俺はマネージャーだ   作:クラッカーV

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練習開始

あの後急いで喫茶店『バース』へ向かった俺は無事バイトを終え、土曜に休むと言うことも忘れることなく報告した。素晴らしくスムーズに行った一日でした。今日は思わぬことに、綺麗な音楽との出会いもあったわけで少しテンションが高い

 

………まあ、バイト中におでんを受け取りに来た女の子には少し怖がっているような反応を向けられ若干沈んでるが。いや、しかしあれは最初だけだった。初対面の無表情男が出てきたらビビる………のか?要するにプラマイゼロだ

 

うちの喫茶店はおでんのお持ち帰りだけを行っているという、何ともよくわからないことをしてる。他の喫茶店は持ち帰りとか出来るんだろうか………だとしたらおでんしか持ち帰り出来ないうちの喫茶店って……?

 

まあいい

 

確か女の子の名前は………そう言えば聞いてないな。俺がおでんを手渡そうとしたら、にっこにっこにー!と空元気か何かでやっていた。小学生の間では流行ってるのだろうか?どこかのアイドルの真似かな?

 

「失礼します」

 

「おーう、お疲れちゃんソウ君。またねー」

 

「はい、また。孝太郎もまた明日な」

 

「おう、じゃなー」

 

先輩と孝太郎に挨拶して店を出る。正直言ってソウ君はやめてもらいたいんだが………去年から言ってることなのでもう諦めた。店長も俺のことをソウちゃんと呼ぶし……最近では他の先輩や店長の奥さん、さくらさんまでもが呼び出した。ここまで来たらもう諦めるしかないだろう

 

さて、今日は帰ったら課題してアニメ………いや、いかんいかん。スクールアイドルの情報集めだ

 

まず情報集めと言っても何から始めようか。起源から?いや、必要になるとは思えないな。まあ取り敢えず動画を漁ってみようか

 

「…………ん」

 

ポケットから携帯を取り出して時間を見ると、通知が入っているのが見えた。とあるSNSツールで、三人娘と俺で四人のグループを作ってるので、そこに誰かが書き込んだんだろう。あのグループだけは通知をONにしていたからな

 

開いてみれば他にも、OFFにしているグループにも通知が溜まっている。音ノ木坂の男子共が明日の部活内容のことで騒いでやがる。明日は野球をやるかサッカーをやるか、はたまたラクロスをやるか話し込んでいるな。ラクロスなんて、道具をどっから持って来るんだ………もしやるんなら混ぜてもらおうかな、バイト休みだし

 

「おっと、そんなことよりも」

 

三人娘はなんと………なになに

 

「明日から朝早くに練習、場所は神田明神」

 

いつも走る時に前を通る神社だな。俗に言う朝練か、俺も中学の頃は早起きして行ったものだ。そうと決まれば帰りにスポーツドリンクでも買って帰ろう、明日必要になるだろう

 

「朝練でダンスの練習……体力作りも必要か?」

 

まず曲は何を使うかなんだけど、それらは決めたのだろうか。使うとしたらの話だが

 

いや使わざるを得ないと言うか、そもそもオリジナルの曲なんて誰が作る?

 

中学の頃の友達なら現在バンドをしている奴がいるが、作曲をしているのはあいつじゃないらしいし、頼んでみるのもいいが果たしてOKしてくれるのだろうか。考えてみようと思うが、そもそも一ヶ月後に間に合うとも思えないな

 

他には、えーと………あ、グループ名決めてないじゃん。アイドルって言ったらグループ名があるもんだよな

 

「まあこれも後回しでいいか」

 

そんな簡単に決めていいもんでもないだろう

 

今日の三人娘の会談で何か進展はあったのか………何も書いてないが、明日聞けばいいかな

 

「あ、カロリーメイト必須」

 

やっぱり、ちょっとくらいお巫山戯ないと駄目っすよね!

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

「おはようございます宮野君、早いですね」

 

「あぁ、おはよう」

 

スポーツドリンクとカロリーメイトの入ったリュックサックを背中に下げ、神田明神の階段の下まで来ると園田さんと鉢合わせた。昨日決まったことを教えてもらいながら階段を上がる

 

成る程、曲は作ってくれるあてがあり、その人に頼んでみると………そして作詞は園田さん、衣装は南さん………成る程成る程、名前は決まっていなくてもそこまで決まって…………

 

「ちょっと待て」

 

階段を上りきり神社の前で立ち止まったところで、俺は園田さんの話を中断した

 

「はい?」

 

「作曲してもらうって……そんな時間ないんじゃないか?一日二日じゃできるもんじゃあないだろ」

 

しかも一体どこの誰が作ってくれるって言うんだ。曲を一つ作るのにどれ程の時間がいるかは知らんが………一ヶ月、一ヶ月だぞ?ちょっと無理があるんじゃないのか?

