あの神を薙ぎはらうは貴方   作:黒兎可

6 / 13
「 」(絶句)


Episode 5. 堕

 

 

 

 

 

 暗がりの中、ヒバリさんがマシンにタイピングして情報を記録する。

 僕等、新メンバーを加えた第一部隊の面々。その初任務後のデータ管理だ。

 

「指定コアの受領、確認しました。 お疲れ様でした……?」

 

 少しだけ彼女が不思議そうな顔を僕に向けてきていたけどそっちにかかずらってる余裕はない。

 

 リンドウさんが僕等に向き直り、労いの言葉を言った。

 

「これで任務は完了だ。ご苦労さん。

 ……っで、ユウは何で食べながら来てんだ。行儀わるいぞ?」

「はふっ、はふっ……、すみません、時間なかったんで」

 

 苦笑いするリンドウさんだけど、実際問題、時間がないのだ。

 さっき受注して来たミッション、というよりは訓練。先にターミナルに申請してきて、ヒバリちゃんに受注してもらったのだけど、そこまで時間が然程ない。リッカさんの所にも行かないといけないし、とにかく忙しい。

 待たせるとツバキさんの顔が怖いので、結果的に、先にオートミールなのか何なのかよく分からないこれを食べていた。

 

 あんまり急いで食べると体に悪いわよ、とサクヤさんが言ってくるけど、背に腹は変えられない。

 目標を決めたのだ。だったらそれに向かって、時間を無駄にはできない。

 

「んぐ……、ごちそうさま。じゃあ行って来ます!」

 

 おう、とリンドウさんが手を振るのを背に、僕は走る。

 

 とりあえずは整備室へ走り、エレベータを降りた。

 

 部屋に入ると、笑顔と共に出迎えてくれる彼女。楠リッカ。

 

「ユウ! ちゃんと元気に帰ってきたね。ソングバード共々。嬉しいよー」

 

 整備主任である彼女に相棒の調子を聞きながら、それとなく聞いて見た。

 

「およ、神機の弱点?」

「うん。知ってると、何かと便利かと思って」

 

 教本を読んでいて、なんとなく思ったのがこれだ。使い方や運用方法とかについてこそ書かれてはいるけど、武器である以上それは当然、あってしかるべきだ。例えば銃なら手入れをしないと動作が遅くなるとか、刀なら刃を研がなければ切れ味が落ちるとか。

 

 リッカさんは「う~ん」と言いながら、ソングバードを立てて話を進めた。

 

「神機っていうのが、そもそも何なのかは知ってるよね?」

「アラガミ用の特殊兵器、ってところ?」

「そうそう。その材料がアラガミ――というより、オラクル細胞から成っているのも知ってるよね。人間の手で作り出された、新なるアラガミと言えなくもない。

 で、基本的にこのコアは、使い手のゴッドイーターの神経細胞を通じて、体内のオラクル細胞とシンクロする。だから本人以外のゴッドイーターが手に取ると、そのオラクル細胞に侵食されてしまう」

「侵食……」

「それこそ腕輪が壊されたりした時みたいにね? で、今はある程度準備が終わってるからいいけど、整備中はこの内側のアラガミ部分がむき出しなものだから、制御アームとかの準備が必要ってわけ。

 この時点で弱点がいくつか出てるけど、わかる?」

 

 楽しそうに講義するリッカさん。僕は少し考えて、確認してみる。

 

「……制御系が破損すると、かなり危険ってこと?」

「そうそう。刀身が折れるとかじゃなくって、そっちの方が怖いって言えるかな。特に第二世代型……、新型の場合は、変形機構が多い分、外装がちょっと弱かったりするからね」

「外装が弱い?」

「うん。例えばだけど、コンゴウ十体くらいに、一気に刀身を殴られたら、あっという間に折れちゃうと思う」

 

 だから受け流しとか、防御とかが重要なんだけどね、とリッカさん。

 

「あとは、そもそも神機そのものが、ブラックボックスのオラクル細胞を使ってるから、変なトラブルも多かったり。神機がしゃべりかけてくるーとか、神機で捕喰したら自分もお腹一杯になったーとか、そういう変な報告からもっと怖いものまで、色々だね」

