あの神を薙ぎはらうは貴方   作:黒兎可

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気付いていない方もいると思いますが、本作は時系列がアニメとちょっと違います。
アニメの場合は、ほぼ直近でヴァジュラ討伐でしたが、本作の場合は四日ほど中型を挟んでヴァジュラとなっています。

というわけで、その四日分のお話がメイン?


 Episode Ex. 竹田ヒバリ/4 to 5

 

 

 

 

 

 戦場と一言で言っても、その範囲は案外広い。

 

 例えば前衛と後衛。

 例えば前線と補給。

 

 医療やレスキューだって含められるし、私のようなオペレーターを含めれば、どこまでが戦場なのか、ちょっと曖昧なんじゃないかな。

 

 ただ、一つハッキリしてるのは。

 今目の前に広がる、私の戦場。

 

 モニタールームに居るオペレーターたち。薄暗がりの中、画面を見つつインカムで指示を飛ばす私達。その中でも私より年上は多い。戦場よりも安全なので、多少は平均年齢が上がるのだ。

 

 ただそれでも、私はこの中では中堅くらいになる。

 

 案外、私はここに来てから長いのだ。

 

 榊博士によれば、一応ゴッドイーターの適正もあると言う話なのだけど……。

 

「はい、お疲れ様です。帰投の際は充分注意してください」

『――エリックのこともあったからなぁ……。了解!

 あ、それはそうとヒバリちゃん。帰ったら一緒にどこか、』

 

 通信を三秒も継続せず、私は彼のチャンネルを外した。

 

 他意は一応(ヽヽ)ない。強いて言えば、支部内ならともかく向こうは完全に安全でもないのだから、気を引き締めてもらいたい、という意味合いも込めてのぶち切りだ。

 オペレーターとして、ゴッドイーターを心配するのは当たり前のことなのだから、そこは理解してもらいたい。

 

 ……まあ、カウンターで誘われてもスルーするんだけど。

 

 タツミさん、結構諦めが悪いし。

 

 通信機越しに聞こえて来るそれは、本来はリンドウさん並に修羅場を潜っているゴッドイーターのそれなのだから、勿体ない勿体ない。根は頼れるお兄さんといった感じなので、なおのこと勿体ない勿体ない。

 

 何が勿体ないのかは、ちょっとよくわからないけど。

 

 ふと横を見れば、タイマーが鳴っている。

 ああ、そろそろカウンターに回らないと……。

 

 同僚や先輩たちに頭を下げて、システムからログアウト。

 座席のレバーを引いて、椅子を離脱位置まで引く。

 

 がしゃん、と下方の床に接続する音が鳴ってから、私は椅子を回転させて立ち上がる。

 

「ん……、くぅ」

 

 伸びる。この瞬間がちょっとした至福。

 エコノミークラス症候群というらしい病気にかからないよう、オペレーターたちは定期的に体を動かす時間があるのだけど、一部はカウンター受注と兼任となっている。

 私も、扱いはそれに準じていた。

 

「一応バスが出てるからさ。こっちこっち!」

「バス……って言うには、ちょっと武装濃すぎない? そのままオウガテイル数体轢き殺せそうな勢いだけど」

「そこまで重戦車じゃねーだろって。っていか、それが出来たらリッカさんのお仕事なくなっちゃうって。

 ……あ、ヒバリさん!」

 

 「お花を摘み」終わった後、階段を上る途中、二人のゴッドイーターと目が合った。極東支部、新人の二人だ。私服のようなものと、フェンリルから配給される服を着た二人。

 

 片方は藤木コウタ君。上官のツバキさんの後継機持ちの子。

 もう片方は、神薙ユウさん。この支部初の新型ゴッドイーター。

 

 何度か顔を合わせていることもあって、会釈を返してくれる。

 

「二人とも、ミッションですか?」

「いやいやそっちは、明日からってリンドウさんが。これからユウと一緒に、ちょっとアナグラで遊びに行こうかなって。数ヶ月前に、地表の方に出て来れたし!」

「ああ……」

 

 極東支部、アナグラはいくつかの層に分かれている。地表の層と別に、地下へいくつかの層。

 基本的に下の方が安全と言えば安全だけど、生活環境のレベルは段々と下がって行く。配給の頻度も低下していくことは間違い無い。

 

