俺はマネージャーだ   作:クラッカーV

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進学先は音ノ木坂

外に出るとまだまだ肌寒い

 

現在の時間は午前6時。場所は見知らぬ店の前、名前を『穂むら』と言うらしい

 

明らかに受験会場じゃない上にまだ店が開くような時間じゃない。こんな時間に受験生を連れ出すなんぞ、うちの母親は何を考えているのか。…………まさか受験会場をここだと思ってるのか?時間的にも場所も外観も全てがミステイクだ

 

「母さん、ここ違う」

 

「誰も受験会場だとか思ってないから」

 

そうだったのか…………まあ、普通間違えないよな

 

「じゃあ、なにゆえ」

 

「ここ、私の友達の家なのよ」

 

「なに………!?」

 

母さんに、家に遊びに行くような友達がいたのか!?これは衝撃の事実だっ!普段顔には出ないはずなのに、今の俺の顔は驚き一色を示しているだろう

 

「なにその驚いた顔。なんで私が友達の家って言っただけでそんなレアな顔出してんのよ」

 

「母さんに友達がいるn「総一?」ソーリーマイマザー」

 

危ない。母さんの機嫌を損ねたら後で面倒だ

 

「んじゃ、お邪魔しましょうか。大丈夫大丈夫、アポは取ってるから」

 

「りょ」

 

いきなり押し掛けるというなら迷惑極まりない話だったが、許可を取っているならば良いんじゃなかろうか。母さんにしてはきちんとしている

 

意気揚々と中に入っていく母さんに着いて中に入り、中をキョロキョロと見回す。聞いていた通り、ここは和菓子屋らしい。和菓子か………くず餅が食いたくなって来た。まだ開店してないけど、売ってくれるだろうか?まずくず餅があるだろうか

 

「久美子ちゃん、久しぶり〜!」

 

「キャー!久しぶり!!」

 

「……?」

 

急にやかましくなった。顔を向けてみると母さんと見知らぬ女性が手を重ねてキャーキャー言っている。その後ろには寡黙そうな男性がその様子を微笑ましく見ている

 

「あ………もしかして総一君?」

 

こちらへ飛び火して来た。何故俺のことを………いや、母さんの友達と言うからには、話には聞いているかもな

 

取り敢えず何か反応を返さなければ

 

「はい」

 

「わぁ……大きくなったねぇ!それにカッコよくも!前会った時はこんなに小さかったのに」

 

…………なに?会ったことがあるだと?全く覚えてない

 

いや、それよりもそんな、人差し指の第一関節くらいの大きさだった覚えはないんだが。それって俺がまだ母さんのお腹の中にいた時ってこと?そりゃ覚えてないわ

 

「あ〜………母さん、説明」

 

「覚えてないでしょうね。前会った時は生まれた直後だったから」

 

何かと惜しかったぞ!?

 

「そうよ?君が生まれた時は私達も立ち会ってたんだから」

 

そうだったのか

 

「穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんは元気?」

 

「ええ、元気があり過ぎて困るくらいね。あ、穂乃果と雪穂って言うのはね?私の娘達のことなんだけど、穂乃果は今日、君と同じ音ノ木坂学院を受けるのよ」

 

「へぇ」

 

ちょ、ガッシリ腕を掴まないでいただきたい。地味に力が入ってちょっと痛い

 

「あら、案外筋肉あるわね……」

 

なんだ、俺はセクハラをされてるのか?

 

誰か、助けてくれ。勢いに着いていけない。二人の俺を交えたガールズ………いや、ウーマンズトークには

俺は目線をさっきから傍観に徹している男性………恐らくこの人の夫だろう、あの人に投げかける

 

しばし目を見合わせた後、男性は小さく頷いた

 

おぉ、助けてくれるのか………!

 

と思ったのも束の間、踵を返してどこかへ行ってしまった

 

「……………」

 

いや、助けてくれるんじゃないのか!?

 

「………新作だ」

 

おぉ、戻ってきた!?

 

男性が手に持つ皿の上には、半透明の長方形に、黒い液体が掛けられたもの

 

「おぉ、くず餅………!」

 

まさかのまさかでくず餅が出てくるとは、誰が思うだろうか。まさかこの人、俺がくず餅が食べたいと思っていることに勘付いたのか!?この人、出来る………!!

 

俺の前に差し出されるそれに、ウーマンズも口を閉じ、それを見る

 

「貰っても?」

 

俺が聞くと、また小さく頷いた

 

皿を貰い、一緒に差し出されたスプーンで黒蜜と一緒に口に運ぶ。どうやら中に餡子が入っているようだ

 

「うまい………!」

 

くず餅の独特な食感、そして仄かな餡子の甘さが黒蜜と混ざりあう。黒蜜があるからか餡子は甘さ控えめみたいだ。…………しかし、新作と言うのはどういうことだ?

