在りし日々の記憶   作:アリアンキング

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今回は個人的に影の主役と思っている。
理事長の回想回です。

そして、在りし日々の本編はこれで完結となります。


在りし日々は廻り廻る

時は3月 寒く厳しい冬が過ぎ、季節は春を迎えた。

 

暖かい日差しが照らし、満開の桜が咲き乱れる音ノ木坂学院には、着物で着飾った大勢の女子生徒で溢れていた。

そう、今日は音ノ木坂に通う三年生の記念すべき卒業式が行われる日である。

 

そんな光景を三階にある部屋から、一人の女性が見下ろしていた。

南ことりの母親であり、音ノ木坂学院の理事長その人である。

 

「‥ついにこの日が来たのね。1年が過ぎるのは、あっという間だったわ。」

そう呟きながら、理事長はこの1年の出来事を振り返る。

 

あの日 私が音ノ木坂学院を廃校にすると、全校集会で宣言した事が始まりだったわね。

その後、血相を変えた絢瀬さんが理事長室に来た時は驚いたわ。

「理事長 音ノ木坂が廃校になるとは本当ですか?」

「ええ そうよ。今年は入学する生徒が減少して1年生は1クラスしかないのよ。この調子だと、来年は入学する生徒自体がいなくなる可能性が高いの。だから、職員達と会議の結果、廃校とする事が決まったのよ。」

「廃校までの猶予はどれくらいですか?」

「…質問に質問で返して悪いけど、それを聞いて貴女はどうするの?」

「そんなの決まってます。生徒会で廃校を阻止する活動をします。」

「そう 廃校までの猶予は、今年に入学した1年生が卒業するまでよ。」

「解りました。それでは失礼します」

 

そう言って、絢瀬さんは部屋を出て行ったのよね。

私は止めようと思ったけど、あえて止めなかった。

あの時の絢瀬さんは、私の言葉に耳を傾ける事は無いと分かっていたから。

 

それから数日が経った時かしらね。絢瀬さんと東條さんの二人が理事長室へやって来たのは…

「理事長 こちらが生徒会から提出する書類です。これで廃校を阻止する為の活動の許可をお願いします。」

「丁寧に書類まで用意してもらって、悪いのだけど、生徒会の活動は認められません。」

「そんな!?どうしてですか?私には理解出来ません。」

「そう?簡単な事だと思うのだけど、解らなかったかしら?」

「誤魔化さないで下さい。解ってるんですか?このままだと」

「エリチ!!」

「…解りました。今日はこれで失礼します。」

東條さんの言葉で我に返った絢瀬さんは、納得出来ない様子で部屋を出ていった。

私に礼をして、絢瀬さんを慌てて追いかけていった東條さんも大変そうね。

彼女も無理をしてるんじゃないかと、私は心配していたわ。

 

そういえば、こんな事もあったわね。

私が廊下を歩いていた時、窓から屋上を見たら、左右に髪を結んでいる女の子… 矢澤にこさんが泣いていたのよね。その時は、虐めでもあったのかと不安に思ったけど、それは杞憂だった。何故なら、すぐ傍には楽しそうな様子の穂乃果ちゃん達の姿が見えたから…

矢澤さんに起きた事は、以前に生徒会から寄せられた書類に目を通していたから知っていた。

 

「…そう ようやく彼女も新しい太陽を見つけたのね。」

 

穂乃果ちゃん達によって、一人の生徒が抱える憂いが晴らされた。

私はその事をとても嬉しく感じていたわ。

 

廊下で見た出来事から数日が過ぎた頃かしら。絢瀬さんと東條さんが部活関連の書類を届けに来たのよね。

「理事長、部活に関する書類をお持ちしました。ご確認をお願いします。」

「分かったわ。あら?アイドル研究部に部員が増えたのね。2年生が3人と1年生が3人‥‥ 確か、この6人は‥いえ、矢澤さんを含めての7人はスクールアイドルとして活動をしてるのよね?随分と楽しそうだけど、貴女もやってみたらどうかしら?」

「…結構です。私はまだ、生徒会の仕事がありますので、これで失礼します。」

 

名案だと思って勧めてみたけど、逆効果だったみたいね。

絢瀬さんが部屋を出て行こうとした時、穂乃果ちゃん達と鉢合わせになって、何やら言い争っていたから私が間に入った。

 

それで部長の矢澤さんと穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりの三人と絢瀬さんと東條さんだけを部屋に入れて、私は話を聞く事にした。そして、代表として穂乃果ちゃんが話を始めたのよね。

「ラブライブ?」

「はい 今度、開かれるその大会に参加するための許可を貰いに来ました。」

「私は反対です。彼女達の活動は、学校の評価を落としかねません。」

「…私は出てもいいと思ってるわ。楽しそうだもの」

「どうして、彼女達の肩を持つんですか?それなら、生徒会にも活動の許可を下さい。」

 

