ファンタシースターオンライン2 if    作:ラル・ノベル

4 / 8
PSO2の世界を小説ど素人がオリジナル要素込で書いた妄想小説もどきです。
Phantasy Starの世界が好きな方はオリジナル展開・要素が多いためお勧めしません。
原作のpso2に興味がある方は参考にはならないと思います。
ゲームのネタバレも多いです。ご注意ください。



3、リティア 「幼馴染とボロローブ」

 私は何をやっているんだろう。

 

 気づいたら砂漠に倒れていた。

 倒れた砂地は熱したフライパンのよう。

 とっくに顔の皮膚が火傷していると思ったけどもう感覚がなくてわからない。

 横向きになった視界に広がる景色に人はいない。

 人どころか生き物すら見当たらない。

 ……ダーカーすら見当たらない。

 

 慣れ親しんだビルや店、工場などどこにもない。

 砂に埋もれた機甲種の残骸が所々に見えるだけ。

 ついさっきまでいたテントもどこにあるかわからない。

 乗ってきた飛行艇の音ももう聞こえない。

 

 

 …もう疲れた。

 

 叫び疲れた。

 

 泣き疲れた。

 

 怒り疲れた。

 

 走り疲れた。

 

 ……生きるのも疲れた。

 

 元から死にに来たようなものだし。

 

 もうこのまま死んじゃおう。

 

 ……でも暑苦しいだけで全然死ねやしない。

 

 喉はカラカラ。視界もユラユラ。

 

 意識は朦朧としてるのにいつまで待っても死ねやしない。

 

 あ……眼をつむれば死ねるかな?

 

 そっか、眼を閉じればいいんだ。

 

 前のように、寝るように。

 

 全て無くなる前のように。

 

 私が安らかに眠れたあの頃のみたいに。

 

 眼を……瞑れば……。

 

 なんでだろう。

 

 泣き疲れたはずなのに。

 

 まだ涙がこぼれ落ちる。

 

 叫び足りなかったかな?

 

 怒り足りなかったかな?

 

 まあ、もうどうでもいいこと。

 

 早く寝よう。

 

 

 

 ふと、倒れた私の頭上で砂を踏みしめる音がした。

 何だろう? 何かが邪魔しにきた。

 やっとこの暑さも気にならなくなってきたのに。

 もう少しで眠れる気がしたのに。

 

 ダーカーかな?

 でも攻撃してこない。

 機甲種かな?

 でもうるさい機動音は聞こえない。

 おじさんかな?

 でもあの人は私が倒れていたら大騒ぎしているだろう。

 まさかあの女?

 私が文句を言う間もずっと黙ってたあの女だろうか?

 

 頭上を踏みしめた何かはそれから動かず何の反応もない。

 そうか、あの女だ。

 さっきのように何も言わずただ私を見つめているだけか。

 

 眼を開けず、音のした方にほんの少し顔を動かす。

 

 するとそいつは声をかけてきた。

 

 おじさんでも、あの女でもなかった。

 知ってる声ではなかった。

 そいつは変な口調で問いかけてきた。

 

 「……お腹空いた? の? ……ですか?」

 

 眼を開けてみたけど逆光でよく見えない。

 

 最初に見えたのは……

 

 

