在りし日々の記憶   作:アリアンキング

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今回はことり誕生日記念の話です。

お楽しみください


南ことり誕生日記念 同じ時間を過ごした者と物

9月12日の午後 南家には8人の少女が集まっていた。

そう 今日は南ことりの記念すべき誕生日であり、それを祝う為である。

カーテンを閉めた真っ暗な部屋でことりがケーキにささっている蝋燭の火を消すと、8人の少女がクラッカーを鳴らして一斉に祝いの言葉を呟く。

 

「「「「「「「「ハッピーバースデー ことりちゃん お誕生日おめでとう」」」」」」」」

「えへへ~ 皆 どうもありがとう」

 

皆から贈られた祝いの言葉にことりは、幸せそうな満面の笑顔を浮かべてお礼を言った。そして、穂乃果が閉めたカーテンを開けながら、部屋中にいる皆に元気な声である提案をする。

 

「それではお楽しみのプレゼントタイムを始めるよ!はい これ 私と海未ちゃんで選んだんだよ」

「ことりに似合いそうなのを選びました。受け取って下さい」

 

最初に穂乃果と海未が小さな箱に入ったプレゼントをことりに渡した。ことりはプレゼントを受け取ると、きらきらと目を輝かせながら、子供の様に喜んで穂乃果と海未に言葉をかける。

 

「ありがとう。穂乃果ちゃん それに海未ちゃんも…早速、開けてもいいかな?」

「うん いいよ」

「どうぞ。それに慌てなくても大丈夫ですよ」

 

穂乃果と海未は、はしゃぐことりに笑みを浮かべて言葉を返す。それを聞いたことりは待ってましたとプレゼントの包装を丁寧に解き、箱のふたを開けると中には…小鳥を象ったブローチが入っていた。

 

「うわ~可愛い。ありがとう 大事にするね」

「今度、一緒に遊びに行く時にそれを付けて来てね」

「その時を楽しみにしてますよ」

 

贈ったプレゼントに喜ぶことりを穂乃果と海未は優しく見つめる。

 

「それじゃあ、次は私たちのプレゼントを渡すわ。私も凛と花陽と一緒に選んだのよ。開けてみて」

 

そう言って、真姫は3人で選んだ誕生日プレゼントをことりに手渡す。その言葉を聞き、ことりは楽しそうに包装を解く。中に入っていた真姫たちのプレゼントは裁縫セットだった。様々な道具や色とりどりの糸等が揃っているのを見て、これが安い物じゃない事がことりにも分かった。

 

「ありがとう。でも、これは高かったんじゃない?本当にもらっていいの?」

「値段の事は気にしないでいいわ。皆で出し合って買ったからね。それにプレゼントなんだから、遠慮なんてしないで」

「真姫ちゃんの言う通りだにゃ 遠慮しないで受け取ってよ」

「うん 私も真姫ちゃんと凛ちゃんと同じ気持ちだよ。それでこれからも可愛い衣装を作ってね」

「それなら、遠慮なく貰うね。それにこれからも可愛い衣装を沢山作るね」

 

三人から贈られた裁縫セットを胸に抱き、ことりは嬉しそうにそう言葉を返した。

真姫 花陽 凜の三人も顔を見合わせて嬉しそうに笑う。

 

「最後はにこ達の番ね。私はこれよ」

「はい 私からこれをあげるわ」

「うちはこれや」

 

残りの三人は自分が持ってきたプレゼントをことりに差し出す。タイミング良く、三人同時に差し出す形になり、ことりは少し驚きながらも三人からのプレゼントを受け取った。

 

「じゃあ、最初はにこちゃんのプレゼントから開封するね」

「ふふ 中身を見たら、ことりもにこにこにーと笑顔になるわよ」

 

にこからのプレゼントを開封すると、その中にはリストバンドが入っていた。そして、それが市販の物ではなく、手作りの物である事が衣装を製作してることりには、一目で分かった。

 

「にこちゃん これは…手作りだよね?大変じゃなかった?」

「気にしなくていいのよ。かわいい後輩の為なら、そんなの苦労の内に入らないわ。サイズもピッタリだと思うけれど‥小さかったり、大きかったらごめんね」

「ううん 大丈夫。サイズもピッタリだよ。ありがとう にこちゃん」

 

ことりはにこから貰ったリストバンドを手首にはめて、にこへ微笑む。それを見たにこは照れて顔を背けた。同性でも見惚れてしまう程、ことりの笑顔は魅力的であったからだ。そして、意地悪そうな顔をした希がそんなにこをからかい始めた。

