俺はマネージャーだ   作:クラッカーV

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綺麗な音色に誘われた

「今日もいい天気だな」

 

「春だな」

 

孝太郎の言葉に相槌を打ちながら、ドアを開く

 

現在は昼休み。俺達が来たのは音ノ木坂学院の屋上、ここに俺達音ノ木坂学院の男子が全員集まっていた

 

全員、つまり一年生もである。今まで何かある度にこうやって集まることはあったが、一年も呼ぶとは一体何が始まるというのか?俺達を呼び出し貴重な昼休みの時間を奪い去っていく主犯格である奴ら、青木 弥生と赤川 康太が真ん中で踏ん反り返っているのがマジで気に入らねぇ。これは購買でジュース一本だな

 

「あ、俺昨日見たぜ!のんのんびより!三話まで」

 

「おま、ちゃんと全話見て来いって!」

 

「だから、これはここに代入だって」

 

「おー、成る程」

 

一年をほっといて二年勢は口々に話をしている。すげぇなあいつら、自分達で呼んどいてほったらかしにしてるよ。一年オドオドしてんじゃん。勉強している奴らもいるが………取り敢えず挨拶をするか

 

「にゃんぱすー」

 

「にゃんぱすー!」

 

「にゃんぱす」

 

「にゃん、ぱす!」

 

「おいなんか沸いたぞ」

 

流石だな。お前ら好きだ、友達として

 

て言うか最後の奴、何そのふぇい、たす!みたいな言い方。面白いなそれ、マジファニー

 

「で、弥生。俺達を呼び出した理由はなんだ」

 

「お、全員集まったのな。今回の集まりはだな、この学校の少ない男子で仲良くしましょーっつうもんだ。一応一年には参加の有無を連絡したぜ?俺の弟からな」

 

へぇ、話には聞いてたが弟もここを受験したのか。………お、あいつか

 

「んじゃあ早速親睦会始めまっしょい!」

 

「うるさい、耳元で騒ぐな」

 

横の方でも騒ぎ始めたか

 

しかし、一年の奴ら全員来たんだな。別に断ってくれても良かったんだが………だが丁度いい、スクールアイドルについての情報を引き出せるだけ引き出すか。まずはどういった感じが受けが良いのかなど、他にも………取り敢えずなんでも良い、情報を集めないと

 

二年の奴らからはいつでも聞き出せる。まずは一年からだな

 

一年の集まる場所に歩きゆっくりと腰を下ろす。そうなるとやはり視線が集まるわけだが、役一名ガン見してやがる………まあいい

 

「少し聞きたいことがあるんだが」

 

「は……はい」

 

そんなに緊張するな

 

「スクールアイドルについて俺に教えて欲しい」

 

『…………は?』

 

見事にその場の全員の反応が一致した瞬間だった

 

 

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

 

「総一、バイト行こうぜ」

 

「あぁ」

 

放課後、荷物を纏めて肩に担いで孝太郎の後を追う。三人娘に今日、高坂さん宅に集合だと言われたが、バイトなので断っておいた。あちらはあちら、俺は俺でそれぞれスクールアイドルの活動について考えておくのが明日までの課題だ。今日決まったことがあれば連絡すると言われた

 

結局、昼の集まりで有力な情報はそこまで得られなかった。俺の発言の後、スクールアイドルの話でその場は持ち切りになったわけだが、あのグループが良いだの、この子が可愛いだの、そう言った話ばかりが飛び交ってしまい、更には色んなところからこのグループのファンにならないかとか、一年含め殆どの奴に詰め寄られた

 

野郎に詰め寄られても嬉しくないっての

 

まあ、結果的に親睦会としての役目は果たせたし良いんじゃなかろうか。終いには弥生の奴が

 

「是非とも皆、総合スポーツ部に入ってくれたまへ〜!」

 

なんて言い出したもんだから、結局それが目的かよ!と全員でツッコまざるを得なかった

 

総合スポーツ部とは名ばかりの、土日休みで放課後、スポーツして遊んでいるような部活だからな………いや、スポーツしてるんだからいいのか。はっきり言って部費なんて全然出てない。そのくせ俺と孝太郎以外は入ってるんだからわけがわからない

 

全然情報集まんなかったし、結果的に俺のおかげで一年と親睦は幾らか深まったのにそれをダシに使われたし、頭が痛いぞ全く

 

「おい、総一」

 

「………なんだ」

 