穂乃果ちゃん達の活動を認めるなら、生徒会の活動を認めてほしいと絢瀬さんは詰め寄って来た。

その表情を見ると、彼女が義務感と焦りから言った言葉であることが分かった。だから、私は彼女の行動を認める訳にはいかなかった。

 

「残念だけど、それは駄目!どうして、私が許可しないのかは自分で考えなさい。」

その言葉を聞いた絢瀬さんは、悔しそうな顔を浮かべると無言で部屋を出て行った。

そして、私は穂乃果ちゃん達にラブライブ出場の許可を出すかわりにある条件を出したのよね。

「ラブライブへ出場するのは、構わないわ。ただし、今度の中間テストで赤点を取らない事が条件よ。貴女達はスクールアイドルである前に、学生である事を忘れては駄目。勉学を疎かにすることを私は許さないわよ。」

この条件を出した時、項垂れている子が三人いたけど、頑張ってもらうしかないわね。

 

その日の夕方 私は職員達を集めた会議である提案を述べた。

 

「今度、開催するオープンキャンパスで、私はスクールアイドルであるμ'sも参加させようと考えています。その事に異議のある方はいるかしら?」

「スクールアイドルですか?私は辞めた方がいいと思います。巷では、人気があるようですが、保護者には悪い印象を与える可能性がありますからね。」

「私はいいと思いますよ。確かにアイドルという呼び方が浮ついた印象を与えますけど、自分達のやりたい事を見せつける事で音ノ木坂に興味を抱く子もいるかもしれませんからね。」

「他に意見がある先生方はいる?あるなら、遠慮なく言って下さい。」

 

私がそう言うが、他の先生方は何も意見を言う事はなかった。だが、無言でも私の提案を心よく思ってない事は表情を見れば、一目瞭然だった。

「確かに、アイドルというのは保護者に悪い印象を与えるのかもしれません。ですが、私は自分のやりたい事を心から楽しむあの子達の姿を見せる事で、音ノ木坂は自分のやりたい事が見つかる場所でもある事を伝えたいんです。私が私情を挟んでいる事は承知しています。だけど、皆さん、どうかあの子達の参加を認めてはくれませんか?」

私は椅子から立ち上がり、目の前にいる先生達に深く頭を下げた。

「…理事長もずるいですね。貴女にそこまでされたら、反対なんて出来ませんよ。まあ、自分達のやりたい事を見せる事が効果的なのは私も解りますからね。」

頭を下げて懇願する私に根負けしたように、反対意見を述べていた先生が意見を変えた。多少、強引だったかもしれないけど、私にはこうする以外の手段はなかった。そして、賛成の意を示した先生から私に質問をしてきた。

「オープンキャンパスが終わって、入学希望の子が少ない場合はどうするんですか?」

「その時は生徒募集を打ち切って、廃校を正式に決定とします。当初の予定通り、今年に入学した1年生が卒業すると同時に本校を廃校と致します。」

私の言葉を持って、その日の会議は終了となった。

 

1週間後、私はオープンキャンパスについての話をする為、絢瀬さんと東條さんの二人を理事長室に呼び出した。

「理事長 お話とは何でしょうか?」

「今度、開催予定のオープンキャンパスに参加を希望する部活を纏めて欲しいのよ。」

「解りました。今日の放課後に各自の部長を集めて、話し合いをします。それでは失礼します」

「そうそう 先に言っておくけど、今回のオープンキャンパスの結果で入学希望の生徒がいない場合、音ノ木坂学院を正式に廃校とします。」

「ええ~ 廃校が正式に!?それは本当ですか?」

私の言葉を聞いた穂乃果ちゃんが部屋に飛び込んできた時は吃驚したわ。その様子から勘違いしてる事も‥

 

「落ち着きなさい‥廃校とするのは、2週間後のオープンキャンパス終了後の結果次第だから」

「理事長、今回ばかりは、生徒会も廃校阻止の為に活動させてもらいます。」

「仕方ないわね。正し、私情を挟むような行動は厳禁よ。」

「解りました。それでは失礼します」

この時、私は絢瀬さんの活動を許可した。義務感からの行動とはいえ、これ以上、彼女の行動を制限しては潰れてしまうと、私は感じたから…

 

そして、オープンキャンパスが開催される日が訪れた。音ノ木坂の命運を決める運命の日が…

 

「いよいよ、今日ですね。オープンキャンパスに来訪してる中学生は大勢いますが、どうなるんでしょうね?」

「それは解らないわ。だけど、催しを披露する子達も見に来てる子達も楽しんでくれたら嬉しいわね。」

「そうですね。それじゃあ、私はやる事がありますので、此処で失礼します。」

私は先生と別れると、仕事の為に部屋へ戻った。そして、私がふと、自室の窓から校庭を見ると、驚く光景が目に入ってきた。それは穂乃果ちゃん達と楽しそうに踊っている絢瀬さんと東條さんの姿だった。

 

