あの神を薙ぎはらうは貴方   作:黒兎可

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万策尽きたなら尽きたで、何故最新話やそれ以降の映像を流さないのか(困惑)


 Episode Ex. 雨宮リンドウ/1 to 2

 

 

 

 いつ何時どんな状況でも、仕事は仕事で変わりはしねぇ。

 世界が滅びかけていても、社会で生きている以上それは必要とされる。

 

 ガレキの影から見えるのは、大きな二つの塔。旧時代の技術を象徴する立方体。

 

 その隣接した二つを、居抜くように真ん中に大きな風穴が開いているのが、赤茶けた空気の今の時代を表している。

 

 もっともそれに限らず、大きな建物は大体奴等に「喰い散らかされて」いるが。

 

「ヘッ」

 

 奴等の名は、アラガミ。

 オラクル細胞という特殊なモノで構成された、人類、いや、旧時代の「環境」の天敵。

 登場と同時に自らに世界全ての環境を取り込み、急激な変化を遂げてったまさに怪物。

 

 その在り方。強大さ。なにより畏怖を抱かせるほどのエネルギーから、荒ぶる神、アラガミといつしか呼ばれるようになった。

 

 現在、ビルの下で大型の肢体を貪っている複数のアラガミ。小型、とはあえて言うまい。あれだけで人間一人くらいペロリとしちまう大きさだ。真っ白な外装に覆われた、大きな顎を持つはオウガテイル。

 

 そしてそれに襲いかかる、喰われていたヤツと同系統の大型。

 

 ヴァジュラと呼ばれる、雷を放つアラガミだ。虎とも獅子ともつかない、荘厳な容姿は、しかし虎や獅子など軽く撫ぜるだけで肉塊にするだけの巨体。

 

 食物連鎖の関係が、たった数秒で完全に逆転する光景は、今の時代の縮図と言えるだろう。

 

 そんな光景を、隠れて伺う俺達三人。

 青いフードを被ったソーマ。俺の背後で弾装をいじっているサクヤ。

 あと、ソーマに合図を送っている俺。

 

「……ッ」

「――」

 

 互いに顔を合わせて、頷く俺とソーマ。

 途端、オウガテイルを喰らっているヴァジュラに特攻をかけた。

 

 流石に(やっこ)さんも気付いたらしく、こちらに牙を向ける。

 

「ソーマ、頭か尻尾を狙え! 前足は余裕があったらな」

「うるせぇ」

 

 そして気をとられている内に、サクヤの狙撃が奴の顎に命中。

 

 ソーマはあえて(ヽヽヽ)意図的に神機を振り回し、自分の体を回転させる。その分の勢いを、適確に命中させるための技術がコイツにはある。

 

 俺か?

 俺はまぁ、いつも通りだ。

 

 ブラッドサージとイヴェイダー。入隊時からこの構成で使ってる、俺の神機(レングル)

 

 刃を起動させて、この悪食を奴の頭に。見た目通りに切れ味や切断力は保障されているコイツで、奴のマントだか鬣だかよく判らないもんを抉る。

 

 ビリビリと放電が来やがるが、耐えられないもんじゃねぇな。

 

 俺が離れたと同時に、ソーマの一撃がヴァジュラの脳天に突き刺さる。上がる絶叫。近くの建物が共鳴して振動する。

 

「おわ――ッ!」

 

 だが、まだまだ致命傷とは行かなかったらしい。

 こうして振り回されているのに慌てる顔は、普段の無愛想がとれて普通の子供みたいだ。

 

 だが、標的として捉えられるまで待ってたら、流石に拙い。

 

 背後に回りつつ、俺は二人に指示を出す。

 

「サクヤ、目を狙え! ソーマは自力で抜け出せるな。なら、もっと深く抉って来い!」

『――了解!』『――黙ってろ!』

 