こうなったら我らが皆の大先生、Google先生に頼るしかないのか、と考えていたところに孝太郎から声がかかる。孝太郎が顎で前を指すので見てみると、そこには一年の男子がいた。短く切り揃えた黒髪にしっかりとした体躯、明らかにスポーツしてますって体をしていると言うか、なんとい言うか

 

どこかで見覚えがあるような……?いや、確かに昼休みにあの集まりにいたんだが、それ以外で

 

俺が見ると一礼する

 

「宮野先輩、今いいっスか」

 

案外張りのある声だ

 

俺は孝太郎と目を合わせると、孝太郎は俺の肩を叩いて後輩君の前へ押し出す。やめろ押すな馬鹿

 

「遅れても良いぜ、その旨は伝えておく」

 

「……わかった」

 

はっきり言うと面倒なんだが、折角ここまで訪問して来た後輩を無下にするのも憚られる

 

「えっと………ちょっとここじゃ人が多いし煩いんで、中庭にでも行きませんか」

 

「…………」

 

少しモジモジしながら言う目の前の後輩君を見て急に行きたくなくなってきたんですけど。え、待って。何その反応?やめてそれ、なんか深読みしちゃうから。男のそんな姿見せられても嬉しくねぇよ。いいじゃん別に人いても

 

孝太郎は………もういない

 

「りょーかい」

 

取り敢えずまあ、着いて行こうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、態々呼び出した理由を聞こうか」

 

靴に履き替えて中庭まで来たわけだが………なんか今日は呼び出されるのが多い気がする。この勢いだとそのうち理事長とかにも呼ばれたりするんじゃなかろうか?それはそれで俺何したんだよって話だな

 

「えーと、確か名前は………藤木 晴矢だっけ」

 

「はい!覚えててくれてたんスね」

 

まあ、記憶力は悪い方じゃないからな

 

「いやぁ、覚えててもらえてるか不安だったんスよ。ほら、もう一昨年の夏以来でしたから」

 

「一昨年の……夏?」

 

顎に手を当てて考えてみる

 

一昨年の夏?と言えば………野球部を引退したら爺ちゃん婆ちゃんの家でスイカバーとドーナツ食って、偶にトレーニングをしてたぐらいの記憶しかないんだが。あと受験勉強

 

いや、待てよ。野球部?

 

「あぁ、もしかして」

 

最後の試合で当たった学校のピッチャーを二年がやってるとこがあったな。確かその名前が………

 

「思い出した。あの天才ピッチャーか」

 

「いやぁ、天才だなんて……」

 

懐かしい、と言っても一昨年の話だが

 

俺の野球部最後の試合は、悔しくも一回戦敗退。一番最初に優勝候補である学校と当たったしまったのが運の尽き、いい勝負だったが最後二点差で負けてしまった

 

俺達も一応、大穴でうまく行けば優勝を狙える程ではあったんだけどなぁ………県大会行きたかったな

 

まあ、過ぎたことを嘆いても仕方がない。それよりも疑問に思うことがある

 

「その天才ピッチャーがなんでまたこの学院にいるんだ?色んなところから呼ばれたんじゃないか?」

 

確か一昨年も去年も活躍したと耳にした。そんな将来有望な野球選手がまたなんで

 

「えぇ、まあ………俺も色々と考えたんスけどね。やっぱり母さんの母校でしたし、別にもう野球が出来ればどこでも良いかなって。プロになる気もありませんし、夢があるんで」

 

ふぅん………それだけでここに来る理由になるとは思えないが。まあ色々と考えてのことなんだろう。俺が気にするようなことでもない

 

だが、野球が出来れば、か

 

「ここに野球部はないはずだが」

 

「作るんスよ。総合スポーツ部の先輩方にも協力してもらおうと思ってるんス」

 

うーん、協力してくれるかどうかはまた別としといて

 

「俺も野球部に入れと」

 

「はい!宮野先輩がいたら百人力じゃないっスか!だって先輩だけですよ?」

 

興奮するように詰め寄ってくる黒石の頭を押さえつけて押し返す。やめろこっち来んな鼻息荒くすんな

 

「俺だけって何がだ」

 

「俺からホームラン打った人がっスよ!」

 

…………あー

 

「何を勘違いしているのか知らんが、あれはファールだったはずだが」

 

