彼女の幼い日にあった思い出話となっています。
それではどうぞ。
昼休み 中庭は多くの生徒達がいた。ある生徒は読書に興じたり、ある生徒は仲のいいクラスメイトとの会話に花を咲かせたりと音ノ木坂の中庭では生徒達の憩いの場となっている。様々な生徒がそれぞれの時間を過ごす中に小泉花陽、星空凛、西木野真姫の三人組がいた。
スクールアイドルμ’sとして活動するようになってから、三人は一緒に行動する事が多くなった。今日もいつもと同じ三人で昼食を取っている所である。
「今日は天気がいいから外で食べるご飯は美味しいね」
「そうね。いつもは教室で食べてるけど、偶に外で食べるのも悪くはないわね」
「凛は外で食べる方が好きだよ。のびのびと出来るもん。それにしても…かよちんのおにぎりは一段とデカイにゃ」
本来は教室で食べているが、今日は晴天という事もあって中庭で食べようと花陽が言い出した。引っ込み思案な所がある彼女が意見を言うのも珍しいと思いながらも二人は花陽の提案に賛成した。そうして各自が持って来た弁当を食べていると凛がある事に気付いて、その言葉を口にする。
「あっ 解る?今日のおにぎりは大好きなおばあちゃんの家が作ったお米を使ってるんだ。だから、いつもより大きめにしてみたの」
「へー かよちんの親戚にお米農家がいるんだね。だから、今日のおにぎりが大きいのはそれが理由だったんだにゃ」
「そういえば、前から気になっていたけど…どうして花陽はそんなにお米が好きなの?拘りも並じゃないし、そこまで好きになった理由が知りたいわね」
「言われて見ると凜も気になるにゃ。思えば、凛がかよちんと会った時からお米が大好きな子だったからね」
おにぎりが大きい理由を笑顔で花陽が話していると、真姫が気になっていた事を花陽に尋ねた。話を聞いていた凜もその事が気になっていたらしい。どうやら、幼馴染である凜も花陽がお米を好きになった理由は知らないようである。
勿論、日本人であればお米が好きな人がほとんどだろう。だが、花陽の拘りは並ではない。それ故、以前から気になっていた事を真姫が尋ねると花陽は何処か遠くを見てる様な表情で言葉を返す。
「私がお米を好きになった理由かぁ。確かにその事を話した事が無かったね」
「あ、別に言いたくないならいいわよ。私が勝手に気になってるだけだしね」
「凛は知りたいにゃ。かよちんがお米を好きになった理由を教えてよ」
「ちょっと、凛。無理に聞き出すのはどうかと思うわよ」
「え~ 知りたいと言ったのは真姫ちゃんだよ。それに気になってたから聞いたんじゃないの?」
「それはそうだけど‥‥」
確かに真姫もその事は気になってはいる。しかし、先程見せた花陽の表情も気になっていたのだ。もしかして、その理由には人に話したくない事情があるかもしれないと真姫はそう感じていた。
「まあまあ、二人共。その話は別に隠す事でもないし、いい機会だから教えるよ。あれは確か…」
言い合う二人を止めると花陽はその事を思い返しながら静かに語り出した。
あれはまだ、私が3歳くらい頃だったかな?私は今と違ってかなり我儘な子だったんだ。
幼少記 私は初めて食べたパンに夢中になって、そればかりを食べるようになっていた。お母さんがお米を食べさせようとしたけど、私がそれを突っぱねてはパンばかりを食べてたなぁ。
だけど、その日は私にお米を食べさせようとお母さんは引かなかった。
「花陽 今日こそはご飯を食べなさい。いつもパンばかりじゃ駄目よ。朝、おばあちゃんからお米が届いたからね」
「ええ~ やだよ。わたしはごはんより、パンがいい~」
「駄目!! 今日という今日は我儘を許さないわよ。それにおばあちゃんが作ったお米は美味しいよ。きっと、花陽も気に入るわ」
そう言って、お母さんは3つのおにぎりが乗った皿を私の目の前に置いたんだ。普通なら諦めて渋々おにぎりを食べる所だけど、我儘な私はとんでもない事をしてしまった。