 言うが早いか、サクヤの狙撃が放たれる。これで、放電準備は解かれるだろう。

 俺はといえば、尻尾に回ってレングルの刃を構え、サクヤのバレットで怯んだ相手のカウンターを狙う。

 

 武器の形状もあってか俺の場合は、襲いかかるよりもこうして、接近してくる相手をいなした方がクリティカルに決まり易い。

 

 結果、怯んだ相手が接近してくるタイミングで、軽く振り回すようにして、コイツの尾っぽを切断した。

 

 その「結合崩壊」により、出血が伴う。

 と同時に、ヴァジュラは逃走の構え。

 

「あんまり時間かけるもんでもないか?」

『――リンドウ、頭の方で結合崩壊が起こった』

「上出来だソーマ! じゃ、やるぞ」

 

 思ったよりもソーマが仕事をしたらしい。

 

 まあ、じゃあとっとと片付けるか。

 

 ヴァジュラの背中に飛び乗り、そのまま頭目指して走る。

 マントくらいなら簡単に飛びこせるので、そこは気にしない。

 

 ソーマはソーマで砲丸投げのように回転し、自分ごと飛び跳ねる準備。

 

 下に刃を向け、俺はソーマの傷つけたその箇所に、更に深くめり込ませた。

 

「――――――――――――――――――――――――!」

 

 そこで、刃を再び回転させる。

 ずぶずぶと壊れたベルトコンベアのように、刃と肉が摩擦を起して内部に沈む沈む。

 

「おっと……、ソーマー、決めろよ」

 

 振り落とされそうになりながらも、この後の結末は予想している通りになるだろう。

 

 実際、その後ソーマが横回転しながら飛んできて、ヴァジュラの首から顎を掻っ切り、決着した。

 

 

 虚の空いたビルから流れる、沈みかけの夕日が眩しい。

 

 タバコを吸いながら、俺は神機を展開。「捕喰形態」と呼ばれる、真っ黒な顎を出現させた。

 

「おー、たらふく喰えよー。……おっと、レアモノだな」回収できた素材の話だ。

「戦果は上々……ってやつね」

「また榊のオッサンがはしゃぎそうだ」

「後は早く人手が増えてくれるとありがたいんだけど」

 

 ジョークとしちゃ出来すぎた話ではある。

 年間の俺達「ゴッドイーター」の入隊記録と、二階級昇進記録とを照らし合わせれば。段々と低年齢化するゴッドイーターたちの分布を見れば、冗談でも何でもなく笑えない。

 

 だが、そんな時代でも笑ってなけりゃならないのが、俺達「ゴッドイーター」だ。

 

「さ、帰りましょ? お腹すいちゃった。今日の配給何だったかしら……」

「ん? 何かこの間、食糧会議で言ってたような……。ああ、新品種のトウモロコシだ」

「えー? って、別にそんな新品種でもないでしょぉ? またジャイアントトウモロコシ? あれ食べ難いんだよねぇ」

 

 味についてとやかく言えないくらい、資源の枯渇具合が如実に現れていやがる。

 このご時勢、喰えるだけ有難いと思えよってな具合だ。

 

「ねぇソーマ。何かと交換しない?」

「……断る。そんなに新しいのが良ければ、今開発してるっていう新しいジュースとか飲め」

「おーいお前等、早く行くぞ!」

 

 沈む太陽を背景に、俺達は基地へ帰る。

 帰ったところで、仕事仕事の毎日から抜け出せはしないんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Episode Ex. 雨宮リンドウ/1 to 2

 

 

 

 

 

 

 

「あ? 新人?」

『――そうだ。帰りの途中で悪いが、頼むぞリンドウ』

「いや、ちょ、おま――三佐!? ……チッ、切りやがったぞあの姉上」

 

 深夜。アラガミの襲撃を退けて、ヘリにて撤退中の俺のインカムに、上官殿(あねうえ)からの指令が下された。どちらかと言えば支部長の命令なんだろうが、有無を言わせないのは姉上だ。うん。

 

「どうしたの、リンドウ」

 

