あれ? これって『ラブライブ!』だよね   作:片桐 奏斗

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※作者曰くシリアス展開に突入します。

「死」という単語が何回も出てくると思われますが、ご了承ください。
おそらく今回の話だけだと思いますが……。




第13話 トラウマ

 

 

 

「本当に何もなくて、よかった……」

 

 時間は夕方の午後五時。

 朝に理事長に電話を行ったのが随分昔に思えるが、たった数時間しか経っていない。

 午前中のうちに、被害にあった家の方へ行き、大家さんと会話した後、これからどうするかなどの話をして、こっちの希先輩の家に当分居候させてもらうと話をつけてきた。なので、必然的に今月から家賃を支払う必要はないとも。

 今回、こんな事態になってしまったのも、言ってしまえばマンションのセキュリティが甘かったが故に起こった事件なのだから。

 経営している自分にも非がある。そう大家さん本人も考えているのだろう。

 

 

 自分が使っていた家から使えそうな物を持ってきた鞄に、侵入者に投げつけた鞄に入れていた。

 投げた鞄に入っていた物は何一つ欠品や欠損がなく、あの後すぐに逃げたのだろうと推測出来る。

 服や下着類もほとんどは手が付けられていることはない。なので、タンスやクローゼットの奥底から衣服や下着を手に取り、鞄に詰めていった。

 

 冷蔵庫には偶然にも物が入っていることはなくて、持っていく物はない。

 大きい家具もそのまま置いておいていいよと大家さんに言われたので、そのままにする。

 あらかた持っていくものを鞄に詰め終えたら、最後に触られた形跡のある下着類を黒のゴミ袋に入れて、ゴミ捨て場に捨てる。敢えて、生ゴミと一緒に捨てたので、漁るような行為は誰もしないでしょう。

 

 

 

「思っていた以上に持って来れる物あったね」

 

 一度、希先輩の家に帰宅し、持ってきた衣服は貸してもらっているタンスに入れていく。

 本当なら色々と持って来たかったけれど、何を触られているかわからない以上、あまり触りたくないというのが、私の気持ちだ。

 

「……でも、やっぱり冷蔵庫の中に作り置きしてたおかずがあったはずなんだけどな」

 

 おそらく食べ物が目当てで忍び込んだのかな、あの変態さんは。

 食欲に睡眠欲に、性欲を満たせる場所として女性の移住空間に侵入して欲望を満たすと。

 

「もし、本当にそうなら最低ね」

 

 元々は男子であった私だけども、あの男の行為は許されない。

 誰が許しても、被害にあった私だけは絶対に許さない。

 そんな思いが強くなり、あんな変態ちっくな男に対する嫌悪感で心が支配されていく。

 

 その否定的な思考回路は、元男子としてのプライドなのか、女子として生理的に受け付けないのかはわからない。

 けれど、一つだけわかることがある。この胸を徐々に黒く染めていくドス黒い感情に名前をつけるとすれば、それはきっと『怒り』なのだろう。

 欲望に忠実な男の姿をこの目に見せ付けられて、その欲望の矛先となって、正直どうしていいのかわからなかったし、頭の中を掻き混ぜられたようにぐちゃぐちゃになって、何がなんだか理解出来なかった。

 

 少なからず男子が持っていると思われる欲望を否定するわけじゃない。私も元々は男だったし、そんな気持ちをまったく抱かなかったかと問われれば元気良く少しも抱かないわけじゃないと答える。

 自分にはない物ばかりを持っている異性なんだ。興味の対象とならないのはおかしいと思う。別に興味を持って接するのも、悪くはない。

 

「……けどさ、あんな犯罪に手を出すなんておかしいと思わない!?」

 

 誰に問い掛けたわけでもないけど、思わず声に出してしまうぐらいに今の私は荒れているのかな。しかも、今までに出したことのないような大声で。

 一度、火が点いてしまったら消火までに時間が掛かってしまうような女子かよ。とツッコミを自分自身に入れそうになるけど、女子だったという言葉が何処からか返ってきそうだし、何より一人でツッコミを入れて、冷静に捌く(さばく)のもシュールで嫌だなと思い口を閉ざす。

 

 

「ホント、怖いね……」

 

 侵入者事件の日。つまり昨日のことを思い出していると、帰宅した際に目の当たりにしてしまった、欲望に染まった男の目、追い掛けられた際の恐怖が不意に脳裏を過り(よぎり)、四肢は勝手に小さく動き出す。

 

「あ、あれ……。おっかしいね」

 

 体の震えが止まらない――。

 

 必死に鎮めようと頭を横に振って思い出さないように、強く振り切る。

 頭を抱えながら、何も考えないように。真っ白な空間にいる自分を想像して。

 

 

 何をしても手足の震えは止まらない。

 

 

(お願い……。止まって!!)

 

 

 リビングのソファーに深く腰を掛け、強く念じながら体を抱え込むようにして小さく蹲る(うずくまる)

 自身を安心させるために取っていた体勢だったけれども、それが奇しくも追い掛けてきた侵入者から身を隠す際の体勢と非常に類似していたことを想起してしまい、震えを促進してしまった。

 

 あの時は希先輩が偶々バイトの最中に見かけてくれたから、一緒にいてくれた。けれど、今は違う。ここにはいない。

 私が自分自身の力で恐怖を克服しないと、ダメなんだと自分を奮い立たせる。

 

 

(……ダメ)

 

 震えを止めようと努力すればするほど、悪化する。

 行き場を見失った『恐怖』という名の感情は、体内を這いずり回るかのように、徐々に体を(むしば)んでいく。

 

 

 

 

 指に、手に、足に。……そして、目頭にも影響が現れ始めていた。

 止め処なく流れ続けようとする涙。

 

(こんな状態になるなら、いっその事悲劇のヒロイン面して考えなければよかった……)

 

 

 

 

 

 どうしようもなく、ただ恐怖から逃げ回るように生活を送るしかないのかと。これが幸せを感じてしまった『片桐 光莉(わたし)』への罰なの?

 ……前世で不幸にしてしまった少女らに対する贖罪(しょくざい)

 それは私自身が罰則を受けるべきだと考えているし、それに対して反抗もしていない。

 

 

 

 

 ――私は絶対に幸せになってはいけないと。

 

 

 

 

 あの時、見殺しにしてしまった少女を差し置いて幸せになるべきではない。

 私はいるだけで、誰かを不幸にしてしまう。こんな私に生きている資格はあるのかな。

 前世で死んでしまったのは、確かに不幸な出来事かも知れない。――けど、本当は嬉しかったんだ。

 人はこれを狂喜って例えると思う。

 死んで良かったなんて考えるなんて正気の沙汰じゃないと。

 

 

 ……でも、私はもう楽になれると思った。

 一人の少女を見殺しにしてしまってから、私はずっと後悔していたし、負のスパイラルに陥っていた。

 

 そんな生きているのかわからない生活を過ごしているぐらいなら、いっその事楽になりたいと。

 

 

 

 ――神様は残酷だね。

 

 

 

 生きている意味や価値を失った私にもう一度、『生』を与えるのだから。

 

「……ホント、この世界は残酷だよね」

 

 

 誰か助けてよ。この抜け出せない真っ暗闇から。

 

 どうせ誰にも聞こえない。どうせ誰も引っ張り出してくれない。そう高を括りながら心の奥底で呟いた言葉に、そっと差し延ばした手に、呼応するかの如く、一人の少年の手の感触がした。

 

「光莉ちゃんっ!!」

 

 暖かい陽だまりのような声と共に――。

 

 

 





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