俺はマネージャーだ   作:クラッカーV

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妹の為にグッズを買いに

「…………くっそねみぃ」

 

朝、目を擦りながらベッドから体を起こす。現在の時刻は…………6時52分。昨日は珍しくも21時には寝たよな、確か。随分と寝たみたいだ

 

「よし」

 

頭をガシガシと掻き、ゆっくりとベッドから下りてキッチンへ向かう。IHコンロの上にフライパンを置いてスイッチを入れ、油を取り出してきて投入。少しだけフライパンを持ち上げ、油が全体に行き渡るように傾ける。コンロがビー!ビー!と煩く鳴るが気にしない。ホントこの機能何とかして欲しい。次いで冷蔵庫から卵とハムを取り出し、まずは卵を割って投下。フライパン上で掻き混ぜてスクランブル。そしてハムを千切ってシュート。朝飯は適当でいいんだ、適当で

 

「…………」

 

卵をハムに絡ませながら、俺は昨日のことについて思考を巡らせる

 

昨日の全校集会、理事長直々に音ノ木坂学院が廃校になることを聞いた

 

後々こうなるだろうと、若干感じてはいたが予想よりも早いことに僅かに目を見開いた覚えがある。それからのことはよく覚えておらず、そのまま午後からバイトに行っていつもと何ら変わりもなく帰ったのだろう。何故よく覚えていないのかはわからない。だが一度寝て、そして起きたのにも関わらず胸の中がモヤモヤしているのは何故だろうか

 

フライパンからスクランブルエッグを皿へ盛る。そして炊飯器を開きご飯を茶碗に…………

 

「…………」

 

ご飯が炊けて、ない………!!

 

昨日セットして寝るのを忘れていたらしい。なんたる失態だ……!これでは今日の弁当に白米が入れられないじゃないか!?おかずオンリーとか辛すぎるだろ。おかずあったらご飯欲しいよ、ご飯。日本人の主食!パンや麺もだけど俺は一番米が好きだ

 

思わず拳を握りしめ、歯をギリィ!と鳴らしてしまう

 

……………まあいいか、悔しいが朝ご飯はスクランブルエッグだけで。パンは生憎買っていない。母さんも父さんもパン好きだから朝食は殆どパンだった。毎日食パンは飽きるっての

 

弁当も今日はコンビニで済ませよう。そうと決まれば早く買いに行かなくては

 

俺が借りているアパートはコンビニが近い。だから態々チャリやバイクを使わなくても行けるのだ。全く良いところを選んでくれたよ、俺の両親は

 

バイクの免許なら去年の夏に取った。…………だがまあ、バイクは未だに買っていないが。高いんだよ、アレ。免許持ってるのに未だに自転車って………いや、気にしたら負けだ。何よりいいじゃないか、免許持ってるだけでアレだよ?急に仮面ライダーになった時とか困らない

 

あぁ、そんなことよりもコンビニに行かなくては。皿に盛ったスクランブルエッグを掻き込んで流しへ滑り込ませ、服装を整えてポケットに携帯を入れて家を出る

 

外は涼しかった。朝方だからこんなものだろうと思い、吹き通る風を感じながらコンビニを目指す。このまま走りに行くのも良いが………それは土日の予定として置いておこう。中学三年間野球部だった身としては、毎日走り込みや筋トレをしていたが……最近ではめっきりそれも無くなった。まあ、流石にそれでは運動不足になるので、土日の二日間だけは運動するようにしている。おかげで体力と筋力の低下がそこまで激しくないようで安心だ

 

聞き慣れた入店音を聞きながらコンビニに入る。去年から殆ど変わっていないように見られる品揃えからおにぎりとドーナツを数個ピックアップ。手早く会計を済ませて帰路へ

 

ブー…ブー……

 

「………?」

 

ポケットが震えた

 

何事かと見てみると、その正体は携帯のようだ。アラームを設定していたか?………いや、どうやら電話らしい。どこの誰かと画面を見てみれば、そこには我が最愛の妹の名前が映されていた

 

早速応答しよう。千尋からの電話を俺が無視するわけがない

 

「おはよう、千尋」

 

『おはよう兄ちゃん。今大丈夫?』

 

「ああ」

 

お前の為ならいつだって大丈夫だ

 

『あのね、兄ちゃん。スクールアイドルって知ってる?』

 

「………あー」

 

スクールアイドル………そう言えばうちの学院の数少ない男子が集まった時にそんな話題が出たことがある。今はアライズとやらが凄いだとか、あんじゅちゃんが好みだとか、ツバサちゃんのでこ可愛いとか、英玲奈ちゃんこそが一番だろだとか、アライズのメンバーと恋してぇだとか、ツバサちゃんのあのでこを触ってみたいだとか…………全く、うちの男子共は変態ばかりだぜ!