 

~~~~~~~~

 

 「あ、あの、あの! すみません!」

 

 困ったような女性の大きな声に、私の意識は現実に引き戻された。

 

 視界に入ったのはクエストカウンターの前に並ぶアークス達の列だった。

 来たときは私と同じアークス研修服に身を包むアークス達が長蛇の列を作っていたんだけど、考え事をしてる間にだいぶ進んでいたみたい。

 3つあるどの列も3,4人しか並んでないし。

 並び始めた時はいつ終わるのかと辟易してたけど……大して時間も取られなかったようで幸いね。

 

 でも声をかけてきた相手が見当たらない。

 私の前に並んでる人は進まない列にイライラしてる様子で爪先で地面を何度も叩いている。

 服装は研修服じゃなく、胸、肩や手足を白銀の鎧で包む……甲冑のような服装。

 名前は確かソロ、ソロプ……なんとかって服ね。

 正直服装なんてどうでもいいし、名前なんて覚えてないわ。

 そして困った声で話しかけてくるような相手ではないわね。

 ていうか身動きするたびにガチャガチャ煩いわねコイツ。

 

 右隣には見知った困り顔の幼なじみしかいないし。

 後ろには誰も並んでないし……。

 うーん、空耳かしら?

 

 「わざと気づかないフリしないでください!」 

 

 「ごめんごめん。久しぶりね、モニカ」

 

 改めて右隣を見るとふくれ顔の幼なじみがいた。

 彼女は武器ショップ店員のモニカ。

 昔は内気な性格で人前に出ることすらままならないほど人見知りだった。

 親の仕事の都合で会う機会が多かったがまともに会話出来るようになるまでどれだけ時間がかかったか。 

 

 「それまでぬいぐるみを通して話すことになるとは思わなかったわ」

 「こ、声に出して思い出さないでください~!」

 

 恥ずかしいのか顔赤くして懇願してくる。

 童顔で背のちっちゃい彼女が瞳を潤ましている様を見るとホントに年上なのかと疑わしい。

 

 「いいじゃない。今では立派にショップ店員やってるんだから、ね?」

 

 明るくそう言いつつ彼女の服装の袖を軽くつまむ。

 アークス調査隊をサポートする職員たちが着る見慣れたナビゲータードレスを着ていた。

 これを着て仕事をすることが、事務員を目指す女性の夢らしい。

 確かにこれを着こなし、キビキビと仕事をこなす大人の女性達の姿はカッコいい。

 でも、モニカにはまだ速いかも。

 似合ってるとは思うけど、大人の女性にはほど遠い気がする。

 

 「今何か失礼なこと考えてません?」

 「そんなことないわよ!?」

 

 慌てて否定しつつ思考をもどす。

 そう、先日、彼女は武器強化のプロであるドゥドゥ先生のお墨付きをもらい晴れて武器ショップの店員として働き出したのだ。  

 

 「ところでモニカ、こんなところで何やってるの? お店は?」

 

 武器ショップはアークス調査隊員達が自分達の武器の強化を依頼する場所だ。

 調査隊員のほぼ全員の武器を数人で強化・調整しているため、勤務し始めの新人が朝から店を離れることは難しいはず。

 私の記憶では今の時刻は開店しているし…試験日だし出張サービスでもしてるのかしら?

 

 「ち、ちょっといろいろありまして~……」

 

 なんかモニカの目が泳いでいる。 

 

 「……まさかもうクビになったんじゃないわよね?」

 「ち、ちがいますよ! 調査隊員認定試験で忙しくなる受付事務の応援です!」

 

 なるほどそれなら納得…しかけたけどふと疑問に思う。

 モニカにクエストカウンターの受付事務なんてできるのかしら?

 

 「えーと、その……人選ミスじゃない?」

 「自分でもそう思いますが、その、くじ引きでもジャンケンでも負けちゃいまして」

 

 苦笑しつつ彼女は説明してくれた。

 3回行ったくじ引きでも10回勝負のジャンケンでも全て負けて決まったらしい。

 運なさすぎじゃない……。

 

