暗殺教室 鶴久紅の事件ファイル   作:残月

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潜入と奇襲の時間

 

 

 

完全に殺ったと思っていただけに俺達の落胆は大きい。正直、今回の結果を知らずに同じ事をもう一回やれと言われたら今回以上の結果は出せないだろう。

 

 

「とりあえず解散だ。上層部とコイツの処分を検討する」

 

 

そんな俺達を気遣ってか、烏間先生はカルマから殺せんせーを取り上げるとビニール袋に入れる。

 

 

「対先生弾のプールにでも入れますか?無駄ですよ。その時は、先ほどみたいにエネルギーの一部を爆発させて周囲を吹き飛ばしますから」

 

 

殺せんせーのニヤニヤとした顔と説明に烏間先生は悔しそうに表情を歪める。

 

 

「ですが、今まで何処の国の軍隊も暗殺者も先生をここまで追い詰めたものはいなかった。誇りなさい。キミ達の計画はひとえに素晴らしかったです」

 

 

殺せんせーはそう言っていつものように俺たちの暗殺を評価し、褒める。だが、今回の作戦に自信があっただけに全員の落胆の色は隠せなかった。

 

全員が口数少なく、海から上がりトボトボとホテルへ向かって歩く。それは死者の行軍にも見えた。

そんな中、俺は海に残ったまま千葉と速水の話を聞いていた。

 

 

「律、記録は撮れてる?」

『はい、可能な限りのハイスピード撮影で今回の暗殺の一部始終を』

 

 

俺の言葉に律は答えてくれた。俺は水の檻の外に居たから二人の狙撃の瞬間は見ていないのだ。

 

 

「………鶴久、俺さ……撃った瞬間わかったんだ。この弾じゃ殺せないって」

「私も……」

 

 

そう言う千葉と速水は指先を俺に見せる。引き金を引いたその指はプルプルと震えていた。

速水さん、その白のビキニで近付くと俺が冷静になれないのでそこで止まってね?

 

 

「んじゃ……二人は撃った瞬間に結果が解ったのか?」

『それは断定はできません。ですが千葉君の射撃があと0.5秒早いか、速水さんの射撃が標的にあと30cm近ければ殺せた可能性が50%ほど存在します』

 

 

俺の言葉を否定し、解答を提示した律の言葉に二人は肩を落とした。

俺は千葉と速水が様々な状況を予測して練習に励んでいたのを聞いていた。それだけにショックも大きいだろう。

 

 

「あの瞬間、指先が硬直して視界も狭まった…」

「同じく…」

「ここでうだうだしてても、しゃーない。戻ろうぜ」

 

 

沈む二人に掛ける言葉を模索するが気の利いた言葉は出せなかった。戻る事を促して俺が海から上がると二人も頷いて海から上がる。

 

はぁ……確実に成功するとは思ってなかったけどこんな結果になるとは……

 

俺達は溜息を吐きながらホテルへと戻った。

 

 

 

 

速水の水着を見て俺は少し元気を取り戻したのは誰にも言わなかった。つーか言えるか。

 

 

 

 

ホテルに戻ると案の定、皆はダレていた。精神的な疲れの方がデカいんだろうな。かく言う俺も少し怠い。

 

 

「しっかし、疲れたわ……」

「もう……何もする気力無ぇ……」

 

 

前原と三村が疲れ切った表情で言う。その言葉を肯定する様に半数がテーブルに顔を埋めたり、空を仰いでいた。

 

 

「んだよテメー等。一回外したぐらいでダレやがって。殺やること殺やったんだ。明日遊べんだろーが」

「寺坂の言う通りだぞ。俺は明日、サーフィンしながら『おお、ブラボー』って叫んでやる」

 

 

寺坂の発言に俺は乗ることにした。気分転換とまで行かなくても少しでも気持ちを切り替えたいからだ。

 

 

「キャプテンブラボーだね。そもそも元ネタちがうよ、でも水着回は萌えた」

「そうそう。明日は水着ギャルで鼻血出すぜぇ」

 

 

俺のボケに不破が乗る。確かに斗貴子さんの水着はツボだった。そして水着のフレーズに反応した岡島だが、何処が疲れた表情をしてる。

 

 

「いや…もう想像しただけで…鼻血ブ……いや…あれ…?」

「岡島!?」

 

 

俺との会話の最中、岡島は突然、鼻血を吹き出した。興奮してたとかの部類じゃ無くて苦しくて吐き出した雰囲気に焦りを感じる。

 

 

「熱中症か?皆、コイツ運ぶの……」

 

 

手伝ってくれ、そう言おうとした俺の言葉は喉から先に出ようとしなかった。何故ならばクラスの半数が岡島の様に倒れて苦しんでいたからだ。

 

 

「どうなってんだ……とりあえず一旦寝かせるぞ!」

「お、おう!」

 

 

近くに居た寺坂に手伝うように叫ぶ。無事な連中で倒れた者達を並べる様に寝かせた。実にクラスの半数が倒れてしまったのだ。

 

倒れた全員を寝かせ終えると烏間先生や渚達が深刻な顔をしていた。

俺が全員を寝かせている間に体調不良の原因が解ったのだ。これは殺せんせーを狙った第三者の介入によるものらしい。

その手口は細菌性のウイルスらしく、使ったウイルスは感染力は低いが、死亡は確実の物で交換条件で治療薬と殺せんせーを交換するのが奴等の目的らしい。更に持ってくるのは背の低い男女との事

