在りし日々の記憶   作:アリアンキング

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今更ではありますが、今回は東條希の誕生日記念回です。




東條希誕生日記念 偶にはこんな日も

 ある日の夕方 夕焼けに照らされて希は一人、帰路に着いていた。この日もアイドル研究部の活動やμ'sの練習があったが、生徒会副会長である希は活動を休んで絵里と一緒に生徒会の仕事をしていたのだ。また仕事も多く溜まっていた事もあり、二人が下校する頃には時刻16時を回っていた。

 

「ふう 今日は練習してる時よりも疲れたなぁ。まさか、あんなに仕事が溜まってるとは思ってへんかったわ」

「そうね。以前は部活をやってなかったから生徒会の方に専念出来てたけど、今は部活と生徒会の両方だからね。仕事が溜まるのは仕方ないわよ」

「それは解っとる。だけど、疲れるんは嫌やわ~」

 

 

 疲れたとぼやく希に絵里は苦笑いを浮かべて、言葉を返す。そう言う絵里に希は両腕を上げて、またもや疲れたとぼやいた。そんな親友の仕草に絵里は堪らず笑ってしまう。

 

「ふふ 今日の希は何処か子供みたいね」

「む~ それはどういう意味なん?」

「ごめんごめん。悪い意味で言ったんじゃないのよ。ただ、普段は落ち着いてるから少し珍しいと思っただけよ」

「そう?こう見えてもウチは結構、落ち着きがない方だよ」

 

 ジト目で見つめてくる希に絵里はそう言った。だが、希はそんな事は無い。そう、絵里に言葉を返す。

 

「それならもっと、色んな表情を見せて頂戴」

「何や 今日のエリチは積極的やね。ウチ 何かドキドキしてくるわ」

 

 素直な気持ちを伝える絵里に希は思わず照れる。だけど、以前の絵里を知ってる希からしたら、自分の気持ちを言える事に嬉しさを感じていた。

 

「そうね。自分で言っておいて何だけど、私もドキドキして来たわ」

「ふふふっ 何やそれ。そうや 明日は二人で一緒に出かけへん?ウチ、エリチと行きたい所があるんや」

「明日?まあ、特に予定も無いし‥‥いいわ。明日は一緒に出かけましょ」

 

 会話の最中、唐突に出かけようと誘う希の言葉に絵里は暫し考えた後、それと言った予定も無い為、希の誘いを承諾した。

 

「本当。それなら明日の10時頃、エリチの家に行くわ。そうしたら一緒に行こう」

「そう。解ったわ。明日の10時ね。あっ、私はちょっと買い物があるから此処で別れましょ」

「うん。ほな、また明日な」

「ええ また明日ね」

 

 自分の誘いに首を縦に振る絵里を見て、希は嬉しい様子を隠せずにいた。そして約束の時間を決めた後、買い物がある絵里と別れた。

 

 

 

 この日の夜 希は中々、寝付けずにいた。そう 明日の事で気分が高揚しているのが理由である。まるで遠足を楽しみにしてる小学生みたいだと、眠れない自分がおかしくなったのか、希は堪えきれずに笑った。

 

「小学生の時ならまだしも、高校生になって眠れずにいるとはなぁ~ けど、偶にはこういうのもええな」

 

 希が呟きはは静かな寝室に響いて、溶ける様に消えていく。それから暫くの間、寝付けずにいたが知らない内に本人は寝息を立て、気持ち良さそうに眠っていた。

 

 

 

 翌日 普段よりも早く希は目を覚ました。そして起き上がると身体を伸ばし、体に残っている眠気を吹き飛ばす。

 

「おっ 今日はいい天気やな。これは出かけるに持ってこいやね」

 

 ベッドから降りて、閉めていたカーテンを開けると窓から太陽の光が降り注ぎ、寝室を暖かく照らす。窓からは雲一つ無い青空を見て、清々しい気分になり希は笑顔を浮かべる。

 

「さて、朝御飯の仕度をしようかな。ええ朝やし、今日はご飯も美味しいやろなぁ」

 

窓の前でもう一度、体を伸ばすと希は軽い足取りで台所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を済ませた後、希は出かける為の身支度をしていた。季節も夏に変わり始めて暑い日も多くなって来た事もあり、予め出しておいた夏服を着る事にした。今日の外出に選んだ服は白と黒のストライプ模様が入ったTシャツ。下は薄い紫のロングスカートである。

 

「少し地味やけど、今日着るのはこれでええな。あまり目立ちたくないし」

 

