やはり俺がアニメを作るのはまちがっている。 作:ソラリス隊長
「お先でーす」
「「お疲れ様です」」
落合先輩に挨拶し、再び俺は自分の仕事と向き合う。作業進行表を作るのも楽じゃないな。でもこのペースなら余裕を持って完成させる事が出来る筈。……やばいな。入社してもうじき半年を迎えるがあまりにも社畜に染まりすぎてないか俺。これも奉仕部効果の副産物なのか?
「俺、この進行表が埋まって四話が完成したら……吉祥寺のペッカドーナツ一気食いするんだぁ」
目の前で仕事をしている宮森先輩はそんな事を口にしていた。この人本当ドーナツ好きだな。
すると視界の端っこで奇妙な動きをする人物が目に入った。先程からスクワットやら腕立てなど様々な運動をしているが……正直怪しい。
「……どうしたんですか高梨先輩。終わったのに帰らないんですか?」
あまりにも怪しい行動をとるので自然と聞いてしまった。
「え!? いや、まあっ!ちょっと……」
後半にかけて高梨先輩の声は段々と小さくなっていく。益々怪しい。大丈夫かこの人。
「太郎」
「でゃひ!?」
本田さんが高梨先輩を呼ぶだけでこの反応。
「三話のラッシュ 差し替え終わってるか?あ、比企谷くん、明日記録頼める?」
「……あ、はい。えっと、十二時からですよね?」
「え!?あ、うん……」
高梨先輩は人差し指同士を合わせながら小さく返事をする。普段の騒がしさとは大違いだ。やっぱり何かあったなこの人。業務に支障が出なければいいのだが。
翌日
「おはようございます」
「「「「「おはようございます」」」」」
「はーい、おはよう」
今日もいつも通りの朝礼が行われる。朝礼をする度に 今日仕事か……というナーバスな気分になってしまう。本当、早く専業主婦になりたーい。すると社長のお話が始まる。
「昨夜、我が社が七年ぶりに元請となった『えくそだすっ!』の第一話が放映されました。たった1クールですがあと十二本、気を抜かずに頑張っていきましょう」
「デスクから連絡で〜す。本日十二時から三話のオールラッシュを行います」
デスクの本田さんから今日の業務内容が知らされる。すると今度は矢野さんと落合さんが口を開いた。
「十七時から七話、カッティングの予定です」
「十八時から六話の3Dチェックをやります」
「総務からですが、最後に帰る人は必ずエアコンを消すようにしてください。あと、冷蔵庫に賞味期限が切れた物が幾つかあります。今週末までに片付けてください。……あと、比企谷くん、冷蔵庫にMAXコーヒーを入れすぎです。せめて五本以内に抑えてください。以上です」
嘘だろ? 俺の仕事中唯一の癒しの飲み物を五本までしか入れられないだと?そんなの一日で無くなってしまうではないか。これはあとで興津さんに異議を申し立てなければ。まあ、100%負けてしまうのが目に見えてるけど……。
「では本日も、じゃなかった。明日に向かってえくそだすっ!」
「「「「「……お、おう…」」」」」
……どうすんだよこの雰囲気。
俺は、昨日本田さんに言われていた三話の記録をとっている。
次々と順調に画面が変わっていく中、数秒だけ違和感のある場面がでてきた。
今の場面、色が付いてなかったぞ。
「……ラッシュ止めろ。戻してもっかい見せて」
もう一度先程の場面を見てみるがやはりその場面だけは色が付いていなかった。予想外の出来事に本田さんが困惑の声をあげる。
「あれ!? コンテ撮のまま?なんで色ついてないの?」
「あ、そういや俺まだこのカット チェックしてなかった〜。……これさ、何で?」
先程の困惑した声から一変、含みのある強張った声がラッシュを流していた高梨先輩に向けられる。高梨先輩は一瞬、ビクッとした後声を発する。
「ラッシュがコンテ撮のままってどういうことか分かる?動きのタイミングも分からないし、効果音も付けられないよね!?」
「はい!」
「つまりダビング出来ない……完成出来ないってことだよね!?」
「はい!」
「俺の言うこと間違ってる!?」
「はい!じゃ、ぢゅぢょぢょちょじゃなくて、間違っていません!」
成る程、昨日の高梨先輩の奇行はこの事があったからか。分かるよ先輩。クラスの席替えがある日とかとても現実逃避したくなるよね。だって隣になった女子が何時もコッチを見て「ナル谷の隣とか最悪〜」とか言って周りの女子と意気投合するんだぜ。やっぱ仲良くなる一番の方法は誰かを敵にする事だな。おっと話がすごい脱線してしまった。
ん?でも差し替えが出来てないだけで絵の素材があればすぐに出来るんじゃないか?
「ま、まままぁ、アレだよね、ただの差し替えミスだよね? 絵の素材はあるんだもんね?」
流石にベテランとなると俺の考えている事などみんなとっくに思っている。。本田さんにそう言われた高梨先輩は無言で正座の姿勢に入る。
「申し訳ありません!実は原画は上がっておりません!上がる予定もございません!」
言い切る頃には高梨先輩は土下座の姿勢に入っていた。この人の人生、もしかして俺より土下座をしているのではないだろうかと思った程の綺麗な土下座だった。
「なんべんもなんべんもな〜んべんも俺言ったよな!?あの人絵は上手いけど遅いから気をつけろって!……そりゃあ俺ももっと早く気付くべきだったけどさぁ」
「は、いいぃぃじゃなかった」
「お前が「大丈夫っす」て言うから任せたんじゃねえか」
「大丈夫くありませんでした。やっぱ無理って一昨日戻されました」
「諦めんなよ!代わりの原画マン探せよ!」
「いや、一応俺の持ってるカード全て使ったんですけど、ことごとくノーでございました!」
「どうしましょう監督、視聴継続かキリか……最初に山場の第三話、さらにその見せ場の超重要カット、それが只の止め絵で十数秒なんてことになったら……」
黙って他の人を観察していたら監督からは冷や汗がダラダラ出ていた。監督のあの表情は見覚えがある。あれはトラウマが呼び起こされている時の表情だ。
「社内で何とか出来ないんですか?橋下さんとか内田さんとか居るじゃないですか」
一応助言をしてみる。しかし結果は火を見るより明らかだった。それくらいの考えなら監督達の間でとっくに出ていたことだろう。
「あー、いや、まだ無理だろ。他の作品にも携わってるとか言ってたし」
「じゃあ杉江さんは……」
「萌アニメなんて書けるわけねぇじゃん!ありえないって、無理」
「えっと、じゃあ安原さんと材木座は……」
「新人原画にはまだ無理だろ。勝負カットなんだし……」
「……万策尽きたー!!」
とうとう誰一人口を開かなくなり、暗い雰囲気の部屋に本田さんの雄叫びだけが響き渡った。
感想などお願いします。