「しゃべり?」

「そうそう。それでピンチを救われたりとかね。確証はないから眉唾な話だけど、一応はレポートにとってあるよ」

 

 そこでソングバードについてだけど、と柄の根元を撫でながら、彼女は笑う。

 

「構成はショートブレード、ブラスト、バックラーで出来てる。

 ショートは連続攻撃が基本で、一撃が軽くなってるから、そこのところ注意ね。リーチは短い分、狙ったところに当てやすい。ブラストは爆発力があるけど、メインは近距離だから中距離、遠距離になると威力も射程も落ちてくるかな。爆発や放射に強い。この間渡した、ワイヤーコードのバレットは拘束メインのバレットだから、一応これに対応してるものなんだけどね。バックラーは速度が速いけど、防御力が弱いシールドみたいな感じかな。

 とりあえず、知りたかったのはこんな感じ?」

「……ありがとうございます」

「改まんなくてもいいって! 確か同い年でしょ?」

 

 逆にこっちが知らなかった。

 

「ちなみに、もう一人の新型の子は、ロング・アサルト・バックラーって感じだね。バックラーはともかく、ある意味バランスはとれてるんじゃないかな」

「バランスねぇ……」

「どしたの?」

 

 初任務の惨状を思い出し、微妙に表情が優れない僕。

 心配そうに見てくる彼女に礼を言ってから、訓練室に送ってもらうよう言った。

 

「あ、あとそれから。ソングバードだけにある機能なんだけど――」

 

 あまりに意外な事を言われて、びっくりする僕に、彼女は「他の人には内緒だよ?」とウインクして笑った。

 

「よっぽど酷い状況じゃなければ使わないとも思うけど、ともかく頑張ってね。……生きて帰ってきて」

「……うん」

 

 部屋を出て、再び走る。

 時間的には問題ないけど、こういうのは誠意だ。……移動中「また誤射しちゃいました~」とか唸ってる女の人の声が聞こえた気がするけど、なんだかあんまり関わらない方が良いような気がしたので、それを考えるのは後回しとしよう。

 

『……五分前か。まあ良いだろう。神機も出てくる』

 

 ツバキさんが上から声をかけてくる。訓練室のチャンバーにソングバードが到着し、がしゃん、と腕のリングを置く場所が展開した。

 

 取り出した半身は、相変わらず生物チックな部分を見せないほどにメカニカル。ただ内側は黒ずんだ肉のようなもので作り上げられているのは、日の目を見るより明らかだった。

 

『時間の関係で、今日は長く付き合えんが、やるぞ』

「よろしく、お願いします」

『……何かあったか?』

「……いえ」

 

 そんなこと言われてもどうしようもないのだけど、何と言う察しの良さ。こういうところは、リンドウさんと共通しているところだと思う。

 それに対して、微笑しか返せない自分が辛い。立場的なことじゃなくて、それしかするべきでないのだから。

 

『……まあ良い。無理はするな。始めるぞ』

 

 彼女の一言と共に、室内が変質する。昼間の廃墟のような姿になった瞬間、僕はソングバードを構えた。

 

 

 

 

 

 

   ※

 

 

  

 

 鉄の錆びたにおい。

 めきめきと建物が折れ、砕ける音。

 

 ひしゃげる音に、飛び散る音。

 

 何が飛び散ってるかは、しりたくもない。

 

 

 

――ユウは、優しい子だね。

 

 

 燃える館。燃える机。燃える、瞳。

 差し出された赤黒い手が、僕らに逃げろと言う。

 

 

――私、大きくなったら、ゴッドイーターになるんだ!