「あれは絢瀬さんに東條さん…そう、彼女たちもやっと、自分がやりたい事を見つけたのね。」

私の目に映る絢瀬さんと東條さん この二人の笑顔は、とても魅力的で見ている人も笑顔を浮かべていたわね。

勿論、私も‥

 

オープンキャンパスの翌日… 私にとって、忘れられない日がやって来た。

「理事長 昨日のアンケート結果が出ましたよ。」

「そう 見せて頂戴…入学希望者は、300人!?これは…本当なの?」

「予想以上に好評でしたよ。理事長があの会議で推薦した子達に興味を抱く者が多いようです。」

「そのようね。私としては、あの子達を利用した様でいい気分ではないけどね。廃校を阻止するという想いは同じとはいえ」

「それは杞憂でしょう。私も遠目であの子達のライブを見ましたが、とても楽しそうでしたよ。それでは、私は失礼します。」

先生が退室すると、私は堪えていた涙を流した。今、思えば先生もそれを察して退室したのかもしれないわね。

「…良かった。これで‥廃校は…免れた。ありがとう‥μ'sの皆、本当にありがとう…」

 

オープンキャンパスから数日後、私は家に届いた一通の手紙をことりに手渡した。

「ことり 貴女宛てに手紙が来てるわよ。」

「私に手紙?誰からだろう…」

「私の知り合いのデザイナーからよ。貴女が服飾を学びたいなら、留学してみたらどう?」

「お母さん…私はどうしたら、いいかな?」

「それは貴女が決めなさい。後悔だけはしないようにね。」

この事が穂乃果ちゃん達との仲に亀裂を入れるとは、私は思っていなかった。

 

ある夜、私が家に帰ってくると、何やら落ち込んだ様子のことりがいた。

「どうしたの?珍しく、沈んでるけど」

「今日、学校で穂乃果ちゃんと喧嘩したの。元はといえば、留学する事を言えなかった私が悪いのに、それを忘れて穂乃果ちゃんを責めちゃったんだ‥」

「そうだったの‥ だけど、謝るチャンスはまだあるでしょ?明日にでも、謝れば‥」

「無理だよ。こんな大事な事を黙ってた私を許してくれる訳ないよ。」

「…貴女がそう思うなら、それでもいいけど… 前にも言ったように後悔だけはしないようにね。」

私はそう言って、その場を後にした。ことりも子供ではない。一晩、ゆっくり考えれば自分の答えを出せるだろうと思ったから‥だけど、私の予想とは違って、ことりは次の日から学校を休んで留学の準備に勤しんでいた。

 

そして、ことりが留学する日 私はことりを空港まで送り届けて、暫く離れることりに別れの挨拶を交わしていた。

 

「忘れ物は無いわね?向こうに行っても、電話や手紙を頂戴ね。遠く離れても、貴女は一人じゃない事を覚えておいて」

「うん それじゃあ、行ってきます。」

飛行機が出発する時間が迫り、ことりが搭乗口に向かおうとした時、ある子の声が聞こえて来た。

「待って、ことりちゃん」

私は二人の姿を背を向けると、空港の受付に向かった。穂乃果ちゃんが話す事とことりが出す答えは、既に解っていたから…

 

「穂乃果ちゃん…」

「あの時はごめんね。私、ことりちゃんの気持ちを考えずにあんな事を言って‥許してくれないかもしれないけど、私はことりちゃんに行って欲しくない。だから、私と一緒に音ノ木坂に帰ろう。皆も待ってるから…」

「うん…私も音ノ木坂に帰りたい 皆と一緒にいたい。」

「二人共…話は終わったわね?キャンセル手続きは済んだから、急いで音ノ木坂に戻るわよ。今、学校の先生からメールが来たのよ。μ'sが急遽、ライブをするみたいよ」

その事を知って、慌てふためく二人を車に乗せると私は音ノ木坂へと引き返した。

 

音ノ木坂に到着すると、二人は車を飛び出して講堂へ走っていった。

私は車を駐車場に停めて、講堂に向かうと、その中は大勢の人で埋め尽くされていたわね。その奥のステージにはμ'sの皆が楽しそうに踊っている姿があった。

「μ's…9人の女神ねえ 楽しそうに歌って踊る姿は、確かに女神そのものだわ。」

 

懐かしい思い出を振り返りながら、ふと時計に目をやると卒業式の開始まで10分を切っていた。

「そろそろ、卒業式が始まるわね。」

そして、私は音ノ木坂を巣立つ者達を贈るべく講堂へ向かった。

 

 

人はいずれ巣立ち、在りし日々は廻り廻る。

これは暖かな日差しが照らし、桜が咲き乱れる春の出来事…




今回で在りし日々の記憶は終了となります。
また、誕生日記念小説はこちらの方も上げていきます。

次回作は既に考えているので、近いうちに投稿を開始する予定です。
その時にまた会いましょう。

誤字脱字やおかしな文面がありましたら、報告お願いします。
それと感想もお待ちしています。
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