 心配そうにサクヤが聞いてくるが、俺は肩を竦める他ない。

 

「どーも支部の方の人手が足りなかったらしく、新人が一人、出ちまったらしい」

「へ?」

「当然、命令違反だ。姉上がそんなもん承諾する訳がない」

「……馬鹿か」

 

 ソーマの一言が、如実にその新人の行動を表している。そうだ、馬鹿だ。戦場に出されない以上は、出されないだけの理由が一応ある。それを無視してまで無鉄砲をするのは、最終的に周囲の奴等にまで迷惑をかけかねない。

 

「まあ、そう言ってやんな。地区的には近いから、たぶんエリック辺りも向かってるだろ。この責め具合というか、種類と量から考えて、近接が必要なんじゃねーかねぇ」

「……別に」

「そうカリカリすんなよ。親友だろ?」

「別にそんなんじゃねぇ」

 

 不貞腐れたようにそっぽを向くが、これはコイツなりに、俺の言った事に反論できないってポーズなだけだ。

 実際のところ、アナグラでも極東支部でも浮いているソーマにとって、エリックは文字通り唯一無二の親友と行っても差し支えないだろう。

 

「というわけで、頼むぜ。ポイントは、雨宮三佐から送られてきたデータが表示されてるだろ」

「了解!」

 

 ヘリの兄ちゃんに指示を出して、俺達もそちらへ向かう。

 インカムを一旦外してヘリ内の小さいロッカーに引っ掻け、窓を見る。

 

 地区と地区とを挟む関係で、空中から見下ろすフェンリル極東拠点(アナグラ)は、無傷の場所とゴッドイーターたちが動き回る場所の二つに分かれていた。そりゃまあ、綺麗に二分していた。

 

「クソッタレな職場だなぁ」

「……ふん」

「リンドウ、榊博士から通信来てるわよ?」

「お?」

 

 サクヤが俺に代わって、通信を取っていた。悪い悪いと頭を下げて、俺が変わる。

 

「はい、こちら第一部隊隊長、雨宮リンド――」

『――やあリンドウ君、凄いよ彼は、今度の新人は!』

 

 いきなり本題どころか、感情のままに言葉を突っ走らせるこのオッサンの声。大音量が耳に痛い。一瞬耳から離した後、諦めたように俺はまた通話を再開した。

 

「……随分とまぁ、ご機嫌ですねぇ」

『――嗚呼そうだねぇ、それが聞いてくれたまえよ。ゴッドイーターになってから一週間と経ってないのに、地面から外壁へ一気に飛び移ったんだ! 元々かなり細い、一歩間違えなくてもガリガリと言って差し支えなかった彼だが、オラクル細胞の侵食率が跳ね上がることについて――』

 

 以下、話を半分以上聞き流したので割愛。

 

『――っというわけで、さしものヨハンも渋い顔をしていた訳だよ!』

「あー、まあ、後々面倒そうではありますけどね。で、何っスか? 榊さん」

 

 榊のオッサン――フェンリル極東支部技術開発統括責任者、年齢詐欺ことペイラー榊博士は、俺の質問に声を顰めて答えた。

 

『――いいかい? 絶対に彼を、生きて支部まで連れて帰るんだ。絶対にだ』

「まあ、当然そのつもりですけど――」

『――本当の意味でだよ。彼が今後、おそらくゴッドイーターの中で「ずば抜けて」頭角を現して行くことは判っている。事前検査、メンタルチェック、バイタルチェック、経過観察、そして「神機との適合率」全てを取って見ても、そこは明白だ。

 彼を「不慮の事故」などで失うのは、おそらく我々人類にとって巨大な損失だ。

 査問委員会にも資料を提出するつもりだが、十中八九理解はされまい』

「……そんなに凄いんですか?」

 

 手放しに褒めすぎなため、これは疑って懸かるべきだろう。

 だが、半分くらいは本気であると取っても良いのかもしれない。

 

