最初にいた四人(12駆と磯風)がペアを組むと…、残りは吹雪だけです。初陣がボッチとは悲しいなあ。
そして今回は特型は今までとどう違うのかというのに触れてみたいと思っています。
1928年(昭3)10月 東京・軍令部
米国の巨大ハリケーン騒動が過ぎ、蒋介石が支那の国民政府主席に就任というニュースが世間を賑わせているとき、国内はいつもと変わらない日々が続いていた。
東京霞が関にある赤レンガが特徴的な海軍省内に軍令部がある。その会議室に海軍の中でも特にエリートである面々が揃っていた。軍令部総長・次長や第一から第三までの班長である。
彼らが話し合っているのは来る12月の初めに行われる天皇即位記念の観艦式である。
通常の観艦式とは違い、海外からも軍艦や武官が祝福に来る。なので主力艦はもちろん、最新鋭の軍艦も並べて日本海軍の精強さをアピールしなければならない。
「日時は12月4日の横濱沖。このような形です」
軍令部第一班の班員が概要を読み上げる。
「何か質問などありますかな」
軍令部ナンバー2、軍令部次長の野村吉三郎中将が仕切る。
総長である鈴木貫太郎大将がゆっくりと手を上げ、質問をした。
「今回のお召艦は誰だったかな?」
「は。戦艦榛名です」
すかさず作戦担当の第一班長、百武源吾少将が即座に答える。
「前回は陸奥だった気がするが…」
「榛名は近代化改装が完了しており、装備内装を含めて最も状態が良いですから」
「分かった。先導艦と供奉艦はどうする。去年みたいに軽巡で固めるのは寂しいと思うのだが」
「はい。その懸念があったため、今回は戦艦金剛を先導に戦艦比叡、装甲巡洋艦磐手で固めます」
「旧式の巡洋艦か。艦娘ではないが良いのか?」
野村次長が疑問を呈する。
「はい。艦娘でも良いのですが、水兵が乗っている軍艦がいた方が見栄えが良いかと思います。磐手は遠洋航海に使ってますから海外での知名度も高いです」
「そうだな。それで行こう」
「陛下がお乗にになる船はどうするのだ」
「今回も日本郵船から大洋丸を借ります」
「あれは確かサンフランシスコ航路に就いていなかったか?」
「ええ。ですが来週には帰還しますので、横濱につき次第徴用します」
「二年続けてか。郵船側に失礼のないようにな」
「失礼とは?」
陛下のための徴用なのに何が失礼なのかを訝しむ百武班長に野村次長は笑いながら答える。
「いや、花形の稼ぎ頭をいきなり取られたら誰でも怒るだろう」
その言葉に百武も納得したようだ。
「確かにそうですね。気を付けさせます」
「うむ」
「それで、今回はどこの艦が来るんだ?」
鈴木総長が質問する。
「今回はアメリカが装甲巡洋艦"ピッツバーグ"、英国が"ケント""サフォーク""ベルウィック"と重巡ケント型を3隻。また、フランスの装甲巡洋艦"ジュール・ミシュレ"、イタリアの防護巡洋艦"リビア"、オランダの軽巡"ジャワ"と各国1隻ずつ。そして将校移送用の特務艦が11隻となっております」
情報担当の第三班長米内光政少将が手元の資料読み上げる。
鈴木総長が頷く。
「亜細亜に植民地がある五大海軍とオランダか。予想通りではあるな」
「ええ。米国はアジア艦隊旗艦、英国は中国艦隊主力、オランダもアジア艦隊旗艦ですから移動にも手間がかかりませんし」
「ほとんどが人間が乗っている旧式艦だが、外交も考えて居住性があり豪華だからだろう」
「しかし、英国とオランダは最新鋭の艦娘を出して来るようです」
「アジアでの威光を見せたいのだろう。こちらも最新鋭を出そうじゃないか。阿武君、そこら辺はどうなっている?」
それには編成担当の第一班第一課長、阿武清大佐が答える。
「はい。我が海軍からは改装中の"霧島""山城"を除いた戦艦8隻に加え、最新鋭艦として航空母艦"赤城""加賀""鳳翔"、妙高型一等巡洋艦、吹雪型駆逐艦、伊号潜水艦を出す予定です」
「それについてなのですが、」
今まで黙っていた軍備担当の第二班長、松山茂少将が発言する。
「妙高型は参加できるか際どいですね。進水はしていますし急がせてはいますが2番艦"那智"がやっとかと思われます」