 つまり誰も応援に行きたがらなかったのね。

 あんな激務を日がな毎日続ける職場を離れたがらない人がいるとは信じられないわ。 

 まあ、あそこは武器の改造が大好きな変人が多く集まる場所だし、仕方ないわね。

 

 「……また失礼なこと考えてません?」

 「そ、そういうことなら何か用事があったんじゃないの? 今勤務中なんでしょう?」

 

 半眼で睨んでくる彼女の視線から逃れるようにそっぽを向きながら質問した。

 

 「あ! そ、そうでした! えっと、受付で少し問題が発生してしまったので大変申し訳ありませんが隣の2列に移動してください。です!」

 

 …私相手だから伝達内容棒読みなのよね? そうよね?

 そんな「無事伝達できました!」みたいな顔されても…それに… 

 

 「ん? それだけ?」

 「そ、それだけです」

 

 嬉しそうな顔から一変、モニカの頭上にハテナマークが浮かび首を傾げている。

 首を傾げたいのはこっちなんだけど…。

 それだけじゃ説明が足りないんじゃない?

 どおりで前にいる人も指示通り動かずイライラしているわけね。

 

 受付事務を総括してるのはおそらくコフィーさんのはず。

 オラクルで活動するほぼ全てのアークス戦闘隊員・調査隊員の顔を覚え、その人それぞれの実力を見抜き、獲得できるであろうライセンス任務を薦めるのが彼女の主な仕事。

 全ての調査隊員の顔を覚えるだけでも驚きなのにその実力を図る選定眼はもはや神の眼として有名ね。

 もちろん、通常業務の補佐や欠員の出たオペレーター作業の補助もこなすこともできる凄い人だ。

 そんな受付事務のエースが、説明もなくただ列を移動させるだけだなんて。

 コフィーさんらしくない気がする。

 

 …気になるわね。

 興味本位で聞いてみることにする。

 

 「ちなみに何があったの?」

 「…その、内緒ですよ? 先ほど照合しようとした受験者の方のデータ照合で不備が発生したんです。

 それで生体認証で本人確認しようとしたのですが……何故か生体認証を拒んでいまして」

 「何よそれ……何で私達が移動しなきゃいけないのよ」

 

 今回の試験の事前申請にはなんらかの生体データが必要不可欠なの。

 声紋認証、網膜認証、指紋認証、血液……DNA認証にフォトン認証。

 フォトン認証は絶対、他にどれかひとつ提出する必要がある。

 なんでこんなに厳重かというと、以前行われた試験で元から試験を受ける予定の人が、あろうことか代理人を立てて参加し、資格を手に入れようとしたからなの。

 そいつらはキャストの二人組で、あらかじめボディパーツを似通わせたものに変えておき登録。

 後日登録した人になりすました代理人が受付に赴き、データでの顔写真で本人確認をした。

 

 コフィーさんは驚くべき事にキャストの見た目すら判別できるのだけど、やはり普通の受付の人には二人の違いなど解らずそのまま試験参加許可を出してしまい、代理人はそこそこ強い隊員だったので試験はそのまま合格。

 まあ、隊員に認定された証を渡す時にコフィーさんが気づき、そいつの合格は取り消し。

 二人は厳重処分ということで一応は事なきを経たんだけど、そいつらのせいでキャストは試験申請にDNA認証と、最近装置が強化(アップデート)され精度が上がったフォトン認証を提出するのが、私達ヒューマンとかもなんらかの生体認証が義務付けられたってわけ。

 嫌になっちゃうわ。

 

 でも、いずれかの認証データを提出しておけば登録データに不備があってもその場ですぐ識別できるのは受付業務がスムーズに廻るようになったしいいことかもね。

 いちいち身元確認に時間とられることがなくなったわけだし、今も別の列はドンドン進んで人が減っていってるわ。

 その前段階の書類申請が大変になったけど。

 

 にしてもそういう輩は真面目に試験を受けに来てる人達に迷惑がかかる事を考えなかったのかしら。