『――新型神機使いとして、正に時代の申し子だよ。神薙ユウは』

「……その名前、冗談じゃねぇよな」

『――偽名を疑ってしまう気持ちも分からないではないが、本気も本気さ。何なら後で、フェンリルの管理する戸籍記録を見るかい?』

 

 軽い調子で聞いてくる博士に、俺は肩をすくめて了解と言うばかりだ。

 

 そして実際、戦場でアイツを見た時、半信半疑ではあるが、なるほどと納得できるところもあった。

 

 事前に聞いていた新型神機の機構――剣と銃、捕喰形態全てを併せ持つそれは、形態変形にこそ利点でもあるが、同時に弱点でもあると聞いていた。

 変形中に攻撃されたら、その時点でアウト。

 一時的に身動きを制限されるため、当たり前と言えば当たり前。

 

 だが、ユウはそんな次元じゃなかった。

 

 

「――届けえええええええええええええええええ!」

 

 

 線の細い容姿から放たれる叫びと同時に、勢い良く前に付き出された神機が変形。

 その押し出す勢いを加えて、放たれるエネルギー弾丸。

 

 それらの動作が、わずか1秒足らずというから驚きだ。

 

 姉上から聞いていた話じゃ、まだ銃の訓練も受けていなかったというはずなのに。

 

 だが、この時はそれだけだった。弦の張られたギターのような神機を握る手。反動で吹き飛ばされて、踏ん張ってはいたが、ギリギリだ。

 

 精神(おもい)肉体(うつわ)が追いついていない。

 

 肩を軽く叩いただけで、もう緊張が解けてしまった。「悪い悪い」と言った言葉も聞こえたかどうか。

 

 だが、そんなこちらの状況にお構いなしに、敵は増える増える。

 

「面倒くせぇことになって来やがったなぁ……」

 

 ザイゴートやコンゴウが減った代わりに、ヴァジュラまで出てきやがる。

 

「サクヤ! 周辺のアラガミを露払いしつつ陽動! ソーマは奴の脚を止めろ。

 後は、コイツを運んだ後にこっちでやる」

 

 事実上、ほとんどソーマ一人の足止めになるが、これくらいは任せても大丈夫だろうという信頼はある。

 サクヤの居るガレキの山の裏、ソーマがエリックを運んだ所に、新人を担いで俺も運んだ。

 

「まーた偉くやられたなぁ。少しは守るってことを覚えやがれ、エリック」

「リンドウさん……、ありがとう」

「あんまり妹、泣かせんなよ?」

「少しの間、我慢してね」

「大丈夫だ、行ってくれ二人とも」

 

 俺とサクヤの言葉に、エリックは疲れた笑顔で片手を挙げる。

 と、その視線が自分の横に置かれたユウと神機に注がれた。

 

「……彼は?」

神薙(かんなぎ)ユウ。新人だ。神を薙ぎはらうって書くらしい」

「カンナギ……。ははっ、そりゃ華麗だ」

 

 ユウの寝顔を見て、エリックは拳を握る。

 

「助けてもらった。そして……、力強い勇気を貰った、ような気がする」

「ん?」

「彼はきっと、良いゴッドイーターになる」

 

 だから死ぬなよ、とエリックはユウの顔に向けて、握った拳を向け、にやりと笑った。

 

 

 

   ※

 

 

 

 懲罰房から出てきた姉上の表情は優れない。

 

「あの新入りの新型。通信で確か訓練中って言ってましたよねぇ」

「……気になるか?」

「別に? むしろ姉上の方が、なんじゃないですかねぇ」

 

 わざわざ搬送中、ずっと付き添っていたくらいですし。

 俺の言葉に姉上は表情を変えず、ぽいっと何かを投げ渡した。

 

「こいつは……」

「出る前、基地の中で落としたらしい。……ベルトの部分だけ直しておいた」

「あー……」

 