 

 

 蹴散らされる人達。足を取られて倒れるあの子ちゃんに、大きな、大きな拳が――。

 

 

 

 

「……ッ」

 

 汗びっしょりの状態で、僕の意識は現在に引き戻された。

 服を買えるだけのお金がないので、寝巻きの概念はない。上半身裸に、下も下着一丁。

 

 こうして見下ろせば、多少肉はついてきたけど、まだまだガリガリ。

 汗が止まらない。タオルを手に取って体を拭く。背中にある傷痕が少しだけ敏感に感じるけど、もう慣れたものだ。流石に「五年も」そのまま放置しておけば、嫌でも鈍感になってくる。

 

 時刻は朝方に近いけど、夜と言って良い時間帯。

 

 とりあえず汗を拭いてからストレッチして、服を着用。

 

 腕時計を見て、少しだけ精神を落ち着かせる。

 

 

 

 うつらうつらしながら時間が経過。とりあえず朝食の時間帯を回ったので、外に出る。

 

「……何だこれ」

 

 「ペイラー榊推薦! 実食携帯食!」という、自動販売機が置いてあった。値段はどれも格安。……そこはかとなく嫌な予感はしたけど、お財布事情には変えられないので、この間食べた携帯食を一つ購入した。

 食感はスナック菓子みたいなもの。味は何というか、食べ合わせの悪い料理を二つ混ぜ合わせた、みたいな。ブルーベリージャムの入ったヨーグルトに、チャーシューみたいなのを放り込んだというか。意図的にやってるんじゃないかっていう、絶妙な味の悪さがそこにはある。

 

「……あ」

「……は、はっ!?」

 

 思わず苦笑いを浮かべながら歩いていると、エントランスでヒバリさんが、端末の前で欠伸をしていた。

 小さく口を開けて、手で覆ってはいたけど、珍しいような感じで結構可愛い。

 

 僕に見られていたことに気付くと、慌てて口元を被ったり、居住まいを正したりして「ど、どうしました?」と照れたように取り繕っていた。

 悪いが言葉が出て来ない。

 コウタとかと違って、未だ絶賛人見知り中だった。 

 

「……えっと、ネームカード」

「へ? あ、はい! その節はどうも」

「じゃなくて。えっと……」

 

 言葉が続かない。

 ヒバリさんも、コミュ障特有の「何か言いたいけど言えない」沈黙のせいか、それともさっきのアレのせいか、ちょっと視線が落ち着いてなかった。

 

「……休みとれてる?」

 

 ようやく出てきた言葉に、あはは、と彼女は苦笑いを浮かべた。

 

「ま、まあ職場的な問題もありますし、前時代の過労死基準までは行ってませんよ……。

 っていうか、それを言ったらユウさんの方が、はるかに危険じゃないですか?」

「へ?」

「だって、初任務から帰ってきて『四日間』、中型のアラガミ狩りの任務以外、ずっと訓練室に行ってますし。ツバキさんは軽く引き受けてますけど、二人とも体力的にどうなんですか?」

「それこそ、えっと……、ゴッドイーターだし?」

 

 何故かむっとした表情を浮かべると、彼女は僕の腕をとって、服を向いて素肌を出させた。

 別に変な意味じゃない。腕の細さを指差して、真剣な顔で注意して来たのだ。

 

「ちゃんと食べてるんですか?」

「……元が元だったしね」

「人の心配をする前に、自分の心配をしてください」

 

 思わず怯む。確かにそうなのだけど、今は自分の身を削ってでも強くなる時なのだから、多少の無理は織り込み済みだった。

 そんなことを考えて、脳裏にあの女の子の顔が過ぎって、鬱になる。

 なりながら、僕はヒバリさんに聞いた。

 

「エイジス、ですか? えっと……」

 

 エイジス計画の完成がどこまでなのか。ここ四日はずっと目的意識だけで体を動かしてきたので、多少余裕をもって情報を俯瞰していようという、そんな考えだ。

 そして、聞いて表情が固まる。

 

「昨日までの成果だと、0.07%の進捗ですね」

「れい、てん……ッ」

「くすっ。……あ、ごめんなさい。何でもないです。

 あれだけ巨大なものを建設する訳ですから……、グボロのような中型種であれば、あと数万体のコアが必要になると思います」

 

 桁が大きく違った。未だ1パーセントにも満たないという事実に、僕は開いた口が塞がらなかった。

 ……その過程で、一体どれだけの外の人が、ゴッドイーターが、その命を散らすことになるのだろうか。

 

