《惑星ナベリウス森林地帯上空》
おかしい!
逃げきれない!
無理して《昌竜の力》を使っているのに!
"炎龍"じゃ"昌龍"には追いつけないはずなのに!
やっぱり"ヴェル"の力が偽物だから?
違うッ! そんなことない!
あの"炎龍"がおかしいんだ!
時間がない。
身体が持たない。
逃げ切れないなら急いで隠れなきゃ。
でもどこへ?
"獣の星"には今は降りられない。
濃くて邪悪な霧が立ち込めている。
降りるのは危険すぎる。
でも空中じゃもう逃げ場が…
ここで死んじゃうなら下に…あ!?
「喰らえェ!!!」
よそ見しすぎた…炎球…避けられない!
!? "シロ"、ダメ!!
"シロ"! "シロ"ッ!!
-----
俺が女!?
俺は驚愕の声を上げようとした時、
機体に何かがぶつかる音がした。
ガキンッ! という音と共に機体が揺れ、足元がふら付く。
大した揺れじゃないが、飛行中の乗物が揺れたのだ。
周囲のアークス達も慌ただしくなる。
何かぶつかったのか?
いやでもここ空だろ?
故障か? バードストライクか?
どちらでもなかった。
「グオオオオオオォォォォ!!」
怪物の大声と共に大きく機体が揺れ、
俺はその場に転倒した。
《
周囲が赤く点滅し、
え、なにごと? Eトラ?
「何が起こった!?」
「何かが外で機体を攻撃してます!」
「
「窓のシェルターを開け! 無理ならモニターだ!」
「今、出ます………!?
"ヴォル・ドラゴン"ですッ!!」
「バカな!? 《アムドゥスキア》にしかいないはずだぞ!?」
「ですが現に…ッ!? ブレス、きます!!」
シェルターがゆっくり開くとすぐ近くにそいつはいた。
ヴォル・ドラゴン。
《惑星アムドゥスキア》に出てくる大型の龍でボスキャラだ。
岩肌のようなゴツゴツした巨体を大きく揺さぶり、巨大な翼で羽ばたきながら空中に静止し、
こちらに大きな口を向け、ブレスを撃つための準備をしている。
アニメじゃ小学生に倒されてたり、
主人公に真っ二つにされてたりと散々だったが、実際見るとそんな弱そうにはとても見えない。
それに今はちょっとまずい。
何がまずいって、このままじゃこの戦闘機(?)が墜とされる。
アークスの戦闘機は空中戦が苦手なのだ。
戦闘機なのに。
っていうか、ブレスきます、って、避けられなくね!?
巨大な口から灼熱が迸る。
炎ブレスが機体を包み込んだ。
またも機体が大きく揺れた。
気のせいか機内の温度が上がっている気がする。
あ、気のせいじゃない。超熱い。
だが炎が機内に入ることはなく、
墜ちることはなかった。
警鐘は相変わらずうるさいが。
警鐘だけじゃない。周囲のアークス達も騒ぎ出した。
「おい、これは試験なのか!?」
「いきなりヴォル・ドラゴンが相手なんてありえねえだろ!」
「逃げようぜ! このままじゃ丸焦げだ!」
「空の上だぞ!? どうやって逃げるんだよ」
「テレポーターの座標指定はまだなのか!?」
全員パニックだな。
よくみりゃ若いのばっかりだし、
試験とか言ってる当たり、場慣れしてない新人アークスが多いのか?
それに対して俺の冷静なこと…まだ"死神"の影響が残ってるのか?
いやまぁ自分の身体が女ってことのほうが、
衝撃的すぎただけなんだが。
女って…どうしよう。マジで予想外だ。
ちょっとキツイ胸がデブってたわけじゃなく、伝説の"おっぱい"だとは思わなかった。
ってか女の身体とかどうすればいいんだ?
トイレとか…。
キャストだし深く考えなくていいのか?
…とりあえずこんな機会ないし、おっぱい触っておくか?
なんて真剣に考えていたが、炎がやんだことで周りのアークスがまた騒ぎ出す。
ブレスが収まり再びヴォル・ドラゴンの姿が見えたことで周囲の不安は爆発したらしい。
こいつら本当にアークスなのか?