 それは、腕時計。

 見覚えがある。というか、フェンリルからゴッドイーターたちに配給される物品の一つだ。

 

 ただし、その時間があるタイミングを指し示して止まっており、表面に罅が入り、版の中に飛び散った赤黒い半纏がなければ。

 

 ある程度の衝撃に耐えられるよう作られたそれは、戦闘中に使うゴッドイーターたちもいる。

 その遺品の中には、こうして固まったものも少なくはない。

 

「……お前が直したことにして渡しておけ」

「あ? 姉上が直したって言えばいいんじゃ――痛ッ」

 

 ぐり、と靴を踏むと、姉上はそのままカツカツ規則的な音を鳴らして退散した。

 

 どうしたもんかなぁと思いつつも、俺も姉上にならい独房へ。

 中ではベッドの上で、案外と元気そうに独り言を話す新人が居た。

 

 相変わらず汚い懲罰房。姉上が隊長時代、色々やらかして何度か俺もご用となったことがある(飲酒に関してはサクヤがモロにチクりやがったし)。

 

「――ただただ、その衝動に付き動かされて無茶をした。武器を手にとり、静止を振りきり、自分の命を投げ出して。その結果がこの様じゃ、笑うしかない。例え自分が訓練生であったとしても、ゴッドイーターの適正試験を受けるまで、三日しかなかったとしても、そんなの、あの場で言い訳になりはしない。……言われた通りだな。雨宮三佐は僕を聡いと言ったが、本当に聡いならあんな無茶は――」

「……」

 

 気まずい。というかコイツ、こっちの事気付いてないな。

 これを聞いた上で、新人とか言うのもアレだな……。

 

 よ、よし、親しみを込めて名前で呼んでやろう。

 だが俺との会話中、独り言を言っていた時とは全く違い、妙にたどたどしい反応しか返して来なかった。何だ、対人障害か何かか?

 

 まあともかく、二日ぶりに起きたユウは、こころなしかむしろ、この間よりふっくらしていたような。

 いや、前がそもそも痩せすぎなんだよな、コイツの場合。ちゃんと飯喰ってたのか?

 

「リンドウさんが居るってことは、勝ったんですよね。あの後」

 

 そして、やっぱり聞かれたこの質問。

 それについては、俺は一切気を使わない。事実を淡々と述べるばかりだ。

 そこに私情や感情は挟むべからず。後ろを見て動けなくなったゴッドイーターたちの末路を、俺は、俺達は何人も知っている。

 

「無茶すんなよ、全員、生き残れ――!」

 

 あの後、時間こそ朝までかかったが、ヴァジュラの討伐には成功した。

 タツミやジーナたち、他の部隊が追いついたお陰で、他の被害もそこまで大きくなる前に食い止められはした。

 

 その上で、朝。

 本来なら希望が過ぎるべきそのタイミング。

 

 担架で担ぎこまれるユウに、頭を下げる母親。子供はまだどういう状況なのか判断できていないのだろうが、でも、ユウの姿だけはじっと見つめていた。

 俺も余裕こいて、タバコを拭かしていた。

 

 そんなタイミングで。

 

「――エリック、上だ!」

 

 ソーマの叫びを受けたエリックや、救護班が上を見上げる。

 神機も持って居ないエリック。今の状況じゃ、動かずその場でやり過ごすのが懸命だろう。

 

 なにせ位置関係的に、オウガテイルは「ユウに」喰らい付こうとしていたのだから。

 

「ここで止まってちゃ、華麗じゃないな――!」

 

 だが、エリックは違った。

 俺を見て、そんなことを言って。

 

「――ぅあああああああああああああああああああッ!」

 

 肺にまで届いた牙が、胸から腕から半身から、血と、悲鳴とが木霊する。

 ユウを突き飛ばし、庇ったその姿には、さしものソーマも表情が目を見開いたままで固定していた。

 

 サクヤが真っ先に叫ぶ。

 

「――エリック!!」

「チッ――」

 

