東方鬼人記□鬼は今日も周りを笑顔にする□   作:朱雀★☆

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第一話《博麗神社は今日も平和です》

 春の知らせをするように、豊かな樹々の香りと野鳥のさえずりを風が運ぶ。

 空は雲一つない快晴。

 気持ちの良い日だ。

 

「今日も一日頑張りますか」

 

 う~んと、身体を伸ばしながら呟く俺の後ろから、少女の声が掛かる。

 

「じゃ、そこら辺に落ちてる葉を掃いて頂戴」

 

 見知った少女の声に後ろを振り向けば、そこには少し変わった巫女服を羽織る少女がいた。

 袖が無く、肩・腋の露出した赤い巫女服に、頭には大きな、それこそ少女の顔と同じぐらいの大きな赤いリボンが黒い髪の上から自己主張するように飾られている。

 そんな、絶対に格好がかぶらなそうな彼女の名は『博麗(はくれい) 霊夢(れいむ)』といって、ここ、博麗神社の管理者である。

 

「ほいほい、お任せ下さいってね」

「ほら、箒よ。私は居間でのんびりしてるから、終わったら声をかけて頂戴。それじゃ」

 

 霊夢は俺に箒を渡してそれだけ言うと、手をヒラヒラと振りながら行ってしまった。

 

「……さて、やるかね」

 

 袖を捲り、俺は箒を動かす。

 なぜ、俺が彼女の下働きの様な真似をしているのか、それは一週間も前の話だ。

 

 まず、俺はこの外の世界に忘れ去られた妖怪が住み、妖怪達の存在を信じる人間が住む幻想郷に、俺はいなかった。

 俺は幻想郷の者が言う“外の世界”からやって来た者だ。それも少し複雑な形でな。

 

 どこが複雑かと言われれば、そうだな。俺の姿形が変わってこの世界に来たと言えば複雑だという理由がわかってくれるだろうか?

 幻想郷に来る前の人間だった俺は、幻想郷に来た時“鬼”の姿になってこの世界に来た。

 

 つまり、人間ではなくなったのだ。

 頭の上には真っ直ぐに伸びる黒い角が一本だけ生え、普通の歯から、鋭い八重歯ができ、平凡な顔は凶悪、という程ではないが、目はつり上がり、肌色だった肌は褐色に変わった。

 子供などは怖くて近寄らないのではないか? と、俺は日々思っている。子供は好きだから怖がられたら悲しいな……。

 

 とまぁ、何故か鬼になってしまっていた訳だ。

 幸いと言えばいいのか。この身体になったお陰でそこら辺にいる木っ端妖怪共に襲われずにここ、博麗神社に辿りつけたんだ。

 それもこれも、人里を守る半人半獣の『上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)』さんのお陰でもある。

 人里に来た時、彼女は俺が鬼であることに警戒していたが、俺の話をちゃんと聞き、理解してくれるだけではなく、色々と世話を焼いてくれた。

 感謝してもしきれない。俺はいつかこの恩を返そうと思っている。

 

 考え事をしながら箒を掃いていると、いつの間にか落ち葉が山のようになっていた。

 ある程度は綺麗になったな。

 俺は辺りを見渡し、他に落ち葉がないか確認した後、集まった落ち葉を袋に詰め込み、一つにまとめる。

 

 開いた袋を固結びで閉じ、俺は箒と袋を手に居間で待つ霊夢に、落ち葉掃きを終えた事を報告しようと足を動かした時、上空から声が掛かる。

 

「おっ! そこにいるのは人道丸か?」

「その声は、魔理沙か」

 

 俺の名を呼ぶ声が上から聞こえ、空を見ると、そこには金髪の少女が箒に跨って宙に浮いていた。

 リボンのついた黒い三角帽に、黒系の服に白いエプロンという服装、さらには箒を所持し、いかにも魔法使い然とした身なりをしているこの少女の名は『霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)

 いつも元気なこの少女は、なにかと問題を起こしたり、人の邪魔をするのだ。それは短い付き合いの俺も被害にあったからこそ言えることである。

 

