更新再開します。
俺と矢田は皆とは少し遅れてラウンジに入り、女子メンバーとの合流をしようとラウンジの中を歩いていた。歩いていたのだが……
「や、矢田……少しばかり近すぎる気が……」
「これくらいしないと怪しまれるよ。それと今はお嬢様でしょ?」
俺の腕に抱き付きながら歩く矢田にドキドキしながら言うが矢田の言葉に反論できない。確かに潜入にあたって役割を演じる事は納得できるが……俺の理性持つかしら?
等と思いながら女子メンバーを探していると女子メンバーは柄の悪い連中にナンパされていた。
「行こう、鶴久君」
「りょーかい」
矢田はそれを確認すると即座に行動に移し、俺は頷いて後に続く。
「よう、お嬢ちゃん達。俺等と今夜どう?」
「あのね、言っときますけど…」
「はい、そこまで」
肩を叩かれ片岡は言葉を止める。肩を叩いたのは矢田だ。俺は矢田の後ろで控える形で立っている。
「今日ね、私のパパ同伴なの。やめとこ?」
「は、パパが怖くてナンパできっかよ!」
矢田は上目遣いにナンパ男達にナンパを止めさせようとするが酔っているナンパ男達は引こうとはしなかった。
「ふーん、それじゃ紹介しよっか?」
「なっ!?」
矢田は手に持っていたバッチを見せた。姉さんから貰ったというバッジ。それは少数精鋭、武道派の組のバッチだ。
んで此処で更に俺が追い討ちを掛ける。
「お嬢。あんまりお戯れをするとオジキの苦労が増えます」
「えー、パパ優しいから、なんでもしてくれるもん」
俺の言葉に矢田は無邪気な笑顔を見せた。
「お兄さん方……無用なトラブルは避けましょうや。俺も事は大きくしたくないので。でないと……こうなりますよ?」
「なっ……その目……」
俺は矢田の前に出てナンパ男の前でグラサンを外す。俺の左目は刃物で斬られた傷跡が残っていた。
「オジキはお嬢に甘い一方で反面言い寄る男には厳しい。近しい存在だった俺にもこの始末。お兄さん方にその気があるなら……」
「あ、いや……し、失礼した。俺も少し酔いが回っていたみたいだ。頭冷やしてくるよ」
俺の言葉にナンパ男達は冷や汗を流しながら立ち去って行った。
「あー……緊張した」
「もう、何言ってるの。完璧だったよ?」
ナンパ男達が十分に離れた後に俺はドッと疲れが出た。そんな俺に矢田が腕を組ながら答える。
「ね、ねえ?さっきのは……」
「ん、ああ……俺と矢田で打ち合わせた関係」
片岡が驚いた様子で聞いてくる。
そう。先程のやり取りはラウンジに入る前に俺と矢田で打ち合わせた事だった。
矢田はヤクザのお嬢様で俺はそのボディーガード。先程、菅谷に頼んだメイクは刃物で斬られた傷跡でそれをグラサンで隠して話の中でそれを見せれば信憑性が上がる。全て、ハッタリだが効果は絶大だ。
「と言うか矢田の演技にもビックリしたよ」
「確かにごくナチュラルに演じてたよね」
「アハハ。殺せんせーが言ってたよね『第二の刃を持て』ってさ、接待術も交渉術も将来最高の刃になりそうじゃない?」
速水や不破の言葉に矢田は笑顔で答える。確かに先程の演技や話の運び方は上手かった。それに矢田は自分の将来をしっかりと考えてるのかと思う。
「いやー、カッコいい大人になるね矢田さんは」
「…う…む……巨乳なのにホレざるを得ない」
巨乳を憎む茅野が心を開いた!?