 

結論から言ってアライズのことしか知らん

 

他にもあるとは聞いたが、残念ながらうちの男子全員アライズさんのファンらしい。いや、残念なのか?そうでもないな

 

「アライズぐらいなら」

 

『おぉ〜、やっぱA-RISEは人気だねぇ。学校が近くにあるってのもあるんだろうけど』

 

「UTXとか言うお嬢様学校だな」

 

『そうだよ』

 

とある男子が「UTXが共学になってたらなぁ〜!」とかほざいていたことがあるが、その場にいる全員でちょっとしたリンチが起こるということがあったな。そう言えば。理由は未だによくわかっていない。

 

数少ない男子なんだからもっと仲良くしようぜ。いや、まあ本気のリンチだったわけじゃないがな。流石に後に残るようなことはしない。逆にそのリンチされた奴とは学校では一番よくつるんでいる

 

「それで……?」

 

『A-RISEのグッズが欲しいの!』

 

よっしゃ任せろ

 

妹に声だけだが、こんな可愛くお願いされたらそのお願いを叶えない兄がいるだろうか?いや、いない(反語)

 

「グッズと言っても種類があるだろう」

 

『あのね、今日から限定品のCDやバッジが最近開店したスクールアイドルショップで売られるんだって!兄ちゃんは学校があるからもしかしたら買えないかもしれないけど、それをお願いしていいかな?買えなかったら他の、普通のストラップとかでいいから』

 

スクールアイドルショップ………あぁ、なんかあったなそういうの

 

「わかった……….個数は?」

 

『え?一個だけど』

 

「観賞用保存用布教用と、三つくらいは買うもんじゃないのか?」

 

『兄ちゃん側の人間の基準で話さないでください』

 

「…………」

 

なんだ、なんか俺が間違ってるみたいな感じか

 

「取り敢えずわかった。限定品を一個だな、種類は問わずか?」

 

『うん、ありがとう兄ちゃん!』

 

「お前の為だ」

 

『うーん、もっと別のシチュエーションだったらもっとカッコ良かったかもね。それじゃあ、私朝練あるから!じゃあね!』

 

「あぁ、頑張れよ」

 

そう言って電話を切る

 

折角の妹からの頼みだ。学校を休んで買いに行くのもやぶさかでは…………いや、やめておこう。聞いた感じ、是が非でも欲しいというわけじゃなさそうだ。ならば残っていればラッキー、という気持ちで買いに行くしかあるまい。その為に学校を休むことなんて、千尋も望まないだろう

 

さて、早く帰って学校の準備をしなければな

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

 

「あ、宮野君。おはよう」

 

「おはようございます」

 

「うっす」

 

ゆったりと学校へ登校すると南さんと園田さんの二人と校門前で出くわした。珍しいなと思いつつ挨拶を返すも、そう言えば今日は少し早目に出た覚えがある。あれ、そう言えば高坂さんがいないが………まあ寝坊でもしたんだろう

 

「二人も大変だな」

 

「わかってくれますか……」

 

「あはは……穂乃果ちゃんがいないだけで伝わるんだ……」

 

ここ一年、その理由でしか二人だけで登校したのを見たことがないからな

 

二人に少しだけ同情しつつも、これが三人の主な形なんだろうと思うとちょっと羨ましく思う。俺には幼馴染みと呼べる存在………しかも、高校まで同じにするような人間がいないからな。こう言った昔からの関係を持つ人を見ると、素直に良いなと感じる

 

二人よりも歩くスピードが速い俺は必然的に二人を背にしながら下駄箱まで歩く

 

「宮野君は廃校の件、どう思いますか」

 