 ネガティブかもしれないけど、その視点を忘れてはいけないと僕は思う。

 

「……大型の場合は、どうなる?」

「ヴァジュラなどの場合でも、おそらく数千は。……なかなか大変ですね」

「……ありがと」

「いえいえ」

 

 お礼を行ってから、入り口上部に取り付けられたモニターを見に行く。

 

「ユウ! 何見てんだ?」

「コウタ。いやさ、あのカウンター」

 

 画面に表示される人口。現在22万人以内となっているその表示に、僕は肩をすくめる。

 

「当たり前だけどさ。あれ以上に生存者はいるんだよなーって」

「……まーなぁ」

「だったら、まあ、どうやったら早くみんなを助けられるかなって。ふっとね。

 それこそバガラリーじゃないけど、ああ出来れば良いに越した事ないんだろうけどさ」

「俺達だって人数限られてるし、手も届かないからなぁ」

「やっぱり資源が足りないのが一番なんだろうな。次いで安全に暮らせる場所とか」

「アラガミも食べられれば、多少マシなんだろうけどさー」

 

 お互い肩をすくめ合って、ぐちぐちしゃべってるのが結構楽しい。

 でも「いる?」と差し出した携帯食は、青い顔をして断られた。解せぬ……。

 

「!」「……チッ」

 

 そんなことをしていたら、背後から蹴りを入れられた。

 いや、音でわかったから避けたんだけど。

 

 それを見て、ソーマは意外そうな顔をしてから、一度舌打ち。

 

「邪魔だ」

「……おっしゃる通りだけど、なんで蹴ったのかな」

「避けたくせに何言ってんだ」

 

 とんがってる。アリサよりもとんがってる。

 自己紹介で聞いた第一印象は、やっぱり間違ってないらしい。なんとなく孤児院の頃の、まわりと馴染めてなかった子のことを思い出すけど、あれよりも長く捩れてるような気がする。

 

 いや、でもそれ以上に、僕に対して思うところはあるんだろう。きっと、エリックさんに関係することで。

 道を譲ると、ソーマは行き、そして僕の背中に言った。

 

「――お前はどんな覚悟でここへ来た」

「……」

 

 振り返り、エレベータの先のソーマを見つめ返す。

 微笑んでいるつもりだけど、ちょっと自信はない。

 

「俺達に出来る事は、アラガミを倒す。それだけだろ」

「……それだけじゃないと、僕は思いたい」

 

 僕の言葉に彼が反応を返す前に、扉が閉まる。

 

「……」

 

 浮かべていたはずの笑顔は、いつのまにか剥がれ落ちていた。

 

   

 

 

 

「……先日も言ったが、大型種二体は厳しいか?」

「……人数的には問題ないかと思いますが、リンドウとソーマが支部長の特務で居ないので、グボロの方が良いんじゃないかと」

「わかった。任務選択は、隊長代理のお前に任せる」

 

 ツバキさんに頭を下げるサクヤさん。立ち去る彼女を見つつ、僕は聞いてみた。

 

「……大型の方は、まだ難しいですか?」

「そうねぇ。……私としては、まだ手放しで賛成はできないかしら」

 

 実際今のチームバランスで言うと、リンドウさんやソーマが担う部分が大きいのは事実だから、戦力的に心許ないのも事実か。

 

 そう思ってると、コウタがサクヤさんに言った。

 

「俺! 大型種の方がいいなぁ、なんて……」

「どうして……」

「同じコアでも、大型の方がエイジス、早く完成させられるんですよね」

「それはそうだけど、任務対象ってヴァジュラなのよ?」

「「「!」」」

 

 僕等は一斉に、サクヤさんが提示した画面に釘付けになった。

 

 リンドウさんが戦ったと言う大型。教本にも書かれてる、複数人での制圧を前提とした大型のアラガミ。周囲に放電をし、同時に見た目通りの飛びかかりも含めるのが基本的な動きらしい。

 とられた写真のヴァジュラもまた、それを象徴するように威圧的だ。

 

