鷹岡が烏間先生の補佐になった次の日。なんと言うか予想通りになっていた。
鷹岡は授業開始と共に笑いを取ったり親しみやすさを出しながら授業を進める。そして新しい時間割を出した瞬間、皆が固まった。
授業の八割近くが鷹岡の訓練になっていたのだ。軍隊のキャンプ並のスケジュールだ。
「無理だって、こんなの!」
前原が声を上げる。それと同時に鷹岡の眉がピクリと動いた。
「勉強の時間にこれだけじゃ成績落ちるし、遊ぶ時間もない!できるわけねーよ、こん……がっ!?」
前原の発言を遮る様に鷹岡は前原の腹を膝蹴りを入れた。手加減はしたみたいだけどアレはかなり痛いだろう。その証拠に前原は腹を押さえて倒れ込んでしまった。
「できないじゃない、やるんだ。俺達は家族で俺は父親だ。世の中に、父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」
鷹岡の言葉にクラス全員が引いた。そりゃそうだ。
「お前は父ちゃんについてきてくれるよな?」
鷹岡が神崎に近づいて聞く。あ、こりゃヤバいな。
そう思った俺は神崎の方へ移動開始。
「私は……私は嫌です。烏間先生の授業を希望します」
神崎は笑顔でそうハッキリと告げた。よく見れば体が震えてる。恐いのに頑張ったんだな。
そして予想通りに鷹岡が神崎を殴らんと手を上げた。
「神崎、よく頑張ったな」
「えっ!?」
ポンと神崎の肩を叩いた俺は神崎を庇うように立つ。間髪入れずに鷹岡の平手打ちが来るが俺は肘を水平に構えて鷹岡の平手に肘を突き刺した。これは空手で言う所の肘受け。
鷹岡は自身の行動が阻まれた事に苛立ちを覚えながらも笑ってない笑顔で俺を見る。
「父ちゃんに歯向かうなんて、悪い奴だな。お仕置きだ」
「さっきアンタは『父親の命令を聞かない家族がどこにいる?』って言ってたな。ここにいるよ、アンタが俺の親父ってんなら本当の親父同様に逆らってやらぁ」
反抗した俺に鷹岡は拳を振り上げる。俺も俺で鷹岡に対して半身で拳を構えた。
一触即発の雰囲気にクラスの皆が息を呑む。
「やめろ!鷹岡!」
俺は視線を鷹岡から外さずに耳で烏間先生の声を聞いた。見かねた烏間先生が走ってきたようだ。
「前原君、大丈夫か?」
「ケホッ……大丈夫ッスよ。それよか鶴久を止めないと……」
前原が俺を止めようと烏間先生に頼んでいる。気持ちは嬉しいけど俺は鷹岡を許す気は無い。
「心配すんな、家族なんだから手加減はするさ」
「いえ、貴方の家族ではありません。私の生徒達です」
鷹岡の身勝手な言い分に殺せんせーが怒りながら鷹岡の肩を掴む。
「文句あるのかモンスター?体育の授業は俺に一任されてる。罰も教育の範囲内だ。お前を殺す暗殺者を育てるんだ。厳しくなるもの当然だ。それとも、多少教育論が違うだけで、お前に危害を加えてない男を殺すのか?」
「………貴方を消すのは簡単です。だが、それでは生徒に筋が通らない。私に私なりの教育論があるように、貴方にも貴方なりの教育論がある。だから、烏間先生、貴方が彼を否定してください。同じ体育教師として」
「………鷹岡。生徒に手を上げるな。暴れたいなら俺が相手をしてやる」
ニヤついた笑みを浮かべたまま鷹岡は殺せんせーを挑発する。コイツ立場解ってんのか?と思うが殺せんせーは意志を曲げなかった。そして殺せんせーに促された烏間先生は鷹岡と向かい合う。
「烏間、ここは暴力ではなく教師としてやってみないか?お前らもまだ俺を認めてないだろうし、父ちゃんもこのままじゃ不本意だ。だからコイツで決めようじゃないか。お前が育てた自信のあるの生徒を一人選べ。ソイツが俺と闘い一度でもナイフを当てられたら、その時はお前に訓練を全部任せて出てってやる」
怪しい……コイツがこんなセリフを吐くって事は……
「だが使うのはこれじゃない、コイツさ」
そう言って鷹岡は対先生ナイフを捨てると自身の鞄から本物のナイフを出し、それを地面に突き立てる。