六回の裏ツーアウト一三塁、際どいとこへ正確に投げてくるピッチャーだった。フォークやカーブをなんとか粘り、ツーストライクワンボールの時、外角やや低めにストレートが来たので思い切りスイングしてやった。勝負を焦り過ぎたか、タイミングが少し早く、芯で捉えたのだがそのままレフト側のスタンドへ落ちて行った。それもファールで

 

その後、デカイのを一発打たれたからか少し球に落ち着きがなかった。結局俺はフォアボールで出塁。その後そのまま崩れていってくれればよかったんだがな、先輩や顧問の先生から声を掛けられなんとか立て直していたようだ

 

「あと数センチ横に擦れてたらホームランでした。あれが入ってたら俺達は負けてたんスよ」

 

「一昨年の話を持ち出してIFの話をするな。数センチ擦れようが擦れまいがファールはファールだろ」

 

そうやって割り切ったんだ。あれが入ってれば、なんて後で幾ら思ったことか

 

出来ることならもう一度戻って挑みたいが、それを考えるだけでも虚しくなってくるのですぐに考えるのをやめる

 

「でも、決定打を打てる程の力と技術があるってことっスよね」

 

「……………はぁ」

 

これは面倒だ。こいつ、言外に断ってるのが伝わってねぇ

 

「取り敢えずお断りだ。部活の誘いは他に来てるし、これからは全部を両立出来るほど暇になりそうもない。藤木には悪いが、タイミングが悪かったな」

 

流石にマネージャーと学生、バイトだけで手一杯だ。それに野球が加わるとなると、非常にキツくなる

 

タイミングがタイミングなら引き受けたかもしれないがな。もうこればっかりはどうしようもない。決まってしまったことだ

 

「そうっスか……」

 

「そうなんだ」

 

目に見えて落ち込む姿を見ると悪いことをしたような気がする。まあ、やるとなると応援はするさ

 

「でも俺諦めませんよ!」

 

いや、諦めてくれ

 

「また誘いに来ますから!それじゃ!」

 

「…………」

 

そう言って走り去る藤木を呆然と見送る

 

また面倒な後輩を持ってしまったものだ。マジでなんなんだあいつ、俺断ったじゃん

 

「はぁ………」

 

うわぁ、これから度々勧誘とか来んのかな?面倒だなぁ

 

それに、総合スポーツ部の奴らも協力するとは思えないんだよな。あいつは野球が出来ればいい、なんて言ってるが………ありゃあ多分、この学院で甲子園目指そうとか思ってる感じだ。あいつらは部活とは言えど、楽しくやってる奴らだからそんな本気になるだろうか?なったらなったでそれは構わないんだが…………あぁ、いや待てよ。確か一人だけ俺以外にも元野球部がいたな。無駄だろうが

 

…………まあ、部員が五人いれば部活は作れるらしいし、いいか。なんなら今年は部活を作るだけに止めておいて、来年新入生を集めて頑張る、っていう事も出来るしな

 

その場合、廃校を阻止しなければならないのが条件となってくるが

 

「…………あっ、バイト」

 

そうだ、バイト行かないと。生憎そんなに時間は経ってないから、遅れることもないだろう。そう言えば、今週の土曜日に予定が入ったから、シフトをズラしてもらうように言わなければいけない。その分他のところで働くから大丈夫だ、きっと許してくれる。店長結構軽いし

 

『ニャー』

 

「……!」

 

校門へ向かって足を向けた瞬間に猫の鳴き声がっ!

 

急ぎ振り返って見ると、なんと右斜め前方に真っ黒黒猫がいるじゃないか。俺の方へ向き、座ってそのザラザラしているであろう舌で前足を舐めている。癒されるなぁおい

 

『ナウ』

 

俺が見ているのに気付いたのかこちらと目を合わせる。目と目が合う瞬間、好きだと気付いたわけじゃないが、暫し俺達は見つめ合っていた

 

そしてふと、真っ黒黒猫は立ち上がり俺の目の前を横切………る前に黒猫へ向かって、マリオもビックリなBダッシュを開始した

 

…………横切らせん!!横切らせはせんぞ!!縁起が悪いって言うからな!!

 

『フニャッ!?』

 

黒猫はいきなり走り出した俺にビックリして飛び上がり、反対方向へ走って行った。なんとなく俺もそれを追い掛ける。こうして俺と黒猫の鬼ごっこが始まったわけだ

 

待ちたまえ真っ黒黒猫………おい、待てって。Hey cat!!

