女性って、あれだよね。出かける時の準備長いよね。
たとえあのラウラでも、それは変わらず(失礼なこと言いましたすいません)。
「ま、俺は用意も何もないけど。」
荷物なんて特になく、私服に着替えて財布持ってくるだけだから。男はラフでいいです。『男は待つ生き物だ』ってやつですかね。誰の言葉かって? ……俺☆
なーんて考えてたら、
「すまない、待たせたな」
待ち人の声が聞こえて、後ろへ振り返った……が、ついついこけてしまいそうになる。
「ん……なぁ、ラウラ。一つ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「私服とかはお持ちじゃないんですかね?」
ラウラが現在着ているのは、IS学園指定の制服。
似合ってていいと言えばいいけど……まぁ……どちらかというと、休みの日に買い物に行く格好ではない。
そして返事はといえば、
「持っていない。」
なんてキリッと言う始末でございます。
「まじか。今までもそうなの?」
「ああ。別に生活する上では困らんからな。」
いるよね、こういう効率重視の生活してる人! それはそれで正しい生き方だけどさ!
俺が額に手を当てて考えているのを見て、またラウラがぽつりとつぶやく。
「だが、私服……他の服か、ふむ……強いて言えば……軍服か」
「それはダメ。いや、俺としてはアリなんだが、世間の常識的に考えて。」
ただの買い物にそんなガチ装備をしないでください。いや本当。
うーむ、そうなると……予定変更だな。 本当は、近くのスーパーで済まそうと思ってたんだが。
「じゃ、途中で買っていこうか。」
「何をだ?」
「ラウラの服。俺が選んであげるよ」
そう言うと、なんかラウラが赤面した。何事?
「わ、私の服をか!?」
「俺の服買ってどうするのよ。話の流れを読んでくれたまえ」
なんか変なこと言っただろうか。あれか、俺みたいなセンス悪いやつに選ばれたく無いのかな? プライド高いもんな。
「そんなに嫌ならやめておくけども」
「い、いや、そんなことはない!! 大丈夫だ!」
「? そうか? てか顔近い。」
近づいた顔を背ける。急に迫ってくるんだもん、ぶつかるところだった。
「じゃ、とりあえず行こうか。バスでレッツゴーだ」
「あ、ああ…。」
と、いうわけで到着したのはショッピングモール。名前は……なんて言ったっけな? ああ、あれだ、『レゾナンス』。
「じゃ、服から見て行こうか?」
「ああ」
とは言ったものの。俺、服の種類とか名前とか全然知らないんだよな……。どうしよう。
「うーん…」
「どうした?」
「いや、なんでもないよ。選ぼう選ぼう」
ちゃんと勉強しておいた方がいいかな、そういうことも。
手始めに、ラウラの雰囲気に合いそうな店に入る。
「ふむぅ」
少し大人っぽいのも似合うけど、可愛い系統もいいだろうな…。
あー、考え事してたらお腹空いて来た。これはやばい。
近くで服と睨めっこしていたラウラに声をかける。
「ラウラーちょっといい?」
「ん、なんだ」
「何か、食べたいものある?」
「………は?」
あ、驚かれた。ポカーンと。
まぁ、洋服を選んでいる時にする質問じゃないし。そう考えると非常識だったか。
「いやその、夕飯に。何かあったら、この後の買い物の参考になるから」
「お前が作ってくれるのか!?」
大きい声を出さんでほしいでござるよ。周りの視線が一気に集まってしまった。
前に無趣味とは言ったものの、料理自体は一人暮らしの頃に、一通りの家事とともにマスターしている。一夏と競える程度には腕があると自負している程度にはな。
その中でも料理は得意で、千冬さんを唸らせた事もあるくらいだ。
「作るよ。もしもラウラのほうで予定があるなら遠慮させてもらうけど」
「いや、そんなことはない!! まて、今考える」
そう言って考え込んでしまった。そんなに難しく考えなくても、簡単に思いついた奴でいいのに。『和食!』とか、むしろそういう大雑把に言ってもらった方が楽かもしれないな。
「やっぱりドイツ料理かな?」
「そうだな…久しぶりに、シュニッツェルが食べたい」
「おお。いいねえ、作りがいが有りそうだ」
シュニッツェルを御存知の方はいらっしゃるだろうか。あ、シュニッツェルといらっしゃるは語感が似てるな……ってそんな事はどうでもいい。
シュニッツェルはドイツの代表的な家庭料理。素材は非常に簡単なものだから、こちらでも作るのは簡単だ。
献立が決まったところで、ラウラの服も黒いワンピースに決定。裾のフリフリがとても可愛いと思います。せっかくだし、このまま着て歩く事にした。
うん、やっぱりラウラには黒が似合うね。黒ウサギさん…?
