朝練を終えて一旦各自家へ帰り、制服へと着替えて学校へ登校する。ついでだから一緒に登校しようと言われたので昨日と同じように他愛もないことを言ったり俺が高坂さんで遊んだりしながら登校した。なかなか有意義な時間でした
午前の授業中は目の前で居眠りしている孝太郎の椅子を何度も蹴ったり、外を眺めたりして過ごした。だって目の前で寝てる時、なんあもぞもぞ動いてるから目障りなんだもん
しかし、春の気候は暖かい。窓側の席でなくても暖かい日差しが当たるこの席ならばいい昼寝が出来そうだ。今現在昼休みだが、飯を食ったのでボーッとするだけでなく、昼寝にでも洒落込もうかなと弁当箱を鞄に片付けて外を眺めながら考える。確かに、この心地いい日差しを受けていれば寝てしまうのもわからんでもない
「…………!」
そう言えば登校中に高坂さんが、掲示板の前にスクールアイドルの名前を募集する箱を置いたと言っていたのを思い出す。どれ、見に行ってみようと思い立ち上がると、何やら必死にノートに書き込んでいる孝太郎から声が掛けられる
「どこ行くんだ?」
「ちょっとそこまで」
孝太郎の質問に適当に返して俺は教室を出た
掲示板の近くまで来ると、箱の前に二人の男子が立っていた。今まさに一枚の紙を箱に入れようとしている。昨日の今日で一通あるかないか、特に期待もしてなかったが、これならば態々見に来た甲斐があったというものだ
早速俺は目の前の二人に向かって声を掛けることにした
「お前らが自らそんなことするなんて、意外だな」
「うぇい!?」
しかし、すぐに返ってきたのは何か驚いたかのような声だった。そんなに驚くことないと思うんだが……少し悪いことをしただろうか
「………お、おっす総いっちゃん。そ、ソダネ〜うん自分でもビックリしてるざますよ」
「………?」
俺は変にキョドり始めた目の前の男子、白鳥 信一の様子に首を傾げる。普段から騒がしく行動の読めない奴ではあるが、こんな風に変に慌てる時は大抵何かやらかした時だと記憶にある
「まさかお前……」
何か俺にとって不都合になることでもやらかしたのか、その念を込めて信一に言うが、当の本人は明後日の方向を向いて両手を腰に当てて伸びをし始めた。誤魔化すのが下手すぎるだろ
「いや何、俺達も偶にはこう言ったこともしてみたくなるもんだ。ただの気紛れだ」
横から静かにそう言ったのは黒崎 和哉だった。信一とは幼馴染みらしく、一緒にいるのをよく見かける。しかし性格はほぼ正反対と言ってもいいくらいで、共通しているところも少なくはないが………どこか子供っぽい信一に反して、大人のような余裕をいつも和哉は持っている。これが大人の男が醸し出す雰囲気という奴か。それに比べて信一は……たったの5か、ゴミめ
反発は多いが、だからこそバランスが良いというか………どちらか片方だけだと変に暴走しそうだから出来るだけ二人でいてほしい
この二人は数少ない同じクラスの男子だ。スクールアイドルについて、和哉の方は興味がないらしいが、マネージャーをしていると話したら何か手伝えることは手伝ってくれるそうだ。これもその一環なのかな、友情とはなんと素晴らしきかな
「………そうか。まぁありがとうな」
信一の反応は置いておくとして、箱を開けて中身を見る。そこには四通の折り畳まれた紙が入っていた。どうやらこの二人以外にも入れてくれた人がいたらしい。素晴らしい。この短時間で四通も入ってるなんて、皆スクールアイドルのことをキチンと認知してくれてるんだな
「お前達の入れてくれた名前が採用されるかはわからないが………採用されるといいな」
そう言って俺はまず一番上の紙を開け「そ、総一!?い、今開けんの?」………なんだ?
「そうだけど?」
「…………いや、例の三人と一緒に見た方が良いんじゃないか?」
「別にそんなの後でもいいだろ」
「「あっ」」
二人の言葉に構わず俺は紙の中身を見る
『超平和バスターズ』
………………
何だ?某アニメに出てくる名前が出てきたんだが、何かの見間違いか?
