あれ? これって『ラブライブ!』だよね   作:片桐 奏斗

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これで正真正銘、打ち止めです。


皆さん、良い盆休みを!!


第19話 矢澤にこ

 

 

 梅雨入りしたこの日からずっと、雨が続いており屋上での練習が困難になってきて、やっぱり部活として部室が欲しいと思った私と『μ’s』のメンバー全員の名前を書いて部活申請の用紙を手に、生徒会室へと向かった。

 最初のころは人数が少なくて通らなかった申請だけど、今は七人もいるんだし、絶対に通る。そう誰もが思っていた。

 

 

「アイドル研究部?」

「既にこの学校にはアイドル研究部というアイドルに関係する部活が存在します」

「まぁ、部員は一人やけどね」

「え、でも、この前は五人以上必要だって……」

「穂乃果。良く考えてよ」

 

 設立には五人以上必要だけど、存続には人数がいらないんだよ。別に一人になろうが別に構いやしない。人数がいるのはあくまで設立のみだから。

 私が事細かく説明したことによって、穂乃果は理解と納得をしたらしい。時間を見計らって、生徒会長である絵里先輩が口を開く。

 

「ということなので、この話は終わり」

「――にされなくなかったら、アイドル研究部と話をつけてくることやなぁ」

「希っ!?」

「二つの部が一つになるなら問題はないやろ? 一人ぼっちの部活の問題も解消されるし、これ以上申請を何度も持ってくる可能性もなくなるやろし」

 

 こちらに向けてウインクを一回飛ばしてくる希先輩。

 絵里先輩はこっちで説得しとくから、そっちのアイドル研究部での説得は任せるよと視線から読み取ることが出来た。

 生徒会長という壁がなくなった以上、不安要素はアイドル研究部であるその生徒との交渉だけになるが。それは簡単に済むだろうか。

 

「とりあえずアイドル研究部の部室に行ってみようか?」

 

 私の言葉を聞いたメンバー一行は、アイドル研究部の部室へと向かう。

 背中越しに、生徒会長が希先輩に対して味方発言を何度もする理由を追求している声を聴き流しながら。

 

 ◇

 

 

 アイドル研究部の部長である『矢澤(やざわ)にこ』と巡り合ったのはただの偶然だった。

 一度目は偶々出会って、二度目は今日の今朝方にサインボールを渡したあの瞬間だけ。でも、それは私だけの場合らしい。

 『μ’s』のメンバーはそれ以外に会っていたみたいだ。

 にこ先輩の姿を見た彼らは、驚愕を隠しきれてはいなかった。

 

「あなたがアイドル研究部の部長なんですか!?」

 

 一瞬の硬直ではあったものの、彼らが動きを止めた瞬間を見計らってにこ先輩はアイドル研究部に立て篭もる。

 中で物凄い音がしているので、先輩がこの出入口を荷物で塞いで時間を稼ぐつもりなのだろう。

 

「外から回り込むにゃ!」

「私も行く!」

 

 走り込むと暑くなるため、着ていたブレザーをことりに投げ渡し、凛と共に渡り廊下に向かって疾走する。

 獲物を追い掛けるというシチュエーションが凛の野生魂にでも火を点けたのか。語尾に自然と「にゃ」と付けており、幻覚だろうか頭の上に猫耳が見えた気がした。

 でも、男子にしては声が高く、顔も少女寄りなので、違和感がない。言ったら怒られそうだけども。

 

 外はまだ雨がぱらついているが、一刻も早くにこ先輩を拘束したい私達は構わずアイドル研究部の窓へと一目散に走っていく。

 見れば、窓から脱走しようとしているにこ先輩と目が合った。

 

「待てにゃー!!」

「待てと言われて誰が待つか!」

 

 そりゃあ当然だよね。

 追い掛けられるのわかってて脱走しているんだし、捕まらないように必死で走るよね。

 だけど、走り込みをしている凛の前では先輩の体力はそこまで多くはないようで疲れ始めたにこ先輩。それを見逃さずに凛は両腕を使って捕まえていた。

 

