ポケットモンスターNecessitudiness 作:ハンバート二世
ロケット団はどんな場所にも現れる。しかし決まって現れる場所は、こんな風に穢れのない平和な場所だ。
ふざけた事に、アイツ等はこういうものを破壊して、破壊し続ける。
今もまた同じ。
女性の悲鳴が聞こえた。それに続いて、男の怒声も聞こえた。
爆発音が聞こえた。
きっと誰かと誰かが争っているのだろう。この激しさが事態の重さを物語っていた。
「な、なになになんですか!?」
慌てて外にでてきたエルルも、その光景を目を丸くして見つめていた。
突如現れたロケット団。それに相対する屈強なトレーナー達。一応は防衛体制というものがあったのだろう、その奮闘っぷりは敬意を評するに値し得るものだったが、やはり、それは心もとないものである事に変わりはない。
俺はエルルに聞いた。
「ここのジムリーダーは?」
「今は、ちょっと用事ででかけてて……本当は、今のこのカントーの状況的にあり得ないんですけど……でも、本当に急な用事らしくて」
何故かこの少女が申し訳なさそうに語る。きっと、そのジムリーダーと浅くはない面識があるのだろう。
しかしなるほど、確かにロケット団の脅威が凶悪なものとなっているらしいこのカントーにおいて、守るべき自身の街を丸腰にするというのはひとえにあり得ない事だ。ジムリーダーの重要性は、ロケット団として実際に戦った俺にも分かる。アイツ等は全力で街を守ろうとする強固な壁だ。
その壁がない今、ロケット団がこの街を完全な破壊に陥れるのに、時間はかからない。
しかし、俺には関係ない。
その行為自体は気に入らなかったが、今の俺にどうする事もできない以上、どうもしないのが当たり前の行動だ。
エルルには悪いが、俺も他の住人と同じく傍観者に徹しよう、その思った矢先だった。
「いたぞ! アイツだ!」
今まで住人と激闘を繰り広げていた内の一人が、俺のいる方に向かってそう叫んだ。
「やべっ、バレてた……?」
エルルに気付かれないように呟く。
しかし、どうやら俺ではないようで……
「え? 私!? 何、なんで?」
こっちが訊きたかったが、どうやらロケット団の狙いはエルルであったらしく、何人かがズバットとゴルバットを何匹も引きつれてこちらへやってくる。バッグに入っていた帽子を取り出し、顔が見えにくいように深く被った。
ロケット団の制服を着た男の、一人が言う。
「その少女をこちらに渡してもらおう。そうすればもうここには用はない」
その少女、エルルをちらりと見やると、まるで怯えるサンドのように身を震わせて、俺の背中に隠れるようにしてくっついていた。
「リウス……助けてくださぁい」
どうやら、ロケット団が死ぬほど恐いらしい。
と言うか、関わらないつもりでいたのに、こうなると関わらざるを得ない。
相手から絡んできたのだ、ロケット団が気に入らん俺としては、絡まれたのなら戦るしかない。
「やーだね。欲しけりゃ奪え、それがロケット団だろうが」
「なるほど……舐められたままで引き返す訳にもいかんな。やれ」
中隊長っぽい男がそう部下達三人に指示を出した。その下っ端三人が俺の前に立ちはだかる。
「はっ、ロケット団様に喧嘩を売るたぁいい度胸じゃねぇか。なあ」
「ああ、たっぷりと分からせてやらねぇとなあ、おい」
「そうだな、泣きわめいて無様な姿を晒しても、痛めつけ続けてやるよ、その女と一緒になぁ!!」
湧き出る小物下っ端臭だったが、今の俺の戦力も、こいつ等と同等かそれ以下である事に代わりはない。
こちらはケーシィとデルビル……相手はズバットとゴルバットが三匹ずつ……ケーシィとデルビルの技は、ロケット団製の簡易ポケモン図鑑で事前に確認しておいたので問題はないが、問題は相性だ。ズバットとゴルバットは共に『どく・ひこう』。ケーシィの相性はいいように思えたが、なんとそのケーシィの技が一体どこで覚えたのか、
『テレポート
ばくれつパンチ
冷凍パンチ』
――だったのだ。