 一長一短とはいえ、好き好んで地下に住む人はあまり多くない。

 地表に出れた、と嬉しそうに話すコウタさんに、私は何とも言えない気持ちになった。

 

 視線をずらすと、神薙ユウさんは何とも言えない微笑を浮かべていた。

 

 さっきまでコウタさんとぺらぺら喋っていたのが嘘のように、急に口数が減った気がする。

 タツミさんくらいぐいぐい絡んで来ても困るけど、これはこれで大丈夫なのかと思ってしまった。

 

「じゃあ、俺達はこれで。行こうぜユウ!」

「あっ……、……」

 

 くい、くいと。

 何とも言えない顔で、ユウさんが自分の腰のあたりを撫でる。

 

 意味がわからないとジェスチャーすると、多少赤くなりながら、彼は私の腰を指差して、その場を離れた。

 

「? …………あ、きゃッ!」

 

 変な声が出た。色々と情け無いところだけど、もっと情け無い今の状態を早く改善しないと。

 

 いや、情け無いというよりは恥ずかしいという感じなんだけど。

 

 

 彼が指差した先。私のスカートのスリッドは、本来通しているはずの紐が抜けて、片側だけちょっとずり落ちていた。

 

 

 もっと言うと、少し下着が見えかかっているというか。

 

 

「~~~~~~」

 

 

 急いで下側からゴムひもを通す。通しながら、ユウさんが言葉を濁してた理由をそれとなく察した。

 っていうより、コウタさんは気付いてなかったみたいだから、ユウさんがおかしいんだ。うん。

 

 動揺しているからか、私はまた変な納得の仕方をしていた。

 

 

 

 

 

 

 Episode Ex. 竹田ヒバリ/4 to 5

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練ミッションですか?」

「ああ。私が会議に出て、手を付けられない日もあるからな。その時はお前が代わりにやってくれ。メインで指示を出す相手が居た方が、効率が良いからな。

 あっちの方には、話はもう通してある」

 

 カウンターでミッションの受注を確認していると、ツバキさんがやってきて私にそんなことを言った。

 

 雨宮ツバキ三佐。新人に対しては主に教官として接するこの人。

 だからこその訓練に関する話なのだけれど、ちょっとだけ違和感を覚えたので聞いてみた。

 

「普通そういう時って、教官側のスケジュールに合わせますよね。どうしてまた、そんな話に?」

 

 当たり前のことを聞いたつもりだったのだけど、ツバキさんはリンドウさんみたいな、どうしたものか、みたいな笑顔をニヤリと浮かべた。

 

「…… 一人居るだろ、例外が」

「あー ……」

 

 言われて思い出す。そういえば、ユウさんはまだ訓練が終了していなかったっけ……。

 

「特例として、色々と過程を飛ばして部隊配属とはなったが、それじゃ駄目だと言い出したからな。

 せっかくだから、厳しく扱いている最中だ」

「それはまた……。日ごろのミッションに加えてなんですから、程ほどがベストだと思いますよ?」

「無論、そこは調整してるさ。……調整しているんだがなぁ……」

 

 含みのある言い方だった。

 

 不審に思い、現在の作業ウィンドウ以外に別なものを開き、ユウさんのミッション受注記録を調べる。

 

 

 ……調べて、ちょっと後悔した。

 

 

「……な、何ですかこのスケジュール! メインミッションと食事と睡眠以外、全部訓練じゃないですか!?」

 

 毎回自分が担当してたら気付いたんだろうけど、生憎とそういう訳でもないので、端末に表示される記録に目が点になる。

 確かに整備班のリッカさんから、ユウさんは割合多く訓練に出てるって話は聞いていたけど。

 これ、割合多くとかそんなレベルじゃないでしょ。

 

「……いや、まあ、私も熱が入ってしまうのも理由ではあるんだが……」

 

 少しばつが悪そうに顔を背けるツバキさん。ちょっとレアな表情だけど、そんなこと言ってる場合じゃない。

 念のため手書き書類の記録や、バックアップの記録、ツバキさんのリングの方からも検索をかけて調べてみても、情報に不備がないことが証明される。

 

 えっと……。

 

「……サイボーグか何かですか? ユウさん」

「……本人には言うなよ。ものすごく悲しそうな顔で笑う」

 

 承りました、と言いながらも、私はちょっと困った。困るしかないですよ、こんなの。

 