 そいつらも、受付前で拒否してるやつも!

 

 「なら参加させなきゃいいのよ!」

 

 苛立ち任せに断じた。

 最近改正されたとはいえルールはルール。

 ルールを守れないのにアークス調査隊員になろうなんて間違ってるわ!

 その拒否してる奴は諦めて次回に回すべきだと思う。

 人見知りなモニカはともかく、コフィーさんならそれを伝えられるでしょ!

 コフィーさんも渋ってるなら私が変わりに伝えてくるわ!

 

 熱くなりつつもモニカにそういうと、非常に言いにくそうにしながらも小声で彼女は言った。

 

 「……それがその……六芒均衡(ろくぼうきんこう)の推薦らしくて……」

 「なんですって!? あの六ぼぅぐ!?」

 

 まったく予想できない人達の名を出され、思わず大声をあげてしまう。

 モニカが慌てて私の口を押さえるが開いた口は塞がらなかった。

 些細な怒りなど吹っ飛んでしまった。

 

 あの六芒均衡(ろくぼうきんこう)が。

 百隻以上あるアークス艦隊と生活宙域、すなわちオラクル全体をたったの6人で統括し。

 映像ニュース等にはよく現れるものの、人前に出ることなどまったくなく。

 アークスの大事件にしか現れない彼らが。

 

 「一個人のアークスを推薦!?」

 「お、お願いですから口に出さないでください~!」

 

 未だ私の口を塞ぐモニカの手を払いのけ、肩を掴み問い詰める。

 私にとって六芒均衡(ろくぼうきんこう)の情報は喉から手が出るほどほしかったものだ。

 

 「ど、ど、どいつよ!」

 「うぇ、え~っと、六芒の三のぉ~、カ~ス~ㇻ…」

 「そっちじゃない! 推薦されてる奴はどこのどいつよ!」

 

 更に彼女に詰め寄る。

 何故か彼女がガクガク揺れてるけど情報を前に気にかけてる暇ないわ!

 

 「ゆらさぁ~ないでぇ~! それぇ、ならぁ、ま、まだ、まま前にぃ~」

 

 それを聞き受付窓口のほうを向く。

 視界に映ったのは相変わらず苛立っている鎧の人だ。

 邪魔! と吹き飛ばしたい衝動を抑え、列横に顔を出して確認する。

 

 すると、鎧の人のさらに先。

 他にも指示を無視し、待ち続けるアークス達の隙間。

 受付前に一時的に設置されてるブースの仕切りの下から辛うじて見えたのは……

 

 (……えっ!?)

 

 並んでいる時に思い出した光景が再び蘇る。

 砂漠に伏した私に声をかけたのは。

 逆光の中、辛うじて見えたのは。

 

 辛うじて見えたのは……マントのようなボロローブだった。

 

 ------

 

 

 「嘘……まさか……」

 

 「あの~」

 

 「なんでここに……推薦……? 確かに"あいつ"の実力なら……」

 

 「もしもし~? もしも~し? リティアさ~ん?」

 

 「どうしよ……六芒均衡(ろくぼうきんこう)のことは聞きたいけど……よりによって"あいつ"だなんて……」

 

 「リティアさん! しっかりしてください!!」

 

 「ひゃッ!?」

 

 耳元で大声を上げられて情けない声をあげてしまう。

 そちらを見ると、モニカが心配そうな顔で見上げていた。

 気付かないうちに取り乱しちゃったみたい。

 さっきの記憶(おもいで)の姿にそっくりなんだもの。

 子どもの頃の記憶だし、あの後いろいろあったから顔までちゃんと覚えてないけど、あのボロボロのローブは忘れられないわ。

 アークスであんなみすぼらしく、地まで這うようなボロボロの格好した人は"あいつ"と、"あいつ"に付きまとっていた"あの女"以外見たことない。

 ……ああ、もしかしたら"あの女"かもしれない。

 

 何を浮き足立っていたのだろう?

 まだ目の前のボロローブの人が"あいつ"と決まったわけじゃないわ。

 "あの女"か、別のアークスの可能性もある。

 とにかく、六芒のことも聞きたいし話し掛けてみなきゃ。

 