 

「穂乃果は大丈夫だと言っていますが………」

 

「それを信じたのか………その根拠は?」

 

「一年生にとても上手にピアノを弾く人がいると聞いてます。穂乃果が音楽室でその人の演奏を聴いたそうで」

 

ほうほう、うちの一年にそんなのがな

 

しかし、音楽室か。もしやあの赤毛の後輩ちゃんか?あの子に作曲を頼むとしても………まずその子がしてくれる保証はないし、何度も言うが時間がないはずだ

 

俺は顎に手を添えて考える

 

…………いや、待てよ。その子の腕は未知数だからまだ置いとくとして、クオリティをある程度捨てて作曲してもらえば一週間であがるか?取り敢えず一週間であがると仮定しよう

 

そこから振り付け考えて練習を大体二週間続けて、作曲の間の一週間は体力作りに集中して………後はダンスの練習しながらでも体力作りはできるし、あとは歌の暗記で踊りながら歌えるようにすることか

 

「どうしました?」

 

「これ、案外いけるか……?」

 

最後が少し厳しいかもしれないが

 

「よし、わかった。園田さん、作曲はその一年生に頼んでみよう。この際クオリティは二の次だ、そこは衣装と歌詞でカバー出来るかもしれないから頑張ってくれ」

 

俺がそう言うと園田さんの顔が強張った。うん、俺もはっきり言って園田さんが作詞なのには驚いた。園田さんは見た目清楚な感じで、それはあながち間違いじゃないんだが………本を読んでいるというより稽古してるイメージしかない。これも家のことを知ってるからだろうがな

 

「なんだ、中学とかでは詩のコンクールに入賞でもしてたのか?」

 

「そ、その………」

 

非常に言いにくそうにしている園田さんに少し首を傾げる。あまりこういったことを自慢するタイプでもないからか、気恥ずかしいのだろう。顔を赤らめて口をモゴモゴしている様子は見ていて楽しい

 

「まあ別に言いたくないのなら無理に聞かないけど………コンクールに入賞したとか、それこそ凄いことだと思うけどなぁ」

 

「あぁいえ、入賞したとかではなくてですね」

 

「……?」

 

ますますわからん

 

まあ何か理由があってそういう分担になったのだろう。深く追求することでもないし、どうやら南さんが来たようだ。階段の下辺りから駆け上る音が聞こえ、彼女のトサカの様な髪が見えると同時に彼女の顔も見えてくる

 

「おはよ〜」

 

南さんからの挨拶に俺達も挨拶を返し、高坂さんを待つことにした

 

 

 

 

 

======================

 

 

 

 

 

あれから高坂さんが数分遅れでやって来て練習を開始することに。まずは体力作りの為に走るそうだ。しかし、準備運動をせずに走るのは良くないので、体育でやるようなのを軽くする

 

ついでに柔軟運動もやったのだが、高坂さんが背中を押してくれと言われた時にはビビった。いや、確かに俺を入れれば偶数だけどね?なんか違うじゃん、ほら性別とか、主に性別とか!戸惑うも無表情なのでうまく伝わらず、仕方なしにその事を伝えると高坂さんと南さんは何ら気にしないようだ。園田さんは言わずもがな、高坂さんが背中を押してくれと発言した時からワーキャー………ではないが、何か言っていたがな

 

て言うか、俺が男ってこともしかして忘れたりしてないよね?うん、今その事伝えたもんね?それでも大丈夫ってそれって俺の事異性として見てないってことじゃね?異性として好きなわけではないが、俺としても思うところがあるぞ………

 

だが大丈夫と言うのなら………うん、まあいんじゃない?うん、やるけどもね?ほら、こう言う機会はなかなか無いわけだし、下心があるわけじゃないぞ、ホントだぞ。いや、マジで(割と本気)

 

てなわけで柔軟も終えて現在、走っている三人を見ているわけだが

 

「ひぃ……ひぃ……」

 

「はぁ……はぁ……」

 

高坂、南ペアはどうやらダウン気味である。非常にキツそうな顔でさっき園田さんが提示したノルマへと向けて階段を疾走している

 

「スピード落ちてますよ!ラスト一本です、頑張ってください!」

 

園田さんは二人より遥かに早いスピードで階段を駆け上っていた。最初と比べ大分スピードの落ちている二人へ向かって叱咤激励する姿からは疲れなんて全然見えない

 

しかし無理もない。あの二人は運動部に所属しているわけでもなし、つい昨日まで運動なんぞ体育ぐらいしかやらなかっただろう

 