 あんまり無茶をしてるという訳では無いのかもしれない。その場合は健康状態の定期健診でドクターストップがかかるのだろうけど、常に動いていること、睡眠時間と食事の時間がちょっと長めなことを除いて、ほとんどが訓練というか……。

 

 苛められるのが好きな人なのかな? とか、失礼ながらちょっと勘繰ってしまう。

 

 ツバキさんもちょっとキツめな人だし、だとしたら相性は良いんだろうけど。

 

 

 

 

 

 そんな風に、ちょっとだけ不埒なことを考えながら、私は第一部隊の任務結果の受領をしていた。

 どーしたもんか、と言わんばかりに困り顔を浮かべるリンドウさん。

 

「指定コアの受領、確認しました。 お疲れ様でした……?」

 

 そして、その背後でインスタントミールをかき込むユウさん。

 

 ラウンジか食堂からか、食事をしながらこの場に駆け付けたという風なその動き。リンドウさんも思わず苦笑いを浮かべた。

 

 咄嗟に手元の端末を動かして、彼のミッション内訳を確認。案の定、また訓練が入っていた……。

 戦場に行かないのに、過労死とかしないだろうか。ちょっと心配になってきた。

 

 部隊の他の、コウタさんやアリサさんたちが何か落ち込んだ風なのに、彼一人だけ目が輝いてるというか、何かに燃えているというか。

 

 その割に、妙に「焦っている」ように感じるのが、どこか歪というか。

 

「……あの、ユウって昔外から来たって」

 

 彼が走り去った後、コウタさんがリンドウさんにそう言った。

 見送った時の苦笑いと違い、その表情は優れない。

 

「元気に振舞ってましたけど、『さっきの人達』のこと……」

「外から……」

「……じゃあ、両方知ってるって訳か。通りで」

 

「そういう所だろう、ここは。

 アンタらだって、ここに来る前は外で生きて来たんだろ」

 

 ソーマさんがサクヤさんとリンドウさんに言った。

 リンドウさんは、少し間を置いてから続けた。

 

「……ソーマ。

 外で生き延びるってことがどういうことか。お前に分かるか?」

「……」

 

 以前、リンドウさんが食事の席で、私達に話してくれたことがある。

 

 

 祈るくらしか、出来ることがない。それこそ、アラガミじゃない神様に対して。

 結果的に大半は死ぬんだから、全くもって笑えない。

 

 

 仕事がないアナグラとはまた別な理由から、外は外で生き抜くには難しくて。

 

 時折配給物資が流れることがあり、それで食いつなげるかどうかというところだと。

 

 ソーマさんは、視線を逸らした後エレベータへ向かう。

 

「……Если так(だったら), то почему(なんで) так много(あんなに) ……」

 

 アリサさんが、ロシア語? を口走った。

 生憎とそちらは分からなかったけど、視線はユウさんの行った先を追っていた。

 

 

 

 

 

 

 

    ※

 

 

 

 

 

「ひ、ひ、ヒバリちゃん、この後暇だったら俺と――」

「あ、済みません。訓練ミッションのオペレーティングが……」

「ぐ、ぐはぁッ!」

 

 何かの液体を吹き出しながら、タツミさんがその場に倒れた。

 おろおろとしてると、ブレンダンさんが「すまん」と言いながら、タツミさんを背負って運んで行った。

 

「……博士も何てもの飲ませんだ、全く」

 

 何か不穏な台詞が聞こえた気がしたけど、榊博士が関わった飲食物は限りなく無視するべしというのが、ここの鉄則だった。

 

「相変わらず大変そうね」

「あ、ジーナさん……」

「はい。これ整備班から頼まれてた素材」

 

 受け取りながら、私はデータを更新する。

 

 端末の扱いは慣れたもの。ヒトに見られてても能率が落ちることはない。

 

「……さっき訓練って言ってたけど、新人?」

「あ、はい」

「でも二人とも、もう部隊に配属されてたんじゃなかったかしら」

「それが、色々ありまして……」

 

 細かい部分については表向き情報封鎖されているので、私も多くは話せない。

 なので、もっともっと訓練に取り組んでいる新人が一人居る、という程度に情報を留めておいた。

 

 私の話を聞くと、ジーナさんは端末を覗きこんでくる。

 

