特型の浦波が実装されて喜んだ私です。これで磯波率いる19駆が完成しました。しかし未だに12駆は磯波のみ。キャラ修正を免れた安心感と特型が数少ない時期にほとんどが未実装艦という不安の両方を感じています。
1928年11月25日
実弾射撃演習の翌日は日曜日である。今日は非番なので、皆のんびり過ごしている。大抵がくせで早起きしてしまうが、もちろん自由なので寝坊しても構わない。
人がまばらな
「薄雲も起きたんだね」
「今日は特別だよ」
朝食の食パンと味噌汁を完食すると、無言でいそいそと退出する。
部屋を出ると一斉に話し始めた。
「どんな服で行く?」
「私制服しか持ってないよ」
「磯波はどんな格好で行ったの?」
「え、制服だけど」
「何だ…モガじゃないんですね」
東雲が残念そうに言った。
「モ、モガ?」
「モダンガールです。今の流行りですよ」
「東雲ちゃんよく知ってるね」
「よく雑誌見てるもんね」
「それは言わないで…」
「じゃあ制服でいいか」
全員いつもの制服を来てるのでそのまま外出する事にした。
五人が庁舎前に向かうと二人はすでに待っていた。
「おはようございます」
「おはよう。今日は休みだし、そう畏まらなくてもいいぞ」
「早いですね」
「レディを待たせるのはよくないらしいからな」
明るい藤本と対称に牧野は心配そうである。
「大佐、やはり軍服で行く方がよいのでは」
「休日だし、いいじゃないか。私は生粋の軍人じゃないから背広の方が好きだよ」
「今日はどこへ行くのですか」
「広島市内に行こうかと思ってね」
「いいですね」
門で藤本と牧野が外出届を出すと衛兵の陸戦隊が敬礼を返す。何かニヤニヤしていたが気にしないでおく。
五人が楽しそうにしゃべりながら歩くので、通りはとても賑やかだった。
「こう見ると本当に年頃の子供にしか見えませんね」
牧野はその様子を見て感想をもらす。
「ああ、そうだな。これが千トンの鉄の塊だとは到底思えない」
「大佐はそういう風に思ってるんですか?」
「いやいや、俺は特型の主任設計者だ。むしろ本当の自分の娘のように思えるよ。君にもいずれ分かる」
「そんなものですかね」
「ああ。でもこれはあまり他には言いたくないな。俺は上から言われたような高性能な艦娘を設計して、不具合があればよくすればいい。だが、実際に運用する士官達は時には非情な判断を下さないといけない。艦娘は陛下と国体、そして臣民を守るために存在している事は忘れないつもりだ」
「肝に命じておきます」
二人がそう話している内に呉駅についた。そこから
廣島駅に降り立った七人は市街へと出る。路面電車で繁華街へ向かう間も吹雪達ははしゃいでいる。
「吹雪は街に来るのは初めてかい?」
「広島は初めてです。でも呉に着任する前に大阪へ行きました」
「いいなー。私なんて石川島で竣工した後に佃でお昼を食べただけなのに」
「でも帝都生まれですよね?羨ましいです。私なんて日本の端っこの佐世保ですよ」
「端っことはひどいな。日清日露ともに最前線基地として重要なんだから。海軍からすれば博多より価値があるよ」
広島一の繁華街である紙屋町で降りる。もちろん今程ではないが数多くの商店が軒を連ねている。
「お父様、今日はどこへ行くのですか」
「うーん」
「え?」
「牧野。ちょっといいか」
「はい」
二人は五人と距離を置いて小声で話し始めた。
「まさか何も考えて無かったのですか」
「いや、だって婦女子の趣味は分からないし」
「そりゃそうですけど」
「今日何か広島でやってないのか?無ければ普通に観光になるが」
「知りませんよ。昨日来たばかりなんですから」
二人の様子を見て白雲がつぶやく。
「もしかして考えて無かったのかな」
「まさか」
「私もそんな気がします」
「あの子らも勘付かれてるみたいだぞ」
「そんな事言われても…。廣島城見学はどうでしょう」
「あそこは陸軍第五師団が使ってるんだ。海軍が行くのはまずい」
「では商品陳列所は」
「なんだそれ」
「太田川のほとりに建ってるドームが有名な」
「おお、あれか。あそこならいいかも知れない。決まりだ」
「今日は奢って下さいよ」
「分かった。おいみんな。県立陳列所に行こう」
「はーい」
