ポケットモンスターNecessitudiness 作:ハンバート二世
ニビシティの空は、
あれは全てズバットとゴルバット。先の下っ端達とは比べものにならないほどの、広い街に影を落とせる程の数が空を埋め尽くしている。
新生ロケット団が一番得意とする戦術は『人海戦術』。圧倒的な物量差を以て略奪を行う悪役にはお似合いの戦法だ。そして、悪役にお似合いだからこそこうして被害は甚大なものとなる。
大きすぎる津波は、堤防など意に介さない。
ロケット団員の数も、俺がロケット団として徴兵されていた時の平均を遥かに超えている。明らかに戦力過多だ。
「なんでニビシティを……」
隣にいるエルルが小さく呟いた。
その疑問は俺にもあったが、どうやら考えている暇はなさそうだ。
「ここまでだ。ニビはもう機能しない」
「そんな……ッ!! グリーンさん! それじゃ!」
俺達についてきていたトキワの防衛部隊と思われる一人がグリーンの言葉に食って掛かった。
「少なくともトキワへの進行を抑える事はできる。今の状況で多くの怪我人を出すのは得策ではない。分かってくれ」
「くっ……」
ジムリーダー達が今どういう状況なのかは知らないが、懸命な判断だ。あんな数をどうにかできる訳がない。流石はジムリーダーのグリーン様だ。
「A班は俺に続け! タケシを最優先としポケモン及び怪我人救出する!! 残りはここで待機だ!! 奴等からの進行を食い止めろ、ここが最終防衛線だ」
「は、はい!!」
男達が二手に分かれる。
「リウス君もここで彼らに加勢してもらえるか。今は人手が幾らあっても足りない。頼む」
「分かってますよ。任せてください」
「すまない。本当ならこんなことを関係のない君に頼むのはおかしい事だが」
「いいですよそんな事は。どうせ暇ですし」
「そうか……本当にすまない」
フッ、とほんの少しだけ笑ったグリーンは駆け足でロケット団が暴れている方へと向かっていった。
それを見送りながら、エルルが俺の服の袖を掴む。
「大丈夫でしょうか……」
「怖いんなら待ってたらよかったんじゃないか?」
「なっ、そんな事はないです! 私もポケモントレーナーの端くれ、私も戦えます!」
まあ、ヌオーなら防衛戦にも向いているだろうし、問題はないか。
……って、いつの間にか俺も参戦する事になっているのだが。とは言え今更逃げる事もできないし、そして何よりこの少女の事が心配だ。
俺の心の中に誰かを心配する心があった事が驚きだが、それは同時に誰かと接する事で感情が芽生える事を意味する。今は特に、エルルと言う少女に対しての感情が強い。この少女と共にいれば、俺に無い何かを見つけられるはずだ。
「仕方ない……やるか。つっても何をやるんだ?」
「来たぞー!!」
言うが早いか、こちらに気が付いたロケット団員達がトキワを攻めんと進軍する――
「……雑魚は雑魚だな。口ほどにもない。失せろ木偶共」
「くっ、引けぇ!! 引けぇ!!」
気絶して転がったロケット団を蹴飛ばした。ロケット団の間抜けな撤退はいつも見ていて気持ちがいい。
「リウスさんって口悪いですよね」
「うるせぇ。癖だよ癖」
どうやら、役目は果たせているようだ。
他にも大勢いるからだろうが、ロケット団のトキワへの進軍は食い止められている。向こう側でも、別れたグリーン達が戦っているのが見える。その間に救助者も次々と運ばれてきている。
と、男を一人抱えたグリーンや他の男達が戻ってきた。
「動ける者、怪我人共に全て運び終わりました!!」
「分かった、隔壁を閉めるぞ!!」
何がなんだか分からないまま、俺は他の奴等と一緒にトキワの森へ入っていく。そして、誰かの合図と同時にニビシティとトキワの森の境界線に、巨大な『鉄の扉』が地面から現れる。
「これは……」
「ハガネールが持つ特殊な金属から作られた防壁です。数年はかかりましたが、この前ようやく完成したんです」
隣にいるヌオーを従えたエルルがそう呟いた。
その眼は閉じ始めたニビシティの方向をずっと見ていた。何かしらの感情に満ちた目で。それが何かは俺には分からなかったが。普通なら奴等への怒りだろうが、エルルの表情は複雑で、分からない。
腹の底に響く音と共に隔壁は閉じられた。その大きさは半端なモノではない。上空何百メートルまでも届く大きさだ。まるで『壁の塔』でも言える様な巨大な壁。
壁の向こうからの音は聞こえない。防音なのか、ロケット団が攻撃を止めたのか。
「皆、こちらも一旦街に戻ろう」
グリーンの言葉と共に俺達はトキワシティへと戻っていった。