 そう思いボロローブのほうへ足を踏み出すとモニカが行く手を遮ってきた。

 

 「モニカ、どいてくれる?」

 「い、嫌です! に、睨んでもダメですよ?」

 

 睨んでないわよ。

 

 「今受付の邪魔したらまた遅くなっちゃいます!

 それに、他の人に迷惑かけるのはダメなんじゃないんですか!?」

 

 うっ…それを言われると…。

 でもこの後試験がある以上、今を逃したら次に会えるのはいつになるかわからないわ。

 べ、別に”あいつ”かどうかの確認したいとかじゃなくて、六芒均衡の情報がほしいのよ。

 だから今しか……。

 モニカをどう説得しようか悩んでたら後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

 

 「リティア~! 久しぶり~!」

 

 振り向くとそこには学校のクラスメイトだったアメリアがいた。

 アメリア・メリルリート。医療機器業界大手の娘にして医術大家の孫娘でこの子も私の幼馴染よ。

 それに訓練校(アカデミー)のクラスメイトで校内成績優秀者の一人。

 誰にでも優しく、相談事も親身になって聞いてくれる、親しい人には話さなくても強引に聞きにいくちょこっとお節介焼きな私の親友。 

 

 《テクター》が得意クラスで、実践での支援能力は校内トップの実力者。

 彼女自身のフォトン親和性の高さに医療知識の組み合わせもあるらしく、彼女の回復法術(テクニック・レスタ)は簡単な生傷も治せるの。

 本来は術者周囲のフォトン吸収力を活性化させ、元気にするくらいのテクニックなのに。

 もはや彼女だけの才能ね。

 そんな彼女は性格も相まって周囲に『慈愛のアメリア』と呼ばれているわ。

 

 「アメリア! 久しぶりね! って言っても1週間ぶりだけどね」

 

 そのままアメリアにハグしようとした私の目の前に、鋭い槍の穂先が突きつけられる。

 

 「アメリアに近づくな」

 

 アメリアと私の間に割って入った少女は、犬歯を剥き出しにして明らかに敵意を向けている。

 誰にって…私以外いないわよ。

 

 

 邪魔してきたこの子はミリア・バズコット。

 アメリアと同じく訓練校のクラスメートで、彼女も校内成績優秀者の一人。

 口調はぶっきらぼうで一匹狼を気取ってたけど、アメリアのお節介が功を奏したようで意外と仲間思いで子どもっぽい子だっていうことがすぐに周囲に露呈したわ。

 ミリアは照れているのか否定してるけど。

 アメリアとはその時から仲良しでよく一緒にいるわね、ミリアは否定しているけど。

 

 小柄なその身を活かした機敏な動きで敵を屠る様は獣そのもの。戦闘に秀でた才を持つ同期の中ではトップを争う実力者よ。

 家族全員が傭兵として企業に雇われているためか、戦闘知識も連携も他の研修生より実践的で指示も的確、パーティを組んでるときは結構助けられたわ。

 …もうパーティを組むことはないだろうけど。

 

 まあそんなわけで実力も協調性もある彼女は『狩人(かりうど)ミリア』って名前が通っている。

 どちらかと言うと獣人とか甘え猫とかの方がしっくりくると思うけど本人に聞かれたら噛みつかれるので黙っておく。この子文字通り本当に噛んでくるからね。

 

 隣でモニカが息を呑むのが聞こえた。

 モニカは職員として日も浅く、アークス同士のケンカに慣れてない。

 ミリアの威圧感はそれこそ戦闘慣れしてない一般人を立ち竦ませるには十分なほどだし、モニカは臆病だからなおさら怯えちゃうわね。

 足りない試験管人員の応援できたとはいえ、職員のモニカがこの場を収めないといけなんだろうけど…あまりにも荷が重すぎると判断した私は、安心させるために場を収めることにする。

 ていうか私のせいだし。せめてこの槍ひっこめさせないと。

 

 「…ロビーでの抜剣は禁止なんだけど?」

 「これは槍」

 

 あ、ダメかも。この子槍納める気がない。

 

