暗殺教室 鶴久紅の事件ファイル   作:残月

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武器の時間

 

八階のコンサートホールは静かで誰一人いなかった。

警戒しながら進むと、奥から人の足跡が聞こえた。全員が黙ったまま静かに椅子の陰に隠れる。

するとホールに入ってきたのは口に銃を突っ込んだ男。

 

 

「………あ~……銃、美味ぇ」

 

 

………え、美味いの?思わず口に出してツッコミを入れそうになったがギリギリ我慢出来た。コイツ、殺し屋か。ある意味、一番インパクトあるぞ。

 

 

「………十五……いや十六か?呼吸が若い。驚いたな、動ける全員で乗り込んで来たのか?」

 

 

呼吸音だけで人数を当てやがった。なんかの達人かよ。

そう思ってると男は後ろも見ずに、背後の証明を撃ち抜く。

 

 

「このホールは防音で、銃は本物だ。お前ら全員撃ち殺すまで誰も助けに来ねぇ。人殺しの準備だってしてねーだろ。大人しく降参してボスに頭下げとけや!」

 

 

男がそう言いながら持っていた銃をクルクルと回す。かなり嘗められてるな、と思ったら男の顔の横を一発の銃弾が掠める。位置的に速水が狙撃したっぽいな。

男は予想外の反撃に一瞬呆けた顔になったが直ぐに頭が切り替わったのか殺し屋の顔付きになった。

 

 

「なるほど………流石は暗殺の訓練を受けた中学生だ。いーね………意外と美味ぇ仕事じゃねぇか!」

 

 

そう言って、男はステージの照明のスイッチを入れる。かなり強めに光が差し込んで逆光になって敵の姿が見えない。あ、そういや俺はグラサン持ってたんだった。

装着して椅子の隙間からスッと除き込んだら男と目が合った。あ、ヤバいかも。

 

 

「今日も元気だ。銃が美味ぇ」

 

 

それと同時に、男は口に咥えた銃を向けていた。二発の銃声と同時に俺の掛けていたグラサンの端に僅かに当たり、グラサンはガシャンと床に落ちて割れた。危なっ!後一センチずれてたら俺に当たってたわ!

 

 

「一度発砲した敵の場所は忘れねぇ。下の階に居た殺し屋は暗殺専門だが、俺は軍人上がりだ。一対多の戦闘は何度も経験してるし血と硝煙の臭いには敏感なんでな」

 

 

血と硝煙の臭い……まさかそれで俺と速水の位置を把握したとでも!?いや、いくらなんでもハッタリだろう……でも奴の空間把握は凄い。速水は狙撃位置から俺は少し動いただけで場所を把握された。

どちらにせよヤバい。こんなんじゃサポートもろくに出来そうにないな……せめてマトモに動ければ……

 

 

「速水さんはそのまま待機!千葉君、今撃たなかったのは賢明です!君の位置はまだ敵にバレていません!」

 

 

悔しさに唇を噛みそうになったら、急に殺せんせーの声が響いた。

 

 

「誰だ!?一体何処から…………テメー、何かぶりつきで見てやがんだ!」

 

 

男が叫んで一瞬の間があった後に最前列の向けて銃を乱射してる。どうやらあそこに殺せんせーがいるみたいだ。加えて適度に敵をバカにしているらしい。

 

 

「ヌルフフフ、これぞ完全防御形態の本領。熟練の銃手に中学生が挑むのです。これぐらいにのハンデはいいでしょう?」

「チッ!だが、その状態でどうやって指揮を取る気だ?」

 

 

男はリボルバーに弾を装填しながら聞く。殺せんせーはニヤリと笑うと口を開いた。

 

 

「では、木村君!五列左へダッシュ!寺坂君と吉田君はそれぞれ左右三列!死角が出来ました!このスキに茅野さん二列前進!」

「な、何ぃ!?」

 

 

殺せんせーの指示でシャッフルされる俺達に男は慌てる。俺達はその後も殺せんせーの指示で動き回った。

だが、奴は落ち着いた様子でニヤリとした。恐らく俺達の名前と位置を覚え始めたな。

 

 

「では出席番号十二番!右に一つで準備しつつ待機!」

「へ!?」

 

行き成り出席番号で呼ばれ男の顔が再び焦り出した。つーか、急すぎて俺達も一瞬驚いたわ。

 

 

「ポニーテールは左前列へ前進!バイク好きも左前に二列!怪我人は右前列に前進!」

「あ、くそ……」

 

 

俺達しか知りえない情報に男は銃をあっちこっちに向けるが、もう何処に誰かいるか分からなくなってる。

 

 

「最近竹林君おススメのメイド喫茶に興味本位で言ったら、ちょっとハマリそうで怖かった人!撹乱の為に大きな音を立てる!」

「うるせー!何で行ったの知ってんだテメー!」

 

 

寺坂はそう叫ぶと大きな音を立てる。位置特定を防ぐ為に黒歴史を明かされた寺坂南無。って、ちょっと待て!この流れから行くと……

 

 

「夏休みに入ってから姉が家に転がり込んで少しだけどドキドキしながら過ごしている弟!フォローしやすい位置で待機!」

 

 

あのタコ、後で殺す……つーか姉さんが夏休みに入ってから俺の家に泊まり込んでるのなんで知ってんだよ!

