彼に似た星空   作:おかぴ1129

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14.限界

 花火大会が終わった後、私達はあの場所を教えてくれたおばあちゃんに会い、お礼を伝えた。

 

「あんなグッドな場所を教えてくれてありがとうございマース。私は金剛デース!」

「私は霧島です」

「あら! てことはあんたがたも艦娘ね?」

「そうデース。元デスけどネー」

 

その後おばあちゃんとしばらく話した後、私達はおばあちゃんと別れた。別れ間際に『鈴谷ちゃんが喜んでくれたから』と、タッパーに入ったお漬物をくれた。

 

 旅館に戻った後、私達は温泉に入って昼間の汗を流し、自室に戻った。そして今、鈴谷から『今夜は寝かさない』とひどく誤解を招く宣言をされ、おばあちゃんのお漬物をパリパリと食べながらこの地方名産の焼酎『黒霧島』を飲んでいる。

 

「なんか闇堕ちした霧島さんみたいだねぇ。ブラック・キリシマ的な」

 

鈴谷はケラケラと笑いながらそう口走り、霧島からケツに折檻を受けていた。その後、『うまい黒霧島の飲み方』という、今後の人生の糧になるかどうかよくわからないが、確実に厳しいレクチャーを霧島から受けていた。あのスパルタぶりは、往年の神通を彷彿とさせる。

 

「鈴谷、いい?! グラスのかち割り氷に黒霧島を注いだら、そこで一回かき混ぜる! そしてかき混ぜたらかち割り氷を追加して、再び黒霧島!!」

「はいはい…つーかマジ意味不明なんですけど……」

「……またケツに折檻を受けたいのかしら?」

「霧島…マジで怖いからメガネを光らせるのは止めるネー…ドン引きデース……」

 

 霧島の猛烈なシゴキによって創りだされた、鈴谷の恨みつらみケツの苦しみが篭った恐るべき黒霧島は、確かにおすすめの飲み方と言われているだけあって美味しかった。おばあちゃんのお漬物も美味しい。その土地の郷土食を楽しめるのは、旅の楽しさだ。

 

「んん〜……美味しいデース」

「鈴谷も飲んでいい〜?」

「ちょこっとだけデスヨ〜?」

 

鈴谷に、私の黒霧島を少しだけ呑ませてみた。

 

「……おいしい!! 金剛さんこれちょっとマジで美味しいんですけど!!」

「鈴谷は酒飲みの素質があるみたいネー」

「金剛さんは?! 金剛さんはこれおいしい?!」

「美味しいデスヨー。おばあちゃんのお漬物もサイコーね」

「でしょでしょ?! 両方とも鈴谷のおかげですから!! 鈴谷がケツを犠牲にしておばあちゃんから譲り受けたのがお漬物で、霧島さんからケツを叩かれながら作ったのがこのブラック・キリシマですから〜!!」

 

ほっぺたが少し赤くなっている鈴谷が、立ち上がってそう誇らしげに胸を張っている。まさかもう酔ったとでもいうのだろうか。

 

「……鈴谷? もう酔ったデスカー?」

「酔ってないよ? んっふふ〜……いわばこのお漬物と黒霧島は鈴谷のケツなくして存在しなかったのだよ金剛さん!! 鈴谷のケツに感謝するがいい〜!!」

 

この言葉に過剰に反応したのが、同じく黒霧島を飲んでいた霧島だ。今霧島は、鈴谷に目が釘付けになっている。悪い意味で。

 

「鈴谷ァア…生意気なことを言うのは、このケツかぁああ!!」

「アー!! ちょっと待って霧島さんマジ痛い!! ごめんなさい霧島さん霧島さんのおかげですだから叩かないでぇええッ?!!! 痛いしぃィイイッ?!!!」

 

霧島は元艦娘だ。おばあちゃんたちとは比べ物にならないそのパワーで叩かれては、さぞケツも痛かろう。昨日からずっとケツの話も聞いているし、私ももう突っ込む気が失せていたが、鈴谷のケツが限界を迎えつつあるのは事実だ。

 

 気がつくと、鈴谷はケツから煙を吹いて、ケツを上につき上げたようなポーズでうつ伏せに倒れていた。

 

「うう……鈴谷のケツが…マジで死ぬ……」

「鈴谷ァ……私の次の黒霧島作れやゴルァ……」

「霧島さん……人変わりすぎ……」

「ブフッ……き、霧島……そろそろ勘弁してあげて下さい…ブフゥッ」

 

なんだか仲良さそうな二人を見てるのがとても楽しくて、私は吹いてしまった。

 

「少しは気晴らしになりましたか?」

 

霧島は私にそう問いかけた。あまりに突然のシラフな霧島の一言に、私はびっくりした。

 

「霧島?! 酔ってなかったんデスか?!」

「いいえ。ほんのり酔ってますよお姉様。でもやっと、心から笑ってくれたなぁと」

「鈴谷もね、ちょっと気になってたんだよ金剛さんのこと」

 

鈴谷は鈴谷で、先ほどのポーズのまま、ケツが痛そうに苦笑いをしつつこちらに目線をやっていた。

 

「金剛さんが提督とケッコンしてたのは知ってたけど…あの日、比叡さんと榛名さんと金剛さんに何があったのか知らないから…でも元気ないなーってずっと思っててさ」

「二人共…じゃあはしゃいでたのはワザとなんデスカ?」

「いえ。そんなことはないですよ? 鈴谷は?」

「鈴谷もそんなつもりはなかったよ? 好きなように楽しんでただけ。ただ気になってたってのはホントだし、元気出してもらいたいなーって思ってたのもホント。ついでに言うと、鈴谷のケツが悲鳴を上げているのもホント」

 

ケツはまぁ置いておいて、私はどうやら霧島だけでなく鈴谷にも余計な心配をかけてしまっていたようだ。

 

「まーいいじゃん? せっかく来たんだし、楽しまなきゃ!!」

「私も鈴谷と同意見ですよ。お姉様」

「霧島……鈴谷……」

 

なんだか二人の温かい気持ちが胸を打つ。先ほどの花火が、私の心に取り付けられていたロックを外してしまったようだ。気がついたら私は、じんわり涙を流していた。

 

「ありがとう二人とも…ありがとうございマス……」

 

 その後はとても賑やかだった。鈴谷が黒霧島で更に酔っ払い、霧島にちょっかいを出し、その度に霧島にケツを折檻され、ケツから煙を上げていた。

 

「ちょっと…大破判定よりキツいし……」

 

折檻される度にそう言っていたが、その割にケツの痛みがひいたとたん…

 

「霧島さぁあああん!! 大好きぃいいいいい!!」

 

と叫びながら霧島に背後から抱きつき、返り討ちに遭っていた。

私はそんな二人を眺めながら、おばあちゃんのお漬物をパリパリと食べた。元々私はお酒はあまり強い方ではない。一杯目の黒霧島だけで、アルコールは充分だ。あとは、この愛すべき二人のやりとりを見ているだけで、この空間は楽しかった。

 

 しかし、私もどこかでタガが外れたらしい。なんとなく、笑いながら鈴谷のケツに平手打ちを連発し、かつ、霧島に紅茶とは何たるかの講義をした覚えがあるのだが、なぜか途中から記憶がなくなっていた。私が辿れる記憶の最後は、ケツを抑えて痙攣している鈴谷と、その横で黒霧島を片手にケラケラ笑っている霧島の姿で終わっており、気がついたら周囲が真っ暗で、私は布団の上で大の字で寝ていた。

 

 

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