「なんだと。妙高は間に合わないのか?」
思わぬ課題に野村次長がうめく。
「今年行うと想定していなかったもので…」
「何としてでも那智を完成させるんだ」
「分かりました」
有無を言わせない強気な命令に松山班長も頷くしかない。
「那智一隻では見劣りしますから"古鷹""加古""青葉""衣笠"も呼び寄せましょう」
そこへ阿武課長が助け舟を出した。
「よろしい。分かってはいるだろうが失敗は許されない。必ず陛下を満足させる内容にするように」
「は!」
鈴木総長が総括して会議は終わった。
今回の観艦式は戦艦8隻、空母3隻、重巡5隻と日本海軍の主力のほとんどが参加する大規模なものとなる。その目玉の一つである吹雪の晴れ舞台は刻々と近づいているのだった。
同時刻 呉鎮守府
その頃、東京で吹雪の出番を話しているとは露知らず、特型駆逐艦は艦娘としての訓練を続けていた。
数カ月経つと午前の座学はより実践的な話になって来る。
今日は戦略についての講義だった。
温厚そうだが芯の強そうな中年の教官が教室入ってくる。
「君達に戦略を教える事になった南雲忠一大佐だ。普段は海軍大学校の教員をしている。海軍省から君達の価値について教えるようにとの要請だ」
南雲忠一。現代なら(マイナスの意味で)知らない人がいないくらい有名な提督だが、この時は優秀な水雷屋として将来を有望視されているエリートの一人に過ぎない。
「価値ですか?」
漠然としていてよく分からなかった。
「そうだ。君達特型駆逐艦が他の駆逐艦とどう違うのか、それによって及ぼされる影響は分かるか?」
南雲の質問に東雲が答える。
「睦月型と比べて火力が砲雷共に1.5倍で、列強と比べても質で対抗出来ます」
「うむ。よく勉強しているな。だが半分正解だ。」
「どういう事ですか」
「簡単に言うと君たちは小型巡洋艦なのだ」
「巡洋艦」
五人共混乱している。
「難しいかも知れないな。では、艦隊決戦での駆逐艦の役割は?」
「それは、夜襲をかけて敵戦艦に魚雷を撃つ事です」
「その通り」
吹雪の回答に南雲は頷く。
「だが駆逐艦によって戦艦が倒せるなら、列強海軍はもっと駆逐隊を増やしてもいいと思わないか?」
「どういう事ですかー」
薄雲が首を傾げて聞いた。
「うむ。例えば植民地がたくさんある英国海軍は広範囲に艦隊を展開しなければならない。しかし駆逐隊より軽巡ばかりなのだよ」
「それは軽巡が万能だからです」
「そうだ。"巡洋艦"の名前通り縦横無尽に戦場を駆け回り、何でもこなせる万能さを英国は買っているのだ。ここまではいいな?」
「はい」
「次だ。火力がある重巡はいいとして、軽巡と駆逐艦の主要兵装は魚雷だ。磯波、5500トン軽巡の雷数は」
磯波が突然差されて肩をビクッとさせながら答える。
「8本です」
「両舷にあるから一度には4本だ。4本なら二等駆逐艦と変わらない。つまり魚雷の運搬役としては駆逐艦の方が圧倒的にコストが安い」
「……」
「艦娘を物扱いしている訳ではないが、いや…物か…?まあそれはさておき。なぜ英国は軽巡なのか。なぜ万能なのか。吹雪」
「えっと、荒波に耐えられて航続距離が長いからですか?」
「そうだ。それに尽きる」
「それだけなのですか?」
「君たちはまだ実際に外洋に出た事がないだろうが、太平洋は波が高いし広い。駆逐艦の航続距離ではいざ海戦となった時に燃料切れだ。それに天候が悪ければ波に揉まれて主力艦より速度が遅いこともある」
「では駆逐艦はいつ戦うのですか」
「近海だ。日本海海戦で駆逐隊や水雷艇が活躍できたのは日本海だったからだ。これが外洋だったら失敗していたはずだ」
「え」
美談として良く語られることが多い日本海海戦を南雲は冷静な視点で評論した。
「当時日本海軍は駆逐艦と水雷艇を保有していた。それが大きくなったのが峯風級一等駆逐艦と樅型二等駆逐艦だ」
「峯風級は朝顔形艦首によって外洋航行が可能と自慢してましたよ」
「本人には悪いが不十分だ。確かに凌波性能は格段に良くなったから晴れた日なら可能だろう。だが天候が良いとは限らない。二等駆逐艦などそれ以下だ」