「ど、どうだ?」
「いいね、すごく似合ってる。可愛いよ」
「か、かわ……」
笑顔で言ったけど、真っ赤になって縮んじゃったよ。なんだ、褒められるのに弱いのか。これはいいことが分かったな。ま、そういうところが可愛いんだけど!
あ、会計済ませてなかった。
「じゃあ買おうか。すいません、これ下さ~い」
「待て竜也、私が払う!」
財布を出してレジに向かおうとしたら、ラウラに腕をつかまれた。力が入ってて結構痛いのは顔にも出さないようにしよう。
「何言ってんの。少しくらいは男にかっこつけさせてよ、プレゼントなんだから」
「し、しかし……」
「はー、仕方ないなあ。…そうだね。ラウラ、『男性が女性に服を送る意味』って知ってる?」
「え…?」
ラウラが悩んでいる隙に、ささっと会計を済ませる。店員さんの協力もあって、気付いた時にはもう遅い。
「あ!しまった」
「いえーい、、俺の勝ち。さ、今度は夕飯の買い出しといこうか」
「引っかかってしまった……くっ、私としたことが」
ぐぬぬ顔のラウラを連れて洋服店から出て、数分。食料品の辺りまではまだ時間がありそうだ。
ふとラウラを見ると、左手が空いていた。俺は右手が開いている(左は荷物)。
……折角だ、ラウラさんを試してみよう。
「ラウラー」
「ん? どうした、竜也」
「はい」
それだけ言って、右手を差し出してみる。……さて、どう出る?
「……は、はい」
ぎゅ、と恥ずかしそうに握り返される手。
同時に、俺の脳内が『う、うわぁああああああああああああ』という声で埋め尽くされた。だがこういうときこそ人は冷静にならねばならる。あっ噛んだ。
「もう、可愛いなあ」
「あ、あまりそういうことを言うな!」
牛肉、卵、パン粉、黒胡椒、小麦粉、ジャガイモ、レモン。
材料はこんなものだ。ね、簡単でしょ?
「ステーキハンマーは……きっと厨房にあるよな。」
足りなくなっていた日用品も全て揃えた。これで用は全部済んだのかな?
「そろそろ帰ろうか?」
「う、ん……ああ……」
ん、なんかちょっと残念そうだな。何か買い忘れたか?
聞いてみたが『知らんっ』と腹パンされたので聞かないことにした。お腹痛いです。軍仕込の腕力は計り知れませんね。
仕方なく言葉通りに帰路につこうとしていると、ショッピングモールの西ゲート部分からわめき声が聞こえた。
「…なんだ? ずいぶんと騒がしいな。祭りでもやっているのか?」
「いや、今日は催し物はなかったはずだけど。ラウラ、ちょっと荷物見てて。気になるから見てくる。なんか面白い大道芸とかだったら呼ぶよ」
「ああ。気をつけるんだぞ」
ちょっと嬉しそうな表情で言うラウラ。少し見てくるだけなのに大げさな。そう思いながら歩いてゲートに向かう。
だいぶ人混みに近づいたところで、そこから人を掻き分けて誰かが駆けてきた。ものすごい形相である。
「ん? 何かあったんですか?」
「! 丁度いい、お前だ!」
「は? え? あーれー」
駆けてきた男にそのまま小脇に抱えられ、こめかみに拳銃が突きつけられた。重い金属のカチャカチャ鳴る音が聞こえる。
うん、突きつけられたのは拳銃で、取り囲んだのは数人の大人と、アレは警官だな。えーと、要するに……
……人質?