 

「けど、これは普通の関西のくず餅では」

 

「あぁ、元々うちにはくず餅置いてなかったのよ。でも春からは出そうと思って」

 

成る程、だから新作か

 

「他にもある。試してくれるか」

 

「勿論」

 

俺は男性に連れられウーマンズゾーンから離れる。いやはや、お礼を言わねばならないな。あの中にずっといる気力は俺にはなかった

 

…………しかし、いつまでここにいるつもりだろうか?まさかここの娘さんとやらと一緒に行ってこいだとでも言うつもりか?それはそれで構わんが、その娘が受からなかった場合気不味くなるような気がするんだが

 

しかしうまい。このくず餅うまい

 

「…………受験は、大丈夫そうか?」

 

「受かるのは決定事項です」

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

試食を終え、俺なりの感想を告げたが、まだまだ時間が有り余っている。ウーマンズは飽きもせず会話を続け、俺は椅子に座り携帯ゲームだ。受験生だというのに余裕すぎると思われるかもしれないが、今になって詰め込んでも所詮付け焼き刃。事前に復習程度にペラペラ捲ればそれで十分だ

 

勉強は積み重ね………俺は土台ならしっかり出来ている。後は崩れぬよう重ねていくだけ

 

「おはよー………」

 

「あら雪穂、おはよう」

 

奥から一人、女の子が出て来た。雪穂、と呼ばれていたことから、俺と一緒に受験する娘ではないようだ

 

「…………あれ、お客さん?なんで?」

 

寝ぼけているのか、目を擦りながらそう言った

 

「昨日話したでしょ?私の友達の久美子ちゃんと、その息子の総一君よ」

 

「お母さんの友達………と、その息子………えぇ!?ちょ、着替えてくる!!」

 

「ついでに皆を起こして来てね〜」

 

あ、走って戻っていった

 

うん、まあ確かに。完全に寝間着みたいな服だったからな

 

「皆って?」

 

「幼馴染みの子達が泊まってるのよ。昨日は夜遅くまで皆で勉強してたみたいで」

 

「へぇ………どっかの誰かとは違うわねぇ?総一」

 

なんだその顔は

 

「勉強した後は睡眠を取らなきゃならない。当日寝不足のせいでミスをしては本末転倒だ。それに俺は必ず受かると何度も言ってるはずなんだけど?」

 

「はいはい。ったく………人を論破する時は必ず饒舌になるんだから」

 

論破する気なら必要最低限喋らねば駄目だろ。超高校級の希望の言弾を撃ち込んでやろうか

 

だいたい、受験のせいで俺はアニメを見る時間が少なくなっている。仕方ないと言えばそうなんだが…………これも毎日アキバライフのため!俺は自制が出来る男なのだ

 

携帯ゲームにもう一度没頭する。これは、アレだ。別に俺の合格は揺るがないのだから大丈夫なんだよ

 

「自信満々ねぇ、総一君」

 

ふむ、このエリアのボスはどうやって攻略するんだったか…………あぁ、思い出した。取り敢えず力でゴリ押しだ

ゲーム機から流れる音楽をイヤホン越しに聞きながら、更に敵ボスの悲鳴を聞き流す。弱い弱い。レベルの差とは圧倒的なものだな

 

フハハ、バカメー。貴様ノ攻撃ハ見切ッテイルゼ!!

 

「おはよー!」

 

「おはようございます」

 

「おはようございま〜す」

 

まだまだだな。俺に勝つにはお前のレベルを倍くらいにして掛かってこい

クリア画面を眺めながら一方的な虐殺を終えたので電源を切る。あぁ、面白かった

 

そう言えば何か聞こえたような気がするが、一体なんだ?

 

「こちら、昨日話した音ノ木坂を受ける総一君よ」

 

ん?何故俺は紹介されているのか

 

見てみればそこには三人の女の子。真ん中に、如何にも快活そうな、髪を片側で上に纏めている………サイドポニーというやつだろうか。何故か知らんが俺を見て目を輝かせている

 

その右側にはたれ目が特徴の女の子だ。真ん中の娘と同じように髪の一部を片側で纏めているが、真ん中の娘よりも髪が長い。こちらはこちらで俺を不思議そうに見つめている

 

そして最後、左側の娘は長く、綺麗な黒………いや、少し青にも見えるような、そんな髪色をした娘だ。何故か警戒されてるような気がしてならない不思議

 

「………宮野 総一《みやの そういち》」

 

取り敢えず自己紹介でもしとおく。急に口を開いたからか左の娘がビクッと反応してた。面白いなあの娘

 

「私、高坂 穂乃果《こうさか ほのか》!ねぇ、宮野君も音ノ木坂受けるんだよね!?よろしくね!皆で一緒に合格しようね!」

 

「あ、ああ……」

 

自己紹介した瞬間に真ん中の娘が俺の側まで素早く移動してきて、俺の手を取ってブンブンと上下に振る

 

