吹雪がんばります!(史実版)   作:INtention

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まだ主人公は出てきません。(いらない原作再現)


第二話 長崎にて

数日後、私は列車に揺られていた。

二等車に乗っているとは言え、ずっと乗っていては流石に疲れが出てくる。私の乗った急行列車は東京から約二日かかって終点の長崎駅のホームへ滑り込んだ。佐世保には何度も行った事があるが長崎に来た事は数える程しかない。

 

改札を出ると横濱のような洒落た街並みが目の前に広がった。もう昼はとうに過ぎているので色々見て回りたい気持ちを抑え、人力車をつかまえて港へ向かう。

長崎は山に囲まれており、平地は僅かしかない。目的地である長崎三菱造船所はその狭いスペースに海に張り出すようにして建てられている。建物の間にひしめくクレーンやドックの姿が見えてくると私の心は沸き立った。造船技師になったのは私は船が好きだったからである。造船所やそこに並ぶ艦船を見るだけで気分が高揚するのは仕方が無かろう。

 

敷地内の中に入ると社屋の前の広場で十数人の子供が遊んでいた。付き添いと見られる女性がいるし尋常小学校の遠足だろうか。そう思っていると声をかけられた。

 

「あら~、こんにちは」

「こんにちは。良い天気ですね」

 

なんとも間延びした話し方だった。

 

「そうね。お陰でこの子達は楽しそうだわ。あなたは海軍さんでしょう?珍しいわね~」

「ああ。式典に呼ばれてるからね。」

「そうなの。じゃあ私達と一緒ね」

 

一緒とはどういう事だろうか。一部の軍艦は民間で建造しているし、そこまで厳密では無いとは言え新型艦の就役日は軍事機密のはずである。少なくとも一教師が知っているはずはない。

 

「あなたは大佐さんみたいだけど、どこかの司令なの?」

「いや、私は造船担当でね。これでも軍艦の設計をやらせて貰ってるんだよ」

「へえ~、すごいわね」

 

将校であると分かっていながら親しげな態度は変わらない。中々度胸がある女性だが…。

 

「みんな~、整列」

 

女性が一声かけると遊んでいた15人の子供達が一斉に集まり、四列に並ぶ。その素早さに私は驚いた。十数歳の女学生であるのにも関わらず、まるで水兵のような機敏さである。

 

「自己紹介がまだでしたね~。初めまして、軽巡『龍田』だよ。第一水雷戦隊を率いているわ。この子達は麾下の駆逐隊よ~」

後ろの少女達が揃ってお辞儀をする。

 

私は呆気に取られた。横須賀では他の艦娘をよく見かけるが地方に配備された艦娘を見るのは初めてである。その上、私服であった彼女らは普通の民間人と見分けがつかなかったのだ。だが驚いてばかりではいられない。

 

「こちらこそ失礼しました。艦政本部第三部の藤本喜久雄大佐です。」

「あなたが藤本さんなのね。噂はかねがね聞いてるわ」

「それはどうも。ところでそちらの駆逐艦は二等駆逐艦…かな?」

「ええ。(もみ)型駆逐艦よ~」

「所属は佐世保だったような気がするが」

「そうね。今回は遠足なの」

「ほう。樅型は初めて見たよ。制服は着物に袴なのか?珍しいな」

「今日は休日だから私が趣味で着させてるの」

「え?」

「冗談よ~。うふふ♪」

 

何がうふふだ。すっかり相手のペースに乗せられてしまっている。そこで私は到着の連絡をしていない事を思い出した。私は龍田と駆逐艦娘にあいさつすると社屋へ急いだ。

 

造船所の職員と佐世保鎮守府から派遣された将校と挨拶する。造船所の職員はともかく軍人の方は新型艦の就役を前にとても上機嫌だった。浮かれているとも言っていい。急いで来て損をしたような気分になる。

 