いくらなんでも余裕なさすぎだろ。
ゲームのNPCでももっとこう、ビビりながらも戦う構えぐらい見せてたぞ。
「フォトン障壁、パワー減! このままじゃあと1回持つかどうか…」
「急いでこの空域を離脱しろ!」
「無理です! 先ほどの衝撃でエンジンが故障してます! 高度を維持するしか…」
「なら反撃しろよぉ!?」
「してますが、攻撃が通らないんです!」
みると戦闘機からも光る銃弾を撃ち続けているが、ヴォル・ドラゴンの身体に当たる前に掻き消えている。
似た現象を見たことあるな。あれは確か…
「監査官! いるんでしょ!?」
隣でポニーテールの子…リティア・アルラディーノが大声を上げる。
その声に反応したのは、
紫髪のリーゼントをしたアークスだった。
「あ、あぁ、なんだよ?」
こいつは確かゲームのNPCアークスで、
名前は"レダ"だな。
研修生からアークスになったばかりじゃなかったか?
性格もお調子者というか、軽い奴だったし、
監査役には向かないんじゃないか?
あ。バイトか?
前世の世界にもあったな~。
模試試験会場の監視役のバイト。
やったことないけど。
だとしたらこんな異常事態(?)に対処できるとほ思えないな。
なんとか自分の身を守る方法を探したほうがいいな。全然情報集まってないけど。
俺が保身に思考を傾ける中、
リティア・アルラディーノは周囲の連中とは違い、変わらず強気な態度で話し続ける。
「これは《試験》の一環じゃないんでしょ?」
「あ、あぁ、そうだよ、完全にイレギュラーだ」
「なら! 今すぐ《ナベリウス》に降りるべきじゃない!?
攻撃は通らないし、このままじゃやられちゃうわ!」
確かにこのまま空中にいればなすすべもなく墜とされるだろう。
そうなるよりは地上を目指して、
隠れるなり戦うなりしたほうがいい。
だがそういうわけにもいかないらしい。
「ここはAランクエリア上空だぞ!?
降りたら原生種の餌食になる、自殺行為だ!」
Aランクエリア? はて、ゲームにない単語だ。
「それにダーカー反応の多い変な霧が発生してるんだよ!
あんな現象見たことねえよ!
下がどうなってるかもわからないのに降ろせるかよ!」
レダも必死になって反論する。
彼もちゃんと俺たちのことを考えているのだ。
軽い奴なんて思ってごめん。
監査官、大変そうだな。
しかしリティア・アルラディーノは止まらなかった。
「このままやられて全員で墜ちて死ぬより、
未知のエリアでも降りて生きようとする方がいいに決まってるわ!」
急に向きを変えて機内の奥の方へとずんずん進んでいく。
それについていくフードの子…クルスは、
状況がよくわかってない様子。
この子大丈夫か?
ん? あっちはテレポーターがあるとこか。
「お、おいどこへ…ちょ、まてよ!」
レダが某アイドルのような静止の声をかけるが彼女は止まらない。
レダはそんな彼女を止めたいのだろうが、
他のアークスが彼のもとに詰め寄り、
それどころじゃなくなっている。
動けない彼にリティア・アルラディーノ乱暴な声で返答する。
「私が下に降りて確認してくるわよ!」
なんて逞しい子!
やっぱり女装少年なんじゃ…?
いや感心してる場合じゃない!
「一人じゃ危なくないか?」
追いかけて声をかけるも彼女は振り向くことはせず、テレポーター横にある端末を操作し始める。
クルスが横で興味深げに見ている。
「何よ、あんたも止める気?」
操作しながらもちゃんと返答はしてくれるらしい。
「いや、このままだと墜ちて死ぬだけなのはわかる。
下の調査が必要なのも納得だ。
でも一人じゃ危ないし…」
さてどう言うべきか。
さっきのレダの話を聞く限り、下もかなりヤバイ。
パーティーも組まず彼女…とクルスだけで行くのは危険すぎると思う。
黒い霧なんてゲームでも見たことないしな。
かと言って手伝おうにも俺自身がどれぐらい戦えるかもわからない。
やはり機内で同意見の味方を探すべきじゃ…
頭を悩ませていると、頭の中でピロリン♪と変な電子音が聞こえた。
この音は…パーティー申請だな。
パーティーを組みたい相手に申請すると、相手にはメッセージとこの音が届く仕組みになっている。
俺もたまに聞いた音だ。
思い出すぜ…パーティー申請が来て喜んでたら、『すみません、送る先間違えました!』って言われてパーティーから追い出されたこと。
まあ俺はぼっ…ソロプレイが多かったし?