うぉう、なんだなんだ。急にどうした、近すぎんだろ常考。てかこの娘が穂乃果か。なんと言うか、その………親子揃って似た者同士だな

 

「穂乃果、近すぎです!初対面の方に失礼ですよ!」

 

「え〜、だって〜……音ノ木坂を受ける仲間なんだよ?」

 

「南 ことり《みなみ ことり》です。よろしくね」

 

「よ、よろしく」

 

「ですが、だからと言っていきなり迫るのは失礼です!」

 

おい、カオスになって来てるぞ。誰か収集してくれ

 

そこの大人陣、何を微笑ましい目で見ている。おい母さん、レア顔とか言って写真を撮るな

 

「一緒に音ノ木坂でのスクールライフを楽しもう!」

 

「気が早いですよ。………すみません、穂乃果が」

 

「いや、いいんだ」

 

おぉ、まさか本人から収集をつけてくれようとは

 

「私は園田 海未《そのだ うみ》と言います。音ノ木坂を受けるんですよね?」

 

「ああ」

 

「お互い、全力を尽くしましょう」

 

「そうだな」

 

「大丈夫だよ!皆受かるよ!」

 

「頑張って勉強したもんね」

 

今にも腕をブンブンと振り回しそうな雰囲気の高坂さんとそれをにこやかに見る南さん。そして園田さん。成る程、真面目系に活発系、その間………?といった感じでなかなかバランスが取れてるじゃないか

 

三人トモ受カレバイイネー

 

「それじゃ、音ノ木坂へ行こ〜!」

 

高坂が元気良く言う。時間からすれば、少し早いような気がするが………

 

「少し早くないですか?」

 

「お話しながら歩いて行けばいい感じの時間になると思うよ?」

 

…………そうか、歩いて行かなきゃならないのか。怠いな

 

「私達はここで待ってるから、四人とも頑張って来なさい」

 

「はーい!ほら、行こ?海未ちゃん、ことりちゃん!」

 

「あ、待ってよ〜!穂乃果ちゃ〜ん!」

 

「全く………ゆっくり行くのではないのですか?」

 

三人は口々に言いながら店を出て行った

 

…………さて、俺も

 

「このほむらまんじゅうっていうの貰っても良いですか?」

 

「はよ行け」

 

解せぬ

 

「宮野君も早く!」

 

「俺もか?」

 

「当たり前でしょ。一緒に行きなさい」

 

「………うぃっす」

 

やれやれ、と腰を上げて荷物を肩に引っ提げる。これから受験か………必ず受かる自信があると言えど、怠いな

 

外に出ると三人娘が俺を待っていた。本当に一緒に行くつもりなのか?初対面なのによくそんなこと思えるな。これがコミュ力の違いですか、そうですか。コミュ力とは恐ろしいものだな

 

「もう、遅いよ!」

 

「さぁ、行きましょう」

 

「受験頑張ろうね!」

 

 

 

「……………ん」

 

 

 

まあでも、悪くはないのかもしれない

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

 

俺達は、春から音ノ木坂の制服を着ることとなった

 

合格発表で四人同時に合格し、皆でお祝いした。合格することを信じて疑わなかった俺だが、合格したと実感した時、何故か非常に嬉しく感じた。受験日終わりにも食ったが、穂むら饅頭はやはりうまかった

 

あの四人………高坂さんとその妹の高坂ちゃん、園田さん、南さんとは気軽に話が出来る程度には仲良くなった。三人娘には音ノ木坂の近くや色んな場所を案内してもらったものだ。いや、元々は俺が牽制してただけなんだがな、高坂さんや南さんがフレンドリー過ぎた。俺の予想以上に

 

ただ園田さんは少しばかり警戒していたような感じがする。というか警戒よりも慣れてない、という感じだったな。今ではそんな気配もないがな。スクールライフも問題なく送れそうだ

 

 

ーーーー

 

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「そしてこの学院に足を踏み入れたのが一年前、か」

 

光陰矢の如しとはよく言ったもので、早くも俺は二年生。部活に入ることもなく、この学院には数少ない男友達とアキバに行ったり飯を食いに行ったり、偶に三人娘と学校で駄弁ったり

 

ホント、ハイスクールライフを謳歌していると言って良いんじゃないだろうか。未だに感情が顔に出にくいのももはやご愛嬌。どんなに無表情でも、もはや今となっては清々しい程にスルーされる限りである

 

今日から新入生も入ってきて、晴れて俺達も先輩。そして後輩が出来る

 

先輩という言葉に甘美な響きを感じる、とは友達が言っていたことである。何が良いのかわからなかったので、取り敢えず馬鹿め、とだけ言っておいた

 

……………ホントに、矢のように飛んでいく

 

 

 

『廃校のお知らせ』

 

 

 

そして、嫌な知らせとは矢のようにどこからでも飛んでくるものだな

 

 




一気に二年生まで飛んじゃったぜ
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