彼に似た星空   作:おかぴ1129

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13.花火

 普段は反物から浴衣を仕上げているらしいが、今日ばかりはさすがに間に合わないと判断したらしく、服屋さんは、すでに仕立てられていたものを準備してくれた。霧島が選んだものは、古式ゆかしい王道の紺の浴衣。一方の鈴谷は、ピンクの模様が入った、明るく今風ながらも古き良き和の雰囲気を壊さないものを選んでいた。

 

「お姉様見て下さい見て下さい!! どうですか? 似合ってますか??」

「霧島〜よく似合ってマース!」

「鈴谷はどお? どお?」

「鈴谷もそれでケツがどうとか言わなかったらとってもカワイイデース!!」

「今日はケツ痛くないから大丈夫だよ!!」

「だからそれをやめるネ……」

 

 鈴谷は浴衣に着替えるのにあわせ、服屋さんが好意で鈴谷の髪をあげ、うなじを見せる髪型にセットしてくれた。おかげでとても浴衣がよく似合っている。

 

「オーケー! これでジャパニーズ花火を楽しむ準備も整ったネー!!」

「では会場に行きましょうお姉様!!」

「オー!!」

 

 私達は一旦車で旅館に戻り、着替えた服を旅館に置いて再度花火会場に向かった。花火会場はこの近くにある高原の、小高い丘の上。私たちは丘のふもとまで車で向かい、そこからは木々に囲まれた山道を歩くことにした。

 

 カランコロンと小気味良い音を鳴らし、霧島と鈴谷は歩く。私は普通のサンダルを履いているため、そんな風情ある音は出ない。もし提督が、私が浴衣を着た時に『似合ってる』と言ってくれていれば、私も一緒に浴衣を着てカランコロンと音を鳴らしながら歩くことが出来たのに…とちょっと不満に思った。そんなことを考えながら、暗くなってきた山道を歩いた。

 

 山道は、道自体は舗装されているため歩きやすいが、いかんせん街灯がなく周囲が暗い。

 

「霧島〜…暗いネ〜……なんとかして下サーイ……」

「無理ですよお姉様」

 

当たり前だし分かりきったことだが、わがままをここまで一刀両断されてしまうとなんだかシャクだ。

 

「鈴谷ー夜偵を飛ばすネー」

「鈴谷は瑞雲専門だし、そもそも今は持ってないよー」

「万事休すネー……」

「まー慣れるしかないっしょ」

 

そんなくだらない駄話を続けていると、急に視界が開けた。どうやら会場の丘に着いたようだ。

 

「鈴谷ちゃーん!!」

「あ! おばあちゃーん!!」

 

鈴谷は声がした方を向き、その方向に走っていった。鈴谷に声をかけたのは、昨日鈴谷の負傷したケツにさらなる追い打ちをかけていたおばあちゃんだ。

 

「鈴谷ちゃんにここでも会えると思わんかったが!!」

「鈴谷はね! 会えると思ってたよ!!」

「そげなこつ思ってくれておばあちゃんうれしかね〜……ぐすっ」

「おばあちゃん泣かないの〜」

 

昨日の今日だというのに、鈴谷はあのおばあちゃんともう仲良くなったみたいだ。二人はしばらく話をしたあと、鈴谷が誇らしげに胸を張って帰ってきた。

 

「ふっふーん……」

「おかえり鈴谷〜」

「誇らしげに帰ってきてどうしたんデース?」

「鈴谷ね〜。おばあちゃんからちょっといい情報仕入れてきたよ!!」

 

ふんす! とでも言いたげなドヤ顔の鈴谷。聞けば、鈴谷はおばあちゃんとっておきの花火絶景ポイントを教えてもらったそうな。

 

「私たちにそのポイント譲るって! 金剛さん、花火はそこで見よう!!」

「こんぐらっちゅれーしょん! じゃあおばあちゃんたちにお礼を言いに行かなけれバ……!」

「あーもう鈴谷がお礼言っといたよ。おばあちゃん別のポイントに行っちゃった」

「あら…残念でしたねお姉様」

「まーまー気にしなくていいんじゃん? ほら金剛さん! 霧島さんも、早く行こう!!」

 

 鈴谷は待ちきれない子供のように、私と霧島の手を取って、おばあちゃんのポイントまで私達を引っ張っていった。私達は元戦艦のはずなのに、彼女のパワーに抗うことが出来なかった。

 

 鈴谷の案内により、通称『おばあちゃんポイント』に到着した。ちょうど人だかりから離れていて、なおかつ周囲に比べると少し小高くなっている場所だ。地面は芝生になっていた。今は夜だから見えないが、これが昼なら、ここが高原な事もあって、眼下には素晴らしい光景が広がっていたことだろう。

 