別に気にしてなんかないけど?
いや、今はそんなことどうでもいいか。
この音が聞こえたってことは、
誰かからパーティーに入るように申請されたのか?
ま、どうせ今回も
「…何あんた、パーティー組みたいの?」
リティア・アルラディーノは作業の手を止め、
俺に呻るように聞いてくる。
え、どうゆうこと?
「なにキョトンとしてるのよ。あんた今パーティー申請したでしょ」
し、してないぞ!?
俺には身に覚えがない。
話しかけただけでパーティー申請できるの、この世界!?
いや俺も音が聞こえたんだから、俺も誰かから申請されたのか。
まったく誰だ~? 俺のトラウマを刺激する奴は~?
…あれ、パーティーの設定ってどうやって見るんだ?
「生憎だけど、私は私が認めた相手じゃないとパーティーを組む気なんて…」
拒否しようとしているのだろうリティア・アルラディーノは、真隣から聞こえた電子音を聞き喋るのをやめた。
《クルスさんがパーティーに加入しました》
俺の頭の中に女性のアナウンスが流れる。
どうやら俺はクルスにもパーティー申請を送っていたらしい。
身に覚えがまったくないが。
っていうか俺がパーティーリーダーになってるのか!?
みるとクルスは嬉しそうだ。
しかしリティア・アルラディーノは怒りそうだ。
「なんであんたパーティー入ってるのよ!!」
ほらやっぱり怒った。
腰に手を当て前のめりになってクルスを睨んでいる。
表情は読みやすいし(特に怒ってるとき)、リアクションはでかいし、わかりやすい子だな。
「え? えっと、何か出たのでボタンを押したら…」
「適当にボタン押しちゃダメ!!
あんた私とパーティー組むんだから、
他の人のパーティー入ってんじゃないわよ!」
あ、そういうことだったのか。
悪いことしちゃったかな。
いや、わざとじゃないんだけど。
なんだったら今すぐパーティー解散したいぐらいだ。
「えっと、リリアさんも同じパーティーに入るんですよね?」
「リティアよ! 私はこんな意味わかんない奴のパーティーなんて…」
再度彼女の言葉が止まる。
彼女の周囲にアークスが集まり始めた。
「何ちんたらやってるんだよ、降りるぞ!」
「座標設定できてないじゃん!」
「貸せ! 俺がやる!」
「なんでもいいから早くしやがれ!」
先ほどまでレダが抑えていたアークス達が、
リティア・アルラディーノの行動を見て、
逃げ出すと勘違いしたらしい。
我先にと端末に群がり、
なんとか輸送機から脱出しようとしている。
「やめなさ、きゃっ!」
《リティアさんがパーティーに加入しました》
リティア・アルラディーノがアークス達に押し出された拍子に、パーティー加入が認められたらしい。
ゆるゆるだな、加入方法。
クルスがすんごい嬉しそうな顔してる。
パーティーメンバーが増えたのが嬉しいらしい。
フード越しでもわかる満面の笑みだ。
なんだろう。
守りたい、その笑顔。
でもなんか笑い方が少年っぽい。
しかしそれだけで終わらなかった。
かなり強く押されたらしいリティア・アルラディーノは、近くにいたクルスを弾き飛ばして転倒し、そのクルスは嬉しそうな顔のまま俺に突っ込んできた。
腹のあたりに頭から。
反応できずクルス・ヘッドをお腹に喰らい抱えたまま、
俺の身体はテレポーターの光の池に向かって落ちていった。
「ゲフッ………へ?」
光の奔流に身体が包まれる。
包まれる寸前に見えたのは、倒れながらもこちらを見て顔面蒼白にし、茫然としているリティア・アルラディーノの顔だった。
-----
"シロ"が"ヴェル"をかばって落ちちゃった。
すぐ助けに行かなきゃ…。
でも"炎龍"が邪魔で…どうしたら!?
痛ッ!?
こ、これは"あーくす"の船!?
なんでこんな所に"あーくす"なんかが!?
邪魔…あ!? 炎の息が!?
…あれ、炎が避けていく?
この船の近くにいれば攻撃が効かないのかも。
でもこれじゃ"シロ"を助けにいけない。
…あれ…船から何か落ちて…?