この中だと渚と茅野になるか。

なんて思ってたら烏間先生の部下の園川さんが走ってきた。

 

 

「烏間さん!駄目です、政府として問いかけてもあのホテルはプライバシーを繰り返して……」

「やはりか……」

 

 

園川さんの言葉を聞いて烏間先生の表情が曇る。

 

 

「やはりとは?」

「警視庁の知人から聞いた話だが、相手の指定した山頂のあのホテルには国内外のマフィア勢力やそれらと繋がる財界人が出入りしていると聞くホテルだ。政府のお偉方ともパイプがあり、警察も迂闊に手がだせん場所だ…」

「そんなホテルじゃ、こちらに協力する筈、無いですね……」

 

 

殺せんせーの疑問に答える烏間先生。それに園川さんも同意する。

 

 

「だったら言うこと聞くのも危険だぜ!このチビ二人に持って行かせたら人質増やすようなもんだ!シカトして、今すぐ都会の病院に運んじまった方がいい!」

「それは止めた方がいい」

 

 

寺坂の意見をスッパリと止めたのは竹林だった。

 

 

「もし本当に人工的に作り出した未知のウイルスなら治療薬は何処にも無い。運んで無駄足になればそれこそ、患者の負担が増える。対症療法で応急処置をしとくから、その間に取引に応じた方がいい」

 

 

竹林のはテキパキと氷で簡易水枕を作っていく。確かに竹林の言う通りだ。

 

 

「だが、取引に応じた所で向こうが治療薬を渡す確証は無い。さらに言えば、本当に治療薬を持ってるかどうかも怪しい……」

 

 

烏間先生の言葉に俺達は黙ってしまう。そんな中、殺せんせーが口を開いた。

 

 

「良い方法があります。病院に逃げるよりおとなしく従うよりもね。律さん頼んだ下調べは終わってますか?」

『はい、殺せんせー。準備OKです』

 

 

殺せんせーの提案だからマトモな方法じゃない気がするなぁ……画面の中の律は何故かキャッツアイの姿をしてるし。ん、キャッツアイ?まさかとは思うが……

 

 

「元気な人は来て下さい、汚れてもいい格好でね」

 

 

ニヤリと不適な笑みを浮かべた殺せんせーに俺は先程の予感が的中したと確信した。

そして殺せんせーの指示の下、動けるメンバーは山頂のホテルの裏にある崖下にやってきた。切り立つ崖は人を拒む天然の城壁の様だ。

 

 

『あのホテルは正面玄関と敷地一帯に大量の警備が置かれています。ですが、この崖を登ったところにある通用口。侵入不可能な地形の為に警備も配置されていません』

 

 

画面越しに応える律は、全員のスマホにホテルのマップを展開しつつ説明する。

 

 

「交渉に乗らずに全員の命を救う手段は一つ。動ける生徒全員で侵入し、最上階を奇襲して治療薬を奪い取る。それが作戦です、実にシンプルでしょう?」

 

 

殺せんせーの作戦に俺と律を除く全員が驚く。律は殺せんせーからこの話を聞いていただろうし、俺は先程の律の恰好と殺せんせーの今までの無茶振りからこうなるんじゃないかと予想していた。

 

そんな中、真っ先に烏間先生が声を上げる。

 

 

「危険すぎる……この手馴れた脅迫の手口。間違いなくプロだ!」

「確かに相手はプロでしょう。生徒達の安全を考えるなら私をおとなしく差し出すのが賢明です。ですが私を差し出して犯人が治療薬を出してくれる保証は無い」

「となると、動ける者で確実な行動って事?」

 

 

殺せんせーの言葉に渚が問う。その言葉を肯定するかの様に殺せんせーは顔に○を描いた。

 

 

「それは……ちょっと無理だろ……」

「そうよ、それにこの崖よ?途中で落ちたらお陀仏よ!」

 

 

磯貝が壁を見上げて無理だと呟く。その言葉に姉さんも崖を指差しながら叫んだ。

姉さん、それは俺達を甘く見すぎだ。

 

 

「やはり危険だ…………渚君、茅野さん、キミ達で最上階へ……」

「烏間先生、上」

 

 

烏間先生が、渚と茅野に取引の受け入れを頼もうとしたのを俺は言葉を遮って崖の上を指差す。そこには崖をスルスルと登っていく渚達の姿が。

 

 

「まぁ……崖だけなら楽勝だけどさ」

「いつもの訓練に比べたらな」

 

 

楽々と崖を登る渚達が予想外だったのか俺達の行動に烏間先生と姉さんは口を開け、驚いていた。

 

 

「いつも訓練でこの位はしてるんだから大丈夫。もう少し、俺達の評価を上に見ても良いと思うってね!」

 

 

そう言って俺も崖を一気に駆け上がる。

 

 

「でも未知のホテルで、未知の相手と戦う訓練はしてません」

「だから、その辺は烏間先生に指揮してほしいんです」

「おお、ふざけたマネした奴に落とし前つけてやらぁ」

「ま、つー訳で引率お願いしまーす」

 

 

 

俺達が口々に言葉を繋げると烏間先生は少し悩んだ仕草を見せたものの小さな溜息を出した後にスゥと息を吸うと叫んだ。

 

 

「注目!目標は山頂ホテル最上階!隠密潜入から奇襲への連続ミッション!ハンドサインや連携については訓練の物を使う。いつもと違うのはターゲットのみ!」

 

 

烏間先生の号令に皆が気を引き締めた。

 

 

 

後は……俺の体の怠さが問題か……

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