『庭の草木も緑が深くなって春も終わり、近づく初夏の香りがします』
固定砲台のモニターには可愛らしくなった少女の姿が映り、季節を感じさせる事を話してる。
うん、それには同意するんだが……
「たった一晩でえらくキュートになっちゃって……」
「固定砲台さんでいいのかアレ………」
他の奴等も固定砲台に視線が集中している。
つうか君達、コッチを見てくれないかい?
クラスの人気者みたいになっている固定砲台。
固定砲台の周囲に人集りが出来ており、主に女子だ。
なんて思ってたら寺坂が舌打ちをして声を上げる。
「けっ!結局、全部あのタコが作ったプログラムだろ。どーせ、また空気読まないで射撃すんだろポンコツ」
『おっしゃる気持ちは分かります。昨日までの私はそうでした。ポンコツ………そういわれても仕方ありません』
そう言ってモニターの中で固定砲台は泣き出した。
「あー、泣かした」
「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった」
「なんか誤解される言い方やめろ!!」
周囲の視線が冷たくなる中、寺坂に非難の声が上がる。
確かにアレじゃ寺坂が悪者だよな。
「いいじゃないか、2D二次元。女はDを一つ失う所から始まる」
「竹林!お前の初セリフそれだぞ!いいのか!?」
超ドヤ顔の竹林が眼鏡を吊り上げながら呟く。
周囲からそれで良いのかと声が上がる。
和気あいあいと話す中、俺はと言えば……
「聞いてるの、鶴久!」
「鶴久君、こっちを見てくれない?」
現在、俺は速水と矢田によって正座で説教を受けていた。
いや、確かに固定砲台とは言えども女の子に触ってあんな声、出させたのも事実だけど酷くね、この扱い。
『あ、あの……すいません。私があんな声を出したから……』
「いや、確かに勝手に触った俺も悪かったから……つか、そんなに敏感なタッチパネルなのか?」
固定砲台が本体事、正座している俺に向いて頭を下げてくる。
『はい……実は人に触れられたのは鶴久さんが最初でして。殺せんせーの触手は人肌では無かったですし……私の初めては鶴久さんでした』
「やめてくんない?誤解される言い方。さっきの寺坂より誤解されやすい会話だからねコレ」
随所説明する固定砲台だが、コレは単に俺の立場が更に悪化するだけの気がした。
「ヌルフフフ……これもまた青春でしょう」
「正座に費やす青春なんて聞いた事ねーよ」
殺せんせーの言葉にツッコム俺。
つか、この 状態は殺せんせーの性だからねマジで。
「さ、授業を開始しますよ。鶴久君も今は正座を解いて、席について下さい」
「『今は』って事は後があるのかよ…」
俺はげんなりと席に着く。速水と矢田は俺を一睨みすると席に戻った。
俺、此処までされる事したかしら?
授業が始まるが皆はソワソワとしながらチラ見で固定砲台を見ていた。
それを見た固定砲台はにっこりと笑うと口を開く。
『皆さん。ご安心を。私は殺せんせーに協調の大切さに気付かせてもらいました。なので、私は皆さんが好きになって頂けるように努力し、合意を得れるまでは単独での暗殺を控えます』
その言葉に皆はホッとしたのか授業に集中し始める。
そして休み時間になると固定砲台の周りには人が集まる。
『私の体内で生成する特殊なプラスチックはデータさえあれば、多くのものを生みます。銃でも武器でもです』
ガチャガチャと様々な物を作り出しながら説明する固定砲台。
見た目は兎も角やはりスペック高いのね。
「へえ~じゃあ、花は?」
『分かりました、データを学習しておきます。そして王手です千葉君』
「三局面でもう勝てなくなった」
会話の最中に千葉と将棋をしていた固定砲台だが既に千葉を上回った模様。つか凄い人気者だ。
まぁ、殺せんせーの入れたソフトのお陰で、表情もやわらかくなってるし人気が出るのも頷けるか。
「まずい………先生とキャラが被ってる」
「何処をどう見たら、その結論に辿り着いたか説明を聞きたいよ殺せんせー」
渚のツッコミが入る。うん、それに同意するわ。
「このままでは先生の人気が奪われかねない。……………皆さん皆さん!」
何か勝手に危機感を感じとり、殺せんせーは皆の所に行く。
「先生だって人の顔の表示ぐらいできます。こうして皮膚の色を変えれば」
「キモいわ!」
確かにキモい。つうか、分かっててやってんだろアンタ。
「ところでさ、この子の名前決めない?いつまでも固定砲台さんって言うのもなんだし」
「確かに自律思考固定砲台って長いもんな」
片岡の言葉に皆が名前を考え始める。
そんな中、不破が思い付いた様に叫んだ。
「自律思考固定砲台から1文字とって……律は!」
「安直だな」
不破の考えた名前に千葉がツッコミを入れるが当の固定砲台が目を輝かせていた。
「気に入ったみたいだな」
「お前はそれでいいか?」
俺の言葉を引き継いで、前原が問いかけると固定砲台は……律は笑顔で応える。
「……嬉しいです!これからは律とお呼びください!」
眩しいくらいの笑顔を見せる律。やっぱ女の子は笑顔じゃなきゃな。
◇◆◇◆
次の日になって俺達は呆然としていた。
律は以前のバージョンにグレードダウンしていたのだ。
モニターに表示されてる律も前の姿だ。
烏間先生の説明によると昨夜、校舎に侵入したノルウェーの開発者達が律を元に戻したらしい。
「『生徒に危害を加えない』契約だが、今後は改良行為も危害に加えると言って来た。君らもだ。彼女を縛って壊れでもしたら賠償を請求するそうだ。開発者の意向だ。従うしかない」
「開発者とはこれまた厄介な………親よりも生徒の気持を尊重したいんですがねぇ」
烏間先生と殺せんせーは困った様子で俺達に説明をする。
「友達が家庭のDVによって改造された事は怒る事は出来ないんですね」
「鶴久……」
俺の言葉に速水が俺を見ていた。他の奴等も同様の思いなのか教室の雰囲気は暗いままだ。
思い空気のまま授業を開始され、そして授業が始まって数分、律が起動音を上げる。
全員が教科書で頭を庇ったり、身を屈めたりする。俺はまた弾に当たるのか等と少し達観していた。
だが、撃ち出されたのは対先生用BB弾ではなく花だった。
花びらが教室に舞う中、律のモニターが点灯する。
『………花を作る約束をしていました。殺せんせーは私のボディーに…計985点の改良を施しました。そのほとんどは…開発者が暗殺に不要と判断し、削除・撤去・初期化してしまいましたが、学習したE組の状況から、私個人は協調能力が暗殺に不可欠と判断し、消される前に関連ソフトをメモリの隅に隠しました』
おいおい、って事は。
「素晴らしい。では、律さん。貴女は」
『はい。私の意志でマスターに逆らいましたました。殺せんせー、こういった行動を反抗期と言うのですよね。律は悪い子でしょうか?』
殺せんせーの疑問に答える様に可愛らしい絵に戻り、頬を掻く律。
「いえいえ、中学三年生らしく大いに結構!」
『はい!』
殺せんせーが顔に二重丸を描くと律は笑顔で返事をした。
『鶴久さん、先程の言葉……嬉しかったです』
「友達……だからな」
律は吹っ切れた笑顔になっていた。
これで本当の意味でE組の仲間に入った律は皆に改めて歓迎されていた。
新しいメンバーも加わってこの暗殺教室も面白くなりそうだ。