
「敵の動きが少し遅い?」
「あのMS、装甲車と同じスピードで逃げてるから遅く感じるんだ」
敵は1機の損害が出たことでさらに警戒心を強めてあとを追い続けた。
ザクが先ほどホバートラックが20mmを撃った地点に到着しかけたその時だった。
「今だ!」
ハウシャールは手に持っている情報端末に怒鳴りかけた。
ゴゴゴゴゴ
砂漠の中から陸戦型が飛び出しそのまま急上昇した。
「ち、近っ!」
飛び上がった陸戦型のすぐ下に2機のザクがいた。
「こんなところにー!」
ザクは叫びながら背中に装備していたバズーカを取ろうとしたが
「遅いぃぃぃぃぃああぁぁぁぁぁ」
アトゥムは急降下する陸戦型のビームサーベルを展開した。
そして…
ジジジ
陸戦型のサーベルがザクのコクピットを貫いた。
ザクのモノアイから光が消えていく。
しかしアトゥムには一息つく暇はなかった。
「よくも隊長をぉぉぉ!」
近くにいたもう1機のザクが怒りを込めたヒートホークが陸戦型を襲おうとしていたのだ。
「!?まずった!」
すぐに回避しようとしたアトゥムだったが推進剤を予定以上に使ってしまったためバーニアがオーバーヒートしてしまっていたのた。
「けどまだぁ!」
アトゥムは瞬時に陸戦型のシールドを突きだしヒートホークから機体を守った。
「何!?」
不意打ちが成功すると思い、ザクは完全に油断していた。しかしアトゥムはその隙を見逃さなかった。
「腰!がら空き!」
アトゥムは再び陸戦型のビームサーベルを展開し、ザクの腰に押し当てた。
「ああああ!!!」
パイロットの悲鳴が嫌になるくらいアトゥムの耳に響いた。
ドゴーン!!!
ザクの上半身が爆発した。とっさにシールド構える陸戦型。
「倒した…よな…下半身だけ動くとか無しだぜ」
アトゥムはしばらくザクを監視しながら水を飲んだ。初めてのMS戦だったこともあり、どこまでやれば完全に無力化出来るのかがわからなかったのだ。
一息ついたところで隊長たちと合流しようとした時
「准尉!期待以上の活躍だ」
回線越しにハウシャールの愉快そうな声が聞こえてきた。
さらに聞き慣れた声で聞き慣れない言葉が聞こえてきた。
「シラク准尉やったな」
作戦中でかしこまっているジョシュアにアトゥムは正直な気持ちを気だるそうに言った。
「ジョシュいつも通りの呼び方でお願い。なんか…気持ち悪い」
「気持ち悪いとはなんだ、だいたい軍の規律で…」
「静かに!」
和やかな雰囲気がハウシャールの一喝により沈黙へと変わった。
「楽しんでるところ悪いが敵の増援だ」
ハウシャールの表情は険しく、彼の声からもそれを感じることができた。
「増援って!?敵基地からここへ来るまで結構な時間がかかるはず…いくらなんでも早すぎませんか?」
ジョシュアの言う通り、今アトゥムたちがいる場所はアフリカ基地に近いところに位置しているため、敵基地から出撃した場合はそれなりの時間が掛かるはずだ。
「ああ、いくら早くても3時間、いや4時間はかかるはずだ。どこかに駐屯基地でもあるのか…」
「たいちょー!考えてる時間ないっぽいですよ。敵機発見しました。4機で全機さっきと同じザクです。」
確かにハウシャールには考えてる時間はなかった4機のザクがこちらへ向かって全力で走ってきているのだ。
「よく聞け!後退しながら迎撃を行う!まだ俺のジムはピンピンしてるから最悪俺を置いて逃げろ!」
「えっ!?何言って…」
「隊長それは無理な相談です」
ジョシュアが反論しようとした時、アトゥムがそれに被せるように言った。
「実は冷却システムが上手く作動してなくてオーバーヒートから回復しないんですよ。だから置いて逃げたくても逃げられないんです」
深刻な状態だがアトゥムの顔は余裕で満ちていた。
「ハッハッハッ、いい格好しようと思ってたのにな~でも荷物を抱えながら戦うのもいい格好だよなぁ!」
ハウシャールのセリフの途中でザクがバズーカとマシンガンを放ってきた。ハウシャールは最後までセリフを言いつつ2丁マシンガンを取り出してぶっ放した。
「私たちだけで逃げるのもあれだし付き合います…よっ」
レイラとジョシュアも加勢した。ひ弱な威力の20mmだが急所を正確に狙うレイラが使えばそれは凶機だった。
しかし、状況は劣勢だった。3対4ということもあるが、一番の原因はやはりバーニアが使えない陸戦型だった。陸戦型をかばう戦い方をすれば、それは敢えて攻撃に当たりにいくようなものである。
「隊長、もういいです。自分の身を!」
「何言ってんだ、これも作戦の内よ!」
ハウシャールはそう言ったものの、ついさっきまで新品同様だった宇宙用が敵の攻撃を被弾して黒ずんでいる。
「ジョシュア先輩!他に武装は!」
「駄目だ、どこにも予備弾薬は積まれてない」
不幸は続き、ホバートラックの弾薬も尽きてしまった。
「せめて…少しでも!」
アトゥムは一か八かで陸戦型のビームサーベルを1機のザクに投げ付けた。
「な、なんだとぉぉ!?」
ザクのパイロットが予想外の出来事に叫び声を上げた。
次の瞬間にはそのザクは仰向けで倒れていた。
「本当にお前は」
呆れ声であったがジョシュアは心底アトゥムに関心していた。
「そろそろのはずなんだが…」
ハウシャールはふと腕時計に目をやった。
「?」
回線越しに彼の声を聞いた小隊員たちが頭に?を浮かべたときだった。
ドゥーン!!!