 目立つ服装だと、自分がμ'sのメンバーである事に気付かれてしまう可能性がある。そうなってしまえば、握手やら写真撮影やら頼まれるだろう。ファンは大切だが、折角の外出を邪魔されたくないと考えての事である。

 

 

 そうしている内に約束の時間が迫っているのに気付き、約束に遅れてはいけないと少し慌てながら仕度をして家を後にする。久しぶりに二人で行く外出に希は心を躍らせていた。

 

 

 

 家を出てから歩いて十数分後、希は絵里が住んでいるマンションへ到着する。その入り口で準備を済ませて待っている絵里の姿を見つける。それを見て、希は小走りで絵里に駆け寄ると手を振って声をかけた。

 

 

 

 

「お待たせ~エリチ。もしかして、ずっと待ってたん?」

「ううん 私もさっき家を出たばかりよ。だから気にしないで。それと今日は何処へ行くの?」

 

 声をかけて来た希に返事を返した後、そういえば出かける場所をまだ知らないと絵里は希に行く場所を尋ねる。

 

「それなんやけど、実はウチも行く場所を決めてないんよ」

「え?それじゃあ、行く場所を決めてないの?」

 

 行く場所を聞かれた希は、誤魔化すようにペロっと舌を出して答えた。希の口から思わぬ言葉に絵里は驚いた顔をして、そう呟く。

 

 

「うん。ウチから誘っておいて何だけどね。せやけど、当ても無く街をぶらつくのもええやろ?」

「そうね。確かにそれも楽しいかもね。それなら善は急げよ。早速、街へ繰り出しましょう」

「そうやね。ほな、レッツゴーや」

 

 当てもなく街を歩くのも一興だと、そう言う絵里に希も笑顔で頷いた。そして二人は仲良く街へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 それから30分後、二人は秋葉原の街中を歩いていた、休日という事もあり、街は大勢の人で賑わい、街のあちこちから楽しげな声が聞こえて来る。

 

 

 

「凄い人の数ねえ。休日だからなのかもしれないけど…」

「うーん このままじゃ、ぶらつくのは無理そうやね。お昼も近いし、何処かの店に入ろうか」

「それがいいわね。お昼になれば、店も混むから先に食事を済ませましょ」

「解った。そうだ 入る店はウチに任せてよ。この前、来た時に良い店を見つけたから」

「そうなの?なら、希に案内をお願いするわ」

「任せとき。それじゃ、逸れないようについて来てな」

 

 人ごみの多さから街を散策する事は難しく。それならと絵里は店が混む前に早めの昼食を取ろうと提案した。絵里の提案を聞いた希は自分が見つけた店に行こうと告げる。提案をした絵里だが、肝心の入る店は決めて無い為、渡りに船だと希に案内を任せる事にした。

 

 

 

 

 

 大勢の人ごみをくぐり抜けて、路地を歩いていると前を歩いていた希が足を止めた。どうやら、目的の店へ着いた様で絵里の方へ顔を向けて言葉をかける。

 

「着いたで。此処がさっき言ってたお店や」

 

 希の言葉を聞きながら、店の方に視線をやると絵里の目に入ったのは”焼肉 ミートキング”と書かれた看板であった。

 

「もしかして…希が以前に見つけた店って、この焼肉屋の事なの?」

「うん。それにロシアで暮らしてたエリチは焼肉屋とか、行った事が無いやろ?だから、今日はいい機会と思ったんよ」

「ええ 確かに私はそういった店に入った事はないわ。でも、お昼から焼肉を食べて平気かしら?」

「ああ それは大丈夫や。この店は時間帯に合わせたコースや野菜多めのメニューも用意してるよ。だから、胃に負担が掛かる心配は無いんよ。ウチも何度か、お昼に食べに行く事があるからね」

 

 

 昼から焼肉を食べる事に対して、僅かな抵抗があった絵里はその事を口にする。希も絵里の言いたい事は解っていた。それ故、希は時間帯を気にせずに食べれるコース等がある店を選んでいたのだ。

 

 

「あら、そうなの?焼肉屋と聞くとお肉だけを食べるイメージがあるけど、そうでもないのね」

「最初こそ、エリチのイメージ通りの店ばかりだったけどね。最近は女性でも気軽に入れる様な店も多くなってるんよ」

「それは楽しみね。早速、入ってみましょう」

「はいはい。慌てんでも店は逃げへんよ」

 

