学園生活部と一人のオジサン   作:倉敷

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そら

「あれ、風船? 二十倍って凄いねえ」

 

 購買部から物資を確保して数日経って、オジサンは一人部室である生徒会室で物資の仕分けをしていると、その中からこの場に似つかわしくないものを見つけた。風船の包装には『二十倍ふくらむ!』と書かれている。オジサンは誰が持ってきたのかねえ、とその風船を持ち上げた。

 

「うん、まあ面白そうだから後でみんなに見せようか」

 

 そう決めたオジサンは風船を自分の近くに置き、仕分けを再開した。まあ、仕分けと言っても難しいことはなく、食べられる物はこっちの箱、食べられないものはそっちの箱、と非常に単純な作業である。

 

「ええと、うんまい棒は食べられるもの、と……おお、どんどん出て来るねえ」

 

 うんまい棒が一本見つかると、その下にもうんまい棒、その下にもうんまい棒、と増えていった。ゆきちゃんが持ってきたんだろうなあ、とオジサンは納得した。数えてみると、うんまい棒は合計十五本あった。以前あれだけ食べた後にこれだけ残っているのだから、本当にたくさん持ってきたようだ。購買部によくそんなにあったものである。誰か販売数を増やしてくれとでも言っていたのかもしれない。

 

「これはレトルトカレーだから食べられるし、あ、これはシャンプーだから食べられないね」

 

 そんな風に作業を続けていると、十分ほどで終わった。オジサンの仕事はこれで終わりである。これを細かくしっかりと管理するのが若狭の仕事であった。

 

 ちょうどオジサンの仕事が終わったころ、扉が開かれた。

 

「今日は晴れてよかったわね」

 

「うん、これならさっぱり乾くね」

 

「雨が続くと洗濯物が生乾きで気持ち悪いもんな」

 

「そうよね。着るものによって気分て変わるもの」

 

 ちょうど屋上に洗濯物を干しに行っていた彼女たちも戻って来た。全員がいることを確認したオジサンは、風船をみんなに見せることにした。

 

「お疲れ様。オジサンの方も終わったよ。その中でこんなの見つけたんだけどさ」

 

 言いながら風船を摘み上げた。

 

「風船?」

 

「ゆきが持ってきたのか?」

 

「わたしじゃないよ?」

 

「あ、それ私が持ってきたんですよ」

 

「おや、佐倉先生だったんだ」

 

 オジサンはまた風船を置いた。

 

「めぐねえ、風船をどうするの?」

 

 丈槍が不思議そうに訊ねる。恵飛須沢と若狭は気付いたようで表情を変えたが、オジサンは丈槍と同じように不思議そうにしていた。オジサンとしては、目的とかそんな大それたものではなく、皆で楽しく遊ぶとかその程度のものだと考えていたのだ。

 

「ただ待っていれば助けが来るとも限らないでしょう? 外の人に私たちはここに居ますって、知られないといけないと思うの。だからこの風船に手紙をくっつけて飛ばそうと思うのよ。どうかしら?」

 

「さすがめぐねえ、目の付け所が違うね。でも手紙って言ったら伝書鳩だよな!」

 

 恵飛須沢は目を輝かせながら言った。

 

「おお、いいねえ、伝書鳩。何か風情がある気がするよ」

 

「それなら準備をしないとね。確か理科室にヘリウムガスがあったと思うから、くるみはそれを持ってきてくれる? オジサンは鳩ね」

 

「りょーかい、ちょっくら取りに行ってくる」

 

「じゃあ、オジサンも頑張って来るよ。一時は鳩と一緒に生きようと思ったこともあるからね。なんとかなる気がする」

 

 オジサンと恵飛須沢はともに生徒会室を出ていった。

 

「わたしは何すればいいの?」

 

「三人で一緒に手紙を書きましょう? 佐倉先生は地図帳でこの場所がどこにあるか調べてもらえますか?」

 

「はーい! よーし、すごいの書くよ!」

 

 丈槍は気合十分であった。

 

「分かったわ。……こういうのって顧問が言うべきよね……ごめんね、頼りない先生で……」

 

 若狭のリーダーぶりに、佐倉は自分の不甲斐なさを感じてしまい落ち込んでしまった。

 

「そんなことないですよ。佐倉先生が風船を持ってきていなかったら、こうやってはいませんから。だから、佐倉先生のおかげです。落ち込まないでください」

 

「そうだよ、めぐねえは良い先生だよ。めぐねえがいなかったらこの部もないもん!」

 

 二人の励ましに佐倉は持ち直したようである。落ち込んでいたのが嘘のような笑顔で地図帳を開いた。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

「オジサンには驚かされたぜ、まさか何も使わないで鳩を捕まえるなんてさ」

 

「座ってたら勝手によって来てねえ。そのまま捕まえられたんだよ」

 

 無事準備が終わった面々は屋上に集まっていた。各自、自分が書いた手紙がくっつけられた風船を二つずつ持ち、オジサンと恵飛須沢は捕まえた鳩に手紙をくっつけていた。籠も何も用意していないのだが、鳩は全く逃げようとはしていなかった。

 

「よし、こんな感じでいいかな」

 

「何かそれっぽくていいじゃん」

 

 鳩の足に手紙を括り付けた二人は、満足げに頷いた。

 

「じゃあ、二人ともいいかしら? みんなで一緒に飛ばしましょ? せーの、一、二の、三!」

 

 佐倉の合図で皆が手を離すと、風船は大空に浮かんでいき、鳩は気持ちよさそうに飛び立った。

 

「誰かに届くかなー」

 

「ゆきちゃん、一生懸命書いてたものね」

 

「届くわよ、きっと」

 

 高く、高く浮かび、そして風に流されていく風船を眺めて、丈槍と佐倉、若狭は希望を込めて言う。

 

「なあ、オジサンは手紙に何て書いたんだ?」

 

「特別なことは何も書いてないよ? ただ、オジサンたちはここで生活してるから、助けに来れる人は助けに来てくださーいって」

 

「助けに、来てくれるのかな」

 

 恵飛須沢とオジサンは大空に羽ばたき、遠くに行ってしまった鳩を眺めていた。

 

「さあ、オジサンには分からないなあ」

 

「はは、そこは嘘でも来るよって言えばかっこよかったのに」

 

 オジサンの素直な物言いに、恵飛須沢は思わず笑っていた。

 

「あ、そう? あはは、オジサンにかっこよさが求められたのは随分と前だから、そんな対応できなくなってるねえ」

 

 オジサンは太陽の光に目を細めながら、どこまでも行く鳩の姿を追っていく。出来ることなら、自分たちが同じように、自由に外の世界に羽ばたけるようになればいいと思いながら。

 

 学園生活部、未来に向けて前進中。

 

 

 




次回、次回にはゾンビが出るはず。
あとそろそろもう一人の子も出したいので、外に行くかもしれない。
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