 「くだらないこと言ってないで槍納めなさいよ。試験資格剥奪されるわよ?」

 「まだ手続きおわってないし、それでも構わない。裏切り者に護衛対象を傷つけられるわけにはいかない」

 「…アンタの護衛対象はギルバートのやつでしょ。あの成金はどこいったのよ」

 「そのギルバートに頼まれた。今の私の護衛対象はアメリあ痛ッ!?」

 

 途中で言葉を切ったミリアの頭にはアメリアの拳が乗せられていた。

 そんなに強く叩いたようには見えなかったけど、親しいアメリアに叩かれたのが効いたのか、ミリアは信じられないという顔でアメリアを見ている。

 

 「アメリア、何するの!?」

 「もう! 友達に槍向けちゃダメでしょ!?」

 「でもこいつは裏切ったし!」

 「あれは事故なの! もー、何度言ったらわかるのかな? それに護衛なんていらないってば」

 「でもでも! あのことは絶対用心した方がいいってギルが言ってたもん!」

 

 必死なミリアは説得に夢中なのか槍を納めた。

 モニカと一緒に息をつく私。

 なんだかんだ言って私も怖かった。あの子、本気で怒ると怖いもん。

 本気じゃないし絶対に攻撃してこないと分かっていてもあの威圧感は脅威ね。

 にしてもアメリアに護衛が必要っていうのは気になるわね。

 

 「護衛ってどういうこと?」

 「ふん、裏切り者には関係な・・・」

 「それがねー、なんか脅迫状みたいなのがギル君の家に届いてね」

 「アメリアッ!?」

 

 ミリアの言葉を遮り、あっさり話してしまうアメリア。

 いつも通りの二人のやり取りに笑いそうになっちゃったけど、脅迫状というのが気になり聞き直す。

 

 「脅迫状()()()?」

 「そーなの。文字が大きかったり斜めになってたりでとにかく読みづらくて。

 内容は『試験の時に私がひどい目に遭う』って書いてあったの」

 「正確には『己が証を求めん時、汝が友、『慈愛』のもとに災いが降りかかるであろう』だよ」

 

 結局教えてくれるのを手伝うミリアに、思わず顔がほころんでしまう。

 なんだかんだ言って優しいのよね。

 そんな私を見てハッとした様子で照れ隠しにまた槍を掴もうとするもんだから、慌てて話し続ける。

 

 「何それ? わざわざ読みづらくしたあげく内容は何言ってるか意味わかんないじゃない。

 よくそんな文章で狙われているってわかるわね?」

 

 『慈愛』と言えばアメリア以外には心当たりがないが、己が証とか災いが降りかかるとか抽象的すぎてよくわからない。

 それにこれじゃ脅迫状と言うよりは警告みたい。

 

 「んー、まあ狙われる心当たりもあるにはあるし、ギルが熱くなっちゃってね」

 

 アメリアの両親や祖母が大手大家の医療術師のためか幼少の時から身代金目当ての輩に襲われることが多かったらしい。

 昔から交流のあったギルバート家のツテで、中立地帯で比較的安全なシップ5(ラグズ)に来たって言ってたわ。

 おかげでアメリアと会えて仲良くなれたけど、ひどいことする奴らもいるものね。

 

 シップ5でもアークス同士のいざこざがまったくないわけじゃないけど、人攫いが起こることはないわ。

 重要な建築物が多いから、アークスシップを守る《アークス衛士隊》の出入りも多いシップ5(ラグズ)でそんなバカな真似をするのはそうそういないはず。

 噂じゃ六芒均衡もよくシップ5(ラグズ)を経由しているらしいし。見たことないけど。

  

 そこまで考えてようやく試験の時に狙われる可能性が高いことを理解する。

 

 「ここでは狙えなくても試験時、惑星に降りてる時は危険、てことね?」

 「そういうこと。それに証っていうのは調査隊員ライセンスのこと。だと思うってギルが言ってた。」

 

 そういうことならギルもミリアも護衛をつけたがるのもわかる。

 アメリアが危険にさらされるのは黙っていられない二人。

 

 「それにアメリアは目立つから」

