学園生活部と一人のオジサン   作:倉敷

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何とか書き終ったけど、これ終わるのだろうか。
時間がなくて書き進めるのは遅れそうだけれど、完結はさせたいと思う。
あとアニメ見ていたら、モールから書き始めるのも面白そうだなあと思いました。
いつか息抜きにオジサンinショッピングモールを書くかもしれない。


ひるごはん

 わたしは学校が好きだ。そう言ったらみんなは変だって言うかもしれない。もうここは学校じゃないよって。だって今の学校は教室だって汚れちゃってるし、帰ることも出来ないし、校庭だって荒れちゃってる。それに、先生も生徒も全然いないんだもん。でも、わたしは今の学校が好きなんだ。その中でも、学園生活部は大好き。みんな仲良く楽しい。めぐねえもいるし、りーさん、くるみちゃん、オジサン、それに今日、みーくんが入った。

 

 あれ、入部はしてないんだっけ?

 

 そう思って、わたしは隣にいるみーくんを見る。学校の中を案内していたけど、オジサンがほとんど見せてしまっていたみたいで、どこを見せても反応が薄くてちょっと悲しかった。そんなみーくんを、まだ見せてないと思う屋上に連れてきたんだけど、「菜園まであるんですね」と言っただけで、やっぱり反応は薄かった。わたしが騒ぎ過ぎてるだけなのかな。

 

「ねえねえ、みーくん」

 

「……何です、ゆき先輩」

 

 みーくんはわたしのことを先輩と呼んでくれる。今までそう呼んでくれる人なんていなかったから、嬉しくて、嬉しくて。初めて言われた時は舞い上がっちゃった。何度ももう一回言ってと繰り返しちゃって、呆れられてため息を吐かれた。反省。もう言わないようにしよう。

 

「みーくんは入部するの?」

 

「……分かりません」

 

「えー」

 

 わたしが不満の声を上げると、みーくんは手すりに体重を預けて校庭を見下ろした。わたしも同じようにしようと思ったけど、怖くて下は見られなかった。どうしよう、と視線を彷徨わせて、空で止まった。そこを見れば、どこまでも広がっている綺麗な青があった。気分が良くなる清々しい日だ。今日も良いことがある気がした。

 

「楽しそうではありますけどね」

 

 そう言ったみーくんの顔は、わたしの場所から見えなくて分からないけど、何となく笑ってるような気がして。それで、私の頬は緩む。そしたらちょうど、みーくんがこっちを向いた。

 

「何で笑ってるんですか」

 

 みーくんは微妙な表情をしていた。笑っていてくれればいいのに。

 

「みーくんは可愛いなぁと思って」

 

「……いい加減慣れました」

 

「そんなみーくんも可愛いよ!」

 

「はいはい、もう戻りましょう」

 

 みーくんは私の横を通り過ぎて、去って行ってしまった。怒らせちゃったかな。そう不安になったけど、みーくんはわたしを置いていくことはなくて、屋上から出ないでちゃんと止まってくれた。わたしは小走りで追って、一緒に屋上を出た。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

 眠りから覚めたオジサンがしばしの間中空を見つめていると、体が空腹を訴え始めた。自分の腹時計にそこそこの信頼を置くオジサンは、生徒会室で昼飯の時間だろうと起き上がる。だが、まだ素早く起き上がることは出来なかった。

 

「それにしても……何だったのかねえ」

 

 今は落ち着いたが、未だにあの喪失感のようなものの正体は分からない。夢が関係しているのだろうが、起きてしまった今では何も覚えていなかった。オジサンは何なのかを探る当てもなく、しこりが残るようで気持ちが悪かった。

 

「……」

 

 気分は乗らなかったが、自分が暗い顔をしていれば皆に心配をかけてしまう。人目がある時くらいは明るい、いつも通りの姿で行こうと決めた。これは自分の問題なのだから、他人に迷惑をかけることは出来ない、と。

 

 職員更衣室から出たオジサンは、雰囲気がガラッと変わっていた。先ほどまでの暗さはなくなり、顔には笑顔が浮かんでいる。普段通りの、オジサンだ。あとは猫背さえあれば完璧だった。しかし、それも長くはもたない。笑顔はすぐに剥がれ落ちた。普段通りを意識するほど、そう出来なくなっていった。