 

 ――が、凛が呼吸を整えている一瞬、腕の隙間が出来たのを狙い、にこ先輩はしゃがむことで、拘束を解き再度逃走を始める。

 

 

「……ふふん。こんなところで捕まるオレじゃないんだよ」

 

 当然、最初からこうなるんじゃないかと思っていた私は先回りを開始していた。

 おそらくこのままいけばアルパカ小屋近くで捕まえられるんじゃないかとそう思っていた。

 

「せ、先輩! 前、前っ!!」

 

 呆けていた凛ですら驚きを隠せない状態になった。

 後ろにいる凛を警戒するあまり、前を見ずに全力疾走していたにこ先輩は、アルパカ小屋へと一直線。

 危ないと思った私も全力で走って、にこ先輩へと近付く。

 

「や、やばっ!!」

 

 このまま直進すればぶつかり、右方向には木があり、左にしか急に方向を変えられる場所がない。そう考えたにこ先輩は迷わずこっちの道を選んだ――。

 

「……えっ」

 

 助けようと思って動いた私に向かって――。

 思い掛けない出来事に見舞われながらもブレーキを掛けようとしたにこ先輩の瞬発力は凄いと思ったが、既に手遅れ。

 私はにこ先輩に押し倒されるように、後ろに一緒に倒れ込む。

 にこ先輩が咄嗟に頭を庇ってくれたおかげで頭に衝撃はいかなかった。けれど、倒れ込んだ場所がいけなかった。水飛沫がバシャっと上がり、全身が隈なくびしょ濡れになってしまった。

 

「い、いたたた……。大丈夫? ひか……」

「うん、平気。助けてくれてありがとう」

 

 上に覆い被さっていたにこ先輩が自力で立ち上がり、圧し掛かるものがなくなった私も立ち上がるが、びしょ濡れになった制服が気持ち悪い。

 肌に貼り付く感じが不快感を増す。とはいえ、不快感が芽生えたのは、男子に押し倒されたからではなく、制服が肌に貼り付いているからという。男性恐怖症にならなくて本当に良かったと自分に安心した。

 

「……それ、着てなよ」

 

 にこ先輩は私から視線を背けながら、肩に何かを掛けてくれた。少し水に濡れてしまっているけど、さっきまでにこ先輩が着用していたブレザーだからか暖かい。

 私の肩に掛けられた物を見て、理由を考えた瞬間。そこでやっと気付いてしまった。

 今まで私は白の長袖のカッターシャツの姿でいた。

 外で雨がぱらついていることを知らなかった私は全力疾走をするからといってブレザーを脱いで、ことりに預けてしまっていたからだ。

 

 水に濡れた白のカッターシャツがどうなるかなんてわかる。

 目線を落とした私の目に映ったのは黒の下着……。貸してもらったにこ先輩のブレザーに急いで袖を通し、前のボタンを留める。

 同年代の男子に比べたら少し小柄なにこ先輩だけど、私の身長からしたらまだ大きい。若干大きめなブレザーを着ていると、凛がこちらに向かってきていた。

 

「大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫だよ。先輩が庇ってくれたから」

「……まぁ、先輩だしな」

 

 結局は逃げた先輩が悪い気がしなくもないけど。と悪気はなかったのだろう凛が言った瞬間に、にこ先輩は若干申し訳ない表情を浮かべたが、私達と一緒に部室に戻ることを承諾してくれた。

 私のことを気に掛けてくれていたのだろうか。そしたら、嬉しいな。

 ……でも、なんでこんなときに限って黒の下着を着けてたのよ。私のバカ。

 

 あれだよね。朝のニュースが悪い。ラッキーカラーが黒だって言うから、気分的に着てみようかなって思っただけだし、ラッキーどころかアンラッキーだよ!!

 

 

 

 

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