「殺す相手は人間なんだ。刃物も本物じゃないとな」
「よせ!彼等は人間を殺す訓練を受けてない!本物を持っても攻撃なんかできないぞ!」
ニヤニヤと笑う鷹岡に烏間先生は抗議する。なるほどね、そうやって俺達の戦意を削ごうってか。
「寸止めでも当たったことにしてやる。それに、俺は素手だ。これ以上ないハンデだろ。さぁ、一人選べよ!生徒を見捨てるか生贄として差し出すか!どっちみち酷い教師だなお前は!」
ゲラゲラと笑う鷹岡。だけど烏間先生はそんな声が聞こえてないかの様に何かを考えている。殺せんせーが烏間先生に何かを耳打ちすると烏間先生は決心したかの様に渚を指名した。
「地球を救う暗殺任務を依頼した側として……俺は、君達とはプロ同士だと思っている。プロとして君達に払うべき最低限の報酬は…当たり前の中学生活を保障する事だと思っている。だからこのナイフは無理に受け取る必要はない。君が選んでくれ」
烏間先生の言葉に皆が黙り、渚が差し出されたナイフを見詰める。
烏間先生は渚ならと思ったんなら仕方ないか。
「渚、お前がやらないって言っても大丈夫だ。代わりに俺がやるから」
「鶴久君……」
俺は渚に発破を掛けた。少し驚いた様子の渚だったけど俺の方を見て微笑んだ後に
「やります」
渚は烏間先生からナイフを受け取り、戦闘準備を始める。
「お前の目も曇ったなぁ、烏間。よりにもよってそんなチビを選ぶとはな」
ニヤニヤと渚をどういたぶるか考えてる鷹岡にイラッとくるが、ここは我慢だ。つーか、渚と烏間先生は鷹岡の話を聞いてないし。渚は烏間先生からアドバイスを聞いてるみたいだ。
そして試合開始となった。皆がゴクリと息を呑み対決の行方を見守る事になった。
だが渚はナイフを持ってから妙に震えてる。本物のナイフを持てば当然か。それを理解した上で鷹岡は勝負を持ちかけているだけに腹が立つ。
そんな事を渚は笑顔で歩き出した。ごく自然に、散歩にでも出たかの様に。その姿に全員が呆気にとられ、気が付くと渚は鷹岡にぶつかっていた。
次の瞬間、渚はナイフを振った。鷹岡は驚愕し、身体をのけ反って避ける。だが重心が後ろに下がり、渚は服を掴んで後ろに押し倒した。そして、背後に回りナイフをピタリと首筋に這わせる。
「捕まえた」
そう言った。あまりの事態に誰も言葉を発せない。いや、俺もだけど全員が呆気に取られたからだ。
そんな状態に渚は「え、これじゃ駄目なの?」と不安げに辺りを見回している。
「勝負ありですね」
殺せんせーは渚からナイフを取り上げ、バリバリと食べる。
「どう見ても、お前の勝ちだろ渚」
それに続いてフリーズの解けた俺は渚に話し掛ける。それを皮切りに皆が渚の周りに集まり鷹岡に勝ったことを喜び合った。
「ま、まだだ……今のは油断しただけだ!もう一度やれば……」
「しつけーよ!」
フラフラと立ち上がって抗議してきた鷹岡の鳩尾に俺は拳を叩き込んだ。今のも油断してたんだろうが、かなり綺麗に入ったから苦しいはず。
「今のは前原と神崎の分な」
俺の目の前で蹲る鷹岡にそう告げてやった。本当ならもう二、三発殴りたいがそれは駄目だろうからやめといたけど。
前原は渚に肩を組んでありがとうと叫び、神崎も俺の手を取り礼を言ってくれた。
その後、鷹岡は逆上し俺や渚に再び挑もうとしたが、烏間先生によって倒される。
更に鷹岡の手腕を見に来た理事長により、解雇通知を渡されE組を去った。
凄い急展開に事態が運び、やっと一息付けた。
「ところで烏間先生さ、生徒の努力で体育教師に返り咲けたし……なんか臨時報酬あってもいいんじゃない?」
「そーそー鷹岡先生そーいうのだけは充実してたよねー」
「甘いものなど俺は知らん、財布は出すから食いたい物を街で食え」
中村と倉橋の言葉に烏間先生は少し微笑みながら応えた。
根っこからプロなのと俺達との接し方が解らないだけなんだろうな、多分。
因みにこの後、皆でケーキを食べに行ったけど俺は杉野に睨まれた。なんでかって?
神崎が俺の手を握ったからです。