靴を履き替えていると、園田さんからそう聞かれた。ふと園田さんの顔を見ると浮かない表情で俺を見ていた。後ろの南さんも同じような顔をしている

 

「今のところ、どうとも」

 

俺は淡白に答えた

 

廃校と言っても、今すぐにというわけじゃない。今の一年生が卒業するまでは実質、この学校は存続していることになる。ただ、卒業してしまえば無くなってしまうが

 

そこだけを見れば、無事に卒業出来るのならば問題はない。問題はないはずなんだ

 

「だけど………いや、なんでもない」

 

続けようとした言葉を無理矢理引っ込め、上履きへと履き替える

 

卒業出来れば問題はない。だが、それだけでは駄目だと言っている自分がいる。廃校なんか知らない、興味がない。そう思う度に、俺の心のモヤモヤは大きくなる。そうはっきりと言えない何かが俺の中にはあった

 

一体このモヤモヤの正体とは何なのか、まずはこれの正体を突き止めない限りは………

 

「…………そうですか」

 

「園田さんや南さんはどうなんだ?」

 

「私は、無くなって欲しくないかな」

 

南さんは立ち止まり、昇降口から見える景色を見ながらそう言った。そして俺に向き直り、笑顔を浮かべる

 

「だって、この学院が好きだから」

 

「…………」

 

何も言うことが出来なかった

 

「私も同じです」

 

園田さんが南さんの横へ並び立つ。いつも凛としているが、今はより一層その雰囲気を強めていた。まるで胸の内に秘める覚悟と比例するように

 

「私もこの学院が好きだから、その為に出来ることはしようと思っています」

 

「…………そう、か」

 

たったその一言を発するのがやっとだった。一瞬だけ、二人に見惚れたのと同時に………とても眩しく感じたからだ

 

その眩しさから目を逸らすように体の向きを変え、教室へ向けて歩き出す。そこから俺達三人の間には沈黙しかなかった。教室までの少しの間、僅かな距離を保ちながら歩く。教室のドアの前へと来た時、俺は足を止めた

 

「…………手伝えることがあるなら手伝う。頑張れよ」

 

それだけ伝えると、途端に気恥ずかしくなり足早に自分の席まで行って腰を下ろす。お礼を言われた気がするがそれを認識すると余計に恥ずかしくなるので敢えてスルー

 

「よっす、今日も鉄仮面が冴えてるぜ総一」

 

「孝太郎………潰すぞ?」

 

「何を!?」

 

目の前の友人からの挨拶に適当に返しておく。内心では未だに結構恥ずかしいのだが………やはりこの顔には全く出ていないらしい。今ほどこのポーカーフェイスを有り難く思ったことはないだろう。俺の顔は本当によくわからない。偶に結構簡単に表情が出る時もあれば、全く、全然と言っていいほど出ない時が大半である。ここでは崩れたことはないがな

 

鞄から筆記用具と教科書などを取り出して机の上に置き、鞄を掛ける。それから俺は目の前の友人、孝太郎と一言二言言葉を交わした。今日いきなり予習が必要だったことを聞いた孝太郎が俺のノートを必死に映しているのが背中越しにわかる

 

ゆっくりとした動作で頬杖をつき、始業の時間まで俺は窓から見える景色を眺めていた

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

 

 

「アイドルだよ!海未ちゃん、ことりちゃん!」

 

休み時間、穂乃果が数冊の雑誌を手にし海未とことりの席へとバン!と置く。その音に二人は少しだけビックリしながらも、穂乃果の言葉に首を傾げた

 

「あのね!」

 

穂乃果はアイドル、という考えに辿り着いた経緯を話す。この学院を廃校の危機から救うには、この学院をアピールして、入学したいという人を増やせば必然的に廃校も無くなるはずである。そして昨日、妹である雪穂が学校から持ち帰ったUTX学院のパンフレットを見てみれば、そこには超人気スクールアイドル、A-RISEが。気になり今日早起きしてUTXまで行ってきたのだと言う。寝坊したわけじゃなかったらしい。なんとも珍しい、と二人は思ってしまった

 

そしてふと、ここで海未は悟った

 

「(この流れは………)」

 