「ぐれーいと! いい場所ネー!!」

「ホントだね〜。さすがおばあちゃん……!」

「お二人共。そろそろ始まりますよ」

 

 突如、砲撃にも似た轟音が鳴り響いた。この場所はどうやら花火の打ち上げポイントからだいぶ近い位置らしい。空気がビリビリと震えたのが分かった。その後一筋の光が空を昇っていき、それがはじけて、たくさんの光が私達の頭上に降ってきた。

 

 私は、何度か打ち上げ花火を見たことはあった。あったのだが、私が今まで見てきたものは、すべて私達がいる場所から遠く離れたところで花開くものばかりだった。

 

 ところが今日の花火は違った。今日の花火は本当の意味で、私達の頭上ではじけた。

 

「美しいですねお姉様……」

「so beautiful……」

「ほんと、キレイ……」

 

 続けざまに何発も花火が打ち上げられ、私たちの頭上ではじけた。先ほどから花火を見るために自身の真上を見上げ続けていた私は、フとひらめいた。

 

「……イイこと思いつきまシタ!!」

 

 私はそのまま芝生の上に寝転んだ。私たちの頭の上で花火は輝いていた。だからその花火を見るために、自身の真上を見上げ続けなければならず、その姿勢を維持するのは正直疲れる。首も痛い。だから私はいっそのこと、芝生の上に寝そべり、そのまま光り輝く夜空を見ることにしたのだ。やはり想像通り楽で、リラックスして見られて、しかも視界いっぱいに花火がはじけてキレイだ。

 

「お、おねえさま?」

「この方が楽に見られるし、キレイデース! 二人もやってみるデスネ!!」

「マジで?!」

「で、ですがお姉様…私達は浴衣ですし……」

 

とためらう霧島をよそに鈴谷は……

 

「じゃあ鈴谷も寝転ぼーう! うりゃー!!」

 

と言いながら、勢い良く寝転んだ。

 

「ぉおおおおお!! マジ綺麗!! 金剛さんこれナイス!!」

「でしょー? 霧島も早く寝転ぶネ!!」

「ですが浴衣が……」

「汚れれば洗濯すりゃいいじゃん!! ほら早く寝転ぶ寝転ぶ!!」

 

鈴谷が上半身を持ち上げ、霧島の手を掴んで強引に引っ張った。バランスを崩した霧島はそのまま私のお腹の上に倒れてきた。

 

「ごぶぉッ!!」

「あ、す、すみませんお姉様!!」

「べ、別にいいデース…早く霧島も早く寝転ぶネ…」

「そうだよー。もう寝転んじゃったし!!」

「わ、わかりました…では……」

 

霧島は私のお腹を枕にして寝転んだ。この展開は予想外だ。

 

「ホワッツ? 」

「んーいや、なんとなくです」

「……まぁいいデース」

 

 私たちがごちゃごちゃやっている間も、花火は止まることなく上がり続けていた。音は戦いの時の砲撃とそっくりだった。打ち上がる時の空気の振動も似ていた。だがその音、その響きも心地よかった。空にはたくさんの輝きがはじけ飛んでいた。そしてそれらが輝く軌跡を描きながら、私たちの元に降り注ぐように落ちてきて、その都度消えていった。

 

 ドーン…ドーン…という花火の音と振動は、私の心臓を心地よく揺さぶった。私の胸を締め付け、私の心に溜まっていたものを追い出すかのようだった。花火の輝きは私たちを祝福してくれているようだった。周囲が昼のように明るく輝き、私達を暖かく包み込んでくれた。

 

「霧島……鈴谷……綺麗ネ……」

「お姉様……」

「金剛さん……」

 

私達は、自然と手を繋いでいた。

 

「テートク……今、テートクが言っていた花火を見てマス……霧島と、鈴谷と一緒に……」

 

私は、霧島と鈴谷の手を強く握った。霧島と鈴谷も、強く握り返してくれた。打ち上げるときの音と振動が強すぎて、私の心にひっかかったタガのようなものが外れてしまったようだった。気がついたとき、私は泣いていた。

 

 その後も花火は続いた。私達は、何も言えずに、ずっと花火を見ていた。口を開けば、その分私達を包み込んでくれたこの花火の美しさが損なわれるような気がした。だから私達は、ただ静かに花火の美しさに身を委ねた。

 

―もういいんじゃないか?

 ですよねぇ?

 もう充分です。

 

 花火の音に混じって、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。私はその声が誰の声であるか知っている。私が今、一番会いたい人たちで、一番聞きたい声だ。だが、その人たちに会えないのは、自分が一番よく分かっている。

 

 きっと空耳だろう。花火が打ち上がる度に遠くから聞こえる人々の歓声が、おそらくそう聞こえただけだ。私はそう、自分に言い聞かせた。

 

「お姉様?」

「ハイ? どうしマシタ?」

「……いえ」

 

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