ポケットモンスターNecessitudiness 作:ハンバート二世
ポケモンセンターってのは人間の治療もできるのかー、と感心した一瞬だった。
目が覚めた時には俺はポケモンセンターのベッドの上だった。首だけ動かして辺りを見回してみると、大量のモンスターボールが並べられている。治療を待つポケモン達だろう。
「あー、何があった……?」
記憶の薄い頭をフル回転させて思い出す。
確か……バンギラスに襲われてその瞬間気を失った、はずなのだが。何故襲われた瞬間に気を失ったのだろうか? その矢先に思い出した。確か自分はケーシィを連れていたはずだ、とすると、そのケーシィがテレポートで俺を別の場所に飛ばしたのか。
「だとすると、俺は急のテレポート時の衝撃に耐えられずに気絶した、という訳か」
というか、モンスターボールはどこにいったのだろうか。ジャケットはハンガーにかけられて今はTシャツ一枚にジーパンだけだが、ホルダーとボールがどこにも見当たらない。体を起こして探していると、ふと、横合いから声をかけられた。
「目、覚めましたか?」
「あ、気が付かんかった……」
どうやらさっきからいたらしい幼い少女が、笑顔で俺に語りかけた。その笑顔は、とても明るくて、子どものように天真で爛漫な笑顔だった。
髪は青く、幼い少女特有のふっくらとした体付きと、それでいて整った顔立ち。ある種の凛々しささえ感じさせる力のこもった視線は、ただ見られているだけでも俺に十二分にプレッシャーを与えてきた。これは俺がロケット団だからなのだろうか。
「んもう、ずっと看病してたのにぜーんぜん気付いてくれないんだもん、ちょっくら傷つきましたよ」
「そりゃすまんかった」
素っ気ない返事を返すも、少女は気にせず「えへへー」と笑っていた。
にへらにへらするその少女は、身を乗り出して俺に問う。
「ところで、お名前は?」
「リウスだ」
「本名は?」
「リウス・デ・トキワだ。ここってトキワなんだろ? 図らずも故郷に帰って来ちまってたよ」
とは言え、ロケット団ボスであるクソ親父から聞いただけなので記憶はないが。
「あらま、それはそれは奇跡ですなぁ。おっと、私はエルル、よろしくねリウス!」
手を両手で握られてぶんぶん上下に振られる。
暫く放っておくと、また喋り出した。
「いやぁそれにしても、テレポートの衝撃でしたっけ? 災難でしたねえ、確かにテレポートって便利に見えて色々ややこしい技ですからね。やっぱ『そらをとぶ』ですよね。あれやるとすっごく気持ちいいんですよ。何がって風を切ってるぞー! って感じがすがすがしさを与えてくれるっていうかなんというか――
「分かった、分かったから一度黙ろうか」
「えー」
「えーじゃない」
これまた図らずも、いつの間にかボケとツッコミの要領になってしまっていたので一旦場を整えなければ。
「一つ訊きたいんだが、俺のデルビルとケーシィがどこにいるか知らないか?」
「ああ、それならここに。私が預かっておきました。安心してください変な事はしてません。やっぱ人のポケモンはプライバシーがありますからねぇ」
エルルからボールを受け取り、中を確認する。どうやら二匹とも問題ないらしい、ついでにここで回復させれもらったのかもしれない。
ここで、エルルの言葉にひっかかった。
「プライバシーって……なんだ?」
そう訊かれたエルルはよくぞきいてくれたと言わんばかりの嬉しそうな表情で語り出す。
「トキワの森ってありますよね? 十年に一度、トキワではトキワの森に力をもらった、超能力を身に着けた子どもが生まれるらしいんですよ。それが私らしくて、私ってば『ポケモンと意思疎通をはかれる』んですよねー」
その言葉が、にわかには信じられなかった。否、信じられるはずもない。俺が今までずっと否定してきた事柄、『ポケモンとの意思の疎通』。この少女はそえができると言ってのけたのだ。
「なんででしょうねぇ~、ポケモンの考えている事が分かるんですよねぇ~」
「な、なあ!」
「ふわぁっ!?」
「それ、この場で見せてくれないか!?」
俺の好奇心がそう叫んでいた。もしかすれば、『絆』とやらを見つけるのに役立つかもしれない、そんな建前を頭の中で作りながら、俺はその能力を見たかった。
「うーん、みだりに使うなって言われてるんですけど……そこまで言われたら仕方ないかなー」
エルルは少しばかり不本意なようだったが、モンスターボールを取り出し、それを放り投げた。
「出ておいで、ヌオー!」
『ぬおー』
その名の通り、ボールの中から現れたのはヌオーだった。エルルと同じくらいの身長の、ぬめっとした青い体で、見ているだけでもボーっとしそうなそのぬぼーっとした顔は見ていていやなものではない。
それはともかく、
「見せると言っても……うーん、どうやろうかな。見せただけじゃ本当にできてるか分からないですよね」
「確かにな……よし、ならこのオボンの実とオレンの実と、モモンの実とヤコブの実。どれを食べたいかを当てれば分かりやすいんじゃないか?」
取り出した木の実四つエルルに見せた。
「あー、なるほど、じゃあそれでいきましょう。ではヌオー、あなたの食べたいのはどっちなのかなー?」
エルルは、ヌオーの額に手を当てた。ヌオーもそれに合わせるように身を少しだけ屈め、目を閉じた。
もはやこの時点で俺には理解できない。まるでそれをする事を分かっているように、トレーナーに合わせるポケモン。そしてこれは、ロケット団のように非道なやり方ではなく、もっと人道的な方法でこうなるようになったのだろう。
俺はそれも見つけなければならない。俺もそうなる為に。
「よし! 分かりました!! これです!」
言うやいなや、エルルは俺のオレンの実をひったくってヌオーの口に突っ込んだ。
おいおい……中々ぶっ飛んでるな。
しかし、ヌオーは嫌がる様子もなく、おいしそうにオレンの実を食べていた。
「しぶい味が好きなんだな、そのヌオー」
「いえ、今はしぶいものが食べたい気分だって言ってました。そこのにーちゃんいいもん持ってんじゃねぇかぁ、とかも言ってました。ね、ヌオー」
『ぬおー』
にわかには信じがたかった。
まあ、好物を最初から知っていれば当てる事などできない訳がないのだし、判断材料には必ずしもならないが、今回は別にいいだろう。
「ところでリウス、さんは、トレーナーさんなんですか?」
「え、あ、ああ、まあ、トレーナーつったらトレーナーだな、うん」
後で着替えるつもりでいたからか、着ていた服についての設定を全く考えていなかった。と言うか、これはまずい。このままでは俺がポケモントレーナーにされてしまう。つーかもう答えちゃったし。
「しかしその出で立ち、ポケモンを見るにまだなり立てですな。って事なら私が君にポケモントレーナーがなんたるかをレクチャーしちゃってもよかったりしちゃったりして!」
「結構です。あー、早く帰らないと。すまんな、俺、用事があるんだ。って事でここの人にはよろしく伝えとってくれ」
「ぶー、折角お姉さんぶろうと思ってたのにー」
「ま、そういう訳でまた会えたら」
ジャケットをハンガーから取り外し、適当に羽織って俺は、その場を後にした。
外に出ると、トキワの街が広がっていた。
自然の多い、しかし同時に発達した大きな街。ロケット団の脅威は少ないのか、未だ活気に満ちていた。
噂をすれば影が射す、とは誰が言ったものだろうか。そう嘆いたのはすぐ後の事だった。