二人の暖かい友情をご覧あれ。
それではどうぞ。
水曜日の昼休み 希はお弁当を手に絵里の席に近づくと、親友に誘いの言葉をかけた。
「なぁ エリチ。今日なんだけど、何か予定あるん?」
「今日の予定?別に何も無いわよ」
「それなら学校が終わったら、ウチと買い物に行かない?今日は練習も生徒会の用事もない事だし、偶にはエリチとウチの2人で過ごすのもいいやん」
久しぶりに親友と過ごす時間が欲しくて、希は放課後に買い物へ行かないかと提案した。
「そうねぇ… 確かにμ'sとして、活動を始めてから希と一緒に過ごす時間は減ったものね。それじゃあ、今日は一緒に買い物に行きましょう」
「本当!! それなら、今日は楽しみにしてるで~」
「はいはい。落ち着いて。そろそろお弁当を食べましょう」
「そうやね。今日はいい天気だし、外で食べようか」
絵里がそう言うと、希は満面の笑顔を浮かべて喜んだ。珍しく喜びはしゃぐ希に絵里も笑顔を浮かべる。そして、二人はお弁当を手にして教室をあとにした。
それから時間が経ち、放課後 希と絵里は学校の門を抜けて、街へと繰り出した。沈みゆく夕日が二人の影を照らし出す道を歩きながら楽しく談笑していた。
「綺麗な夕日ねぇ~ 最近は、暗くなるのが早くなってきたわね」
「秋やからね。それに少し、肌寒くもなってきたなぁ。そういえば、ウチとエリチが一年の頃もこんな風に街を歩いた事があったね」
「懐かしいわね。確か、あの時はデパートで売っている物が珍しくて色々と見て回ったのよね」
「そうやね。目をキラキラさせて、品物を見てるあの時のエリチは可愛かったなぁ」
「もう からかわないでよ」
「フフフ 照れる事ないやん?本当に可愛いと思ってたんよ」
からかう希に絵里は少しムッとした顔で言葉を返す。
そんな事は何処吹く風とからかう希を見て、絵里は頬をぷくっと膨らませてそっぽを向いてしまう。
その仕草がまた可愛らしく希はクスクスと笑いを溢した。膨れていた絵里も希に釣られて笑いを溢していた。
そんな会話をしてる内に二人はデパートに到着した。そんな時、希がある提案を絵里に告げる。
「そうだ ウチはちょっと、ここで買いたい物があるから別行動でもええ?ウチが誘っておいて、なんやけど…」
「別行動?私は構わないわよ。実は私も別行動をして、やりたい事があるから気にしなくていいわ」
「そうなん?それじゃあ、お互いの用事が終わったら、この場所で落ち合うとしよか」
「解ったわ。じゃあ、また後でね」
「うん ほな、あとでな~」
そう言って、お互いはやるべき用事を済ませる為に別行動を開始した。
絵里と別れた希は、4階に訪れていた。そこでは家具を扱っているエリアである。他には、オルゴールや懐中時計等、一風変わったものを売っている催事場が展開されていた。
「えっと、食器類はこっちの方かな?昨日、カップを割ってしもうたからな~ うっかりしとったわ。お気に入りやったのに~」
希が別行動をしたのは理由があった。昨日の夜に食器洗いをしてる時、割ってしまったカップの変わりを買う為である。
カップが置いてある場所を探して、フロアを歩きながら希は2年前の事を思い出す。
あの日 二人で来た時、エリチは店の大きさと広さに驚いとったなぁ。
その時のエリチの顔は今でも覚えてる。
「ハラショー デパートには色んなものがあるのね。こういう店には来た事がないから新鮮だわ」
「そうなん?それなら、エリチは普段何処で買い物をしとるん?」
「普段はスーパーで買い物してるわよ。洋服とかは近くのブティックで買ってるの。大抵はこの二つの店で大方、何とかなるもの」
「ふーん それじゃ、今日はウチが色々と教えてあげるよ。そうや、まずは服を見にいこか」
「それはいいわね。だけど、私に似合う服があるかしら?」
ウチの言葉にエリチは賛同してくれたけど、自分に合う服がある訳ないと不安な様子やったな。
そんなエリチにウチは微笑んでこう言ったんや。
「大丈夫や ウチがエリチに似合う服を見つけたる。だから、大船に乗ったつもりでいてや」
「ありがとう。そういう事なら、希にコーディネートをお願いしようかしらね」
「うん 任せて。それじゃあ、早く行こう。善は急げと言うからね」
ウチの言葉でエリチが喜んでくれて嬉しかった。ウチもそれで舞い上がってたし、今思い返すと少し恥ずかしいなぁ~