 

「おや~ どうしたん?顔を真っ赤にして~ にこっちらしくないやん。もしかして、ことりちゃんの笑顔に見惚れたんかな~」

「う、うるさーい そんな訳ないでしょう~ それよりも、ことり 次は希のプレゼントを開封してみなさい」

「あらら~ そんなにムキにならんでええやん。にこっちは可愛いなぁ~ まあ、にこっちもこう言ってるし、うちがあげたプレゼントも開けてみて」

「うん 分った。何が入ってるんだろう?」

「うちのプレゼントもすごいで~」

 

唐突に始まったにこと希のやり取りを見ていたことりは、希に言われて貰ったプレゼントを開けた。

中に入っている物を見て、ことりは驚いた様子を見せる。

 

「これは‥ビーズのミサンガだね。全部違う色だから、すごい綺麗だね」

「そうやろ~ 最近、そういうのが人気らしいんよ。それと、そのミサンガはうちの手作りなんよ」

「え?これも手作りなの?確かに希ちゃんのプレゼントは凄かったよ~ ありがとう」

「ええんよ~ ことりちゃんの喜ぶを顔を見れて、うちも大満足やからね」

 

自分のプレゼントに驚き喜ぶことりの姿を見て、ばあっと明るい笑顔を希は浮かべる。

今までのやり取りを静かに見ていた絵里がことりに話しかけた。

 

「最後は私のプレゼントだけど、あまり期待しないでね」

「そんな事はないよ。絵里ちゃんのプレゼントも楽しみだよ」

 

最後という事もあり、少し自信が無さそうにしていた絵里に向かって、ことりは優しく言葉をかけると絵里のプレゼントを開封する。その中には、雪の結晶を象ったガラス細工の髪飾りが入っていた。

 

「ふわぁ~ 絵里ちゃんのプレゼントもすごいよ。こんな綺麗な髪飾りは見た事ないよ」

「偶々、秋葉原でガラス加工のアクセサリーを扱うイベントがあったのよ。それでイベントに参加して、ことりのプレゼントを作ってもらったのよ。私だけ、手作りじゃなくてごめんね」

「ううん 気にしないでいいよ。このプレゼントが手作りじゃなくても、ことりに贈ってくれた髪飾りには、絵里ちゃんの想いがいっぱい籠もってるもん。それに皆もありがとう。貰ったプレゼントを全部大事にするね」

 

ことりは、満面の笑顔で素直な気持ちを絵里に伝えると、部屋にいる皆に改めてお礼の言葉を述べた。その言葉を聞いた穂乃果達も笑顔を浮かべる。

 

そして、皆のプレゼントが行き渡ったのを見て、穂乃果が口を開いて自分の本音が混ざった言葉を吐く。

 

「よーし 皆もプレゼントを渡した事だし、ごちそうを食べよう。お腹も空いてるし」

「もう 穂乃果は相変わらずですね。今日の主役はことりなんですよ。それを忘れてませんよね?」

「まあまあ、海未ちゃんも落ち着いて。私もお腹空いてるし、皆も食べよう」

「そうやね。うちも実は、お腹ペコペコなんよ」

 

 

穂乃果の言葉を海未が窘めるが、ことりと希も穂乃果と同じ言葉を呟く。そうして、皆はそれぞれが好きなものを手に取って食べ始めた。

 

「どれも美味しそうにゃ これは全部、ことりちゃんが作ったの?」

「そうだよ~ 今日は皆が来るから、少し作り過ぎちゃったんだ。だから、遠慮しないで食べてね」

「その言葉を待ってたにゃ それなら、遠慮なく頂くにゃ~」

 

ことりの言葉を聞き、待ってましたと凛は目の前の唐揚げを自分の小皿に取る。美味しそうに料理を食べる凛を見て、ことりも嬉しそうな顔で自分が作った唐揚げを口にする。ことりの料理を咀嚼していた希が口を開く。

 

「ことりちゃんの料理は本当に美味いなぁ~ うちも料理に自信あるけど、勝てる気がせえへん」

「そうかな?それを聞くと希ちゃんの料理も美味しそうだね。私も食べてみたいよ」

「おお 嬉しい事を言ってくれるやん それなら、今度うちの家にご飯を食べにおいで。腕によりをかけて料理を作るで」

「本当~ ありがとう。今度、希ちゃんの家に行くね。勿論、皆も一緒に」

「そうやったね。皆にもうちの料理をごちそうするで」

 