「いや、こんなのいらない。わたしはパンがたべたいの。おにぎりはだいきらい」
私はそう叫んでおにぎりを床に抛り捨てた。その頃の私はお米を作る苦労も美味しさも知らなかったから…今思い出すと昔の私は本当に我儘だったなぁ。
「何てことをするの。食べ物を粗末にするなんて、貴女は自分は何をしたか分かってるの?このお米を作る為におばあちゃんは想像も出来ないくらい、大変な思いをしてるのよ」
「ご、ごめんなさい。お母さん、ごめんなさい」
その時、私はお母さんの悲しそうな顔を見て、自分がどれだけ酷い事をしたのかを知った。私の我儘で苦労をしてお米を作り、それを送ってくれたおばあちゃんの想いを踏み躙ってしまったのだ。子供心にそれを悟った私は謝る事しか出来なかった。
結局、その後はおにぎりでなく自分が好きなパンを食べた。だけど、いつもと違って何の味も感じなかった事を覚えている。
その出来事から数日が経った頃かな。私とお母さんとお父さんの三人で田舎のおばあちゃんの所へ泊りに行く事になったんだ。お父さんの車に乗って3時間くらいして、都会の風景から徐々に田舎の風景に変わっていくのを見て私は無邪気に燥いでいたなぁ。それから更に30分程しておばあちゃんの家に到着したんだ。
「あら~ 遠い所からよく来たねぇ。なーんも無い所だけど、ゆっくりとしていってなぁ」
車から降りると家の外で待っていたおばあちゃんが優しく出迎えてくれた。いつもなら私はおばあちゃんに抱きついて行った。だけど、今回は以前の事もあって…私は無言で下を向いてるだけであった。
「ほら、花陽。おばあちゃんに挨拶をしなさい」
黙っている私にお母さんはそう言葉をかけるけど、私は何も言う事無く下を向いていた。そんな私を見て、おばあちゃんは優しく微笑むと私に近づいてきて抱きしめるとこう言った。
「おやおや、今日の花ちゃんは恥ずかしがり屋さんだねぇ。けど、私はそんな花ちゃんも大好きだよ」
「…わたしもだいすき。でも、わたし…おばあちゃんがおくってくれたおこめをだめにしちゃったの。ひぐっ…だから、それをしったらきらわれるとおもって…」
「そんな事があったの。大丈夫だよ~ おばあちゃんはそんな事で花ちゃんを嫌いになったりはしないよ。だから、泣くのはおやめよ。可愛い顔に涙なんて似合わないからね」
おばあちゃんの言葉を聞いて、その時の私は溜まらず泣き出してしまった。こんな優しい人が送ってくれた物を台無しにした罪悪感をすごく感じていたから。
だけど、おばあちゃんは私がやってしまった事を怒る所か、今まで以上に優しい顔をして私の涙を拭うと頭を撫でてくれた。その事が嬉しくて私は更に泣いた。
その日は泣き疲れて、ご飯も食べずに朝まで寝たんだ。だから、お腹がものすごく空いててお母さんに起こされる前に私は起きていた。
「花陽~ 起きなさい。朝ごはんの支度は出来てるから早く食べましょう。皆待ってるんだから…あら、もう起きてたのね」
「うん。おなかがペコペコだったから」
「そういえば、昨日はお昼から何も食べてないものね。ふふっ それじゃあ、着替えて顔を洗ったらご飯を食べましょう」
「うん。はなよもはやくたべたい」
何も食べずに寝た私は空腹だった事もあり、身支度を終えると駆け足で食卓に向かった。少し行儀が悪かったけど、家の中に漂う美味しそうな匂いに我慢が出来なかった。
食卓がある部屋の戸を開けて私が中に入ると、座っていたおばあちゃんがにっこりと微笑んで挨拶をしてきた。
「おはよう花ちゃん。どうやら、いつもの花ちゃんに戻ったようだねぇ。ささ、こっちにお座り。おばあちゃんと一緒に食べよう」
「うん」
私はおばあちゃんの隣に座るとテーブルに並べてある料理を目を輝かせて見つめていた。そこにはホカホカと湯気を上げている白米と味噌汁、その他に焼き魚とほうれん草のお浸しが人数分置かれていて、如何にも田舎の朝食と言った感じだったよ。それでも空腹の私には飛び切りのご馳走だった。
