速水から逃げるようにその場を後にした俺は矢田と合流すると街のショッピングセンターに向かって歩いていた。
取り留めの無い話をしていたのだが夏祭りの話になった。
「鶴久君は夏祭りに行く?」
「俺は毎年参加してるよ。出店の事もあるしな……」
矢田が俺の夏祭り参加を聞くが俺は毎年参加している。大和屋としては出店は出さないが商店街の手伝いとして毎年参加しているのだ。
「そ、そっか……」
「多分、優奈が矢田を誘いに来るぞ」
若干俯いた矢田に俺は優奈の事を教えた。
「え、優奈ちゃんが?」
「既に速水と千葉は誘って夏祭りに行く約束してたぞ。俺も屋台の手伝いが有るって言っても途中までで遊ぶ予定だしな」
優奈が誘う事の説明と俺も夏祭りはしっかり遊ぶ予定でいる事を話す。夏祭りに出て遊べないとかどんな拷問だよ。
「鶴久君も一緒に……凜香や千葉君も一緒だけどチャンスかな……」
「矢田?」
矢田はブツブツと何かを呟きながら考え事をしている。顔の前で手を振っても反応が無い。
「矢田?……桃花ちゃーん?」
「……え……わひゃあ!?」
顔を近づけて名字を呼んでも反応が薄かったので名前を呼んでみたら速攻で反応が返ってきた。
しかし一瞬で後退りをして間合いを開けるとか、いつの間にかそんな身体能力を手に入れた?
「どど、どうしたの!?」
「いや呼んでも返事なかったから」
矢田は顔を赤くして動揺していた。流石に無神経に顔を近付けすぎたか?
「と、兎に角夏祭りは一緒に行けると思うよ!」
「そっか。楽しみにしとくわ」
少し慌てた様子だが矢田は夏祭りの参加は決定だな。
「あ、やっと笑った」
「ん?」
なんて思ってたら矢田が俺の顔を覗き込んでた。
「鶴久君、最近ずっと難しい顔してたよ?今日……凜香も同じ感じだったし」
「……う」
俺が最近悩んでたのはお見通しって事か。つか速水も?
「何があったの?最近、二人の様子がおかしいって千葉君や陽菜乃も心配してるよ?」
「あー……周囲にはバレバレなのね……」
俺は額に手を這わせて溜息を吐く。これは話した方が良いのかな。
「実は………」
俺は最近、速水に避けられてる事を矢田に話した。ついでに殺せんせー暗殺の事も俺自身があまり役に立ってない事への悩みも。
「もう……鶴久君は悩みすぎだと思うよ。少なくとも私も凜香も鶴久君が役に立ってないなんて思ってないからね!」
「お、おう……」
ビシッと俺に指を突き付ける矢田。やっぱ一人で悩むより話をした方が楽になるんだな。
「リゾートじゃ暗殺にバカンスに楽しもうよ!」
「………そうだな。そうすっか」
ね?と俺の顔を覗き込む矢田に俺は笑みで返す。ちゃんと笑えていたのか矢田も微笑んでくれた。
もう少し矢田と話をしていたかったが、ふと時計を見れば約束の時間になってしまったので俺は軽く溜息。
「悪い、矢田。時間が来たからここまでだわ」
「あ、ううん。今日は楽しかったよ」
軽く頭を下げた俺に矢田は「気にしないで」と言わんばかりに手を振る。本当に良い奴だよな。
その後、軽い挨拶を済ませてから互いに帰路につく俺達。
矢田と別れてから数分後、俺の今日の約束の人物が現れた。
「楽しそうでしたね紅君」
「見てたんですか?…………………まあ、地獄一丁目をブラり旅をする前に楽しい思い出作りたかったから」
目の前の人物はニコニコとしているが、その笑顔が俺に不安を与えていた。
「いやいやいや……キミから『俺を鍛えて欲しい』なんて珍しい事を頼む物だからオジさん張り切っちゃいますよ」
「………南の島に行く前に死ぬかもなぁ」
楽しそうに指をボキボキと鳴らすのを見て俺はこの人に特訓を頼んだ事を早くも後悔し始めていた。
無事にリゾート行けるかなぁ……