意味が分からん。どうしてエスパータイプの技が一切ないのか。一応氷タイプの相性はいいが、しかし飛んでいる相手に当てるのは難しいだろう。これから始まる戦闘は、どうやってうまく『冷凍パンチ』をズバットとゴルバットに当てるか、が焦点になる。
「いけ! ゴルバット!!」
一人の掛け声と共にズバット三匹が一斉に動き出した。
「『ちょうおんぱ』!!」
「それは読めている……!!」
ボールを地に付ける。開閉スイッチが押され、ケーシィがその姿を現した。
「『テレポート』だケーシィ」
今度は、気絶しないように気を付けながら俺はそう命じた。エルルと共にロケット団員達の背後に回る。
そして――
「『れいとうパンチ』!!」
飛び上がったケーシィが凍てつく拳をズバットに炸裂させた。
こうかはばつぐん。
そのズバットは地に落ちる。
まずは一匹。
「す、すごいじゃないですかりヴぅぅ」
俺の名前を叫びかけたエルルの口を押えて黙らせる。
「にゃ、にゃんれふか……?」
「今はお願いだから黙っててくれ」
「ふぁあい」
止まっている暇はない。戦闘において停滞は敵よりも恐ろしいものだ。決めるのなら速攻だ。
「なっ……馬鹿な!!」
『テレポート』からの『れいとうパンチ』を繰り返し、安全地帯を作りつつ攻撃を重ねる。ケーシィの攻撃力は本来は貧弱だが、積み重ねられたダメージはやがて残りのズバットも殲滅した。
「これで、残りはゴルバット……か」
このまま続けたかったが、どうやらそう簡単にはいかないようで。
「調子に乗るなぁ!! ゴルバット、『かげぶんしん』だ!!」
三匹同時に命じたらしく、ゴルバット達はまるで三位一体と言わんばかりに同時に動きだし、その命令を実行した。
分身が生み出され、まるでゴルバットの群れのようにトキワの上空を覆い尽くした。
「おいおい……これは」
「これはヤバいんじゃないのー? ハハハハハッ!! 俺達に逆らうからこうなるんだよ!!」
何でお前はまだ勝ってもいないのにその台詞を言い出したのか、と言いかけたが面倒臭いのでやめた。
「終わりだ!! ゴルバットぉ!! いけぇ!! ソイツ等を引き裂けぇ!!」
下っ端の暴走。よくある話だ。
まあ、全ては作戦通りという事で。
馬鹿みたいに、下っ端はゴルバットとその分身全てにそう命令した。
「これは……ケーシィ、『ばくれつパンチ』だ」
「はぁ!? ゴルバットにかくとうタイプだとぉ? ふざけてんのかテメェはよぉ!!」
「『かげぶんしん』はあくまで『影』分身。影に実体はない」
そう、つまり、この『ばくれつパンチ』は決してゴルバットを倒す為のものではなく、本物を選定する為のものに過ぎないのだ。
「分身で翻弄するなりなんなりすればいいものを、ハイになって冷静な判断能力を失った挙句、数にモノを言わせようとする。しかし、それは虚構に過ぎない……ってな。ああ、我ながらいい事を言った」
上空から一気に遅いくる分身にひたすら『ばくれつパンチ』を放ち続ける。暫くすると本体にそれが命中し、少しだけだが怯む。その隙に、『テレポート』と『れいとうパンチ』。
これで終わりだ。
「チェックメイトだ。さあ、帰った帰った。任務失敗の報告でもしてくるんだな」
「ば、かな……こんな、事が。なあ……」
「ああ、これはまずいぞ、おい」
「クソォ!! こんなガキに!! 中隊長!!」
「ここは一旦引き上げる!! 総員退避だ!!」
俺に恐れをなしたのか、ロケット団員達はトキワの街から綺麗さっぱりいなくなった。
ふぅ……と一息。
「リウス……すごいですよ!! リウス!!」
おおおぉぉぉぉぉぉ!! と街中から歓声があがる。
その為にやった訳ではないが、やはり嫌な気分ではなかった。
「まあ、なんつーか、やっちまったな」
この後、街中の人々にめっちゃ感謝されてめっちゃごはんを奢ってもらうのだが、それはまた別の話。
今まで蹂躙してきた人間を助け、感謝される。
その事を辛いと感じた。
それが俺に芽生えた初めての、他者への感情だった。