「花ちゃん、魚の骨は危ないから気を付けてね。どれ、私が取って上げるよ」
「ありがとう おばあちゃん」
私が魚を食べようとしたら、おばあちゃんはそう注意をすると親切に魚の骨を取り除いてくれた。当時の私はまだ箸を上手く扱えずにいたからね。私としてもおばあちゃんの助けは嬉しかったよ。
その後、私は2杯もご飯をおかわりした。お腹が空いていたからだけでなく、純粋にご飯が美味しかったから…
朝食を食べ終わって、1時間くらいが経った頃‥おばあちゃんは農作業をする為、田んぼへ向かおうとしているのを見て、私は声をかけたんだ。
「あれ?おばあちゃん そんな格好をして何処へ行くの?」
その時のおばあちゃんは風呂敷を頭に巻いて、前には黒いエプロンと底が長いくつを身に付けていた。都会では見た事がない服装をしているおばあちゃんに私は興味津々と言った様子でそう尋ねた。
「ああ これから田植えに行くんだよ。お米を作るのにやらないといけないからねぇ」
「わたしもやってみたい。なんかおもしろそうだもん」
「そうかい?それじゃあ、花ちゃんにも田植えを手伝ってもらおうかねぇ」
「ほんとう?わたしもがんばるね」
「あら、それはいいわね。丁度、花陽にぴったりの服もあるからやってごらん」
おばあちゃんがやろうとしていた田植えが面白そうと思って、私もやると言ったんだ。その話を聞いていたお母さんはいい経験になると、私の言葉に賛同してくれた。今思えば、予め私にその作業をやらせるつもりで準備していたとお母さんはそう言ってたよ。
田植えの準備を終えて、私はおばあちゃんと一緒に田んぼへ向かった。歩いて5分くらいして、私はおばあちゃんの田んぼに到着した。
「さて、まずは私がやるからね。花ちゃんはそれを見て、おばあちゃんの真似をしてごらん」
「うん わかった」
私にお手本を見せる為、苗を手にして田んぼに入っていった。
「田植えはね。順番に苗を並べて植えていくんだよ。このように苗と苗の間隔を少し開けてねぇ」
おばあちゃんは慣れた様子でテンポよく、苗を田んぼに植えていく。それを見ていた私は簡単な事だと思っていた。だけど、実際にやってその作業の大変さを知る事になった。
「それじゃあ、花ちゃんにもやってもらおうかね。こっちへおいで。滑らないよう気をつけるんだよ」
「うん やってみる。 うわっ」
「おっと、危なかったねぇ。大丈夫かい?」
「だ、だいじょうぶだよ。ありがとう」
「それは良かった。じゃあ、これが苗だよ。私が植えた横の列を頼もうかねぇ」
私はウキウキして田んぼにいるおばあちゃんの所に向かった。勿論、田んぼに入るのは初めてだった私は転びそうになったけど…おばあちゃんが転ぶ前に支えてくれたおかげで転ばずに済んだ。私はおばあちゃんにお礼を言うと渡された苗を植え始めた。
最初こそ、順調にやっていたけど…同じ姿勢でやる田植えは自分が思っている以上の重労働だった。一列目が終わる頃、私は汗だくで激しく息をきらして立っていたよ。
「花ちゃんは休憩してもいいよ。あとはおばあちゃんがやるからね」
おばあちゃんはそんな私を気遣ってくれて、無理せず休むように言った。ヘトヘトになっていた私はおばあちゃんの言葉に従って、田んぼから出ると座って休む事にした。
それから10分もしない内におばあちゃんは田植えを終えて、田んぼから上がって来た。私は一列しか出来なかったのが情けなくて、下を向いていたなぁ。
「おや、どうしたの?下を向いたりして。もしかして、具合でも悪くなったのかねぇ」
私の様子を不思議に思ったおばあちゃんは心配したのか、そう言って来た。私はおばあちゃんの言葉に首を横に降ってこう返したんだ。
「ううん ちがうの。てつだうっていったのに…ちょっとしか、できなかったから」
「ああ それで落ち込んでいるのかい。そんな事を気にする必要はないんだよ。花ちゃんくらいの子だと、半分も出来ないからねぇ。一列でもやり遂げた花ちゃんはすごいよ」