「危険な相手なのは知ってるでしょ? この間、私達三人でコアをとってきたけど、まだまだアナタ達を連れて行くわけには――」

「――私もヴァジュラの方が良いです」

「アリサ!?」

 

 アリサがコウタに準じる。

 きっとそれは、彼女も彼女なりに何か思うことあってだろう。

 

「どうしたの? 任務にやる気なんて」

「……新型の責務を、果たそうと思ったまでです」

 

「……」

 

 ちなみに僕は、どちらかと言えば反対派。急いては事をし損じる、じゃないけど、ツバキさんと訓練をしていると、嫌でも思い知らされる。

 いくら完璧に思っていても、必ず穴はあるのだということを。

 過信していないつもりでも、自分の力を見誤るのだということを。

 

 それでも、この状況で二人の言葉を否定するつもりも、僕にはなかった。

 

「……わかったわ。但し、私が危険だと判断したら、その時点で撤退。

 命令には従ってもらうわよ?」

「「了解」」「了解っ」

 

 少しだけコウタが、遅れて敬礼。

 腕時計を握り閉め、僕はエレベータへ向かう。

 

「……さあ、行こうか」

 

 外に向かうと、空は雨模様。

 天候は、あんまり僕等の味方じゃないらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

 

 ヴァジュラの居住区域は、その食欲を象徴するようにガレキの山がゴミのように積まれている。

 その要所から飛沫が吹き上げ、目的とするアラガミが姿を現す。

 

「アリサ!」

 

 反応が若干遅れてる彼女。叫んで気付けをして、ぎりぎりでその爪を交わす。

 僕はといえばかわせないので、ソングバードを銃形態にして受け流し。胴はこっちの方が長いので、流す分には実際楽だった。

 

『――回りこんで。正面は避けるのよ!』

 

 言われながらも、前足を一瞬捕喰形態で抉る。

 抉ってから、その場で回転しつつ、形を剣型に戻し――。

 

「あああああ!」

「はぁッ!」

 

 左右から、ヴァジュラの足から胴体にかけて薙ぐ。

 アリサの側にバランスを崩したバジュラに、僕はもう一、ニ撃。

 

 倒れ伏したバジュラに対して、念のためワイヤーみたいな例のバレットで足を止める。

 

「ッ」

 

 もう一体現れたヴァジュラ。襲いかかられたアリサは、決して楽というわけでもないだろうけど、対応できないほど焦ってもいなかった。

 

「一人で行けます!」

 

 ソングバードを構えると、アリサが僕にそう叫んだ。

 手出し無用、ということか。……そんな鋭い眼で睨まないでもらいたい。

 

 実際こっちの倒れている方も面倒みなきゃならないので、拡散レーザーに切り替えて放射。アリサに襲いかかかってる方の、行動範囲を狭める。

 

「どうし……、私よ……、後――」

 

 何か文句言いたげな眼で見て来るけど、僕のスタンスは前に話したことがあったはずだから、気にはしない。

 

 そうこうしている内に、コウタの狙撃が手前のヴァジュラに命中。

 立ち上がろうとしているタイミングで、ナイスシュート眉間。

 

 アリサの方の様子を見てから、相棒の顎を露出させる。

 

『――ユウ、コアを捕喰して』

 

 言われる前に身体が動くようになってきてるのは、訓練の成果か、それとも驕りか。

 慢心はいけないけど、効率化はそこまで悪いことじゃないだろう。そう納得して、アリサの後を追う。

 

「痛ッ」

 

 腕の筋肉が悲鳴を上げている。未だスタミナも完璧とは言い難く、全身の身体能力も他のゴッドイーターより低いことに違いはない。

 それでも、別に「死ぬわけじゃない」。走れるなら、走るだけだ。

 

「ユウ、アリサは?」

「そっちです。建物の方」

 

 サクヤさんとコウタと合流し、進む。

 と、どこからか悲鳴が響いた。

 

「……! ここはヴァジュラの生息域なのにッ」

 

 建物から出てきて、追われているのは難民か、居住者か。

 そんなタイミングに追い討ちをかけるように、背後からアリサが出る。後を追うようにヴァジュラが出た。

 

