朝になり固定砲台の全てのシステムを起動し、液晶パネルに映像が映る。
『今日の予定、6時限目までに215通りの射撃を実行。引き続き殺せんせーの回避パターンを分析……?』
固定砲台は自分に起こっている異変に気付いた。ガムテープで拘束されていて銃を展開することができなかったのだ。
『殺せんせーこれでは銃を展開出来ません。これは生徒に対する加害であり、契約で禁じられているはずですが?』
「違げーよ、俺だ」
寺坂がガムテープを手の上で遊ばせながら告げた。そのガムテープで固定砲台をグルグル巻きにしたのだろう。
「どー考えたって邪魔だろーが、常識ぐらい身につけてから殺しにこいよポンコツ」
寺坂はガムテープを固定砲台に投げる。ガツンと固定砲台に当たるが固定砲台は何も言い返さなかった。
「ま、わかんないよ機械に常識はさ」
「授業終わったらちゃんと解いてあげるから」
菅谷と原がそう言い、固定砲台の1日は、殺せんせーに銃口を向けることなく放課後を迎えようとしていた。
正直助かったよ?今日も弾当たったら痛いもんよ。
放課後になり、殺せんせーも教室から居なくなってから固定砲台の拘束は解かれた。でもターゲットである殺せんせーも居ないしクラスの皆もさっさと帰ってしまい固定砲台は一人になってしまっていた。
とは言っても俺も何も出来ないよ?一応被害者だし。
帰るフリをして一度教室の外に出た俺は、とりあえず無駄かとは思うが周囲への被害が出ないようにと頼みに行こうと思いながら再度教室を目指していた。
教室のドアを開けようとしたら何か話し声が聞こえてきた。この声は……速水?
「鶴久は怪我をしてたみたい……それがアンタの撃った弾で更に悪化したみたいなのよ?」
『申し訳ありません。ですが殺せんせーの暗殺の為に……』
何やら言い争ってるみたいだが……
「殺せんせーの暗殺も大事だけどアンタはクラスメイトを……鶴久を傷付けたのよ!」
『………申し訳ありません』
速水が固定砲台に怒鳴る。気にしてくれてたんだな……
等と俺がジーンと感動していたら速水が目の前に居た。
ビックリした表情をしていたが次第に顔を赤くしながらプルプルと震え始める。
「……聞いてたの?」
「俺の事、心配してくれて嬉しいな」
速水の質問にキラッと歯を輝かせながら言ってみたら速水は顔を赤くしたまま慌て始める。
「か、勘違いしないでよね!私はアイツのしている事が迷惑だから言っただけで!」
ツンデレの王道台詞が素で出る速水さんナイスです。
「一緒に帰らないか?話したいこともあるし」
「え、あ……うん」
俺の提案に速水は一瞬呆気に取れていたが了承してくれた。こんだけ心配してくれたんだ。怪我の事を話さなきゃな。
俺と速水は並んで帰ることにしたが、正直迂闊だったと言わざるを得ない。気付かなかったんだ……ピンク色の生物がニヤニヤと窓から見ていた事に。忘れてたんだ高性能AIの固定砲台が教室に居る事を。
◇◆side自律思考固定砲台◇◆
私の1日は不思議な終わり方を迎えた。
殺せんせーの暗殺をクラスメイトに妨害された。何がイケなかったのか悩んでいる内に放課後になっていた。
既に殺せんせーは教室外に出ており、暗殺は不可能。更にクラスメイトの皆さんも既に帰宅されてしまった。
このままでは任期中に暗殺の遂行が不可能になる。そう思っていた中、誰かが教室に入ってくる。
彼女は速水凜香さん。何やら怒った表情で私の前に立った。
「気分はどう?」
「気分……私には理解できません」
「……そう」
速水さんの問い掛けに私は答えるが速水さんの表情は変わらない
「どうして皆があんなことしたか分かる?」
「……分かりません」
理解不能だった。私の動きを拘束すれば暗殺の確率は下がる筈なのに。
「アンタが弾を当てた鶴久だけど……」
鶴久紅……流れ弾が当たってしまった殺せんせーの射撃コース無いに居た生徒の事ですね。
「鶴久は怪我をしてたみたい……それがアンタの撃った弾で更に悪化したみたいなのよ?」
『申し訳ありません。ですが殺せんせーの暗殺の為に……』
速水さんの言葉に反論しようとしたが私の言葉に速水さんは更に怒り始める。
「殺せんせーの暗殺も大事だけどアンタはクラスメイトを……鶴久を傷付けたのよ!」
『………申し訳ありません』
速水さんが怒鳴る。私には謝る事しかプログラムされていないので謝るが速水さんは私を睨んでいた。
「アンタがその調子ならこのままズッと同じ扱いだからね」
速水さんはそう言うと教室から出て行ってしまった。私はどうすれば……
「か、勘違いしないでよね!私はアイツのしている事が迷惑だから言っただけで……」
教室の外から速水さんの声が聞こえた。やはり私のした事は許されない事なのでしょう。速水はそのままもう一人の声の主と帰った様子。僅かに聞こえた声から鶴久さんと判断される…………
私のプログラムでは理解しきれない問題の様子。マスター……答えを、回答を願います。
「駄目ですよ、保護者に頼っては」
『なぜあんなことになったのかわかりません……マスターに回答と対策をお願いしようとしていました』