希が漏らした言葉にことりは素直な気持ちを希に告げた。ことりの素直な言葉に希も心が温かい気持ちになり、ことりを自分の家に誘う。希の誘いをことりも喜んで受けた。さり気なく、皆にも誘いをかけることりの優しさに感心しながら、希も皆に料理を振舞う事を約束した。

 

ことりと希の会話を聞きながら、ことりの料理を黙々と食べている凜は部屋の隅に置かれた古いミシンに気が付いた。

その事を疑問に思った凜が、ことりに尋ねる。

 

「ねえ ねえ ことりちゃん。あのミシンだけど、何で置いてあるの?どう見ても…壊れてる様な感じだにゃ」

「うん そのミシンは…確かに壊れてるよ。どうして壊れた物を何で置いてあるのか、不思議に思うよね?それは私が小学生の頃にお母さんから貰った物なんだ」

「理事長から?それで大切にしてるから、捨てられなかったの?」

「それもあるけどね。捨てられない理由は他にあるんだ」

 

凛の質問に答えたことりは、自分がミシンを捨てられない理由を語り始めた。

自身もその時の事を思い出しながら…

 

そう あれは私が小学6年になった頃だったかな?その日は土曜日で学校の授業も早く終わり、家に帰って来たら部屋が真っ暗だったんだ。まあ、お母さんは仕事で帰るのは夜だし、いつもの事だと気にせず‥部屋にランドセルを置いて居間に入ると、いきなり居間の灯りが付いて何だろうと思っていたら、お母さんがクラッカーを鳴らしてお誕生日おめでとうと言われた時は吃驚したよ。

 

私もその言葉を言われるまで、今日が自分の誕生日である事を忘れてたんだ。

 

用意していたケーキに蝋燭を刺して火をつけると、お母さんはそれを消すように言ってきて…私は大きく息を吐いて蝋燭の火を消した。上手く、一度で消せて気分が高揚した事を今でも覚えてるよ。その後はケーキを食べようとした時に、家のチャイムが鳴って…私は少し、ムッとしながら玄関に向かった。折角、ケーキを食べようとした時に来るなんてと考えは、すぐに吹き飛んだ。玄関を開けた先にいた穂乃果ちゃんと海未ちゃんの姿が見えたから‥

 

突然の訪問に驚いている私に、二人は笑顔でことりちゃん お誕生日おめでとうの言葉と共に手に持っているプレゼントを差し出してきて、私は慌ててそれを受け取り二人に家に上がるように言った。そして、私はある事を考えていた。家まで誕生日を祝いに来てくれたのにどうして‥学校で何も言ってくれなかったんだろうと‥ 

だけど、その疑問の答えはすぐに分かった。居間にいるお母さんと後ろにいる二人の悪戯が成功したような表情を浮べていたから。

 

「懐かしいなぁ~ そういえば、そんな事もあったね」

「そうですね。前日の夜にことりを驚かせたいから協力してくれと、私と穂乃果の家に電話が来たんでしたね」

「ああ やっぱり、お母さんが手を回してたんだね。あの時のサプライズは驚いたよ」

 

 

その後 私とお母さんと穂乃果ちゃんと海未ちゃんの4人で楽しく会話しながら、ケーキや料理を食べているとお母さんがゆっくりと立ち上がり、部屋を出て行ったんだ。だけど、数分もしない内にお母さんは少し大きめの箱を手にして戻って来て、私に誕生日プレゼントだと告げて、その箱を私に差し出してきた。箱を受け取ると、ずしりと重みを感じて落としそうになったけど‥何とか、床に置いて箱を開くと中にミシンが入っていたの。

 

これを見た時 正直、戸惑ったよ。いつもなら、可愛いぬいぐるみとかをプレゼントしてくれたから… 

 

この贈り物に納得出来ない私は、感情を任せて酷い事を言ってしまった。どうして、今年のプレゼントはこれなの?こんなのより、私はぬいぐるみが欲しいよ。その言葉を聞いたお母さんは、少し悲しそうな顔をすると私に理由を話し始めた。

 

 

「プレゼントにミシンを贈るというのも珍しいわね」

「確かに‥それと、我儘を言うことりちゃんも意外だにゃ」

「うん 私もことりちゃんは小さい時もいい子だと、思っていたから」

「そんな事ないよ。子供の頃の私は、我儘を言っては周りを困らせてばかりだったんだよ」

 

 