 「…そうね、目立つわね」

 

 そうやって二人で彼女の豊満な胸を見てしまう。

 うう、どうやったらそんなに大きくなるのよ。

 私にも少しくらい…。

 

 「そんなことないよ! 実力ならリティアとミリアちゃんの方があるじゃない!」

 「そういうこと言ってんじゃないわよ…いやそれもだけど」

 

 優秀で気立てのよく可愛い彼女は好かれることの方が多いが疎まれてしまうことも稀にある。

 そういう奴はミリアが威嚇してるから何もしてこないけど。

 

 「あ、でも護衛じゃなくて、頼りになる仲間はほしいかな~?」

 

 と、急にわざとらしく顎に一刺し指を当て思案しているふりをするアメリア。

 …このあと何を言うか手に取るようにわかる。

 

 「ね、リティア。今回の試験で、」

 「あー! ごめん、アメリア! 私、用事あったの思い出した!」

 

 ()()()()()があったのにいまだパーティに誘ってくれるアメリアに嬉しくも思うし、申し訳なくも思う。

 幼馴染の彼女を護りたい気持ちもある。

 だけど私はまだしばらくはパーティは組めない。

 組んじゃ、いけないんだ。

 私は、仲間を、傷つける。

 

 それに用事があるのも本当のことだ。

 ボロローブの人に話しかけなくちゃ…って…

 

 「いない!?」

 

 ついさっきまで一番前でトラブルを起こしてたのに!?

 ていうか列がすごい進んでる!?

 そこで今まで蚊帳の外だったモニカが説明してくれる。

 

 「つ、ついさっき問題が解決したようです。ローブの人はすぐに試験時移動用の大型輸送機に入っていきました」

 「そ、そんな…」

 

 せっかく六芒の情報を聞けるチャンスだったのに…。

 ”あいつ”かどうかの確認もしたかったのに…。

 私はその場にへたり込んでしまった。

 六芒の情報は本当に手に入りづらいのだ。

 

 「ねえ、モニカ…」

 「うう、ごめんなさい。守秘義務です」

 

 モニカは私の落ち込み具合を見て何を言おうとしたのか察したようで先に謝ってきた。

 わかってはいた。調査隊員にも戦闘隊員にも衛士隊員にもなっていないアークスの素性を、緊急時以外に職員から聞きだすことは難しい。

 でもモニカ、あなた結構守秘義務破ってるわよ?

 六芒の推薦とか…でもだからこそこれ以上喋らせてばれたりしたらモニカが大変ね。

 

 わかっていたから自分で接触しようとしたのに。

 自分でチャンスを潰しちゃった。

 せめて名前さえわかればどうにかなったのに…。

 

 「ローブの人? それってボロボロなローブでフード被ったアークスのこと?」

 

 へたり込み、うつむいた私の顔を覗き込むようにしてアメリアが聞いてきた。

 

 「知ってるの!?」

 「う、うん。さっき友達になったよ~」

 「なってない。あと近づくな」

 

 急に立ち上がって詰め寄ってくる私に若干引きながらもアメリアは答えてくれた。

 ミリアが呟き、槍に手をやっているのが見えたがそれどころじゃないわ。

 

 ボロローブの人がいなくなった今、彼女たちの情報こそが光明なの!

 っていうか友達ってどういうこと!?

 とにかく続きを聞かなくちゃ!

 でも聞かずともアメリアはボロローブの人のことを教えてくれた。

 

 「クルス君っていうんだって! ミリアちゃんも一目置いてる子だよ!」

 「置いてない。眼中にない」

 「もう、強がっちゃって~。一目惚れしちゃったって言ってたじゃない」

 「!? 言ってないもん!」

 

 二人が得意の漫才を続けても頭に入ってこなかった。

 

 そっか、クルスっていうんだ。

 名前が分かれば、相手もアークス調査隊員になればアークスサーチを利用して相手に連絡を取ることが可能になる。

 なんだか急に元気が出てきた。こんなところで落ち込んでいる場合じゃない!

 アークスサーチは相手だけじゃなく、私も調査隊員にならなくちゃ意味がないわ。