「そんな」
「日本だけではない。これは世界の常識だ。艦隊決戦は近海に呼び寄せ、戦艦が撃ち合う。その夜に夜襲だ」
「私たちは違うのですか」
白雲が疑問を呈する。
「基本的には同じだ。だが、条約で日本は戦艦の数が減らされた。しかも4隻は装甲の薄い巡洋戦艦だ。それを補うために作られた」
「それは聞いています」
「君たちは大型化して火力が増えただけじゃない。その抜群の航行性能はどんな嵐でも航行できる」
「主力艦と一緒に外洋に行けるのですね」
「そうだ。荒れた太平洋に一個水雷戦隊が突入してみろ。5500トン軽巡と特型12隻なら魚雷を112本投射できるのだ」
「すごいです」
「うむ。艦隊決戦前に敵主力を大幅に削れる。敵駆逐艦や睦月型には出来ない事が君たちなら出来る。特型が小型巡洋艦と言ったのはそういう事だ」
「なるほど」
吹雪たちは特型がいかに斬新だったかを思い知ったのだった。
しかし、東雲はまだ疑問が残っていた。
「でも列強にも大型駆逐艦がいます」
「ん?」
「欧州大戦の時にフランスは私たちくらいの大型駆逐艦を建造していますし、ドイツでも15cm砲搭載の駆逐艦は珍しくありません」
「なるほど、一理ある。だが特型には及ばない」
「どうしてですか」
「例えば英国は駆逐艦にスイフトという
「英国水雷戦隊にも軽巡がいます」
「日本では軽巡の下に駆逐隊がいる。しかし英国は駆逐艦8に嚮導1で一個フロチラだ。数個フロチラに一隻軽巡という按配だから、フロチラは日本の駆逐隊のような感じだな」
「しかし量産していれば」
「
「でも性能が同じなら、特型を見てすぐに量産するのでは?」
「いつかはされるだろう。しかし、今ある大型駆逐艦は嚮導とは言え性能は低い方に合わせるのが普通だ。つまり大きいだけで大した事はない」
「新時代の到来という訳だな」
「そうだ。軍令部はまだ実現には時期尚早と思っていたらしいが、藤本大佐が完成させてしまって逆に驚いたそうだ」
「お父様…」
「まあ、そういう訳だ。これからは君たちの時代なんだ。先輩にいじめられて凹むんじゃないぞ?」
「し、知っていらしたのですか」
「まあな。だが東京では特型がやる気を無くして引き籠ったりしていないか心配していたが問題無さそうで安心した」
「……」
五人が冷や汗を流す。
「私も水雷屋だ。将来君たちを指揮できる日を楽しみにしている。以上、終わり!」
五人は弾かれたように立ち上がり、敬礼(お辞儀)をする。南雲大佐は微笑みながら教壇から出て行った。
教官が出て行った後も五人は呆然としていた。
「私たちってそんなにすごいのかな」
「実感沸かないなー」
「まだ海に出た事ないからね」
「あ、まだ教室にいたんだ」
出入り口から軽巡鬼怒が顔を覗かせている。
「はい。何か用でしょうか」
「うん。司令長官が特型五人を呼んでるよ」
「え?何でしょう」
五人は互いに顔を見合わせたのだった。
~補足~軍令部
総長 鈴木貫太郎大将
次長 野村吉三郎中将
第一班長 百武源吾少将 作戦担当
第一課長 阿武清大佐 作戦・編成担当
第二班長 松山茂少将 軍備担当
第三班長 米内光政少将 情報担当
会議室って言ってもオフィスというよりはクロスがかかった大きな丸テーブルにソファが数組あって主要なメンバーが座り、他の文官は後ろで立ってるというイメージですね。
今回は普通に軍艦講座になってしまいました。南雲忠一は吹雪達にとって重要な存在になるので出しておきたかったです。ちょうど海軍大学校の教官だったので出張してもらいました。
航空知識が無く無能と言われることが多い南雲忠一ですが、水雷と艦隊運動に関してはピカイチであり、海兵36期5位、海大次席と頭もよい。色々不運な経歴ですが人間としては私は好きです。
授業内容は特型駆逐艦がなぜ画期的だったのかというのを書きたかったのでこのような形になりました。薄雲がしゃべってないのは、無口だし…仕方ないね(白目)
次回はついに海に出ます(遅すぎィ!)