廣島県立商品陳列所。数年後には産業奨励館と改称される建物は当時の広島の街からすればランドマークのような物だが、所詮は地方都市の会館に過ぎない。だが17年後には世界的に有名になるとは誰が予想しただろうか。
行く所が決まり、大通りを歩き出した七人の横を声を上げながら数人が走って来た。
何事かと振り返ると黒い制服を来た人が警備用の長い棒を持って走っている。その横には廣島市警の巡査もいるので、警官ではない。黒い詰襟に赤い腕章。陸軍の憲兵である。
その一団は脇にどいて道を空けろと怒鳴っているようだ。自動車などほとんどない時代であり、大通りを通る人々や大八車を押している人は素直に道を空ける。
七人もそれに倣い、買い物をしていた主婦達の隣へ移動すた。井戸端会議をしていたようで、憲兵達をほとんど気にせずにおしゃべりをしている。
「陸軍のお通りじゃけえ。最近多くて難儀やのー」
「なんでも支那が物騒らしいで」
「また戦争かいな。こんな不景気に軍人さんは元気やの」
まさか隣に海軍軍人と駆逐艦5隻という金食い虫がいるとは思わない主婦達は好き勝手言っていたが七人は黙って聞いていた。
江戸時代の参勤交代ではないので土下座していないと斬られるという事はないが、憲兵は騒々しいこちらを気にしていた。やがて七人に目を向けるとこちらに歩いて来た。
それに気が付いた主婦達は静かになったが明らかに七人の方に向かっている。吹雪達五人は縮こまった。
憲兵はこちらに来るなり藤本に吹っかけて来た。
「貴様らはこの子供達の保護者か」
「そうだが」
藤本は憲兵の肩をちらりと見ると、普通に返した。まさか堂々と返されるとは思っていなかったのか、憲兵の方が一瞬怯むが渋面に戻ると吹雪達を指差す。
「なんだこの服装は!」
「何って制服だが」
「スカートが短過ぎるのではないか」
「そうかな。確かにそうかもしれないがこういうものだ」
「けしからん!」
のらりくらりと躱す藤本に業を煮やした憲兵は吹雪を見る。
「お前!どこの学校だ」
「え、学校…?」
即答出来ないのを見て隣の東雲を指差した。
「お前は」
「私達は学生では…」
「学校名も名乗れないのか!怪しいやつめ」
「全体止まれ!」
東雲の弁解は大きな掛け声に遮られた。
いつの間にか軍隊が大通りを行進している。その列も掛け声と共に兵士はピタリと止まった。
先頭を行く数頭の馬の一頭がこちらへ向かい、中年の士官が降りて来た。
「何やらうるさいが何事かね」
従兵に手綱を渡しながら士官は話しかけた。すると憲兵は直立不動になって答えた。
「失礼しました!風紀の乱れを指摘していただけであります」
「風紀ねぇ」
男はジロリと七人を見渡す。吹雪達の制服に目を付け、そして背広の二人を見つめる。何か思い当たったのか、男は藤本へ話しかけた。
「君ら…その姿はまさか海軍か」
男は的確に判断していた。これには藤本も驚き、正体を明かした。
「申し遅れました。私は藤本喜久雄造船大佐と申します」
「同じく牧野茂中尉です」
敬礼したが二人共背広姿なので締まらない。男は下士官のようなきっちりした答礼をするとこう名乗った。
「第十一連隊連隊長、山本芳輔大佐です」
第十一連隊は広島の第五師団に所属している連隊の一つで、島根県浜田の21、山口の42の3連隊で師団を形成しており、広島市内に駐屯している唯一の連隊であり、日清戦争で初めて外国の軍隊と戦った由緒ある隊でもある。
「やはり海軍さんか。では彼女らは艦娘かな」
「はい。駆逐艦の吹雪型5隻です」
吹雪達も敬礼する。
憲兵は呆気にとられていて何も言えない。
「艦娘は艦長と同じ扱いと聞くが…駆逐艦は」
「吹雪型は中佐が艦長です」
「だそうだよ。憲兵君」
山本は憲兵の肩を見る。黄地に赤帯が二本、星が二つ付いていた。陸軍中尉である。
憲兵は慌てて敬礼する
「こ、これは失礼しました!」
「陛下から賜われた軍艦にケチを付けるとはね。後で憲兵隊長にどうするか聞いてみようか」
憲兵は顔面が蒼白になる。
流石にかわいそうに思った藤本は弁護した。
「山本大佐。私達は非番ですのでお構いなく。制服については海軍でも議論になっていますが神道のご加護の結果、このように具現化された物ですので何とも言えません。それより、勇猛な第五師団を見られただけで感無量です」