-----
「ああああああああああああああ!!!」
光の奔流から抜け出たと思ったら、
そこは雲の横でした。
空中でした。
気づけば俺は。
スカイダイビングをしていました。
「しぬううううううううう!!!」
座標指定は終わってなかったらしい。
予想していたものより大きめの輸送機の
真下に転移したと思ったら
すぐに落下が始まった。
ジェットコースターに乗った時のような
あの肝が冷える感覚。恐怖からの吐き気。
それを一瞬で打ち消すほどの激しい風圧が全身を煽り続ける。
テレビで見たスカイダイビングのように
大の字の落下態勢を取る間もなかった。
風に煽られバランスを崩し
むちゃくちゃに回転しながら落ちていく。
(このままだとあっという間に地面に叩き付けられるぞ!?)
これは無理だ。
こんな高い所から落ちて助かるはずがない。
いきなり死ぬ。
せっかく召還されたのに、
もう死ぬ。
"死神"ごめん。
約束守れないわ。
状況を悟り早くも諦めたが、
お腹で何かがもぞもぞ動いていることに気づいた。
見るとクルスがしがみ付いていた。
でかいローブが凄い勢いではためいている。
相変わらずフードをしており、
顔を俺の腹に埋めているので表情はわからないが、掴んでいる腕の力は強張っていた。
そうだ、この子も一緒に落ちたんだった。
この子も死んじゃうのか?
なんとかこの子だけでも守れないのか?
完全にパニクっていた頭が、
水をかけられたかのように冷えていく。
ビビる気持ちを抑えて下を見ると、
鬱蒼と茂る大森林が広がっていた。
所々に見える青い所は湖だろうか。
かなりの高度を飛んでいたようで、
落ちるまでにまだ時間がある、と思う。
なんとかあの湖に落ちれば助かる…か?
どうする? 何か打開策は?
回転を止め、少しでも空中を移動するには?
速度を下げ、落下先を修正するには?
(《キャスト》の脚についているブースターを使えばいけるか?)
しかし、ブースターなど脚にはついてなかった。
仮にあったとしても初めての身体じゃ
使えたかどうかわからないが。
(な、なら武器を使って滞空すればいい!)
ゲームでは武器の種類によっては
長時間滞空していられるものがあったはず。
普通の武器でも使用するだけで一瞬空中に静止することができる。
疲れるが武器を素振りし続ければいけるかもしれない。
だが、武器もなかった。
腰にも背中にも装備してないし
アイテムパック…リュックのようなものすらもっていない。
何もできない。
(…くそっ! ならせめてクルスの盾に…)
《キャスト》は他の種族より丈夫にできていたはずだ。
機械だしな。
高所から落ちてもあるいは。
いやだめだ。
この高さじゃ変わらない。
クルスも一緒に地面に叩き付けられてぺちゃんこだ。
冷静になった頭で考えてもこの程度だ。
冷静な頭で死を悟るしかできなかった。
(他に何かないのかよ!?)
異世界に来たんだぞ!?
主人公だけの特別な力はないのかよ!
状況を一発逆転できるような魔法とか特殊技とか!!
せっかく召還されたのに、
何もできないまま終わるのかよ!
(…魔法?)
"PSO2"には《テクニック》という遠距離攻撃がある。
ファンタジー世界で言うところの魔法にあたる技で、フォトンを使い環境を操って、
火球や氷の散弾を作りだし敵に攻撃するんだ。
これを利用すれば、落ちる速度を下げられるかもしれない。
ゲームではテクニックを使ったところで、
反動でプレイヤーが後ろに下がることはなかったが…。
反作用がなければ空中で速度を変えたりできない。
できても無意味。できるかもわからねえ。
でも、できそうなことがこれしかない。
時間もない。そうと決まれば…やってやる!
なんとかバランスを取ろうとするが、
クルスを抱えているからか軸がぶれ、
下を狙うのも一苦労だった。
(くそがっ! これぐらい…)
四苦八苦しながらも無理やり下を向く。
地面に手を向けて集中する。
上手くいくかわからないが、
頼む、成功してくれ!
「…フォイエ!」
魔法のように詠唱してみる。
使ったのは炎の初級テクニック《フォイエ》
ボッ! という音と共に手元から巨大な炎弾が発射される。
と、同時にほんの少し落下速度が落ちるのを感じた。
(成功した!? 反動がある! これならいけるか? …いや!)