「あの、一応規則で……」

「わかってる。でも、なんだか興味引くじゃない。付いて行って良い?」

 

 結局、この話は私でサポートできない分のアドバイスを、ということで決着した。

 訓練室へ向かいながら、ジーナさんはユウさんについて色々聞いてきた。

 

「お人よしなのか、あるいは別な何かなのか。

 ……どっちにせよ、ツバキさんに気に入られてるのは間違いないみたいね」

「それは、そうかもしれませんね」

 

 少なくとも、こうして彼のフォローまで考えたりしているのだから、それなりに期待はしてるんだと思う。

 

 新型だということを差し引いても、色々と手回しが良いというか、面倒見が良いというか。

 

「えっと……」

 

 訓練室の前で、暗証番号、パスカードを通して扉を開く。

 訓練室をメインに働いている職員さん達に挨拶をして、デッキの中央へ。

 

 専用のインカムを手に取って……、あ、これツバキさんが使ってるやつだ。大きさ全然違う。

 

「……これで、はまるかな? よし、大丈夫」

 

 窓ガラスから見下ろすと、ユウさんは神機を丁度取り出したところだった。

 リッカさんが前に話していた、神機の変形機構を更に榊博士と一緒に(悪ノリして)改造した一振り。ギターのようなそれを優しく撫でながら、彼は微笑んでこちらを見上げた。

 

「聞こえますか? ユウさん」

『――聞こえます。今日はヒバリさんですか?』

 

 あれ、こんなにこの人って私としゃべれたっけ。

 ちょっと疑問に思いながらも、私は話を続けた。

 

「ツバキさんから聞いていると思いますけど、本日は向こうの都合が合わなかったらしいので、私が監督をつとめます。あちらほど難しい感じにはしないと思うので、少し気を楽にしてください」

『――教本は一応常駐戦陣ってなってましたので、まあ、それなりに抜きます』

 

 なんですかそれ、と私は笑う。

 

 ……普通に会話できてるんだけど、なんだか違和感があるのが不思議だった。

 

「はぁい。ちょっと良いかしら」

『――えっと……?』

「ジーナよ。防衛班第三部隊所属。ヒバリで足りない分は私がアドバイスとかするから、今日はよろしくね」

『――はい。よろしくお願いします』

 

 やっぱり変だ。

 初対面のはずのジーナさん相手に、こういう反応を彼はしない。

 

 普段私相手にあれだけ話し辛そうにしてるんだから、ジーナさん限定でこうなってる、というのは少し違うと思う。

 

『――ヒバリさん、どうしました?』

「……何でもありません。えっと、じゃあ訓練を――」

『――あ、その前に。あんまりスカートで前に出ると、見えちゃいますよ?』

 

 一瞬、彼が何を言ってるかわからなかった。

 

 気付いた瞬間、思わず背後に数歩下がった。

 ほっとしたような、同時に何か悪戯でも成功したような、そんな表情を浮かべていた。

 

 完全に普段と別人なその表情に呆気にとられて、しばらく私は動けなかった。

 

『――あの、本当に大丈夫ですか?』

「……大丈夫です。あと見てませんよね?」

『――』

「答えてください、ユウさん」

 

 くすくすと、背後でジーナさんが口を押さえて笑った。

 

「……じゃあ、訓練を始めます」

『―― あ、ハイ』

 

 困ったように私から顔をそらす彼を見つつ、思わず私がスカートを押さえてしまったのは仕方ないと思う。

 

 

 

 

 

 

    ※

  

 

 

 

 

「……」

 

 言葉が出ない。

 ユウさんの訓練風景は、色々な意味で常軌を逸していた。

 

 訓練開始の際、ホログラフィックが展開された時に彼は私に言った。

 

『――あ、音質は最高レベル、立体音響でお願いします。いつもそれでやってるんで』

 

 わざわざそんなことを言ってきた理由が良く分からなかったけど、その指示通りに調整してもらう。

 専属の彼等が、何とも言えない表情を浮かべていたのが気がかりだったけど、それでも物は試しとばかりに。

 

 そしたら、こうなった。

 

 

 

 ユウさんは、両目を閉じた。

 

 

 

 突然の暴挙に、呆気にとられる私。

 ジーナさんも、これには窓に乗り出す。

 