「大佐殿がそこまで言うのなら免じよう。広島の守りは任せてくれ。その代わり海の守りは頼みましたぞ」
山本は笑ってそう言うと後ろで縮こまっている憲兵に言った。
「おい、憲兵君。命拾いしたな。広島にいるのなら艦娘くらい知っておけ」
「は!大変失礼しました」
山本はそう言い残すと軍馬に跨がり、士官に合図する。
「全体進め!」
掛け声と共に再び歩兵が行進を始める。憲兵も慌てて道を開けるべく走り出した。
三八歩兵銃を担いだ歩兵が見事に整列して行進する様は圧巻である。旭日旗に紫の飾りのついた連隊旗が誇らしげであった。
「すごかったね」
「軍艦旗を掲げた艦隊もいいけど揃って行進する陸軍も格好いいね」
「そうだね」
「陸軍へ鞍替えするか?」
牧野の冗談に東雲はむきになって言い返した。
「違います!陸軍は嫌いです」
「まあ戦車の艦娘化は成功してないし、そもそも海軍の財産を陸軍にやるつもりはないがね」
藤本はそう笑うと銀行の文鎮のようなマークのそごう広島店へ入る。
「やはり制服は目立つな。これ以上憲兵に目をつれられるのは面倒だ。ここで服を変えよう」
「服を買ってくれるんですか」
吹雪達は目を輝かす。
「おう。好きに選んでいいぞ」
「大佐、太っ腹ですね」
「…まあ経費で落とすのだが」
「ですよねー」
隣の牧野にしか聞こえない声でつぶやくと、苦笑した。
「折角の機会ですからモガがいいです」
東雲がそう言って出して来たのはモダンな服だった。試しに着てみたが、この時代のファッションであるため露出度は低い。スカートの丈は短くても膝下程度で制服のスカートを履きなれてる艦娘としては複雑である。
「牧野。どう思う?」
「私に聞かれても…。すごく、いいです」
「適当に言ったな?」
「そんな事は…」
結局数時間悩んだのちに普通のワンピースを選んだ。藤本は会計担当に身分証を見せると呉鎮守府に服代をつけた。
「本当に落とせますかね」
「大丈夫だろう。もし駄目でも艦長達が払うさ」
「ずるくないですか」
「ずるいね。でも俺が担当した艦娘は数多い。それ全員の服を買っていたらキリがないし、財布の中身が消えてしまうからな。でも飯代くらいは出すぞ?」
新しい服を来た吹雪達は大はしゃぎである。日本人としては整い過ぎた顔つきだが全員普通の服なので海軍と思われる事は無かった。
軍人ならば歩き方や姿勢で分ってしまう場合も多いが藤本も牧野も帝大出身の技官のためそれもない。
七人は県立陳列所のイベントを楽しんだ後、昼食を食べて鎮守府に戻った。
あまり長い時間外出して鎮守府に心配されるといけない。親馬鹿のようだが、一隻当たりのコストや価値を考えれば当然だろう。特に今回は陸戦隊の警護なしなので気を使われているのだ。
「今日はありがとうございました」
「楽しかったです」
「俺もだ」
「婦女子と遊ぶなんて久し振りでしたよ」
朝と同じく鎮守府庁舎の前で別れる。
正規の保護者役である12駆司令の有地に艦娘を引き渡す。
互いに敬礼をして解散したが、藤本は振り向いて吹雪を呼ぶ。
こちらに走ってきた吹雪に目を合わせると藤本はこう言った。
「俺は技官だから戦術や作戦に詳しくない。だが、お前には軍令部の要望を上回る性能を持たせた。吹雪型駆逐艦は全く新しい駆逐艦だ。世界をあっと言わせる戦果を上げるだろう。だから今までの慣習に囚われるんじゃないぞ。もちろん上部に盾付けという訳じゃない。でも他の艦娘に貶される事があればその性能でぎゃふんと言わせてやれ。24姉妹の長女として活躍する所を帝都で見てるからな」
「はい。私、頑張ります!」
藤本は頷くと吹雪は照れくさそうに笑った。そしてくるりと後ろを向いて同僚の下へと走って行った。
特型の艦娘に何やら冷やかされてるようだが、話の内容までは聞こえない。
少し離れて聞いていた牧野が尋ねる。
「何を話したのですか?」
「うん?まあ激励だよ」
同11月28日
呉海軍工廠
重機の音が鳴り響く造船所も今日は人で溢れている。就役式を一目見ようと訪れた人達である。
貴賓席には呉鎮守府司令長官谷口尚真中将など、海軍の高級士官が並ぶと共に陸軍の梨本宮守正王元帥も出席している。
藤本と牧野もその中におり、幾度も今日の主役の技術的説明を求められていた。
「最も強い一等巡洋艦らしいじゃないか」