 

追い掛けても捕まらず、そのまま真っ黒黒猫は俺の目を掻い潜りどこかへ隠れてしまった。奴め、どこへ隠れおった。見つけてうちの喫茶店の看板猫にしてやる。あいつ野良みたいだしな。売り上げ上がるよやったね店長

 

「…………ターゲット、ロスト」

 

完全に見失った。逃げるのが上手いな、野生の動物ってのは

 

しかし、黒猫と鬼ごっこしてたら校門の反対側へ来てしまった。近くにある校舎の中を覗いてみると、人の通りがチラホラと見えるくらい。どうやら空き教室などが多い方へ来たみたいだ。確かこっちにあったのは化学室やら生物教室、その他美術室やら音楽室だったか。移動教室でしか来ないからうろ覚えなんだよな

 

 

 

♪♪〜♪〜♪〜

 

 

 

「ん?」

 

よくよく耳を澄ませると上から音楽が聴こえてくる。一瞬着信音かと思ったが、俺は基本バイブ機能にしているので音が鳴ることがない。それに、この音は多分ピアノじゃなかろうか

 

確かこの上は音楽室があったな………それにしても、聴いたことのない曲だ。感じ的に最近の曲のような感覚がするが、生憎俺は最近の曲なんて殆ど聴かない。アニソンやボカロなら聴くんだがな……聴かないわけじゃないが、知らない曲の方が絶対に多い

 

どこかのアイドルの曲とかか?

 

「しかし、綺麗な音だな」

 

素人の俺が聞いても綺麗だと感じるこの音、一体どこの誰が引いているのか。気付けば窓を開けて中へ入ろうと………あれ、鍵掛かってる

 

ちょうど近くを通り掛かる女子生徒がいたので、コンコンと窓を叩く。すると女子生徒はこちらに気付いた。ちょいちょい、と手を招くと私?と言った風に指を自分に指すとこちらに歩いてきた

 

鍵を開けてくれとジェスチャーをすると何故か俺と同じジェスチャーを始める。いや、違えよ。鍵開けてって言ってんだよ

 

窓を開ける動作をすると俺の意図に気付いたのか、照れ笑いしながら開けてくれた

 

「ありがとう」

 

窓から廊下内へと身を乗り出しながら礼を言って、靴を器用に脱いでから中へ乗り込む。靴を片手に階段へ向かい駆け上った

 

音楽室のある階へ到達すると音が更に大きくなる。はてさて、この音の発生源はどこからなのか………気になる、非常に気になる。時間的に見ればどこかの部活の人間か、恐らく学年は………いや、待てよ?今まで一度もこんな音色を聞いたことがない。だとしたら一年なのか?聴いたことがないだけなのかもしれないが

 

音楽室の目の前に来ると不思議なことに、扉一枚を隔てていてもしっかりと耳に届く綺麗な旋律

 

中を覗いてみれば一台のピアノと、それを自由に弾き鳴らす赤毛の女子生徒。間違いない、音の発生源はあの子だ

 

「…………綺麗だな」

 

彼女の奏でる音色も、彼女がピアノを弾く姿も。ろくに美術的感覚が優れているわけでもない俺がこう思うのだ。きっと多くの人が同じことを思うだろう

 

少しだけ見つめ、扉から離れ壁に背を付けて聴き入る。なんと言うか、言葉に表すのはあまり得意ではないんだが………そうだな、波長が合うような曲というか、個人的に心にグッと来る曲というかだな

 

例えばニコ動とかで初めて聴いた時、思わず何度もリピートしてしまうような

 

うん、これが一番わかりやすい

 

一瞬見えたが、彼女のリボンの色は一年生のものだった。もしかしたら、これからもここに通い続けるのだろうか?そして、この綺麗な音を奏でるのだろうか

 

だとしたらまたここへ来よう。俺にとってそれ程の価値がある

 

「…………あ、バイト」

 

まだ演奏が終わっていないのにバイトのことを思い出してしまった。非常に惜しいのだけど、そろそろ行かなければならない

 

もう一度中を覗き、彼女を一瞥して歩き出す。一瞬目が合った気がしたが気にせずにバイトへ向かった。あぁ、俺のせいで演奏が止まってしまったようだ。すまないな、名も知らぬ後輩ちゃん

 

また聴きに来る

 

「さて、今日もバイトを頑張ろう」

 

そして帰って情報集めだ

 

 




にゃんぱすのくだり、実話なんですよね。あれマジであんなに沸くとは思わなかった
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