『野球をしよう。チーム名は……リトルバスターズだ』
バスターズ大好きかオイ。しかも二枚目にはご丁寧に台詞まで付いてんじゃねぇか
『そんなことよりおうどん食べたい』
三枚目に至っては最早何の関係もねぇ!!
「……………オイ」
俺は顔だけを二人に向ける。すると二人はゆっくりと、抜き足差し足忍び足で俺から遠ざかっている最中だった。俺の声が聞こえたのか二人はゆっくりと顔だけをこちらに向け、そして走り出した
逃がすかボケェ!!
俺もほぼ同じタイミングでロケットスタートを切る。あいつら、絶対一回ぶん殴る………!!俺の感謝の言葉を謝罪の言葉と共に返しやがれ!!友情とはなんと素晴らしきかな、とか心の中で言っちゃったよ!
「ギャァァァァ!!ターミネーターが襲ってくるぅぅぅ!!」
「ででんでんででん」
「和哉お前楽しんでない!?」
あぁ、是非ともこの手にショットガンがあるなら撃ちたいところだよクソ野郎共が
上の階へ逃げて俺を撒くつもりなのか階段を駆け登る二人。その後ろになんとか食いついて奴らが階段を登り始めた後すぐに俺も階段へと足をかけた
「その階段に足をかけるんじゃあねぇーーーッ!俺は上!貴様は下だ!!」
「お前が下だ信一!お前が地獄の下にいればもうそれでいいッ!」
ここでネタを投下してくるとはなんという勇者なのか。周りに人もいるというのに、相変わらず場所を選ばないなあいつは………ノってやろうではないか!!
「ザ・ワールド!」
俺がその名を叫んだ瞬間、信一は動きを止めた
あぁ、こいつやっぱバカだわ………でも最高だわこいつ
その隙に信一を追い越して階段の上まで駆け登る。踊り場に出た俺は信一の方を振り向き、そして気を付けをするように踵を付け、腰に両手を当ててポーズをとり、言った
「そして時は動き出す」
「はっ!?………お出ましかい」
ほう……わかったのか
パチ、パチ、パチと拍手をしてやる
「フフフフ、ひとつチャンスをやろう。その階段を二段おりろ。再びわたしの仲間にしてやろう。逆に死にたければ………足をあげて階段を登れ」
「……………俺にあるのは闘志だけだ。和哉の死が、俺の中からお前への恐れを吹き飛ばした」
こいつ台詞覚えてないな。俺も覚えているわけではないが、まあいいだろう。俺はDIOのような表情は作れないが、構わずに信一を見下ろしながら舌を舐める
てか、和哉死んでねぇからな?お前置いて一人で逃げただけだからな
「本当に、そうかな?ならば………階段を登るがいい」
俺がそう言うと信一は階段を二歩降りた
「!………」
うーん………時を本当に停止させることが出来るんなら良いのにな
そろそろこの遊びも終わらせなければ周りの視線を集めているので終わらせるか
「死ぬしかないなポルナレフッ!」
そう叫んで階段を飛び降りながら信一に殴りかかった
「ちょ、飛ばし過ぎぃ!?」
「キングクリムゾンだ」
「DIOじゃねぇのかよ!?」
くっ、避けたか流石目と反射神経だけはいいな!だがしかしまだまだ終わらんよ。振り向きざまに裏拳を叩き込むために体を回す。それを読んでか奴は既にしゃがんでいた。勘のいい奴!!
「やめろ、これは何かの陰謀だ!機関の妨害だ!奴らが俺達を戦わせる為に仕組んだ罠なんだ!!」
「取り敢えず殴らせろ、な?」
「な?じゃねぇよ!てか割とマジで殴りにきたな!?」
「俺はお前を、信じてる」
「そんないい風に言われても!?」
ギャーギャーと喚く信一に対してシャドーボクシング。周りの集まってきた女子も何だ男子が騒いでんのか、いいぞもっとやれと言わんばかりに集まってきている。一部最後の問答でざわついたような気がするが気にしたら負けである
「覚悟はいいか?俺はできてる」
「俺階段降りたのにぃぃぃ!どいてどいて!」
「逃がしはせんよ」
くっ、階段の上へ行ったか!!