「そうなの?うそじゃないよね?」
「おばあちゃんは嘘を吐いたりなんかしないよ。だから、元気出してちょうだい」
「うん わかった」
ほかの人がこの話を聞けば、私を誤魔化してると思うかもしれない。でも、私はそうは思わない。長年の間、田植えをやってきたおばあちゃんはその大変さを知ってるだろうし、おばあちゃんが言っていた様に私に嘘を吐いた事は一度たりとも無かった。
田植えが終わって家に帰った後、私はおばあちゃんと一緒に縁側で昼食を食べる事になったんだ。昼食として用意されたおにぎりを見て、私はあの日の出来事を思い出して顔を顰めた。そうして手を付けずにいる私におばあちゃんはお皿からおにぎりを一つ取ると私に差し出してきた。
「ほら、遠慮しないで食べな。おばあちゃんが作ったお米を使ってるから美味しいよ」
「…うん ありがとう」
笑顔でそう言うおばあちゃんを無視する訳にいかず、私はおにぎりを受け取ると一口食べた。すると私はおにぎりの美味しさに驚いた。白米を塩で味付けしただけの変哲もないおにぎりだけど、今まで食べた何よりもそのおにぎりは美味しかった。気付けば私はがむしゃらにおにぎりを食べていた。
「美味しいかい?」
「うん。すごくおいしいよ」
おばあちゃんは笑顔でそう聞いてきて、私も笑顔で返事を返した。すると、おばあちゃんはある話を私にしてくれた。
「お米はね。八百万の神様が住んでいるんだよ。そしてお米を作る人はその神様に感謝を込めて、一生懸命作るんだ。美味しいお米を授けてくれてありがとうございますってね。その想いが伝わってるから花ちゃんが食べてるお米は美味しいと感じるんだよ」
「そうなんだ。おこめにはかみさまがすんでるんだね」
この時、おばあちゃんがしてくれた話のおかげで私はお米の大切さと美味しさを知る事が出来たんだ。私にとって、大切な思い出…
「とまあ、この事が切欠で私はお米が大好きになったんだよ」
花陽はそう言って、最後の一口を頬張った。話を聞いていた真姫と凛は感慨深い表情を浮かべている。
「かよちんがお米を好きな理由はそういう事だったんだね。それにしても我儘なかよちんは想像出来ないにゃ」
「確かにそうね。そういえば、そのおばあさんはどうしてるの?」
真姫は話に出てきたおばあさんの事を訪ねると花陽は悲しそうな表情で真姫に言葉を返す。
「うん。そのおばあちゃんは私が幼稚園の頃に亡くなったんだ」
「あ、ごめん。辛い事を聞いちゃって…」
「ううん 気にしないで。おばあちゃんはもういないけど、今はおばあちゃんの息子さん達が跡を継いでお米を作ってるんだ。だから、私はおばあちゃんが作ったのと変わらない味のお米を毎年食べれるんだよ」
その時、昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いた。それを聞いた三人は広げていたお弁当をしまって教室へと戻っていく。
その道すがら、花陽は二人にある事を提案した。
「そうだ。二人共、今度の日曜に家へ来ない?さっき言った息子さんが作ったお米が昨日届いたんだ。二人にも美味しいご飯をごちそうするよ」
「本当?かよちんのご飯はとっても美味しいから、凛は必ず行くよ。真姫ちゃんも来るよね?」
「ええ そうね。花陽の話を聞いていたら、私もお米が食べたくなったしお邪魔させてもらうわ」
「うん。飛び切りのご飯を作って待ってるね」
二人の言葉を聞いて花陽は満面の笑顔でそう言った。
幼い頃、大好きなおばあちゃんから教わった事を今度は花陽が教えていくことで大切な人の想いは続いていく。
これはある日の昼の出来事。
今回のお話はどうだったでしょうか?
人は食べ物や趣味において、必ず好きになる切欠や理由があります。
この話ではそれを元に書いてみました。
宜しければ、感想の方もお待ちしています。