「おらぁああ、近づいたらこのガキの頭ブチ抜くぞ!!」
「うわ、怖ッ。死ぬ死ぬ死ぬ」
周りには、さらに警官とか野次馬が集まって来た。まぁ、当然か。
「その子を離せ!私が身代わりになろう!」
かっこいいこと言ってるのは警官さん。
けど、男が言うことを聞くはずが無い。
「黙って金持ってこい!!」
「お兄さん、そんな適当な言い方じゃダメだよ。もっと具体的に言わないと。いくらを何とか銀行のこの講座に振り込んでおけーとか」
「そ、そうだな…って、お前は黙ってろ!!」
「痛い」
こめかみにぐりぐりと当たる銃口が痛い。金属はダメだって。頭へこんじゃうって。
そのまま両者とも俗に言う膠着状態が続いて、だらだらとした時間が流れた。
あーあ、早く帰って料理したいのになー。おなか減ったな。
「早く金をよこせ!! こいつがどうなってもいいのか!?」
「きゃーきゃー」
「お前は少し人質らしくしろ!!」
「えー、怒られちゃったよ……あ」
人垣を何度も眺めてみて、嫌な予感がして男に向かって言う。
「あのさぁ、お兄さん。そろそろ離した方がいいと思うよ」
「ぁあ? 何言ってやがんだ、んなこと言われて素直に離すわけねえだろ」
「いやぁ、その……俺の夫が怒ってるんだよねぇ」
「夫ぉ? お前女だったのか」
「いや、男だけどさ。なんて言うかそうじゃなくてね」
「じゃああれか、ホモか」
「そういう差別的表現は好まないね。そして違うし」
「じゃぁなんなんだよめんどくせえな!!」
「俺だってめんどくさいよ! いいだろ黙って離してくれよ!
「逆ギレかよ!」
男とギャーギャー言い争っていると、今度は人垣のほうから騒ぎ声が聞こえてきた。
「こ、こら君、危ないから入るんじゃない!」
「黙っていろ」
そう、我が夫であるラウラがこっちに近づいてくる。両手には買い物袋。
男は突然のことに少しびびっている。
「な、なんだお前!?」
「嫁を迎えにきた」
「やほー、ラウラ」
「ばかもの、遅いから見に来てみれば……何をしてるんだお前は」
見ればわかると思うがな。あと犯人さんよ、いい加減こめかみ取れそうだからやめてくれまいか、そのぐりぐり。
「捕まっちゃったんだよね。人質だよ人質」
「そんなもの早く抜けてこい。」
「はいよ。」
男の腕を何事もなかったかのようにすり抜けて、裾の埃を払った。あーあ、ずるずる引きずるから汚れちゃったじゃない。こりゃ手洗いせんとだめだな。
男の方は何が起こったのか分からず呆然としている。
「な!? 何で!?」
「あ、ごめんねお兄さん。びっくりした?でもねえ、もう少し脇を締めた方がいいよ」
「ふ、ふざけんじゃねぇえ!!」
男が叫んで、銃口をこちらにむけて引き金を引く……その寸前、俺は指を鳴らした。
『ボンッ!!』
「「「!?!?」」」
拳銃が、音を立てて爆発した。その光景に某然としている内に、警官が男を取り押さえる。
「帰ろうか、ラウラ」
「…ああ」
事情聴取とかされると面倒だから、どさくさに紛れてそそくさと外へ出た。
…って、なんか不機嫌なラウラさん。
「どうした?」
「何もない」
何もないなら、そんなに怖い顔しないと思うがなぁ…。
「なんかご不満?」
「何もないと言っているだろう」
今度はじー、とこっちを見て来る…。
冷や汗出そう。て言うか出てる。そしてあの声だ、また凍りつきそう……。
「あのさぁ…」
「……ふんっ!」
「痛い!」
思いきり叩かれた。何事!?
「なにすんの!?」
「ばかもの、私がどれだけ心配したと―――あ」
「え」
あぁ、そういうこと。
「なんだ、心配してくれてたんだ。」
「うぅ…………」
また、顔が真っ赤になって。
………あー、もう。
「いちいち可愛いんだよな、ラウラは」
「か、可愛いとはなんだ!」
「かわいいものはかわいいからいいの。」
くしゃくしゃと、頭を撫でてやる。
「や、やめろ! 髪が」
「あ、ごめんごめん」
ぱっと手を離した。ラウラは少し不服そうだ。
「え、もう」
「ん?」
「…なんでもない!」
「そ? じゃあ帰ろうか」
俺は買い物袋を持ち直し、さっさと先に行ってしまうラウラに続いた。
「……そういえば」
「んー? 何?」
今度はラウラの方から声が上がる。なんか買い忘れですか?
「買い物の時の、あれ。どういう意味だ?」
「どれ?」
「あの、『男が女に服を送る意味』。結局どういうことなんだ?」
「あー」
言ってから気付いたけど、結構恥ずかしいな……。言いたくないぞ。何でこんなタイミングで思い出すんだ。
…よーし、逃げちゃうか。
「うーん……」
「どうした」
「……女の子達に聞いて見て!!」
「あ、こら逃げるな!!」
「逃げるが勝ちだよ!!」
言えないよねぇ…。
『その服を脱がしたい』って意味なんて。