その後…ウチとエリチは洋服売り場で色々な服を見て回ったんや。確か、ウチがエリチに進めたのは茶色のセーターやったな。その時期は秋で寒い日が増えとったし、暖かい服が欲しいとエリチも言うてたからなぁ。
「色んな服があるけど、どれもピンとくるものがないわね。私としては、暖かい服が欲しいわね。最近、冷える日が多いから」
「うーん そうやね。この茶色のセーターなんかどうなん?」
「あら これはいいわね。暖かそうだし、サイズも丁度よさそう。決めた!私はこれを買う事にするわ。選んでくれてありがとうね」
そう言ってエリチはウチが選んだセーターを手に取ると、軽い足取りでレジに向かって行った。
まさか、あそこまで気に入るとは思ってなかったから、ウチも嬉しかったわ。ちなみにウチが買ったのは水色のマフラーや。
希がそんな出来事を思い返しながら、店内をぶらぶらしてると食器売り場を見つけた。すぐ傍にはカップ類も置いてある。
「お?ここにあったんか。色んなカップがあるんやなぁ~ どれにしよかな?」
売り場には猫の絵のカップや花柄のカップ等が陳列していた。それらを眺めていると希はある事を思い出す。
そういえば、ウチとエリチが会計を済ませた後… まだ、時間に余裕があったからデパート内を見て回る事にしたんやったな。
「なあ エリチ‥ まだ、時間に余裕があるし、もう少しデパートを見て回らへん?折角、来たんやし」
「そうねぇ~ 今日 亜里沙は友達の家に泊まると言ってたし、別にいいわよ」
「ほんなら 決まりやね。さっき、案内板で見たんやけど…4階で食器類が安く売り出してる様なんよ。少し、覗いて見てもええ?」
「いいわね。そっちの方も面白そうだし、見てみたいわ。次は私が希に合う食器を選んであげる」
「ふふ ありがとう。それじゃあ、今度はエリチに選んでもらおうかな」
「任せておいて!大船に乗ったつもりでいて頂戴」
エリチはウチに笑顔を見せて、ウィンクしながらそう言った。普段は凛としてる分、その時のエリチはすごく可愛くて魅力的やった。それで4階に来て、ウチとエリチは食器売り場で色んなお皿やカップ等を見たんや。
「凄いわね。どれも綺麗な皿や可愛いカップが多くて迷うわ」
「そうやなぁ。普通に買ったら、高そうな奴もあるのに値段が全て3000円なのも驚きや」
「あっ これなんて、どうかしら?」
エリチが指を指す方を見ると、数羽の小鳥の絵が装飾された皿とカップのセットが目に映った。白い皿に青や緑の小鳥が羽ばたく姿が印象に残っとる。
「これはええな。皿の描かれてる小鳥の絵も可愛いし、大きさもそこそこやから場所も取らんやろうね。気に入ったわ。決めた!ウチはこれを買う事にするわ」
「フフ‥ それは良かったわ。私の趣味で選んだから、希が気に入るか不安だったの」
「そんなの気にする必要あらへんよ。エリチが選んでくれたものなら、どれでも良かったんよ」
「そうなの?そう言ってくれると嬉しいわ」
「ありがとうなぁ。このお皿とカップ…大事にするで」
エリチは不安だと言ってたけど、ウチは本当に嬉しかった。何せ、友達と一緒に買い物したり物を選び合ったりする事なんて無かったから…
「どういたしてまして!それより、いつもの希らしくないわね。ぼーっとしてるけど、どうしたの?もしかして、具合でも悪い?」
「え?ううん 何でもあらへんよ」
「本当に?」
エリチの言葉に、はっとしてウチは慌てて言葉を返した。だが、エリチはウチが無理をしてるのではないかと、疑っていた。
「本当や ウチがエリチに嘘を吐く訳ないやん」
「そう。ならいいけど。具合が悪かったら隠さないで言ってよ?友達なんだから」
「うん 隠さずに言うよ。心配かけてごめんなぁ~」
”友達なんだから” ウチに言ってくれたその言葉で涙が出そうやった。エリチを心配させないように堪えるのが大変だったよ。
だけど、あの言葉には本当に救われたなぁ。それなのに私は、エリチが選んでくれたカップを割ってしまった。大事にすると言ったのに…
「うーん どのカップにするか迷うなぁ~ あっ いけない。大分、時間が過ぎとるな。そうや この猫のカップにしようかな」
希がちらっと店内の時計に視線をやると、絵里と別れてから数十分が経過していた。流石にこれ以上、時間を掛けられないと思った希は目の前にあるカップを手に取ると急いでレジに向かった。