 希の話を聞いてる内に興味が出てきたのだろう。先程と変わって、焼肉屋への抵抗は既に無かった。早く入ろうと急かす絵里を微笑ましく思いながら、希は焼肉屋の戸を開けて中に入る。大抵の店は自動ドアだが、珍しい事にこの店は手動ドアとなっている。これも希が店を気に入っている理由でもあった。

 

 

「いらっしゃいませ!お客様は何名様でしょうか?」

「二人です」

「お二人様でございますね。当店は全席禁煙となっておりますが、よろしいでしょうか?」

入店してきた二人に店員はそう尋ねた。無論、店員も二人が煙草を吸わない事は解っているが、これは店の決まりである為に尋ねる事になっている。初めて入る絵里は多少、怪訝な顔をしていたが、何度も利用している希は慣れた様子で店員に返事を返した。

「はい 大丈夫です」

「畏まりました。それでは席へご案内致します」

 

 

 お決まりの台詞を吐いて、席に案内する店員に二人はついて行く。ある程度、歩いてから店員が足を止めて二人に振り返ると「こちらの席にどうぞ。ご注文がお決まりになりましたら、いつでもお呼び下さい」と言い残して去っていった。

 

 

「ねえ…焼肉と言えば、当然食べるのは肉だけど、まずは何の肉を食べたらいいの?」

「お、良い所に気付いたね。最初に食べる肉、まずはハラミや」

 

 席に座り、二人はメニューを眺めていた。だが、初の焼肉で何を食べたらいいのか、分からずに尋ねてくる絵里に希は自信満々に言葉を紡ぎながら指を差す。

 

「ハラミ?ロースとか、カルビじゃなくて?」

「大抵はそれを頼むんやけど、初めての人はよく胃もたれを起こしやすいからね。だから脂身の少ないこのハラミで胃を慣らすんよ。カルビやロースはその後やね」

「へー 焼肉も意外に奥が深いのね。それなら早速頼んでみましょう。希の話を聞いてたら、お腹が空いて来たもの」

「ふふ、そうやね。ウチも実はお腹ペコペコなんよ」

 

 

 希の話を聞いている内に我慢出来なくなったのだろう。目を輝かせて絵里は注文を催促した。そんな普段と違う親友が見れた事が嬉しいと感じていた。昨日、絵里は色んな自分を見せてと言っていた。だが、それは希も同じだ。本当は行く所を決めてはいたのだ。だが、普段と違う絵里を見たい。その為に希は敢えて、何も決めてないと言った。

 

 

「さっきからぼーっとしてるけど、まさか体調が悪いの?」

「え?ううん 別に何ともないよ」

「そう。以前も言ったけど、私に遠慮して隠すのは駄目よ」

「分かっとるよ。ほな、注文するで」

「ええ そうね」

 

 気付かない内にぼーっとしていて、絵里を心配させていたようだ。そして絵里が言った言葉に思わず、希は照れてしまった。それを誤魔化そうと一言呟いて、希は備え付けのボタンを押す。だが、クスクスと笑う絵里の様子から見る限り、希が照れている事はばれているようだ。

 

 

「お待たせ致しました。お客様、ご注文をお伺いいたします」

「はい。まずはハラミを2人前、それとロースとカルビ2人前。最後に野菜サラダとライスを1人前ずつお願いします」

「畏まりました。それではご注文を復唱しますね。まずハラミが2人前、次にカルビとロースが2人前、最後に野菜サラダとライスが1人前ずつ。ライスのサイズはどうなさいますか?」

「あっ、ライスは二人共、小でお願いします」

「ライスは小ですね。ご注文は以上で宜しいでしょうか?」

「はい 以上です」

「畏まりました。それでは失礼致します」

 

 注文のやり取りを終え、お決まりの言葉を言って去って行った。すると黙って見ていた絵里が希に向かって口を開いた。

 

「ねえ、ハラミだけでなく、ロースやカルビまで2人前を頼んでいたけど、二人で食べきれるの?」

「ああ 大丈夫やよ。確かに言葉だけを聞くと多く感じるけど、お肉自体は薄いから」

「そう言うけど、注文の品はサラダやライスもあるのよ」

「まあね。でも、この店は残した物を持ち帰る事も出来るんよ。だから食べきれない時はそうしたらええやん」

「へぇ~ この店はお持ち帰りも出来るのね。それなら食べきれずに残しても大丈夫ね」

 

 

 最初は注文の数に不安を抱いた絵里だが、希から食べきれない分は持ち帰る事が出来ると聞いて安心した様子を見せる。

 