 

 

「千葉君、いよいよです。次の先生の指示の後、君のタイミングで撃ちなさい。速水さんは状況に合わせて彼のフォロー。敵の行動を封じることが目的です」

 

 

殺せんせーが狙撃の指示を出しているが俺は少し不安だった。さっき銃を受け取った速水と千葉は酷く緊張してる様子だった。今も外せないプレッシャーに押し潰されそうになっているのだろう。

 

 

「千葉君、速水さん、言い訳や弱音を吐かないキミ達は、無理な信頼をされたり、誰にも悩みを気づいてもらえない事もあったでしょう。でも大丈夫。キミ達は1人で抱え込む必要はありません。キミ達には仲間がいます。それに『彼』の怪我が自分の所為だと思うのも違います」

 

 

殺せんせーが二人を励ます。なんか俺の話題も上がったが口を挟むのは止めとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆side 速水凛香◆◇

 

 

 

 

 

私は不安だった。

殺せんせーから千葉と共に銃を預けられたけど私は殺せんせーへの狙撃を外してしまったプレッシャーからトリガーに掛けた指が震えていた。

殺し屋の銃を落とそうとして撃った弾も外れてしまった上に殺し屋は私の他にも鶴久が潜んでいた場所にも弾丸を撃ち込んでいる。ガシャンと何かが落ちる音がしたが悲鳴が聞こえなかったから恐らく当たらなかったんだろう。

鶴久はさっき私を庇って怪我をした。

私が油断しなければ、私が一瞬でも早く気づいていれば。

そんな事ばかりを思ってしまう。

 

 

「夏休みに入ってから姉が家に転がり込んで少しだけど毎日ドキドキしながら過ごしている弟!フォローしやすい位置で待機!」

 

 

殺せんせーが敵から個人を特定されない様に遠回しで生徒を指摘していたが寺坂や鶴久のは寧ろ秘密の暴露だった。

ビッチ先生の件は後々聞くとしよう。

 

 

「千葉君、いよいよです。次の先生の指示の後、キミのタイミングで撃ちなさい。速水さんは状況に合わせて彼のフォロー。敵の行動を封じることが目的です」

 

 

殺せんせーが遂に狙撃指示を出すけど……駄目だ。指が震えて……力が入らない。

 

 

「千葉君、速水さん、言い訳や弱音を吐かないキミ達は、無理な信頼をされたり、誰にも悩みを気づいてもらえない事もあったでしょう。でも大丈夫。キミ達は1人で抱え込む必要はありません。キミ達には仲間がいます。それに『彼』の怪我が自分の所為だと思うのも違います」

 

 

え、だって鶴久の怪我は私を庇って……

 

 

「彼もキミ達と同じくフォローに回る事が多い。それ故にキミ達の事もよく見ていたのでしょう。でなければ即座に庇ったりしません」

 

 

鶴久が私達を……

 

 

「彼の怪我は確かに庇ってのもの。ですが彼はそれを後悔していない何故ならばキミ達が無事だからです。彼は彼の仕事を果たした。キミ達が整った状況で狙撃をする為に。ならばキミ達の仕事は?」

 

 

私達は……私の仕事は……

 

 

気が付けば私の指からは震えが消えていた。

ありがとう殺せんせー。きっと千葉も気付いてる。殺せんせーが私達に気付かせてくれた事を。

 

鶴久だけじゃない。皆が私達をフォローして見守ってくれているって。そして殺せんせーは私達の気持ちが落ち着いたのを悟ったかの様に次の指示を出した。

 

 

「出席番号十二番!立って狙撃!!」

 

 

殺せんせーの叫びと同時に人影が立ち上がる。すると、男はその人影の眉間に銃弾をドヤ顔で撃ち込んでいた。

しかし、その人影は千葉ではなく人形だ。十二番は菅谷の番号だった。

 

 

『千葉くん。分析の結果、狙うならあの一点です』

「OK、律!」

 

 

すかさず千葉が別の場所から出て発砲する。しかし弾は男には当たらなかった。

男は自身に弾が当たっていない事に驚いた様だが不適な笑みを浮かべる。

 

 

「く、くくっ……外したな。これで……っ!?」

 

 

男は姿を現した千葉に銃を向ける。だが、その直後後ろから釣り照明が銃食い男を襲った。

千葉は男を直接狙わずに男の頭上の釣り照明の金具を撃ったのだ。こうすれば不殺で敵に大ダメージを与えられるからだ。

男はそれでも意識が残っていたのか銃を千葉に向けている。

 

 

「おーい、こっちこっち」

「っ!?」

 

 

その直後だった。鶴久が男の注意を千葉から逸らすように声を上げる。あのバカ!

案の定反応した男は銃を鶴久の方に向けた。あ、この位置って……男が鶴久に銃を向けると私から見れば真正面で狙える。鶴久はコレを狙ったの!?私は迷わずに銃を構えて発砲した。

私が撃った弾は男の銃に命中し、男は丸腰となり飛び出した寺坂達にスマキにされていった。

 

 

「フゥー……やっと当たった……」

「やったな速水」

 

 

お互いに狙撃を成功させたと私と千葉はハイタッチをするように腕を合わせた。

 

 

 

「やったな二人とも!」

「っと!?」

「ひゃっ!?」

 

 

それとほぼ同時に鶴久が私と千葉を抱き寄せる様に肩を組んできた。怪我をしてるってのにコイツは……

 

 

「それに速水、助かったよ。ありがとう」

「バカ……なんとか間に合ったけど殺せんせーも烏間先生も無茶をするなって言ってたわよね」

 

 

私は思わずツンとした態度を取って鶴久に背を向けてしまう。

 

まったく……お礼を言いたいのは私なんだからね、もう。

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