「ん? 私の顔を見つめてどうしたんだ? 私の顔になにかついてるか?」

「お前はこの前俺に何かしたか覚えていないのか?」

「え~~と……覚えてないぜ!」

「そうかそうか、霊夢に俺が隠れて霊夢のパンツをクンカクンカしていたと嘘を言って俺に酷い目に合わせたことを“覚えていない”と(うそぶ)くか」

 

 そう、このやんちゃな小娘は、あろうことか、俺が霊夢のパンツを嗅いでいたと霊夢に嘘を吐いたのだ。確かに、可愛い少女である霊夢に何も思わないということはない。

 だが、それでパンツを嗅ぐなどといった行為をするかと言われれば、それは断じてありえない。

 が、悲しい事に霊夢はそれを本気にしちゃったんだよな。

 

 無駄に素晴らしい演技をした魔理沙のせいでな。

 

「あ、そう言えばそんな事もあったな。すまんすまん」

「かるっ!? 少しは申し訳無さそうにしろよ」

「私は過去を振り返らない主義なんだ」

「そこは振り返ろよ!」

 

 はぁ……っと、俺は盛大に溜め息を吐く。

 

「んで、なんの用で来たんだ?」

「霊夢が人道丸に襲われていないか確かめにきたぜ!」

「するわけないだろ!?」

 

 俺が全力で否定すると、クスクスと笑う魔理沙に、俺は自分が弄ばれていたことに遅まきながら気づく。

 自分よりも年下の子に弄ばれるとは……。

 

「まぁ冗談はこれぐらいにして、私はただ単に暇してたから霊夢の家で時間潰そうと思って来たのさ」

「頼むから暇だからってまた嘘を吐くのだけはやめてくれよ」

「ん? それは嘘を吐いてこいっていうフリか?」

「違うから、そんなことないから、頼むからやめてくれ」

 

 ゲンナリとした顔をする俺に、魔理沙は一頻り笑うと、先に霊夢が待つ居間へと向かっていった。

 

 全く、俺が鬼だということを忘れていないか? あの少女は。

 俺は頭を軽く掻き、落ち葉を入れた袋を邪魔にならない所に置いて、霊夢達が今頃談笑しているであろう居間へと足を運んだ。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ~~~~~~~~~~