不穏な空気を悟ると同時に、熱に浮かされたように話す穂乃果に気付かれぬように席を立ち上がり、ソロリソロリと教室を後にする。どこぞのポーカーフェイスが海未を一瞥し、それに海未も気付いたが反応している暇もない。休み時間が終わるまでどこかで身を潜めなくては、そう思い引き続き抜き足差し足忍び足、教室から脱出することに成功した

 

「海未ちゃんどこ行くの!?」

 

だがしかし、現実はそんなに甘くはない。教室を出て安心したのも束の間、海未の不在に気付いた穂乃果がドアから顔を出し海未の名を呼んだ

 

「良いこと思い付いたんだから聞いてよ〜!」

 

「何が良いことですか、どうせアイドルをやろうとか言い出すのでしょう!?」

 

「嘘!?なんでわかったの!?流石幼馴染み!!」

 

「誰だってわかります!!」

 

やはりか、海未は心の中で自分の予想が当たってしまった。こんなに予想が当たって残念だったことはそうないだろう

 

「やろうよアイドル!」

 

「やりません!」

 

周りの目を気にせずに「やろうよ!」「やりません!」の水掛け論。周りもなんだなんだと二人のやり取りを眺めている。そして、その終わりを迎えさせたのは海未だった

 

「その人達は並々ならぬ努力をしたからこそ今があるのですよ!?穂乃果のように思い付きでやってみるのとは訳が違うのです!!はっきり言います…………アイドルは無しです!!」

 

「そんなぁ〜…………」

 

WINNER 園田 海未

 

勝敗が決すると共に周りのギャラリーも引いていく。勿論その中にはことりと鉄仮面の姿もあった。海未は二人の元へ歩き、そろそろ始業の鐘が鳴るので教室へとことりと共に入る。その際ことりは、先々と教室に入っていく海未を追い掛ける前に総一へ耳打ちする

 

「もしもの時はお願いね」

 

美少女に耳打ちされても鉄仮面が剥がれない総一。いや、実は内心では結構恥ずかしがっているのだが、表情に出ない限りわかる人もいない

 

「もしもって………なに」

 

ことりが教室へ入るのを見送った総一は呟いた

 

だがそんな呟きも始業の鐘がすぐさま掻き消す

 

「宮野、席座れよー」

 

「………はい」

 

授業をしに来た教師にそう言われ、返事を返して総一は教室へと入っていった

 

 

 

======================

 

 

 

 

そんな訳で放課後。何がそんな訳なのかわからないが放課後である

 

「よし」

 

総一は一人、秋葉原にあるスクールアイドルショップへと来ていた。最近出来たからかはわからないし時間帯も関係しているのか、人の出入りが多い。だがやはり、学生が圧倒的割合を占めているようだ。総一の知らない制服を着た女子、一度家に帰ったのか私服で品物を見ている男子、見た目が如何にもオタク然とした男から眼鏡の女の子に引っ張られる、語尾にニャーと付ける同じ学校の女子までいる

 

「か、かよちん待つにゃ〜!そんなに急がなくても大丈夫だよ〜!」

 

「もう売り切れちゃってるかもしれないんだよ!?」

 

店の入り口には大きく今超人気のスクールアイドル、A-RISEのグッズが置いてある

 

「へぇ、A-RISEって書くのか」

 

その名前を見つけそう呟く総一。A-RISEのメンバーである三人が映ったポスターを少しだけ眺め店内へと足を運び入れる。店の中から流れる音楽はどこのスクールアイドルのものだろうか、そんなことを思いながらお目当ての物を探すべく一層賑わいのある場所へと進んだ

A-RISEのグッズは店に入れば、入り口付近からでもよくわかる程大きく見出しがある為に分かり易い。A-RISEのグッズが並んでいる前へ、帽子を目深く被っている人と並ぶように立つ

 

「流石は、人気アイドル」

 

殆どが売り切れ掛けているのを見て総一は内心驚きながら、運良く残っていた限定グッズを一つ手に取る。そこに描かれているのはおデコがチャーミングなA-RISEのリーダー、綺羅 ツバサちゃんであった

 

「おデコ………ツバサちゃんか」

 