しかし無理やり放ったためか、
やはりバランスがとれず、
せいぜい回転の方向が変わっただけだ。
(でも、これしかないんだ!)
諦めずにフォトンが枯れるまで
テクニックを撃ち続けようとしたとき、
「グオオオオオオォォォォ!」
猛々しい雄たけびが風圧をも切り裂き俺の耳に届く。
ヴォル・ドラゴンがこちらに向かってきてる!?
なんで!? フォイエに反応したのか!?
(今度こそ本当に終わりか…)
慣れてもいないテクニックを使って
迫るヴォル・ドラゴンを躱すのなんて無理だ。
空中じゃ飛べる奴のほうが有利だしな…終わった。
(って諦めきれるかよッ!)
がむしゃらにフォイエを唱えようとした時、
急に俺の身体の回転が止まった。
ヴォル・ドラゴンが俺たちの上方から迫ってくるのが見える。
ちゃんと、見える。
また回転が始まるかと思ったが
そのままの姿勢で安定し続けている。
更に落下速度がほんの少し減少するのを感じた。
(なんだ?)
違和感を感じた瞬間、腹部から声が聞こえる。
「すごい~! 僕達、飛んでますよ~!!」
クルスが《ツインダガー》を持って笑っていた。
飛んでいるからか声が間延びしているように聞こえる。
「落ちてるんだよ!!!!」
思わずツッコんでしまったがクルスは満面の笑みだ。
この子はぶっとんでる。
状況がわかった上で笑っているのだ。
この笑みは…
(本気で楽しんでる!?)
守りたくない、この笑顔。
「おい! わかってんのか!?」
思わず怒鳴りつける。
だってそうだろう。
眼前にはヴォル・ドラゴンの咢が迫っている。
それを躱せたとしても、
地面に叩き付けられてジ・エンドだ。
この状況でヘラヘラ…じゃないが、楽しそうにしてるなんてどうかしてる。
「このままだと、死ぬぞ!?」
クルスは一瞬キョトンとした顔をしたが、
すぐに俺に笑いかけた。
「大丈夫ですよ」
笑顔を絶やさず、言った。
「僕が守りますから」
どこからくるんだその自信は。
ここは空中で、相手は龍。
バランスもギリギリとってるってのに。
守るだと?
色々と言いたいことはあったが
クルスは宣言したときには俺の腹の上で向きを変え、
ヴォル・ドラゴンと相対していた。
「しっかり捕まっててください~!」
どこにだよ!?
ローブが邪魔で捕まりづれぇよ!
あ、やばっ! はぐれちまう!!
とっさに自分より小柄なクルスの腰回りにローブごと抱き着いた。
さっきの俺たちとは逆の形だ。
ていうか細いなコイツ。
あ、でも筋肉は凄い。
ってんなこと考えてる場合じゃない!!
「あはは、くすぐったいですよ~」
クルスはそういいながらもバランスを崩さずに、頭上から迫るヴォル・ドラゴンを迎え撃つように右手を突き出している。
右手に持っているのはいつのまにか
《ツインダガー》ではなく、
《ガンスラッシュ》になっていた。
片手持ちの剣にも銃にもなる武器。
状況によって臨機応変に立ち回れる便利な武器だが、
一撃の火力は他の武器に劣る。
倒すには力不足であろうその武器を、
強く握りしめ、銃口を向けている。
(正気かよ!? 効くわけがない!!)
「よし、いきます!」
そう言ってクルスは引き金を立て続けに3回引いた。
"PSO2"には《
普通に武器で斬ったり撃ったりする通常技と違い、高火力であり、自らが飛び上がったり武器を投げ飛ばしたり、
カッコよく、多彩で、強い。
装備している武器ごとに使える《
戦うアークスの…必殺技だ。
クルスが
普通の攻撃を3回行っただけだ。
なのに、
(でけぇ!?)
巨大な光弾が3つヴォル・ドラゴンに向かっていく。
それはまさに《ガンスラッシュ》専用の射撃《
しかし、光弾はヴォル・ドラゴンの顔面に命中する寸前で掻き消えてしまう。
「あれ? ダメですか」
「みたいだな!?」
マジかよ、完全に倒せる流れだったじゃねえか!