「ええ。20cm連装砲5基に12cm単装高角砲6基、61cm三連装魚雷発射管4基です。青葉型よりさらに強力になりました」
「それで条約の1万トン以内かね」
「もちろんです。(再設計した結果10902トンになっちゃいましたけど)」
「何か言ったかね」
「いえ、何も」
垂れ幕に囲まれた船台の前では伊勢神宮も熊野大社の神官が祈祷をしている。藤本にとっては見慣れた光景だが、一般人には珍しいだろう。ざわめきながら見守っている。
祈祷が終わり、ついに就役の時が来た。
士官が垂れ幕を支える綱を切るとくす玉が割れ、軍楽隊が軍艦行進曲を吹奏する。
幕が落ち、歓声と共に現れたのは若い女性であった。白い半袖シャツに黒のタイトスカート、深い紫のベストを着ている。白い肩まである手袋とタイツのせいで手足が白く見える。
武装は50口径三年式D型
妙高型巡洋艦那智は足までかかる長いサイドテールを揺らして強いまなざしを貴賓席に向ける。
船台から上がると貴賓席に向かって言った。
「貴様らが司令か。私は那智だ。よろしくお願いする」
「待っていたぞ。君は帝国の顔になる条約型の艦娘だ。期待しているぞ」
谷口呉鎮司令長官は凛々しい外見を見て相好を崩す。
「これが艦娘か。心強いな」
梨本宮守正王元帥も楽しそうである。
那智の前に私は進み出た。
「私は設計主任の藤本喜久雄造船大佐だ」
「ほう。貴様がそうか」
「何か動きに不自由はないか?」
「そうだな」
那智は体を動かしたり偽装を動かしたりしている。
「少し立ちくらみがする気がする」
「立ちくらみ?」
思わぬ不具合に私は首を傾げた。
「それについてはこれが原因かと」
メモを取っていた呉工廠の技官が資料を渡してくる。私はそれをパラパラとめくってみる。やがて工程に関する報告書に目を留める。
「8ヶ月も計画を早めたのか」
「ええ。艦政から急かされまして」
「観艦式か」
「そうです。そのためにいくつか内装工事を省略しています。詳細は次の頁に」
「ふむ。これくらいなら許容範囲か。少なくとも外見には影響無さそうだ」
藤本は顔を上げて腕組みをして待つ那智を見る。
「軍の指示で完成を早めているのは知っているな?」
那智は頷く。
「そのせいで一部未完成なのだ。日常生活には問題ないだろうが戦闘行動には支障を来たすかも知れない。観艦式まで我慢してくれ」
「うむ。仕方ないな」
「では後は頼む」
「畏まりました」
護衛の第13駆逐隊4人が那智を庁舎へ連れて行った。
藤本はそれを見届けた後、脇に控えていた牧野を振り返る。
「牧野はどう思った」
「吹雪達がモガを気に入らなかった理由が何となく分かった気がします」
「ん?」
藤本も那智を見る。膝上どころか腿が普通に見えるスカートである。隣の若竹型は和服に足下まであるスカートという大正の女学生風の格好なのとは大違いだ。
「確かに。新時代の艦娘という事かな」
「しかし天龍型や長門型はモダンです」
「あれは世界水準超えてるからなぁ」
「新型があのスタイルという事は藤本さんの趣味ですか」
「まさか…そうなのかな」
「知りませんよ」
艦娘の制服の謎は解けそうも無かった。
広島と廣島。当時は旧字体ですけど、パッとイメージ出来ないと思いますので言葉や地名では広島、固有名詞では廣島と分けます。
(今までは広島じゃないかというのは言わないで下さい。それに隣町の広市も廣なんですけどね)
後、駆逐艦を軍艦と言っていますけど、厳密には軍艦ではありません。菊花紋章が無いのはそのためです。駆逐艦は駆逐隊になって初めて軍艦扱いらしいですけど、多少はね?
それと、重巡の主砲は20cmぴったりです。日本はメートル法ですから(陸軍がセンチと呼ぶから海軍はサンチだとかいうのは置いといて)。
しかし英米はインチを使います。そのため、条約でも8インチまでと決まりました。8インチは約20.3cmです。わずか3ミリですが、威力や射程が変わって来ます。なので後に20.3cm砲身に交換したり、内側を削ったりしました。そのお陰で20.3cmになりましたが、名称はあくまでも20cm砲です。その事を知らないイギリスは緒戦で3mmを活かしたアウトレンジ砲撃をしようとしましたが、普通に撃ち返されて混乱するという事が起きたそうです。