 舌打ちを打って、今度こそオウガテイルを仕留めるソーマ。

 だが、状況は既に遅い。

 

「……何か、言い残すことは?」

 

 声すらもうまともに出せはしないだろう。だが、それでも聞かざるを得ない。

 

 エリックの右腕には、写真が握り締められていた。それをソーマに向けた後、顔をユウの方へ向ける。

 

「……!」

 

 そして目線だけ俺の方へ向けて、にっと笑ってから。

 エリックは静かに――静かに瞼を閉じた。

 

「……どーしようもねぇ世界だよな」

 

 俺の話を聞き、ユウも、言葉が続かない。

 だが、それでもコイツは「笑って」やがった。

 

 寂しげに、優しげに微笑むだけ。

 

 それは仮面なのか、何なのか。笑っているのに、一切感情が感じられない。

 

 だがまあ、さっきの独り言みたいにウジウジしているよりは、多少はマシなのかもしれない。腕時計と教本を渡した後、俺は一度、その場を後にした。

 

 

 

   ※

 

 

 

「……頭の痛い案件だ」

「ご苦労なことで」

「これも統括官の仕事だ」

「で、雨宮三佐はどうお考えで?」

 

 エレベーターの中。黒いダウン色に身をつつむ俺と上官殿。

 彼女は、正面を向いたまま答える。

 

「私は新型など、解任でも構わんと思っている」

 

 十中八九、目を合わせたら色々俺に見破られると思っている顔だ。言ってる言葉は本気だろうが、それが全部でもないと、ねぇ。

 

「だが命令は命令だ。お前はどう思う?」

 

 俺としては、まあ、どうなんだろうなぁ。

 姉上がユウを気にかけているのは、なんとなく分からないでもない。榊博士の言ったことが理由か、あるいは無鉄砲な戦い方が危なっかしいのか。

 

 その上で単騎の戦力として見た場合も、惜しい気はする。

 

 帰投後に榊のオッサンにつかまって、延々と色々話されたところによれば。あのユウは、新型以外現時点で適合する神機がないそうだ。単純に一ゴッドイーターを失ってしまうと言う損失と……、エリックについてはあのタイミングでユウが到着してなかったら、十中八九やられていたろうし、カウントしないこととするが。

 

 そして、支部長が散々新型を欲した理由。「計画」の進行度について、急を要しているのは間違いないだろう。

 

 だがまぁ、ここでそれを俺が言うのもアレだな。

 

「……顔が怖いですよ姉上」

「ここでは姉と呼ぶな愚弟」

 

 軽く息を抜いて言う姉上に、俺も肩を竦める。

 

 俺たち二人とも、表情は優れない。

 エレベーターを抜けた後、続く連中も顔は優れない。

 

 全員が全員、黒尽くめでいる理由は只一つ。

 

 葬儀だ。勇敢に散った、仲間の為の。

 

 遺体が回収できることの良いところは、こうしてその死を悼んでやることが出来る点にある。

 アラガミに喰われたか、あるいは自身がアラガミ化しちまったら、事はそう簡単にはいかない。

 

 こんなふざけた世の中でも、誰だって感傷に浸る時間くらいは欲しい。

 

 その一瞬が、錯覚のような刹那であったとしても。

 

 妹さんはこの間の被害の際に避難していて、この場に出席はできない。親も親でこちらに向かっている途中だそうだが、先に行っていてくれと連絡があったそうだ。

 

 俺も、サクヤも、姉上も。他の部隊も、整備班も、支部長も、榊のオッサンも、新人も、そしてソーマも。

 縁者も、知らない相手でも、皆が皆彼に黙祷を捧げた。

 

 

 

「……エリックに。華麗な俺達の同胞に」

 

 タツミの音戸で、全員が杯を掲げる。

 ラウンジは鬱屈とした空気が流れているが、これとていつまで持続させられるか。アラガミの情報が入れば、皆が皆、全員こうして落ち込んでいる暇など何処にもないのだから。

 