激しく轟音と共に1機のザクが爆発した。
「なんだ!?」
あまりにも突然な出来事にその戦場は困惑した。そして、陸戦型を後ろに振り向かせたアトゥムは目を疑うような光景を目にした。
「ガン…タンク?はいっ!?」
そう、その目線の先には砂漠を疾走する初期型ガンタンク(初期型と表記)がこちらに向かっているではないか。しかも金色の塗装が施されている。
金色の塗装。アトゥムを始め、小隊員たちは嫌でもそのパイロットが想像できた。
「邪魔ですわ!退きなさい!」
「シラク准尉どいてくださーい!」
やはりそうだった。金色の初期型のパイロットはエリー・トロイア、あとシグだった。初期型は二人乗りだから付き合わされたのだろう。
「危ないっ!」
エリーとシグの忠告を受け、アトゥムは何とか陸戦型に回避運動をとらせることが出来た。
「2機ぐらい!」
エリーはそう言いながら4連装機関銃をザクに撃ちつけた。
「そんな旧式でぇ!舐めるなぁ!」
機関銃を撃たれながもザクはマシンガンを放った。
「旧式?笑わせますわ!」
「は、速い!?」
エリーとシグが操る初期型は従来のものと比べて飛躍的に速度が上昇していた。
2機のザクがマシンガンを乱れ撃つがそれは初期型にはかすりもしなかった。
ドゴーン!
機関銃を受け続けていたザクが爆発音とともに沈んだ。
「あと1つ。ワット少尉一気に距離を詰めてください」
「了解しました。けど何故?」
「いいから早く!」
シグは終始エリーに押されっぱなしだったが、彼女の言う通りザクに突進でもするかのように接近を行った。
「今ですわ!」
エリーは目を見開き初期型の腕でザクを殴り飛ばした。
「さすが私ですわ」
「本当さすがだ。シグもな」
エリーを称賛するハウシャール。ちゃんとシグのことも褒めたのは隊長らしい配慮だ。
初期型ガンタンクの加勢もありなんとか勝ちを手にした第1MS小隊であった。
戦闘終了後簡単に策敵をし基地へ帰投する第1MS小隊。その間、エリーことで小隊は盛り上がっていた。
「エリー先輩、これもしかして専用機ですか?」
「専用もなにもトロイア家の物ですわよ」
「私物!?」
「そうですけれど何か」
お嬢様であるエリーの一言一言は皆に衝撃を与えた。
「と言うわけだ。俺もここに来て初めて聞いたことだったんだよ。これからはトロイア曹長に初期型ガンタンクのパイロットを務めてもらう。もう一人は後日連絡する。敵影も確認無し!それじゃあ帰るぞ」
さっきの戦闘で足だけを無力化したザクを見つけることが出来なかったのが気がかりだったが、隊員の疲労も考えハウシャールは帰投することにした。
「ようやく作戦終了ですか~?」
レイラは特に疲れてきった様子だった。彼女にとってこれが初陣だったからだろう。
「ああ、今回の作戦は成功だ」
ハウシャールは満面の笑みでそう言ったが、宇宙用に乗っている彼の顔を見ることの出来る者はいなかった。しかし、彼の揚々とした声に皆安堵の表情を浮かべていた。
ジオン軍中央アフリカ基地
薄暗い格納庫に一人の青年が佇んでいた。
「リーク少佐ここにいたのか」
熟練の兵士といった感じの人物が金髪の無精髭をなびかせ現れた。
「ああ、もうすぐお披露目だからな」
リークと呼ばれる青年はこの間運ばれてきた試作MSに目をやった。
「ガイ大佐、あんたがここに来たってことは今回の作戦の報告か?」
「そうなんだが、面白いことに我が軍は1機を残して全滅。敵はMS2機、MT1機、戦車1両だったらしい」
被害報告なのに二人は不敵に笑い合っている。格納庫の薄暗くて冷たい感じからかその笑いは冷酷さに溢れていた。
「確かに面白いな!こいつを退屈させないで済みそうだ」
再び試作MSに目をやるリーク。ザクとは全く違うシルエットに大型のバズーカ、そしてヒートホークの2倍以上の長さがある槍のような武器。
その巨体はまるで全てを破壊する巨神のようだった。
終