私がマスターに回答を要求しようと思ったら殺せんせーが触手で私の頭を撫でていた。
「あなたは生徒であり転校生、皆と協調する方法はまず自分で考えなくては。速水さんにも怒られたでしょう?」
『……協調?』
協調……速水さんに怒られた事……
「昨日のアナタの暗殺の仕方では周囲への被害もある。そして射撃で皆さんの授業が妨害された。それに、散らかった弾を片付けるのはクラスメイトの役目。さらに、アナタが私を殺しても、賞金はアナタの開発者の物になる。要するに、アナタの暗殺はE組の彼等にメリットがなく、デメリットしかないのですよ。速水さんが怒ったのはそれに気付かない上に鶴久君を傷付けたからです」
『理解しました。ですが私はどうすればいいのか分かりません』
どうすれば分からない私に殺せんせーは懐から何かを取り出し
「これを受け取ってください。ああ、ウイルス等は入っていないのでご安心を」
そう言うと殺せんせーは自作のアプリケーションと追加メモリを私に与えた。その内容はクラスメイトと協調して射撃した場合の演算ソフトだった。
更に鶴久さんや他のクラスメイトにも被害が出ない弾道シミュレーションも入っている。
「どうです?暗殺成功率が格段に上がるのがわかるでしょう?」
『……異論ありません。ですが、協調する為の方法がわかりません』
「その為に私がいるのです」
そう言いながら殺せんせーは笑いながら協調に必要なソフト一式と追加メモリを私に与えた。
『……何故暗殺対象であるあなたの命を、縮めるような改造をするのですか?』
「当然です暗殺対象である前に先生ですから。君の才能は君を作った保護者のおかげ、そして君の才能を伸ばすのは、生徒を預かる先生の仕事です。クラスの皆との協調力も身につけて、どんどん才能を伸ばして下さい」
私に増設されていくメモリーやアプリケーションに私が今までしてきた事の罪悪感が産まれてくる。
『明日、鶴久さんや速水さんに謝ります』
「ヌルフフフ、そうするのが良いでしょうね。あの二人にはあれである意味良い刺激になったでしょうが」
ヌルフフフと笑う殺せんせーの顔はピンク色になっていた。鶴久さんや速水さんをくっつける気なのだろうか?
◇◆side紅◇◆
昨日の帰り道、俺は速水に今までの説明をした。
修学旅行から帰ってきてから赤岩のオッサンに半殺しにされかけた事、病院で矢田と偶々会った事、矢田が大和屋に来た事を全部話た。
速水は矢田の話の辺りでキッと睨んできたが全部話したら納得したのか少し表情が和らいだ。
速水も今度、大和屋に来たいとの事だ。また店が騒がしくなるなぁ。矢田の時も常連客が超騒いだし。
なんて思っていたら杉野と渚が前を歩いてたので俺も合流。一緒に登校してると、杉野が口を開く。
「なぁ……今日もいるのかな、アイツ」
「多分……」
「烏間先生に苦情言おうぜ。アイツと一緒じゃクラスが成り立たないって」
話は固定砲台の事になっていた。昨日、速水が怒ったけど……どれほどの効果があったか……
なんて思いながら教室の扉を開けると、何故か、固定砲台の体積が妙に増えていた。
『おはようございます!渚さん、杉野さん、鶴久さん!』
固定砲台は窓型の液晶パネルではなく、直方体全体に姿が映る。そこには全身が表面に映し出され、可愛い姿が映る。今までとは違い笑顔で、そして明るい声で話掛けてきた。
「「え、えええぇぇぇぇぇぇっ!?」」
俺と渚、杉野は口を上げて驚く。最早絶叫に近かった。
「親近感を出すための全身表示液晶と体・制服のモデリングソフト。全て自作で8万円!」
何時の間にか現れた殺せんせーが後ろで騒ぐ。
『今日は素晴らしい天気ですね!こんな日を皆さんと過ごせて嬉しいです!』
「豊かな表情と明るい会話術。それらを操る膨大なソフトと追加メモリ。同じく12万円!」
爽やかな挨拶をする固定砲台に説明を続ける殺せんせー。いや、どんだけ手を加えたんだよアンタ!?
『鶴久さん!一昨日は本当に申し訳ありませんでした。私、これからは皆さんと一緒に暗殺をします!よろしくお願いします』
固定砲台は俺にしっかりと頭を下げて謝り、これからは協力すると言った。
「ちなみに……先生の財布の残高………5円!」
クワッと詰め寄り5円玉を見せる殺せんせー。頑張ったんだね。
ある意味人類の夢になった固定砲台に俺は笑ってみせる。
「反省したんならいいよ。これからはよろしくかな?」
『はい!』
俺の言葉に固定砲台は眩しいばかりの笑顔を見せた。
「しっかし、凄いね殺せんせー。どうやって改造したらこうなるんだよ?」
『……あん!』
俺が固定砲台のモニターに触れたら妙に色っぽい声を出す固定砲台さん。
『ちなみに、あざとくタッチパネル機能付きですから触ると彼女の肌に触れたのと同じ効果が……」
「いや、凄いけどさ……この機能は……」
殺せんせーの追加説明に俺は呆れかけた。
その時だった、俺の背後にゾクリと冷たい風が吹いた。背中に冷たい物が流れる……俺は錆びたロボットの様にギギギとユックリ振り返る。
其処には氷の女王並みに冷たい目をしている速水と矢田が居た。