 華麗っていうのは、エリックが常々口にしていた言葉だ。

 アイツのポリシーなのか何なのか……。それに憎まれ口を叩いていたソーマも、覇気がない。

 

「……リンドウ。切ないわよね」

「……まぁな。あー、ちょっくら切れたから、追加貰ってくるわ」

 

 席を外し、食堂へ向かう。

 追加の一杯を貰うと、聞き覚えのある声が耳を打った。

 

 

「やっぱ辛いよ。神機だけが帰ってくるのって」

 

 リッカが、ヒバリと愚痴を言いあっていた。まあやるせないだろうなぁ。ゴッドイーターと、両方生還させることに精も魂もつぎ込んでいる整備班だ。それだけに、これは痛いに違いない。

 

「あ、でも。……救護班の方が、エリックさんから聞いたらしいんですけど、」

「エリックが何だって?」

「あ、リンドウさん……」

 

 あんまり湿っぽくなりすぎるのも駄目だと思ったので、二人の会話にちょっと邪魔させてもらうことにした。

 

「あ、ああ……。神薙さん、エリックさんを助けた時、神機もなしにアラガミに向かって行ったそうです」

「また無茶しやがったなぁ」

「実際は神機をとりに向かった時だったらしいんですけど、前方から襲いかかってくるアラガミに怯まずに、逆に倒してやるぞってくらいの形相で。……実はその時、チャンネル混線しちゃってて、インカムの音が聞こえちゃったんですよね」

「あ?」

「逃げろって言ってるエリックさんに、うっさい黙れ、みたいなこと言って」

 

 こんな所で――生きることから、逃げるな!

 

「そんな話、聞いた事もないでしょ? エリックさんも笑ってたらしいです。今にも倒れてしまいそうな、あんな奴からそんな発破かけられるなんてって」

「……良いゴッドイーターになる、か」

 

 エリックの言葉を思い出しながら、俺は、思わずにっと笑った。

 

「そういや、一人(ヽヽ)居たけっか? 大昔にそんな馬鹿が」

「「?」」

「じゃちょっくら、新人の様子でも見て来るかな」

 

 頭を傾ける二人に背を向け、俺はビールを煽り、エレベーターへ向かう。

 

「――あ、あの、リンドウさん!」

「ん?」

 

 振り返れば、フェンリルの青制服が眩しい子供が一人。ソーマより1つか2つ下ってくらいか。

 

「あの、ユウと……、たぶん今独房に居る、」

「ああ、一緒に配属された新人か。えっと……、藤木コウタだったか?」

「あ、はい! 覚えていてもらって光栄です!」

「そんな肩肘はんなよ。で?」

 

 思わず苦笑いしながら聞くと、コウタは手に持っていたコミックを手渡してきた。

 

「これ、あの、ユウに」

「……確かに書籍類の持ち込みは禁止されちゃいねぇが」

「あの、お願いします! あいつ、たぶん今、一人にしちゃ駄目だから」

「ん?」

 

 どうしてか、コウタの顔は焦燥感を感じる。

 

「……昔居住区(アナグラ)に居た友達で、あいつみたいなのが居たんです。その時、もっと話しかけてやったりしたら、色々違ったんじゃないかって、あの、だから……」

 

 上手く言葉には出来て居ないが、それでもユウを心配する気持ちはわかった。

 ぽんぽんと頭を叩いて、「じゃ、行ってくるぜ?」と声をかけた。それに対して「よごさないで返すよう、軽めに伝えておいて下さい」とまで言ってきやがる。

 

 こいつは良い奴だな。気遣いも出来るし、その場を明るくしようと努力してやがる。

 

 良い同期(トモダチ)に恵まれたなと、俺はエレベーターの中で笑った。

 

 

 ユウの顔を見るまでは。

 

 

「……酷ぇ顔してんな、ユウ」

 