それに比べ園田さんは日舞の家元、園田道場と言えば有名なんだそうだ。しかも日舞だけではなく剣道、薙刀、古武術………学校では弓道部、はっきり言って俺よりも体力があり、ガチで喧嘩なんぞしようものなら五分と持たず負ける自信があるぞ

 

ラスト一本の階段ダッシュへ入った二人を見届け、俺は神社の賽銭箱前に置いてあるリュックサックを取りに行く。その時、ふと横を見てみれば視界に巫女服の女性が映った。手には竹箒を持って、こちらを見ている

 

どこかで見たことあるような………

 

「頑張ってるようやね」

 

記憶を手繰っていると、その巫女さんから声が掛けられた。いつの間にか近くに歩み寄ってきている。近くでよくよく見てみると、なんとうちの学校の副生徒会長様じゃないか。あの時はお世話になりました

 

あぁ、そう言えばこの人、何故か俺が毎週の土日にここの前を走ることを知ってたな。成る程、巫女さんならば見かけることもあるか

 

「えぇ、と言ってもまだ初日ですが」

 

「でも、本気が伝わってくるやん?」

 

まあ、確かにそうではあるが

 

副会長と一緒に三人の方へ顔を向ける。丁度高坂さんと南さんがラスト一本目を終えたらしい。地面へへたり込む二人を見て、副会長は三人の元へ歩き出した

 

幾らか会話を交わしているのを賽銭箱の前で眺める。会話が終わったというか、副会長に何か言われたようで、三人娘はこちらにやって来た。どうやらお参りをするんだそうだ。成る程、副会長から言われたんだな。商売上手ですね

 

やらないかと言われたが、やんわりと断っておいた。そのせいで高坂さんが少し駄々を捏ねるが、まあいいだろう。気にせずにスポーツドリンクだけ渡して、お礼を聞きながらお参りをする三人から離れる

 

「君はせんの?」

 

「………えぇ、まあ」

 

お参りすることにイマイチ意味を感じないからな

 

そりゃあ、初詣やら何やらの時はお参り行くよ?だけど、何かを叶えたいとか、何かの成功を願うとか、そういう時は基本的にしない。と言っても、中学一年の後半辺りまではやってたが。ほら、野球の試合前とか

 

でも、結局やるのは自分だからな。神頼みしても試合に勝てない時は勝てないし、勝てる時は勝てた。別に神様に祈ることが悪いとか言ってるわけじゃないし、勿論良いとは思うが………まあ、ライブをやるのは俺じゃないし。俺はただのお手伝いだし

 

「………よし、ではもう一セット行きますよ!」

 

「うん!」

 

お参りを終えた三人また階段ダッシュへと走り出した

 

いやぁ、元気あるなぁ………

 

「君は、あの三人のマネージャーなんよね?」

 

「はい、そうですが」

 

なんだ?てか副会長、掃除中じゃないのか。いいのか俺と話してて。暇なんですか?とは流石に言えないし………先輩だと好きなように弄れないし、いや弄ろうと思えば出来るんだが、この人の雰囲気が何故かそうさせてくれない。このタイプは駄目だ、遊べない

 

いやいや待て、何故弄る弄らないの考えが今出てくるのか。なんだ、俺も暇になってきているのか………三人と一緒に走ってこようかな

 

「君は、なんであの三人に協力するんや?」

 

………なんで?

 

「協力を頼まれたからです」

 

「本当に?」

 

「…………なに?」

 

おっと、ついタメ口に

 

………しかし、どういう意味だ?

 

「ただのキッカケ、なんやない?」

 

「何が言いたいんですか?………キッカケ、ってなんですか」

 

この人何が言いたいんだ?キッカケ………いや、キッカケも何も頼まれたから引き受けただけなんですけど

 

しかし、この含みのある言い方が気になる

 

「ふふ……それは自分でわかっとるはずやで」

 

「えぇ、わかってますよ。キッカケなんてわけわかんねぇモノなんかありません。だけどあんたのその言い方が気になるんです」

 

「結構ストレートやね………ま、今はいいんやない?自覚なんてなくても」

 

「急にわけわかんないこと言い始めましたね………キッカケだの自覚だの」

 

副会長、友達からの情報ではもっとマトモそうなイメージがあったんだがな………まあ人は見掛けによらないとはよく言ったものだ

 

「言ったやろ?今はいいって………わからんでもね」

 

そう言った後、ほな、と言って副会長は掃除に戻っていった。一体なんなんだ………不思議な人だと言ってしまえばそれまでなんだがな。あの俺の中身を見透かしたような言

 

今度会うことがあったら問い詰めてみるか。今日のところはもういい、少し整理が必要だ

 

「………またやることが増えそうだ」

 

三人娘が階段を駆け上ってくるのを眺めながら、俺は溜息を吐いた

 

 

 

 

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