 

 ~~~~~~

 

 

「鬼の癖に人間みたいな奴だよな~人道丸ってさ」

「それはアンタ、人道丸は元は人間なんだから当たり前じゃない」

「え? そうなのか!?」

 

 俺が居間に入ると、霊夢と魔理沙が何やら話していた。

 てか、そう言えば、魔理沙には俺が元人間だったこと言ってなかったか。

 

「ほら、調度良くご本人も登場してきたんだし、聞いてみたら?」

 

 面倒そうに欠伸をしながら言う霊夢に、魔理沙は頷くと、そのまま俺の方に顔を向ける。

 

「で、マジなのか?」

「まぁマジだな。元は極普通の人間だったよ。幻想郷に来るまではな」

「そうなのか……」

 

 沈んだ表情をする魔理沙は、本当に良い子なんだと、俺は思う。

 いつもは迷惑ばかり掛けるちょっと困った娘だが、人が困ってたり落ち込んでいたりすると、心配してくれたり、人を思いやる心を持っている。

 今だって、俺が人間のままなら外の世界に帰れたが、今の俺は鬼の姿になってしまった。それじゃあ外の世界には帰れないと、魔理沙はわかっているから表情が暗いんだと思う。

 

 今までは、俺が鬼のまま外の世界から来たものだと思っていたから、あの接し方だったんだろう。

 とは言っても、俺はあの関係をそこまで悪いとは思っていない。だから、壊したくはないな。

 

「なんだ。そんな暗い表情して、いつもの鬱陶しい程の元気はどこいった?」

「鬱陶しいって、私はな、お前の事が「心配ない」……それは強がりじゃないのか?」

 

 魔理沙の話を途中で遮って言うと、不機嫌そうに顔を顰める。

 俺はゆっくりとした動作で地面に胡座をかき、話す。

 

「俺は確かに人間だった頃の未練もあるし、外の世界に戻りたくないと言えばそれは嘘になるだろう」

「ならなんで心配ないなんて言うんだ?」

「それは俺が一人じゃないからさ。こうやって俺を心配してくれる奴が、目の前にいるだろ?」

 

 片目を閉じて、魔理沙を見る。

 

「俺がもし、一人しかいなくて、誰にも心配されない孤独の中にいたら、俺はたぶん、ダメになっていただろうな。だからな、俺をそうやって心配してくれる、魔理沙がいてくれるから心配ないのさ」

 

 この言葉に嘘はない。俺が今思っている正直な気持ちだ。

 

「魔理沙だけじゃない。霊夢もそうだ」

 

 魔理沙から目を離し、霊夢に視線を送る。

 

「私は仕方なくよ。アンタはそこらの妖怪と違う鬼なのよ? そんな奴を野放しに出来る訳ないじゃない」

「それでも、赤の他人である俺を住まわせてくれて感謝しているよ。今は無理でも、いつかはこの恩は返す。鬼は嘘を吐かない。有名な話しだろ?」

 

 おちゃらけるように肩を上げて言うと魔理沙が声を上げる。

 

「あぁぁもう! 一人で悩んでいたのが馬鹿らしくなってきたぜ」

「はいはい、わかったから大きな声を出さないで、耳が痛いから」

 

 耳を押さえて煩わしいといった顔で言う霊夢を無視して、魔理沙は俺に顔を向ける。

 

「人道丸ってさ、鬼だけど人間みたいな価値観があるってことなのか?」

「そうなるな。肉体は鬼でも、心は人間だ」

 

 だから、俺は自分の名を“人道丸”と名づけた。たとえ肉体が鬼でも、心までは鬼にはならない。心だけでも、人間としての自分であり続けたいから。

 

「そうか……じゃあ女の身体にも興味があるってことだな」

「まぁそうなるな……って、なに言わせてんだ!?」

 

 いきなり何言い出すんだこの娘は!?

 

「へぇ~やっぱり人道丸も女の身体が気になるんだな。因みに歳で言ったらどれくらいがいいんだ?」

 

 もうその手は乗らんぞ? これ以上言ったら俺が霊夢に殺されるかもしれないからな。

 

「そうだな。十代後半から二十代前半がいいな」

「うわ、マジで答えたわ」

 

 魔理沙に引き気味に言われてはたと気づく。

 あ……口が勝手に。

 

「ち、違うぞ? これはそのだな、口が、そう口が勝手に動いてだな」

「人道丸、アンタ今日から外で寝なさい」

「ちょ!? 違うぞ、これは魔理沙の誘導尋問で!」

「私にのせいにするなよ。答えたのは人道丸だろー」

 

 霊夢から侮蔑な眼差し、俺は冷や汗だらだら、魔理沙は知らんぷり。

 ヤバい、このままだと野宿生活になる。

 

 ど、どうすれば……。

 

「くっくっ……アッハッハ!」

 

 俺がオロオロとしていると、突然笑い声が上がる。

 声が聞こえた方を見ると、そこには腹を抱えて笑う魔理沙の姿がある。ついでに言えば、その隣で口元を隠して肩を震わせて笑う霊夢の姿が見える。

 

 これは、騙されたか?

 

「いや~人道丸は面白いほど良い反応を見せてくれるよな」

「それは言えてるわね」

「……お前ら酷いな」

 

 肩を落として力なく言うと、二人はまた大きな声で笑う。

 

 少女たちの笑い声はしばらく、居間の中で鳴り響いたのだった。

 

 

 

 

 




 拙い文章かと思いますが、これから精進していくので、末永く付き合ってくれたらと思います。
 では、次回の更新が早く出来るよう、頑張りたいと思います。
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