その後、二人で会話をしていると注文の品を持って店員がやってきた。

 

「大変お待たせ致しました。まずはハラミが2人前。カルビとロースが2人前。それと野菜サラダとライス小でございます。追加のご注文がございましたらいつでもお呼び下さい」

 

 運んできた料理をテーブルに置くと店員は再度、お決まりの言葉を言って立ち去った。

 

 

「頼んでいたお肉も来た事だし、どんどん焼いて食べましょう」

 

 

 そう言って、絵里は皿からハラミを一枚摘まむんで鉄板に乗せようとした時だった。目の前にいた希が血相を変えて絵里に待ったをかける。

 

「ちょい待ちぃぃ~」

「な、何よ。いきなり大声出して、吃驚するじゃないの」

「それはごめんな。せやけど、今エリチは何をしようとしたん?」

「何って、それは肉を焼こうとしたに決まってるじゃない。一体、何が言いたいの?」

 

 希の真意が解らない絵里は単刀直入に尋ねた。その一言で絵里が焼肉初心者だと、忘れていた希は絵里に理由を話し出した。

 

「確かに肉を焼くんは当然なんやけど、その前にやる事があるんよ」

「肉を焼く前にやる事?」

「うん。それはこの牛脂という脂を鉄板に塗る事なんよ」

 

 希は皿に添えられている牛脂を箸で掴むと鉄板に塗り込んでいく。それを不思議そうに眺めなていた絵里は気になった事を希に聞く。

 

「見る限り、これも脂の様だけど…普通の油じゃ駄目なの?」

「普通ならそれでもええけどね。だけど、牛脂を使うとより一層、旨みが出るんよ」

「そうなんだ。焼肉も割と奥が深いのね」

「ふふっ 一応、これは基本的な事やで。まあ、知らない人からしたら玄人っぽいだろうけどね」

 

 

 希の話を奥が深いと聞く絵里。別に感心されるような話ではない。しかし、それを知らない絵里から見れば、そう思うのだろう。そんな話をしている間に塗った牛脂で温まった鉄板から熱気が漂ってきた。

 

「ん?どうやら鉄板も程よく温まったようやな。よーし、それじゃあ肉を焼くとしよか」

「そうね。最初はやはりハラミから焼くのかしら?」

「ん~ そのつもりやったけど、もうお腹ペコペコや。この際、全部焼いてしまおう」

「結局の所、そうなるのね」

「まぁまぁ、別にええやん。エリチも早く肉を食べたいやろ?」

「それは…そうね。私も早く食べたいわ」

 

 初めは拘りを見せていた希の掌返しに呆れるものの、絵里自身も空腹と肉の誘惑には勝てなかった。

 

 その後、二人は一心不乱に肉を焼いては食べるを繰り返していた。思った以上にお腹が空いていたのか、食事中は一切、会話する事は無かった。

 

 

 

 

 

「ふう。食べた、食べた。久しぶりに食べる焼肉は最高やな」

「ええ 初めてだけど、こんなに美味しいとは思わなかった。希が焼肉に嵌まる理由も分かるわね」

「そやろ。まあウチが焼肉を好きなのは別の理由もあるけどね」

「別の理由?」

「うん ウチの家は少し変わっててな。誕生日にはいつも焼肉をするんよ。それに今日はウチの誕生日やからね」

「そういえば、希の誕生日は今日だったわね。はい これは誕生日プレゼントよ」

「ありがとう。てっきり、忘れてるかと思ってた」

「もう、親友の誕生日を忘れる訳ないでしょ」

「フフフ それもそうやね。誕生日プレゼントありがとうね」

 

絵里から貰った誕生日プレゼントを大事に抱えて希は絵里にお礼を言った。

 

「別にいいわよ。それと…お願いがあるんだけどいいかしら?」

「ん?もしかして、お変わりしたいのかな?」

 

 声を小さくしてお願いをする絵里に希はそう返すと、本人は顔を赤くして頷いた。

 

「まあ、ウチもまだ食べれるからええよ。それじゃあ、追加の注文しよか」

「ありがとう。今日は夕食がいらないくらい食べましょうね」

 

 希の誕生日はこうして過ぎていった。だが、希には何よりも楽しい誕生日になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 




今回のお話、いかがだったでしょうか?

誕生日等に食べる食事や行く場所等、他者から見たら大した事は無くても本人には何よりも大事な思い出となります。

誤字等がありましたら、ご報告お願いします。また感想の方もお待ちしています。
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