「コラァ!廊下を走らない!!階段でふざけない!!」
うおっ!?
「はいっ!?」
信一を追い掛ければ誰かの怒声が俺達に降り注いだ。その声で周りにいた生徒も蜘蛛の子を散らすようにどこかに逃げていく。こ、この声どこかで聞いたことあるんだが………
「げぇっ、絢瀬生徒会長……!東条副会長まで!」
案の定、聞き覚えのある声は生徒会長だった。信一の背中越しに見てみれば顔に怒りの表情を貼り付けてこちらを睨んでいる。その横では副会長がニコニコと佇んでいるが、どうしよう。このまま後ろを向いて逃げ出してしまおうか。そうだそうしよう、信一を囮にすれば万事解決だな
「お、俺は悪くないんですよ!?総一が追い掛けてくるから……!」
こいつ俺を売るつもりか!ふざけんな同罪だろうがッ!と心の中で信一に向かって叫んだ。ブーメランとなって返ってきそうな言葉であるがそんなものは知らない、知らないったら知らない
「そんなことはどうだっていいわ。階段でふざけていたのも、廊下を走っていたのも事実でしょう?」
「お、おっしゃる通りです………」
ははっ、ざまぁないな。いや、まあ俺もなんだけど
「二年生になって気持ちが浮ついているのはわかるけど、流石にちょっとはしゃぎ過ぎとちがう?もうやったらあかんよ」
「「…………はい」」
うぅむ……確かに少しやり過ぎたか。まさか生徒会長と副会長が出てくるとは、わかっていたらあんなに遊ばなかったのに
「大きく目立ったことは今回が初めてなので大目に見るけど、次はないわよ」
「すんませんでした」
俺と信一は二人に頭を下げて謝った。まあもうこいつを殴りたいとも特に思っていないし、何より注意されたらちゃんと止めないとな。目を付けられたら何かと目の敵にされるかもしれん。それは面倒だ………
「それとあなた。宮野君、だったわね」
ん?俺?
「あなた、そんな風に遊んでる暇なんかあるの?廃校を阻止する為にスクールアイドルのマネージャーをやるということは、あなたもこの学院の存亡に関わっていると言ってもいいのよ。少し甘く考え過ぎてるんじゃないかしら」
…………これはまた痛いところを突かれた。そんなことはない、と言い返したいところだが、今の状況で言ったところで説得力皆無か
「……………」
「何か言ったらどう?」
「いえ、おっしゃる通りですね」
正直言って、何も言い返せない。こればっかりはどうも
自分としては一応、現在やれるだけのことはやっているつもりだ
練習は野球部の頃にしていたのを引っ張ってきたやつのやり方を昨日纏めたし、今日の朝から決めたことだが、園田さんの作詞の手伝いもすることになっている
正直言って詩なんて授業で書けと言われて適当に書いたぐらいだから戦力になるかと言われれば微妙だろうが、詰まったら何かヒントくらいはあげれるかもしれない。今週の土曜日にあるA-RISEのライブでは、何か盗める技がないかどうかを探ってみるつもりだし……
………やめよう、何だか言い訳をしてる気分だ。いや、紛れもなく言い訳なんだろう
まだやるべきことはあるはずだ。昼休み放課後と関係なく、本気で廃校を阻止する為に活動するというのなら、こんなところでふざけている場合でもなかったのかもしれない
「…………誰かの手助けをしようという気持ちは評価するわ」
会長は腕を組んで続ける
会長の一字一句が重しのようにのし掛かる感覚。これから何を言われるのか、想像してしまうと少し恐ろしい
だが、聞いておかねばならない
爺ちゃんが昔言っていた
『怒られた時は反省しなさい、そして次に活かしなさい。失敗を糧に出来なければ、何も成せないまま終わってしまうよ』と
何も成せないまま終わってしまって良いわけがない。彼女らは廃校を阻止する為にアイドル活動を始め、俺はそれの手伝いをしているのだから