 私も絶対に調査隊員になるんだ!

 そうすれば”あいつ”のそばに…。

 じゃなかった! ”あいつ”かどうかはまだわからないんだってば!

 六芒の情報! それだけ! 目標に近づけるかもしれないんだししっかりしないと!

 で、でも”あいつ”か確認できるかも…いや、でも…。

 

 なんてことを考えているといつのまに漫才をやめたのか、アメリアがニヤニヤしながら近づいてくる。

 な、なんかミリアをからかう時の表情に似ている。

 

 「あ~、そっか~。クルス君とパーティ組むからか~」

 「な、なんのこと!?」

 「そういうことなら気にしない気にしない♪ クルス君と仲良くね~♪」

 「な!? 違うわよ! ちょ、ちょっとニヤニヤするのやめて!! ミリアまで!!」

 「末永く」

 「違うってば!!」

 

 この…ミリアにやられる覚悟で殴ろうかしら。

 と、そこでアメリアがニヤニヤするのをやめて優しく微笑みながら私に抱きついてきた。

 

 「!?」

 

 急に抱きつかれて硬直してしまった。

 これはまずい。ミリアに襲われる。

 そう思ってミリアの方を見るが、彼女は顔をそらし不満そうに鼻を鳴らすだけだ。

 『今回だけ』と態度で示しているかのようだった。

 

 耳元でアメリアが話し始める。

 まだ硬直が取れない私は、なすがまま彼女の言葉に耳を傾ける。

 

 「いいんだよ、リティア。ゆっくりでいいから」

 

 「あなたが決めたなら誰とでもいいから」

 

 「ちゃんとパーティ組んで、相手と話して、失敗して、反省して、成功して」

 

 「もう一度、信頼できる相手を見つけて、ね?」

 

 「それでいつか、自分自身を許せたら…」

 

 「その時はもう一度私たちとパーティ組んでね」

 

 ゆっくり顔を離して、私の目を見て言うアメリアの目は潤んでいた。

 私はアメリアにいつも心配をかけてばかりいる。

 いつも迷惑ばかりかけている。傷つけてばかりいる。

 だからもう迷惑をかけないように、私は強くなるのだ。

 大事な親友をもう二度と傷つけないように。

 そんな自分勝手な私を、それでも心から心配して優しくいつものような微笑みを向けてくれるのだ。

 

 「…うん。ありがと」

 

 なんとか言葉を絞り出し彼女にそう言うと、聖母のような微笑みからまた一変してニヤニヤしだす。

 

 「それでちゃんとクルス君のこと紹介してよ~?」

 「だからそういうのじゃないってば!!」

 「末永く」

 「だから…もうっ! うるっさい!」

 

 そして私は逃げるように受付へと向かう。

 こんな私を許してくれる彼女の優しさに。

 なんだかんだ見ていてくれている彼女の優しさに。

 感謝しながら。




「なんで付いてくるのよ!」
「だって、私達もまだ試験確認終わってないし?」
「そゆこと」
「も、モニカは仕事残ってるでしょ!?」
「あう、でもリティアさんとクルスさんのこと気になります!」
「な、なんもないわよ! ていうかほら、職務怠慢よ! コフィーさんとこいきなさい!」
「そいえば挨拶してなかったね! 私はアメリア・メリルリート! 隣のこの子はミリアちゃん! よろしくね、モニカちゃん!」
「…ふん」
「あ、こ、こちらこそよろしくお願いします~!」
「あー、もう、ほら! コフィーさんが睨んでるから! 今度一緒にカフェにでもいこ! 挨拶はその時!」
「! や、約束ですよ~!」
「ミリアちゃん聞いた? 今度リティアが奢ってくれるって!」
「…奢ってもらってやる」
「ちょ!? なんでそうなってるのよ!? っていうかミリア偉そう! 裏切者に奢ってもらうとかどうなのよ!?」
「食事は別腹」
「意味わかんないわよ!」





グダグダ。
ありがとうございました。
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