確かにヴォル・ドラゴンはゲームの中でも
《エイミングショット》3発で倒せるほど弱いボスじゃないが、足止めもできないなんて…。
これじゃどうやっても…!?
それにさっきの光弾が掻き消える現象。
映画で見た
DFと違って長距離からフォトンを吸収しているわけじゃないが、
あのヴォル・ドラゴンは超近距離のフォトンを即座に吸い取ってしまうらしい。
アークスにとって最悪の能力だ。
なんでヴォル・ドラゴンが…。
あんなのに勝てっこない。
しかしクルスは再度銃を構える。
「じゃあこれですね」
そうは言うものの先ほどの構えと何も変わらない。
違うこといえばいつまでたっても撃たないことだ。
こんなことしてる場合じゃない。
地面も迫ってきている。
「おい、聞け! あの
攻撃しても無駄なんだ!
それよりも《ツインダガー》で回避してなんとか…」
しかしクルスは俺の言葉を遮る。
「数度回避できてもまた追いつかれますよ。
地面に降りるまで回避するのは難しいですね」
まるで諭すように話すクルス。
話しながらもその視線はヴォル・ドラゴンから離さない。
「それなら何が何でも獲物を沈黙させないとダメです。
現状は…たぶんそれが最善です」
機内でのオバカ発言が嘘のようだ。
しっかり状況を見極めているようだった。
クルスの言葉には説得力はあると思う。
だが、敵に攻撃が通らないんじゃ意味が…
「それに今度はきっと大丈夫ですッ!」
そう言い放ったクルスの右手のガンスラッシュは、
気づけば直視できないほどの輝きを放っている。
大量のフォトンが集束している!?
(これって…チャージか?)
銃剣用射撃
この技は普通に撃つだけでは
大したダメージを与えられない。
フォトンを溜めてから発射することで、
大きなフォトン弾になって敵に大ダメージを与える。
俺はてっきりさっきの3連発こそチャージした攻撃だとおもったが、
(さっきのチャージ無しで撃ったってのかよ!?)
俺が知っているPAと違いすぎる。
クルスが撃つノンチャージ《エイミングショット》は、
ゲームでのチャージ済みの《エイミングショット》と同サイズだった。
じゃあクルスがチャージしたらどうなるか?
もう比べ物にならないくらいでかく強いフォトン弾になるんじゃないか!?
それならいけるかもしれない!
「もう一度しっかり捕まっててください!」
そうか、高威力なら反動もすごいことになる。
ここでクルスと引き離されたら生きて地面に降りることはできないかもしれない。
どんな衝撃がきても大丈夫なように、
クルスの腰にしっかり密着し、抱き着く。
おっぱいが潰れ、『型崩れ』とかいう単語が頭に浮かんだ気がするが、男の俺にはわからん。
クルスの右手は眩しすぎて直視できない。
フォトンを溜めすぎた影響か甲高い音だけが彼の右手から聞こえる。
構えた
「"左手は添えるだけ"」
ちょっと待てぇ!
そのセリフは…!?
思わぬセリフを聞き手の力を緩めて顔を上げてしまった俺は、全力で後悔した。
セリフの直後に打ち出された《エイミングショット》はもはや弾丸とは呼べなかった。
それは大砲。超高密度の砲弾。
巨大なヴォル・ドラゴンと同サイズのフォトン弾がクルスの手の先から放出される。
と、同時にクルスの右手で何かが破砕する音が聞こえた。
しかし手の先が眩しすぎて見えない。
砲弾はヴォル・ドラゴンに命中したのか?
何が壊れたのか?
俺は弾丸の行方を、音の原因を、追うことができなかった。
《強エイミングショット》の反動で後退してきたクルスの背中に顔面を強打し、その拍子に、
今度は一人で空中に投げ出された。
ーーーーー
何かが叫びながら落ちていく。
"あーくす"かな?
"あーくす"は船無しじゃ飛べない。
じゃああの"あーくす"達は死んじゃうな。
助けなきゃ! …いや。
…"あーくす"なんてどうでもいい。
速く"シロ"を助けにいかなきゃ!
こうなったら身体が壊れる覚悟で"炎龍"を倒す!
あれ? "炎龍"が"あーくす"の方に向かっていった!
やった! 今がチャンス!
…そうだよ、"あーくす"なんてどーでもいい!