 考えてもみて欲しい。複数人での討伐が前提の敵が、二体? しかも民間人が逃げ惑う最中だ。戦況は圧倒的にこちらが悪い。

 

 おまけに、崖の上に追加でもう一体。

 極東は地獄です、と言わんばかりの大盤振る舞い。いくら生息域だからって、もうちょっと空気読んで欲しい。

 

「みんな、固まって!」

 

 民間人達の手前側に出て、下がれと言う。

 それでも下がらない彼等は、判断力より混乱が先に来てるんだろう。

 

「さ、サクヤさん、どうしたら!」

「……なんとか一体でも倒して、退路を開くしか――ッ」

 

 だが、アリサに飛びかかったヴァジュラは、次の瞬間には血飛沫を上げた。

 首を引きちぎられ、齧りつくその黒い影。

 

 絶句するその場。誰もが理解した。更なる上位捕喰者がこの場に現れたことを。

 

「うげ……」

 

 元々こういう赤々とした光景は苦手だ。その黒い、ヴァジュラのようなそれは、飛びかかり他のヴァジュラさえ、簡単に喰らう。喰らう。

 わずかに反抗しようとしていた頭さえ腕で潰し、貪りつく。

 

「……黒い、ヴァジュラッ」

 

 持ち上げられた、ヒゲを携えたその顔は、どこか西洋の神話に出てくる神のようでさえあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   Episode 5. 堕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        Episode 5. 駄

 

 

 

 

「た、食べてる……」

 

 コウタの声が震える。

 次々に粉々になっていくヴァジュラ。僕等の追っていたそれを見て、サクヤさんでさえ言葉が乱れていた。

 

「ヴァジュラの変異種……? あ、あんなの、見たことないわッ」

 

 この混乱した状況の中、只一人、アリサだけは目の前の敵に憤怒を燃やしていた。

 

 

「ディアウス・ピター ……ッ、やっと……!」

「――っ、アリサ!?」

 

 

 表情を歪ませながら、薬を口に含むアリサ。処方量とか、そんなもの関係ないとばかりに駆け出す。

 となると、次の動作も読めてくる。

 

「連れ戻します!」

「ユウ、お願い! 撤退するわ。コウタはユウのフォロー!」

「っ、了解!」

 

 走る。今は走る。

 明らかに様子がおかしいアリサだったけど、戦闘パターンだけはいつもの様に冷静な動きだ。

 ただ相手が悪い。背中から展開された、翼の骨じみたマントが、ヴァジュラの変異種の背に展開され、彼女のアヴェンジャーを跳ね返す。

 

「ぅあ、あッ!」

 

 どころか往なされ、放り捨てられる。

 距離にしてどれくらいだろうか。10メートルは行かないまでも、その一撃は大きい。

 

「コウタ、アリサの周りに狙撃して。

 あっちに近づけさせないように!」

『――お、オッケイ!』

 

 慌ててるのか、言葉が了解じゃない。

 

 でも指示は通じてるらしく、変異種周りとアリサの付近を狙撃し、動きを若干誘導してくれた。

 僕はソングバードを捕喰形態にし、駆けて来る相手を――。

 

「ッ!」

「ユウ!」

 

 早い。余裕を持って動く時間さえない。齧りつけはしたけど、尻尾で、振り回されるばかりだ。

 

 そして、紫雷の柱が放たれる。コウタや難民たちと話していたサクヤさんが、衝撃で吹き飛ばされる。

 

「ッ」

 

 尻尾が地面にたたき付けられ、ソングバード共々僕は跳ね飛ばされた。衝撃で剣型に戻る相棒。手元から離れるそれに対して、必死に弦だけでも僕はつかみ――。

 

 振り返った瞬間、鮮血が、変異種の腕の動作に合わせて舞った。

 

「……笑って、る」

 

 逃げる人々を見て、そのアラガミは嗤っていた(ヽヽヽヽヽ)

 

 楽しそうに、楽しそうに口元を歪めて。

 

 逃げ惑う人々を前に、僕は頭を抱える。

 こんな時にフラッシュバックなんて、何考えてんだ僕は。こんな、こんな光景をもう作らない為に、僕は手をとったんだ。とったはずなんだ。

 立て、立ち上がれ――。

 