 その状態のまま、ユウさんは襲いかかってくるオウガテイル相手に、神機をばんばん振り回し、当てていた。

 

 何が怖いかと言えば、前方どころか背後にさえ目がついてるんじゃないかってくらい、適確にオウガテイルの顎を切り裂いていくところが。

 

「……いつも、こうなんですか?」

 

 私の質問に、データのコフィングを管理している職員さんが苦笑いで頷いた。

 何でも、元々耳が良いからということで、それをより攻撃的に鍛えようという方針でやっているらしい。

 

 いくら訓練でも、それをやるというのは正気の沙汰なんだろうか。

 

「……苛烈ね」

 

 そして戦い方が、一番驚かされた。

 リンドウさんやサクヤさんから聞いていたものとは違う。部隊メンバーとしての堅実なそれではなく、もっとこう、徹底的に、周囲に寄ってくるアラガミも遠方のアラガミも、容赦なく神機で掻っ捌いて行く。

 

 攻撃を交わすのだって、眼を閉じたままだからギリギリなのに。

 

 開いた胸元を押さえるジーナさん。その表情に僅かに喜悦が浮かんでいたのは、私の気のせいだと思いたい。

 

「いいわ。中々、共感できる」

「じ、ジーナさん?」

 

 気のせいだと信じたい。

 

「超近距離で狙撃をするなら、精度よりも範囲攻撃をした方が効果的よ」

『――はい』

 

 そしてユウさんも、それに当たり前のように応えて行く。

 眼を閉じて、今でも神機を振り回しつつ攻撃を避けてるのに、その返答は軽い。

 

 今出切っているオウガテイル全てを掃討した時点で、インターバル。眼を開けて額の汗を拭う。

 

 私は思わず、ユウさんに聞いた。

 

「……もしかしてですけど、ユウさんて戦ってる時、性格変わります?」

『――へ? あ、あはは……、多少あると思います』

 

 この普通にハキハキとした受け答え。普段のユウさんしか知らない相手だったら、誰? っていうレベルだと思う。

 

『――何かこう、戦ってる時は色々忘れられるというか』

「忘れられる?」

『――うん。重圧というか、何というか……。

 ともかく、少しだけ解放される、的な? 学校で先生がいる時はクラスが静かなんだけど、居なくなるとドっと五月蝿くなる、みたいな』

「その例え、どうなんですか……」

 

 何でこう、微妙に笑いを取りに来るのか、この人。

 いや、ポジティブに考えれば結構余裕があるということなのかもしれない。

 

「もう訓練しなくても大丈夫だと思うくらいなんですけど、どうなんでしょうか」

『――んん、実戦だとここまで上手く行かないしなぁ……。

 ソングバードだって、ほら』

 

 神機を変形させるユウさん。

 私の目から見れば、あれよあれよという間に姿形が変わってるくらいなのだけど、彼はどうもお気に召さないらしい。

 

『――これ、変形タイムが0.5秒前後なんですよね。微妙に安定してないっていうか』

「はぁ」

『――で確か、アリサの変形タイムが0.2秒ジャストだという』

 

 そこが駄目なんでしょうか。

 

『――実際、アリサがザイゴートとかと戦っている時の動きを見てると、あれくらい変形速度が早い方が、僕も色々応用が利くかなって。

 ソングバードの場合、弦を使って変形途中でも銃撃が出来るんですけど、逆は無理じゃないですか』

「そう、ですね……」

 

 訓練の際の動きを思い出すと、確かにその部分で少し動きが鈍いところがあった。受け流しを無理やりしていたけど、毎回そのタイミングでピンチになっていたのも事実。

 

『――昔、せんせい(ヽヽヽヽ)に言われたんですけど、やっぱり基礎的な部分は繰り返して慣れないと、いざって時に失敗するからって。だから今は、万全を喫したいと思います』

「……どうして、無茶なスケジュールまで組んでですか?」

 

 私の問に、彼は、一瞬無表情になり。

 

『―― ……二日くらい前、ミッション帰りに難民の一団と遭遇したんですよ』

 

 それでも話しながら、ユウさんは微笑んだ。

 

『――受け入れにかなり無理があるってのは、実体験もあるんで知ってたんですけど、そこをどうにかできる権力とかが、ゴッドイーターってだけじゃなかったっていうのが、結構びっくりしました』

 