 

「……はあ。こんなことになってるのも、全部腰が痛いせいなんだ。早く治らないかなあ」

 

 思えば、こうなってから無駄に考えることが多くなってしまった気がする。その前から考えるときはあったが、胸に残るほど深く考え込んだことはない。そう、そうだよ、とオジサンは何もかもを腰の痛みが悪いことにして、開き直ることにした。何も考えないようにした。

 

 こつ、こつ、こつ、とオジサンの靴の音が廊下に響く。もう丈槍の校内案内は終わったのだろうか。廊下は静けさに包まれていた。まるで誰もいないみたいだ。自分が一人、ここで生きている。そう思ってしまって、オジサンは頭を振った。自分に苛立ちを覚えた。煮え切らない自分が嫌いだと、今日ほど感じた時はない。

 

「ああ、もう……」

 

 くそっ、と吐き捨てるように言った。それでも胸の苛立ちは収まらない。オジサンは歩くペースを遅くした。こんな姿のままでは、皆のところになんか行けない。オジサンは周りを見て気分を晴らそうとしたが、何を見ても駄目だった。教室を見れば惨状が思い浮かび、窓の外を見てみれば蠢くゾンビばかり。空は雲一つなく綺麗な青空だったが、どうしてか、それでも気分は変わらなかった。

 

 行きたくないとは思いつつも、歩いていればいつかは着く。オジサンの視線の先には、もう生徒会室があった。オジサンは自分の頬を、赤い跡が残らないように叩いた。そして何度か深呼吸をする。吐く息は震えていた。

 

「……ふう」

 

 オジサンは柄にもなく緊張しているのを自覚した。生徒会室の扉の前で開けるのを何度か躊躇った後、意を決して静かに開いた。そこには皆がいた。思い思いに過ごしているようだった。中でも丈槍と直樹は仲良くなったようで、近い距離で話していた。丈槍が抱き付いている様子からして、直樹に懐いていると見えなくもない。

 

 オジサンは中に入り、仲良くなれたのかな、と思って二人を見ていると、丈槍と目が合った。

 

「あ! めぐねえにりーさん、オジサンが来たよ」

 

「はーい」

 

「あら、ちょうどよかった。じゃあお昼にしましょう。オジサンさん、椅子に座れますか?」

 

 奥で昼食を作っていたらしいエプロン姿の佐倉は、オジサンにそう言いながら余っている椅子を持ってきた。そしてオジサンに一番近い場所にそれを置く。

 

「うん、まあ、たぶん」

 

 曖昧な返事だった。何とか室内に入ったものの、自分は普段通りにやれているかが気になってしまい、それどころではなかった。ただ、まだ腰が痛くなってから椅子に座ったことがなかった、と言うのも理由に挙げられるのかもしれない。

 

 その言葉を聞いて佐倉は心配そうにしながらも、料理を持ってくるためか奥に戻って行った。奥と言ってもそれほど広くはないので、見える位置にはいる。そこには佐倉と同じようにエプロンを着た若狭の姿があった。鍋から湯気が立っているから、何か煮ているのだろうか。

 

「肩貸そうか?」

 

 オジサンの近くの椅子に座ってシャベルを磨いていた恵飛須沢が、シャベルを置いてそう聞いた。

 

「いや、一人で大丈夫、だと思う」

 

 あまり屈まないようにすれば大丈夫なはず、として上を見上げ、背筋を伸ばすようにして座った。すると意外にも痛みを殆ど感じない。オジサンはほっと息をつく。これなら大丈夫そうだ。

 

「座れてよかった……」

 

「痛くなったらすぐ言えよ?」

 

「そうさせてもらうよ」

 

 オジサンは自然と笑顔になった。人と話していると、考え込むことはなくなったのだ。

 

「あの、大丈夫なんですか?」

 

 先ほどまで丈槍と話していた直樹がそう聞いてきた。丈槍は運ぶのを手伝いに行ったようだ。先ほどまで座っていた場所にその姿はなかった。

 

「大丈夫だよ。ご飯食べて寝てれば治るからさ」

 