『――』

 

 サクヤさんの囁き声が聞こえる。インカムを通じて聞こえたその声は、僕の脳みそは認識しなかった。

 ただ、とにかく立ち上がった。立ち上がらなければならなかった。

 

「……あの神を、薙ぎはらう」

 

 眼前に例え、どれほどの亡骸が転がっていても。

 

 柄を握る僕の体の内から、何かが、普段以上に力強く蠢く。

 

「――ああああああああああああああああッ!」

 

 叫びながら半身を構え、僕は走り出した。

 

 復活したらしいアリサの砲撃が、変異種の足を止める。そのまま斬りかかるけど、飛びあがりかわされた。

 それを見て切り替える速度は、僕よりも手馴れている感じがする。

 だがあきらかに「悪意を持って」僕等と対峙するそのアラガミは、嘲笑うようにものともしない。

 

 雷撃を受け流すアリサ。だが明らかに標的を見失っていた。

 

「後ろだ!」

「――ッ」

 

 追いつかない。例え立ち上がっても、僕の欲する性能を発揮するまで、体が出来上がっていない。

 叫びはしたけど、アリサが反応できるだけのタイミングにさえ、間に合わなかった。

 

 壁に激突し、意識を失ったように倒れるアリサ。

 

 そちらを一瞥すると、奴はより、「食べやすい」餌の方へ跳び上がった。

 

「――届けええええええええええッ!」

 

 捕喰形態で飛びかかる僕。

 だが背中で展開されたマントが、刃のような骨の翼が、僕の足に掠められる。

 

 相手の強度が強い場合、速度が出ている方が柔らかいなら、この場合は弱い。

 

 結果として、僕は空中で回転することに。

 

 飛び跳ねる血を押さえるよりも先に、神機を地面に付き立て、勢いを殺す。

 

「あああああああああああッ!」

 

 駆ける。相手の刃が人へ届く前に。

 

「逃げて!」

 

 攻撃を受ける。本来なら流さなければならないけど、これは駄目だ。流したら、誰が被害を受けるかわからない。受け流すことが、積極的に封じられていた。

 

 背後の人たちが逃げるのを聞きながら、僕は眼前のアラガミを睨む。

 相手の視線も細まり、まるで人間相手に力比べしてるような錯覚を受けた。

 

「うっ」

 

 ここで、折れるわけにはいかない。僕の背後には、無辜の命が果たしていくつあるだろう。

 

「うおおお――」

 

 押し返さなければならない。そうしなければ、一時的な退路でさえ、彼等に開くことさえ叶わないのだから。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

 でも、しかし――。

 

 

 

 

 

 僕の半身(ソングバード)は、血を吹き出して刃を折られた。

 

 

 

 

 

 一瞬のことに、呆気にとられる。不意にリッカさんの言葉が脳裏を過ぎり――。

 僕の胴体は、その相手の刃に貫かれた。

 

「……ッ」

 

 雨が振り注ぐ。

 起き上がる腕力さえ、捻出できない。口からは血を吹き、眼前の相棒さえその姿は掠れて見える。

 

 

 

 

 そしてそこから先は、蹂躙しかなかった。

 

 

 

 動けない(ゴッドイーター)に対して、まるで見せつけるように、奴は好き勝手に腕を振り下ろす。

 嗚呼、僕と戦っていた時に手を使わなかったのはこのためか。

 

 

「止めろ……、止めて、止めてくれえええええええええええええええええッ!」

――ユウッ。

 

 人を頭から噛み千切るように動く変異種。

 叫ぶ僕の言葉に合わせて、神機が、触れてもいないのに姿を変えようとした。

 

 でも、それさえ奴の刃の前に折られ、弾き飛ばされる。

 

 目の前で砕かれる、僕の半身。

 この世界に立ち向かうための、牙――。

 

 「何か」を噛み千切った瞬間に溢れた、ぎとぎとしいほどの「赤」が、僕を背中から潰す。

 

「……何で」

 

 拳を握りながら、歪む視界に僕は叫ぶ。

 