 これは、確かに駄目だ。

 食糧の配達も、配膳の回収も終了して、現時刻こいつは一人だった。

 

 だったから、余計にそうなんだろう。

 

 牢の中で俺の手渡した教本通りの動きを再現しながら、ユウは、笑ってやがった。

 泣きながら、笑ってやがった。

 

 張り付いたような微笑み。目を細めているが、その奥からは少し危険な色が見え隠れしている。

 

 恐怖なのか、怒りなのか……。どちらにしろ、そのまんまにしておいて良い感情ではないな。

 

 泣いていることに気付きもしないその顔は、さながらロボットのような微笑だった。

 

「――目の前で人が死にそうな時に、武器がないからって逃げますか? リンドウさんなら」

 

 ただ、根底にあるのは優しい感情に違いはないのだろう。

 爽やかさとは無縁の、ぎこちない微笑みだったが。ユウの言葉に乗った諦めのようなそれには、どこか人間的な温かさが感じられた。

 

 なるほど、こりゃ早死にしちまいそうだ。姉上が気にかける理由もわかった。

 戦い方を教えてくれと頭を下げるそれは、まるで何かに罪を償ってるような、危機感や焦燥感すら込められている。

 

 コウタのバガラリーを手渡した後、顔洗っておけと言って、一旦その場を離れる俺。

 

「……どうにかしてやりてぇな」

 

 このままゴッドイーターの資格を剥奪されれば、おそらくコイツはもっと壊れちまう。

 規則の上ではそれでも仕方ないとは思うが……、それでもやっぱり、コイツはもっとのほほんと生きた方が良いと思った。

 

 

 

   ※

 

 

 

「――救援要請があった。第一部隊は直ちに出動。新型を無事、極東支部まで連れて帰るように」

 

 姉上から呼び出されたと思ったら、案の定次の任務と来たものだ。

 しかも、また新型。……バーゲンセールとか言いはしないが、支部長は何を焦ってるのか。

 

「リボンでもかけてお渡ししますよ」

 

 まあ、俺たちのやることに変わりはねぇ。

 と、言いたい所ではあるが。

 

「ソーマが別件で任務に出ちまっててねぇ」

 

 おそらく支部長の言い渡したそれだろう。あの人もあの人で、もう少しアイツとの接し方とかは、考えた方が良いんじゃねぇのだろうか。

 

 だが、今回に限ってはタイミングが良かったと言っても良いかもしれない。

 

「悪いがお前達二人で出撃してくれ。代役は――」

「二人じゃ『片結び』になっちゃいますよ?

 ……代役――要るんじゃないですか?」

 

 姉上の言葉を手で制して、下を指差す。

 一瞬きょとんとした姉上だが(珍しい表情だ)、すぐに眉間に皺を寄せる。

 

「冗談じゃないだろうなぁ」

 

 にやりと俺は笑うばかり。

 すぐさま支部長に問い合わせる姉上だが、おそらく首を横には振られないだろう。

 

 反省と言う面では、充分にもう反省はしてるはずだ。

 姉上が熱心に付けた経過観察からもそれが伺える。

 おまけに大前提として、支部長は新型をそもそも「手放したくない」はずだ。

 

 その結果が、現在、俺がエレベーター手前で待っていることに繋がる。

 

「――命令は三つだ」

 

 歩いて来たユウに、俺は言う。本来なら実地訓練の際に言うべき心得だが、コイツには今言っておかないと危なっかしくって仕様がない。

 

「死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。

 で、隙を見てぶっ倒せ」

「……四つじゃないですか?」

 

 力の抜けた笑みを返すユウ。バガラリー効果かは知らないが、多少はマシな顔になった。

 頭をぽんぽん叩いて、コイツに先導する。

 

 向かう先は、空。

 

 そこで出会う奴と、まさかあんな因縁を持つことになろうとは、この時の俺は欠片も思っていやしなかった。

 

 

 

 




今回に関しては1話と違って、後の展開次第で確実に改修入ると思います
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