「あまり無理をしないでください。無理をさせてしまった私が言うのもなんですけど……」

 

「そうだぞオジサン。我慢すんなよ?」

 

「そんなに言わなくても分かってるよ。そこまで子供じゃないって」

 

 オジサンが何の気なしにそう言うと、直樹はくすっ、と笑った。

 

「でも子供っぽいですよね」

 

「うっ、ま、まあそうなんだけど……」

 

「ふふ、嬉しくないんですか?」

 

「あはは……なかなかやるねえ、君」

 

 直樹は楽しそうな笑みを浮かべて言ってくる。オジサンはつい最近直樹とした会話を思い出して、言い返せないなあと諦めて苦笑した。子供っぽいと言われて嬉しい時もあるけれど、嬉しくない時もあるようです。オジサンは一つ学んだのだった。

 

「なんだよー。二人だけで分かり合っちゃってさー」

 

 恵飛須沢は拗ねたようで、そっぽを向いていた。

 

「分かり合ってると言うか……いじられてるって方が合ってるんじゃないかなあ、これ」

 

「そんなんじゃありませんよ、先輩」

 

「せ、先輩?」

 

 直樹はふいに、オジサンのことをそう呼んだ。

 

「あ、駄目でしたか?」

 

「べ、別に駄目なわけじゃないけど……何で先輩?」

 

「オジサンに先輩は合わないだろ」

 

 そっぽを向いていた恵飛須沢は視線だけをオジサンたちに向けて言った。オジサンも同じ思いのようで、うんうんと頷いている。

 

「他の人みたいにオジサンと呼ぶのも気が引けますし、かと言って他の言い方も思いつきませんから。この部活の先輩と言う意味で言ったんですが……止めた方がいいでしょうか?」

 

「い、いや、良いんじゃないかな、うん」

 

 先輩と言う言葉の響きに、オジサンは引っ掛かりを覚えた。ついさっき、聞いた気がした。もやもやする。もう少しで思い出せそうなのに、その少しが出てこない。オジサンはその間、ぼーっとしてしまった。直樹と恵飛須沢の二人は心配そうにそんなオジサンを見ている。その視線に気づいたオジサンは、慌てて口を開いた。

 

「せ、先輩って言われたのが懐かしくてね。ちょっと思い出に浸っていたと言うか」

 

 あはは、とオジサンはそう弁解した。二人は生暖かい目で見守っている。深く聞かれなかったからいいんだけど、何だろう表しにくいこの気持ち。腑に落ちないオジサンだったが、どうにか話題を変えようと視線を泳がせると、皿を持った若狭が目に入った。

 

「あ、りーちゃん。もう出来たのかな?」

 

「ええ、今日はスパゲティよ。オジサンの分は大盛りだから楽しみにしててね」

 

「いいのかい? 嬉しいけどみんなに悪い気もするなあ」

 

「いいじゃないですか。オジサンさん、頑張りましたから」

 

 若狭の後ろから佐倉も歩いてきた。その隣には丈槍がフォークを持っている。

 

「そうだよ。頑張ったご褒美ってやつだね!」

 

「ご褒美かあ。じゃあ、ありがたく受け取らせていただきますか」

 

 机に料理が並べられる。ミートソーススパゲティは出来たてで、湯気が立っていた。おいしそうだ、オジサンは思う。料理を見ると余計に腹が減ってきた。

 

「みんなの分はある? じゃあ、手を合わせて」

 

 全員に行き渡ったことを確認し、椅子に座った佐倉は掌を合わせた。他の皆も同じようにする。

 

「いただきます」

 

 特別合わせようと意識したわけではなかったが、そう言ったのはほぼ同時だった。そして食べ始める。

 

 そこでは皆が楽しそうで、幸せそうで、この後もこれが続けばいいと願わずにはいられないような光景だ。オジサンはミートソースで口の周りを汚す丈槍を見て笑ったり、本当に美味しそうに食べる直樹を見て笑ったり、何だか笑ってばかりだった。

 

 でも、内心考えていた。

 

 今は、いつまで続くのか。

 

 全てが終わってしまう前に、自分も覚悟を決めなければならない、と。

 

 学園生活部、満腹。

 

 

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