 詳しい話を聞いて、私も顔が曇る。実際問題、あんまり気分が良い話じゃない。

 だからあの日、彼と同じ部隊の人達は暗い顔をしていたのだろう。

 

 ただ、だからこそと彼は続ける。

 

『――エイジスが完成すれば、そんな人達でも受け入れられるんですよね、きっと』

 

 エイジス計画で収容できる人数は、全人類と言われている。それは支部だけじゃない。今後増えるだろう人数含めての仮定の話なのだから、少なくともその収容人数は、フェンリルが把握している人数の倍で効かないくらいだと思う。

 

『――だったら、やることは一つ』

 

 辛かったり、悲しんだり、してる暇なんて僕らにはない。

 

『――少しでも可能性があるのなら、それに僕は賭けたいと思います』

 

 ふっと優しく微笑むユウさん。それは慈愛に満ちていて、見る人を安心させるものだ。

 でも、だったらどうして――。

 

 ジーナさんは、インカムを外して部屋を出た。

 

「……私が教える必要は、ないみたい」

 

 その言葉が何を意味しているのか、私には把握し辛いところ。精神面でのことか、実力面でのことか。

 ただ、そうであるのなら。

 

 オウガテイルの次に、コンゴウが連帯で出現し始め、ユウさんはソングバードを構える。

 

 今度は流石に眼を開いていたのは、腕の太さとかが把握し辛いからか。

 

 

 神機を使い、コンゴウの頭を割る彼を見て、私は、呟かずにはいられない。

 

 

 

 

「――だったらどうして、ユウさんは、そんな顔してるんですか」

 

 

 

 ユウさんは、笑っていた。

 口元だけは。

 

 

 その両目からは、涙が止まってなかった。

 

 心底優しそうに、安心させるような微笑を浮かべながら。

 その実、アラガミを屠りながらも全くその「張り付いたような」表情を崩さず、泣き続ける。

 ひょっとしたら、その涙は本人も気付いていないのかもしれないけど――。

 

 気が付けば、私は彼の動きから完全に眼を放せなくなっていた。

 

 

 

  

 

 

 深夜。

 自分のデスクでデータの整理をしていると、ツバキさんが缶の飲み物を持って来てくれた。

 

「どうだ、捗っているか?」

「あ、ツバキさん。……仕事の方は、ぼちぼちです」

 

 ツバキさんも疲れているのか、服装がいつもより薄い、特に胸元。男性が見たら釘付け間違いなしというくらいに、鎖骨のあたりからぐっと開いていた。

 

「ユウのことか?」

「……あんな訓練は、初めて見ました」

 

 眼を閉じていたり、時には片手だけで神機を振るったり。

 

 あの後、色々なパターンを想定して神機を振り回していたユウさん。

 その様は、終始笑顔だったのに、どこか――。

 

「……あんなに、鬼気迫ってるのは、なんでなのかなって」

 

 私の言葉に、ツバキさんは苦笑いをして一口。

 

「古くは、人に歴史有りと言う。

 お前にもお前の理由があって今この場に居るわけだ。私やリンドウも、サクヤも、ソーマもな」

「……」

「あの子……、オホン、あいつもあいつなりに、理由があってゴッドイーターになった。そういうことだろ」

 

 ツバキさんの言ってることはわかる。頭では分かってるし、今更な話でもあった。

 

 でも、だからこそ。

 

 

「……あんなに生き急いでたら、なんか、急に死んじゃいそうで、怖いんです」

 

 

 そんなものを、見慣れたくなんてないのだから。

 

 リッカさんとも良く話すことだけど、それだけは、後方に居る私達に共通した想いだから。

 

 

 私はユウさんの、ゴッドイーターの給金が、どこに振り込まれてるかを知ってる。

 実にその、半分以上が孤児院などに寄付金とされていた。

 

 食べ物を多く買ったり、趣味に使ったりというのが普通なのに。

 

 そんな在り方は――まるで、ゴッドイーターの模範のようじゃないだろうか。

 

 それは、それそのものを人間に当てはめるのは、酷く歪な生き方なんじゃないだろうか。

 

 

 胸にそんなわだかまりを抱きながら、私は缶を空ける。

 

 

 味はまるで今の私のように、苦くて、酸っぱかった。

 

 

 

 

 

 




基礎スペックはチートだけど、一応努力してるよー的なお話
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