私に贈ったミシンは、昔‥お婆ちゃんにお母さんが成人を迎えて一人暮らしをする際、プレゼントされたものだと聞かされた。そして、このミシンには思い出が沢山詰まっているとも言っていた。その話を聞いてるうちに私は、大事なミシンをくれた事が嬉しかった。そして、酷い言葉を言ってしまった事を私が謝ると、お母さんは優しく微笑んで許してくれた。今でも、この誕生日の出来事は昨日の様に思い出せるよ。

 

「壊れたミシンに、そんな理由があるとは知らなかった。それなら捨てる事が出来ない筈よね」

「理事長もことりちゃんに、大切な思い出を作って欲しいから…大事なミシンを譲ったんやろね」

「きっと、そうでしょうね。素敵な誕生日を送れて良かったわね」

「ありがとう。うん あの日の誕生日は、忘れられない程‥素敵な思い出だよ。勿論、今日の誕生日もね」

 

 

誕生日の翌日 早速、私は譲り受けたミシンを使ってみたけど、当然…上手く扱う事が出来ずに私が泣いていると、それを陰から見ていたお母さんが傍にやって来て、私にミシンの使い方を丁寧に教えてくれた。型が古いから、使い方にもコツがあるけど‥慣れてしまえば簡単だと、お母さんは私にそう言った。こうして、私が初めて作ったのは、無地のハンカチだった。今‥思うと、味気無い物でも、そのハンカチを私は気に入っていた。だけど、形があるものはいつか壊れる。その言葉を、私は思い知る事になったんだ…

 

「…あの時の事だね。私も覚えてるよ」

「私もです。ことりの姿を見て、胸が締め付けられる気持ちでした」

「ごめんね。あの時の事は、もう 吹っ切れてるから‥大丈夫だよ」

 

 

あれは‥学校の遠足の時だったかな。私はお気に入りのハンカチを持って、遠足の目的地へ向かってる途中で汗を掻いて、それを拭こうとポケットからハンカチを取り出した瞬間…急に風が吹き荒れて、手に持っていたハンカチが遠くへ飛ばされちゃったんだ。一瞬の事だったから、反応も出来ず‥気づいた時には、もう手が届かない所まで運ばれていた。

 

「そんな事があったんだ」

「大事なものを失くしてしまうのは…辛いことよね」

「凛もその気持ちは‥解るにゃ 似たような体験があるから‥違うのは、失くした物が見つかった事だけど」

「凛ちゃんも私と同じ経験があるんだね。失くした物が見つかって、良かったよ。それをずっと、大事にしてね」

 

 

その後、私は終始号泣して‥先生や穂乃果ちゃんや海未ちゃん、それにクラスメイトに迷惑を掛けっぱなしだったなぁ。私は家に帰っても布団に包まって拗ねてると部屋にお母さんが入って来て、抱きしめてくれた。そして、私にこう言ったんだ。形あるもはいつか壊れたり、消えてしまう。そう お母さんから貰ったミシンは、ハンカチを作った時に役目を終えたと壊れてしまった。だけど、思い出は消える事も壊れる事はない。だから、泣くのは涙の無駄だと言ったお母さんの優しい慰めに救われたなぁ。

 

「思い出は消える事が無いかぁ~ 確かにそうかもしれないわね」

「自分の心に残る辛い出来事も…見方を変えれば、それも思い出やからね」

「私たちも理事長の言葉を覚えておきましょう」

「そうだね。何か、湿っぽくなっちゃったね。そうだ!皆、今日は家でお泊り会をしようよ」

 

ことりの急な提案に穂乃果が食い付いて賛成するが、海未は心配そうに言葉を漏らす。

 

「いいね。お泊りも久しぶりだし、ことりちゃんと一緒に寝るのも楽しそう」

「偶にはいいですね。だけど、全員が泊まったら迷惑になりませんか?」

「大丈夫だよ。事前にお母さんから許可を貰ってるからね」

「そうなの?それなら、今から家に戻って、着替えを持ってくるね」

 

ことりのサプライズに、皆は楽しそうな表情を見せて荷物を取りに南家をあとにした。

 

静かになった部屋で棚にあるミシンに目を向けると、夕日に照らされて淡く輝いていた。

 

その様子がことりには、自分に微笑みかけてる様に感じて…ミシンを優しく撫でると静かに一言だけ呟く。

 

「今までありがとう」

 

これは少女の誕生日に起きた優しい在りし日の出来事。

 

 




今回のことり誕編はどうだったでしょうか?
大切な者から譲り受けた物はいつか壊れてしまうが、思い出は壊れずに心に残る。
そんな優しい話を書きたくて書きました。

誤字脱字又はおかしな文面がありましたら、ご報告をお願いします。
それと、感想もお待ちしています。
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