カップの会計を済ませた希は絵里にメールを送る為、携帯を取り出す。そして、画面を見てある事に気付いた。
「そうやった。今日は10月21日‥エリチの誕生日やったな。ウチとした事がこんな大事な事を忘れとったなんてなぁ」
希は絵里へ贈るプレゼントを買う為…降りていた階段を再び登り、4階へと戻って行った。その最中、同じような事があったと希は想いを馳せる。
ウチがエリチに選んでくれた食器セットの会計を済ませて、時間も遅くなったから帰ろうとしたんや。その時、何気なくエリチの誕生日を聞いた。
「そうや エリチの誕生日はいつなん?」
「私の誕生日?今日だけど、どうかしたの?」」
「え?今日がエリチの誕生やったん?」
「そうよ。だけど、私も高校生だから…流石に誕生日を祝って貰う歳じゃないわ」
今日がエリチの誕生日である事を知ったウチは、プレゼントを買う為に一芝居打ったなぁ。我ながら態とらしかった。当然、エリチも気付いていたけど、突っ込まないでいてくれたのは優しい反面‥恥ずかしかった。
「あっ ごめん。エリチ。ウチ、ちょっと忘れ物してた。急いで取ってくるから此処で待っててや」
「え?忘れ物したの?もう、希もドジなのね。解った。此処で待ってるから行って来ていいわよ」
それでウチは大急ぎで戻って、贈るプレゼントを探したんやった。あの時は確か、懐中時計を贈ったっけ?そして、偶然装って渡したんだ。やっぱり、エリチは気づいていたけど、プレゼントを喜んでくれて嬉しかったわぁ。
そんな恥ずかしくも優しい過去の出来事を希は思い返していた。
そういえば、4階でオルゴールが売ってたな。よし、今回はそれをプレゼントしようかな。
その頃、用事を済ませた絵里は約束の場所で希を待っていた。普段なら、人を待たせる事をしない希がいつもより遅いのが気になっていた。
「遅いわね。どうしたのかしら?」
絵里がぼやいていると、遠くから希が歩いて来るのが見えた。人を待たせておいて、呑気な様子の希に苛立ちを感じて一言言おうとした時‥希は綺麗に包装された小さな箱を絵里に差し出してきた。
突然の事に絵里も毒気を抜かれて、キョトンとした顔をする。その様子を見ていた希は包み込むような微笑みをみ浮かべてある言葉を囁いた。
「エリチ 誕生日おめでとう」
その言葉を聞いて絵里は希が遅れた理由が解り、照れた顔で言葉を返した。
「どうもありがとう。すごく嬉しいわ。別行動をしたのはこれの為だったのね」
「うん それもあるけど、本当はエリチに隠してた事があるんや」
「隠し事?それは何かしら?」
「実は‥昨日、エリチが選んでくれたカップを割ってしまったんよ。別行動したのはそのカップの変わりを買う為やったんや。エリチ、ごめんな…」
「そうだったの。だけど、そんな事を気にする必要はないのよ。割った時、怪我とかしなかった?」
「うん。大丈夫やったよ。心配してくれてありがとうな」
「それは良かった」
エリチはカップを割った事より、私に怪我がない事に安堵した様子を見せる。私はその時、自分が恥ずかしかった。考えてみれば、エリチがそんな事で怒ったりする筈はないのに…
そんな優しい友達を私は信じ切れていなかった。だけど、今度はもう隠し事はしない。絶対に。
私は密かにそんな決意をしていた。
「それと、誕生日プレゼントありがとう。希からの贈り物を大事にするわね」
そう言って、大切な友人からの贈り物を受け取ると優しく微笑んだ。その言葉を聞き、希は目を潤ませて微笑み返す。そして自分と友達になってくれた少女の記念日を心の底から祝った。
目じりに浮いた涙をぬぐい、いつもの笑顔を見せた希は絵里をお茶に誘った。
「どうせやったら、今からお茶しに行かへん?少しくらいならええやろ?」
「そうね。偶にはいいわね。早く、行きましょう」
「慌てなくても、喫茶店は逃げへんよ」
「あら、一秒でも早く友達とお茶したいと思うのは駄目かしら?」
「全然。駄目やあらへんよ。寧ろ、一秒でも長くいたいわ」
「でしょ?それじゃあ、早く行きましょ」
そして、絵里は希の手を握ると二人仲良く夕暮れの街中へと歩いていった。
今回の絵里誕生日記念作品はいかがだったでしょうか。
過去の事を思い出しながら、誕生日プレゼントを選ぶ希の姿に絵里に対する強い友情を感じてくれたことでしょう。
誤字等がありましたら、ご報告下さい。
それと感想の方もお待ちしております。