ふと隣を見ると俺と同時に岡野が驚いていた。
「役柄は兎も角、くっつき過ぎじゃなかった?」
「ふふん、私はボディーガードに甘えるお嬢様なの」
その後ろでは速水と矢田が何かを話しているが今はスルーしよう。むしろ関わったらアウトな気がする色々と。
「って……あれ、渚は?」
「ああ、さっきしつこいナンパがいたから任せちゃった」
ふと渚が居ない事に気づいたが片岡はしつこいナンパがいたから渚に押し付けたらしい。女装した渚にナンパ男を任せるって悪魔かお前らは……。
「仕方ない。俺が渚の回収に行くから、お前等は鍵の方頼むわ」
「あ、私も行く!」
俺が渚の迎えに行こうとすると矢田が再び俺の腕に引っ付いてくる。
速水の視線が冷たさを増した気がするが今は時間がない。
矢田を引き連れたまま渚の下へ行くとアホ丸出しな奴が女装した渚にデレデレになっていた。
今の渚は知らない者が見れば確実に『美少女』と呼べる容姿になっている。
「渚、時間だぞ」
「あ、うん!今、行くね!」
「あ、ちょっ!?渚ちゃん!」
俺が声を掛けると渚は一瞬、戸惑ったが俺だとわかると直ぐに席を離れて俺と矢田に合流する。ナンパしてたアホは突如、離れた渚に声を掛けるがサヨナラだ。
「はー、助かったよ」
「モテモテだったな渚ちゃん」
「うん。今の渚君、可愛いよ」
溜め息を吐く渚に俺と矢田のダブルパンチを浴びせる。渚は「言わないでよぅ……」と涙目で言うが、その仕草そのものが女の子に見える。
渚弄りも程々にして鍵を開けに行ったメンバーと合流したが、まだ鍵は開いていなかった。
出入り口となる扉の前に店の従業員が警備をしているのだ。
「店の奥まで着いたけどあの見張りが邪魔で鍵を開けられないの」
「何とかあの見張りを誘き出してその隙に通れないかな?」
「ホテルの従業員だから危害を加えるとすぐバレちゃうんじゃ」
片岡、岡野、速水の言う通りでなんとしたものかと悩む。なんて思ってたら渚をナンパしたアホが着いてきた。
「ちょっと待ってよ。俺の十八番のダンス見てってよ」
ニヤけた笑みを浮かべたまま踊り出すアホ。女子は全員が引いていた。あ、速水に至ってはゴミを見る目だなコレ。
女子達の冷たい目線にも気付かずアホがダンスを踊っていると腕がチンピラに当たり飲み物を服に掛けてしまった。
「いい度胸だなクソガキッ!」
「ひ、ひぃぃ!?」
チンピラに胸ぐらを捕まれて脅え出すアホ。でもチャンスかなコレは。一撃でチンピラを沈めて出口付近に待機してる従業員に任せれば鍵を開けにもいけるし、万事解決だ。
なんて思った俺の視界にあり得ない人物が目に入る。
なんで……此処に居るんだよ。
◇◆side 矢田◇◆
先程まで渚君にナンパしてた男の子がチンピラ風の人に絡まれ始めた時、鶴久君の様子がおかしかった。
急にサングラスを外したかと思えば壁に寄りかかって、お酒を飲んでいた男の人を睨んでる。
そんな事とは無縁にチンピラ風の人をひなたが片足を踊っているかの様に蹴りを放ち、見事に顎に命中させて昏倒させていたが私はそれ所じゃなかった。
「なんで此処に居やがるんだよ」
「バカンスをする島でバカンス以外の何をするってんだ?」
鶴久君は先程の男の人と向かい合って睨み合っている。怖い。こんなに人を睨んでる鶴久君、始めて見た。
次の瞬間には男の人の拳が鶴久君に目掛けて放たれていた。ワンテンポ遅れて鶴久君も殴り返す。二人の拳が交差していた。そしてそれは偶々近くを歩いていたスーツ姿のお客さんに命中していた。
「ちょっ!?鶴久君、何してるの!?」
私は慌てて鶴久君を後ろから抱き締める形で止めようとする。すると目の前の男の人は笑い始めた。
「何してるかは知らねーが……大変みてーだな」
「ああ……超厄介事だよ」
男の人は倒れたスーツ姿のお客さんをチラリと見てから鶴久君を見て、そう呟いた。対する鶴久君も先程の睨み合が嘘のように普通に答えた。
「矢田、もう大丈夫だからさ」
「え?あ、うん……」
鶴久君は私に抱き締めていた腕をポンポンと手で叩く。
私は呆気に取られていたが鶴久君がいつもの優しい笑みに戻っていたから手を離す。
「すいませーん。この人急に倒れちゃったんですけど!」
「ああ、はいよ。全く、飲み過ぎか?」
茅野ちゃんが見張りの従業員を呼んで、倒れたチンピラ風の人を運ばれていく。そして皆はがら空きになった裏口の鍵を開けて残りの男子を中に入れ階段を登っていく。
私達も一緒に行かなきゃと思って鶴久君の手を取ると先程の男の人が気絶させたスーツ姿のお客さんを踏みつけながら笑みを浮かべていた。あれ、スーツ姿の人の手元に落ちてるのは針?
「気ぃつけろよ」
「テメーこそ飲みすぎるなよ」
そんな私の疑問は二人の会話で消えてしまう。男の人は笑みを浮かべたまま、鶴久君は振り返らずに吐き捨てる様に行ってしまう。
「ねぇ、鶴久君……」
「悪ぃ、矢田。今は時間がないから後で説明するわ」
私は握る鶴久君の手を少し強めながら皆の後を追った。