あんな奴ら嫌いだ!!
嫌い、嫌い! 大嫌い!!
…速く行こう。見えなくなるくらい離れよう。
ッ!? 何の音!?
え、ええ!? あの"炎龍"を、気絶させた!?
あの"あーくす"達はいったい…!?
あ、別れて落ちていく!
片方は大丈夫そうだけど、片方は気絶してる!?
どうしよ、た、助けなきゃ!!
ま、間に合って!!!
機内にて
リティア、アメリア、ミリア、ギルバート、先生のおまけ
リ「…うそ」
ア「リティア!」
リ「うそ、うそよッ!」
ア「リティア、しっかりして!」
リ「ちが、私は、私じゃ…」
ア「リティアッ!」
リ「ごめ、ごめんなさ、痛っ!」
ア「ミリアちゃん!?」
ミ「…しっかりする。まだ死んでない」
ア「そ、そうだよ! 落ちたからって死ぬわけじゃ…」
リ「気休め言わないでよッ!!
この高度から落ちたらいくらあいつでも…」
先「ふむ? それはどうかな?」
ア「先生! あっちのほうは?」
先「だいたい落ち着いたよ。ギルバート君もレダ君も手伝って説得してくれたからね。」
リ「…もっと速く説得してくれたらッ…」
先「だが独断で勝手に動いたのはキミだよリティア君」
リ「ッ!」
ア「先生、そんな言い方…」
ミ「アメリア、静かに」
先「リティア君、キミは優秀だ。現状を見極め、即断し、行動する。その速さも読みも素晴らしいといえるかもしれない。」
リ「…」
先「だが、前も言ったが、独断専行が過ぎるぞ。
せめて、パーティーに。せめて友人にはどうするか言うべきだ。そうすれば今の事故は防げたかもな。
キミの独断専行が他のアークスの暴走を招いたのも事実の一つだからな」
リ「…」
ア「リティア…」
先「とまぁ、たらればや過ぎたことはおいといて、このあととうするかだ」
リ「どう…する…?」
先「現状を切り抜け、彼らを探しに行くかどうかだ」
ア「先生、それは…」
リ「生きてるの!?」
ギ「モニターを見るんだ」
ミ「ギル、顔、酷いよ」
ア「殴られたの!? 『レスタ』!」
ギ「なぁに、友人のためだ、問題ない」
リ「…どうゆうこと?」
ギ「少し前の出来事さ、再生したまえ」
リ「………!?」
先「大したものだよ、彼らは」
リ「ヴォル・ドラゴンを吹き飛ばした!?」
ギ「倒すには至ってないが、おそらく気絶させたのだろう」
リ「それにクルス…飛んでる!?」
ギ「まさかあんな方法で飛ぶなんてね」
先「久しく見てないな」
リ「でもあの変なキャストが…え!?」
ギ「そう、そこだ。謎の生物が、その子を助けている」
リ「…これも飛んでいるけど…この姿は…アークス?」
先「その映像だけではなんとも言えない」
ギ「だけど二人共生きている可能性がある」
先「本来なら《試験》前のイレギュラーもあるし、新人未満のキミ達じゃ救出なんて無謀だ。戻って報告するべきだが…」
ギ「エンジンは不調で帰投するには不安が残り」
先「通信は何かの影響でまったく通じない」
ギ「このまま空中で待機してヴォル・ドラゴンに襲われたら間違いなく落ちる」
先「ならばせめてむかえ撃てる地上に降りよう、というわけだ」
リ「…」
ア「そして私達がクルス君を見つけてくるよ!」
リ「!? そんなの危険よ!」
ア「あれあれ~? 危険すぎるAランクエリアに一人で降りようとしたのは誰かな~?」
リ「う…なら私も!」
ミ「ダメ。邪魔」
リ「な!?」
先「パーティー組んで無いし仕方ないな」
リ「…う~…」
ギ「まあ、そういうわけだ。降りたキャンプ地をレダさんと共に守ってくれ。それとパーティー組んでいるんだろう? 通信で彼らの居場所を指示してくれ」
リ「………わかった」
ミ「おかしい、リティアが素直」
ア「リティア、内緒で探しに行ったりしたらダメだよ?」
リ「しないわよッ! 反省しただけ! …それと…」
全「??」
リ「…ありがとう…、二人をお願いします」
「「「「まかせて!」」」」