『廃校を阻止すること』を『成し遂げなければ』ならないのだから
「けど、よく考えてちょうだい。さっきも言った通り、これは学校の存続を掛けた問題………『頑張ったけど出来ませんでした』じゃ駄目なの。甘い考えを持ったままならやめてちょうだい」
…………そうか、俺はまだ甘かったのか
会長の言葉をしっかりと受け止める
そうだ、これは学校存続の問題なんだ。廃校阻止だなんだと言いながらそこをキチンと受け止めていなかったのかもしれない
これは大きな問題だ。それ相応の覚悟を決めないと
「……………」
拳を握り締める
反省して、次に活かせ。友達と追いかけっこしてる場合じゃない
「………ちょっと、言い過ぎじゃないですかねぇ会長」
「やめろバカ」
見兼ねて助けようとしてくれたのか信一が一歩前へ出て会長に突っかかった。それは手で制する。折角人が横で覚悟完了していたというのに………まあ、嬉しくもあるが。ほら、会長がお前の方も睨んでるじゃないか
信一は不満そうに退がるのを尻目に会長に向き直る。後ろ側に和哉の姿が見えたが今はスルーだ。あいつ後で文句言ってやる
取り敢えず今は、この場を収めるしかないな
「会長、すみませんでした」
「え……」
俺はゆっくりと頭を下げた
「確かに会長の言う通り、俺は甘かったのかもしれません。………俺も普段ならここにいるバカのように、少し言い過ぎじゃないかと食って掛かったかもしれない。けど、今回は事が事だけに、俺も納得せざるを得ません」
「じゃあ………」
「だから、これから真剣になります。もう甘い考えだと言われないようにします」
会長は俺がやめると言いだすと思ったのだろうか。俺の言葉に僅かに目を見開いた
「貴方は何もわかっていないわ」
「何がですか」
「失敗したら終わりだと言っているのよ」
なんだそんなことか
「それは全てに対して言えることでしょう?」
何に対しても、『頑張ったけど出来ませんでした』が通用しないのなら同じはずだ
「私達はそうならない為に動いてるの」
「俺達だって失敗するつもりはない」
「それがわかっていないと『♪♪〜♪♪〜♪〜』
昼休みの終わりを告げる5分前の予鈴が、会長の言葉を遮って廊下へ鳴り響いた
「…………早く教室に戻りなさい」
「ほな、バイバイ」
言葉を遮られた会長は不機嫌そうにそう言って踵を返す。それを副会長が追い掛けて行った
「…………」
会長は何で俺が何もわかっていないと言うのだろうか?
失敗すると終わり………そうならないように生徒会は頑張っている。廃校の知らせがあってから数日、未だにアクションを起こしている様には見えないが、会長の言う『失敗しないため』の策略を練っているのであれば納得はいく
俺もそれに習おうと言ってるんだ
既にスタートしたからと言って遅くはない。逆に言えば始まったばかり、手遅れになる前に会長に忠告を貰って良かったと思うくらいだ
「総一、俺達も教室に戻ろうぜ」
「……あぁ」
思案していると信一に肩を叩かれた。俺もそこで考えるのをやめ、信一と教室へ向けて歩き出した
途中自然な動きで和哉が並んだので二人で一発殴った
余裕な表情で受け止めやがったのが非常にムカつきましたまる
「ふー………」
その日の晩、両手に持った某レンタル店の袋を机の上に置いて中身を取り出す
中身は全てアイドルDVDだ。あとCDも少々
「何かの参考になるかと思ってこれだけ借りてきたのはいいが………どれから見たもんかね」
今日は放課後、三人の練習に付き合い、飲み物を渡してから別れた俺は態々家に帰ってから、自転車でDVDをレンタルに疾走。取り敢えずアイドル物を右から左に幾つか借りてきた
見たり聴くだけでも何か参考にならないかと思ったからだ
DVDを一本取り出してセット
「どれ、今日は久しぶりに徹夜するか」
俺はテレビの前に胡座を掻き、スイッチを押した