おデコですんなりと名前が出て来たようだ。なんと言う覚え方だろうか、例えチャーミングポイントだと言ってもその覚え方はあんまりではないだろうか。ここに本人が居ればどんな反応を示すのだろう………いや、そこはアイドル、笑顔を浮かべてくれるに違いない

 

「おデコって………覚え方、おデコって………」

 

「………?」

 

横の、帽子を目深く被った人が総一の言葉に反応してか呟いていた。それを不審に思った総一は少し思考を巡らせる。総一は普通よりも耳が良い方だった。それだけに横の人の小さい呟きも聞こえてしまっていたのだ

 

「(まさか、ファンの人を怒らせてしまったのか………?おデコが悪かったのか………。いや、でも話に聞いた限りじゃあおデコとしか聞いてないような?てか、おデコを売りに出しているんじゃないのか?でも、俺的に印象に残る場所がどこかと聞かれたら……)………やっぱり、おデコしかないな」

 

総一なりに必死に考えてみるがやはり総一の知る綺羅 ツバサちゃんとはおデコが出ているアイドルというイメージしか持っていない。故にどこまで行ってもおデコである。これは何も総一が悪いわけではなく、おデコばかり話していた総一の友人が悪いわけであり、実はおデコ以外にも話していたがそれを聞いていなかった総一も悪いわけであったり………結局どちらも悪いことが証明されてしまった、驚きである

 

そして最後、口に出してはいけない気がするのは気のせいでもなんでもないことを隣の帽子の人が裏付けていた

 

「(ううむ、早目にここから離れた方が良さそうだ)」

 

そう結論付けて適当な限定グッズを複数個取りレジへ急行する。一体あの帽子の人は何だったのか、長い間解けぬ謎になりそうだ。別段解くような謎でもなかったりするのだが

 

「しかし、限定品を買えてよかった」

 

店の外へ出てホッと安堵の息を吐く。頭の中では妹の喜ぶ顔、その顔を思い浮かべ内心だけでニヤけるというわけのわからない状況になっているが、顔に出ないのだからしょうがない

 

帰って早速妹に報告だと意気揚々と帰路に…………

 

「ちょっと良い?」

 

つく前に誰かに呼び止められた

 

「………?」

 

一体どこの馬の骨が我が道を邪魔するのか、そんな益体もないことを考えながらも顔だけを向ける総一。無表情がゆっくりと振り向く様はなんだか見る人から見れば少し恐いものがある

 

「(げ………)」

 

見てみればそこにいたのは、さっき何やら呟いていた帽子を目深く被った人だった。よくよく見てみれば体付きから女性だということがわかる

 

「これ、A-RISEのライブチケット」

 

短く発せられた言葉と共に、目の前に一枚の紙切れが差し出された

 

「………何故俺に?」

 

帽子の女性の行動がよく理解出来なかった。それもそうだろう、恐らくこの女性はA-RISEのファン、そんな人が何故何の繋がりもない総一にそんな大層な物を渡すのか

 

「えーっと………実は当日に用事があるの。代わりに行ってくれない?」

 

「だから何故」

 

帽子のツバを更に下に下げながら言う彼女に更に追い討ちをかけた。誰だろうと容赦のない鉄仮面である

 

「………取り敢えず、必ず来て。おデコだけじゃないってことわからせてあげる」

 

「どういうこと………あ、おい」

 

チケットを強引に押し付けて足早と去って行く彼女を追いかけようとするも人混みが邪魔になってなかなか進めなかった。何故彼女はあんなにスルスルと進んで行けるのか甚だ疑問に思いながら、手に握り締めさせられたチケットをどうするかを考える

 

「(………今週の土曜か。千尋にでも………俺に渡されたんだから俺が行くべきなのか?確か土曜はバイトのシフトが………いや、ズラして貰えばいいか)」

 

強引にとはいえ意外にも律儀に行くことを決めた総一。無くさぬように財布の中にチケットを入れる

 

「しかし、物好きな人もいるな」

 

帽子を目深く被ったあの女性に対し、物好きなだと印象付けて帰路へ着く。またどこかで出会いそうな、そんな奇妙な可能性を感じながらアキバの街を歩き出した

 

 

 




一体あの帽子を目深く被った女性はダレナンダー
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