「何で、こんな――!」

 

 言葉にならない叫びは、何に対するものか。アラガミに対する憎しみか、自分の力不足に対する憤りか。

 

 息絶え絶えといったアリサの砲撃で、奴は僕から興味の対象を移した。

 駆け出す奴を視界に入れつつ、僕は、それでも神機へと前進する。

 

「……それでも、僕は――」

 

 壊れ掛けたソングバードを手に取り、腹を押さえ、立ち上がる。

 

 それでも、僕は歩みを止める事はできない。その資格さえないのだから、進むしかないのだ。

 

「ユウ! よかった……、生きてる!」

「二人とも、逃げて!」

 

 狙撃しながら、コウタとサクヤさんが叫ぶ。

 言われなくても承知してる。痛いほどに承知している。落ち込むのも、無力を嘆くのも、時間を求めるのも全部後回しだ。今は、生き残らなきゃならない。

 

 死なないこと。

 逃げること。

 隠れること。

 

 全部、リンドウさんが僕らに言った言葉だ。

 

 長さが中途半端になったソングバードを杖代わりに使い、アリサの元へ。

 

 肩を貸して、だらりと力が抜けてる彼女を持ち上げる。

 それでも神機を手放さないのは、きっと、もはや執念だろう。

 

 背後で砲撃の音。

 

 だけれど電撃の音を境に、二人の攻撃の音が聞こえない。

 

「……」

 

 巨体が向き直るその音は、次の光景を僕に予想させるに充分なものだった。

 だったらば。

 

「目にもの見せてやる……ッ、がはッ」

 

 歩きながらも血を吐き、その場に膝をつく僕。

 右側にはソングバード。左側にはアリサ。

 

 地形を見れば、この先は橋のような構造。

 

 振り向けば、駆け出す変異種の姿。

 

 

 

 にやりと笑うその顔は、僕等に爪を向け――

 その瞬間、僕はスタングレネードを投げつけた。

 

 

 

 光に眼を焼かれ、その腕の動きが遅れる。

 

 せめて一撃。

 

 ソングバードの基部、ギターの弦を固定するようなものが六つ付いている内の、一つを引き抜く!

 

 次の瞬間、ソングバード全体から「弦」のようなオラクル細胞が走り、ソングバードの剣があった場所に、一瞬だけ集り、ロングブレードのように収束した。リッカさん曰くの特殊機能というやつだ。

 

 それを逆手に構え、僕は相手の腕を往なす。リンドウさんのように綺麗には決まらない。それでも、相手の動きを「斬って」「流せれば」それに越した事は無いのだ。

 

 

 

 だって――その行き先は、崖なのだから。

 

 

 崩れる足場。落下するアラガミ。

 誤算があったとすれば、アリサを掴んでいた右手の腕力が、もう限界だったこと。

 

「――アリサッ!」

 

 叫びながら、僕もバランスを崩し、崖の底に落ちてしまう。

 先に放り捨てられた彼女は、僕よりも重力の手により早く囚われて――。

 

「……ああ、駄目かな」

 

 届け、と念じても、物理法則は人間の味方をしてくれない。

 せめて彼女を抱き寄せられれば、多少は庇うくらいできるかもしれないのに。

 

 

――だいじょうぶだよ。

 

 

 どこからか、アキちゃんの声がする。

 

 

 

 気が付くと。

 単なる幻かもしれないけれど。

 

 

 

 僕と同じくらい大きくなった、成長したアキちゃんがそこに居た。

 緑のゴッドイーターの隊服を着て。まるで、あの頃に言ってた夢が実現したみたいになってて。

 

 落下する最中で見えた彼女は、僕の左手を握っていた。

 そしてアリサを引き寄せ、二人の首をぎゅっと抱きしめた。

 

 

――まったく、世話がやけるんだから。ユウは。 

 

 流れる濁流に身を取られ。

 その言葉に涙が出そうになりながら――僕は、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 




落ちるところまで落ちた。後は覆すだけだ。


しかし次回はまーた万策尽きたくさいっていうね。もうどうしろって言うんでしょう(白目)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。