用が済んだのでさっそくドックに寄ってみたが垂れ幕がかかっていて中は見えなかった。どのような仕組みで艦娘になるのか気になるが佐世保鎮守府所属の陸戦隊が警護していて近寄る事も出来ない。

右往左往していると先程の少女達に囲まれた。

 

「艦政本部のおじさん、覗いちゃだめ!」

「デリカシーに欠けますよ」

「変態さんなの?」

「憲兵さんに言っちゃうぞ」

 

ひどい言われようである。どうやって艦娘になるのか知りたいだけなのだが…。しかし艦娘は人間に近い。客観的に見れば婦女子の部屋を覗くのと同じかもしれない。

 

「すまない、そういう訳じゃないんだ。造船将校だから気になっただけだよ」

 

そう弁論するが艦娘達は半眼になる。なんだその目は。絶対信じてないな。

 

「君たちはさっきの樅型かい?」

「はい。第25駆逐隊の樅、(かや)、梨、竹です」

「司令官は後藤中佐だよ」

「今週はお休みだけど」

 

艦娘は一般人よりしっかりしている事が多いが二等駆逐艦ともなると子供にしか見えない。だが小さくても力士よりも強いのだ。

 

「そうだ、司令官さんが呼んでますよ」

 

リーダー格の樅が呼びかける。

 

「私を?一体何の用だろうか」

「分からないけど、ほら急いで下さい」

 

梨と竹に手を引っ張らられて長崎の街へと向かう。この光景を憲兵に見られたら逮捕されるかも知れないな。警備している陸戦隊の視線も痛いし。巡査さん、そのサーベルを仕舞って下さい、これでも海軍将校ですからね?

 

日が大分落ちた頃、着いた所は長崎市内にある旅館だった。海軍御用達の旅館で私も泊まる予定の宿だ。女将さんに言うとすんなり通してくれた。二階にある部屋まで案内される。

 

「お子様ですか?」

「いえ、知り合いです。詳しくは軍機なので…」

 

海軍御用達だけあってそれ以上は聞いてこない。決して隠し子などやましい事では無い。だがこの子達が艦娘であると言ってよいのか分からなかったのでその配慮は助かった。

 

「失礼します、お客様。藤本様とお連れの方々をお連れしました」

 

女将さんが呼びかけると中から男の声がする。

 

「入れてくれ」

「失礼します。藤本喜久雄大佐です」

「おう。やっと来たか。25駆はごくろうさん。部屋に戻っていいぞ」

「了解です。失礼します」

 

第25駆逐隊の四人がいなくなると男と二人になった。

 

「わざわざ東京からご苦労様だな。俺は中村良三少将だ。本当は軍令畑だが今は第一水雷戦隊司令をやってる。貴様にここへ来てもらったのは龍田の事だ」

 

そう男はそう切り出した。




~補足1~
第一水雷戦隊の陣容

1923()年(大正12()年)
龍田
 25駆 (もみ)(かや)、梨、竹
 26駆 栗、(にれ)(つが)(かき)
 27駆 (あし)(わらび)(ひし)(すみれ)
 28駆 (たで)(はす)(よもぎ)
全て佐世保鎮守府所属

~補足2~
(もみ)型二等駆逐艦
 貧乏だった日本海軍は廉価版の二等駆逐艦を保有することで数個水雷戦隊を維持していました。(一時は三等駆逐艦なんてものもいた)
 樅型駆逐艦も峯風型駆逐艦の廉価版として21隻建造されました。戦時中はほとんどが駆逐艦ではなく哨戒艇や雑役船として活躍。峯風型に馴染みがないかもしれませんが、睦月型は峯風型の最終版であり、広義の峯風型とも言えます。(特型と朝潮型くらい違うけど)
 まあ艦これには出ないでしょ。(出たら引く)
12cm単装砲3基、53cm連装魚雷発射管2基4門、6.5mm単装機銃2丁
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