矢田の突然の告白に俺の心臓はバクバクと鳴っている。俺の胸の位置に矢田の手が回り、ギュッと抱き締められていて俺の心臓の音が伝わるんじゃないかと思うほどに。
矢田は俺に告白した。俺はそれに応えなきゃならない。矢田は優しくて可愛くてスタイル抜群。俺と気が合うし、優奈も矢田には懐いてる。断る理由は……理由は無いよな?
彼女が出来るかもと思うと俺の心臓は更に早まった気がする。煩せえよ、俺が応えるんだから少し黙れと言いたい。
「矢田……俺は……」
俺が口を開くと矢田の体がビクッと震えた。俺の返事を期待してるのだろう。その仕草だけでも伝わってくる。
「……その……」
矢田の手に俺の手を重ねようとした、その時だった。
『鶴久』
「っ!?」
頭の中で小さくだが声を聞いた。いや、思い出したになるのか?
その声はクールで、少しぶらっきぼうに俺の名を呼ぶ。そうだ……そうだよな。俺はもう答えを出したのに流される所だった。情けねぇ……そして申し訳ない。
「……………………ごめん」
俺の発した言葉に矢田は再び震えた。回された腕から震えが伝わってくる。それにさっきよりも力が入ってる感じだ。
「俺……他に好きな子がいるんだ」
俺の言葉に矢田は無言だった。そして俺の胸の辺りに回されていた腕はスルリと解かれると俺の背中に重みが増した。振り向かなかったが矢田が俺の背に頭を乗せたのだと感じる。
「………やっぱり……そっか」
「………矢田?」
矢田の口調は何処かサッパリと言うか悟った様な物だった。そして背中の重みが消えると矢田はポンと俺の背に手のひらを当てた。
「ズッとね……分かってたんだ。鶴久君に好きな子がいるって。そしてそれは私の親友」
「おい……矢田」
矢田の言葉に俺は思わず振り返ってしまう。矢田は先程、俺が渡した電気ネズミのお面を正面に付けていた。顔は伺いしれない。
「でもね……私も諦められなかったの。だから告白した」
「……矢田……その……」
俺は矢田になんて言えばいいんだろう。悩んでいると矢田は俺の両肩に手を置いた。
「行ってあげて……きっと凛香も待ってるから……ね?」
「お、おい矢田!?」
俺を回れ右させると矢田は俺の背を叩いて先に進ませる。痛くないんだけど……痛いな。気持ちが痛い……矢田に気を使わせてる事が。
「私も後で……優奈ちゃんと合流するから………お願い」
「………ごめん」
矢田は俺に懇願する様に俺の背を押す。これ以上は俺は何も言えないな。でもこれだけは言っておきたい。
「矢田……ありがとう」
「…………どういたしまして。ほら、サッサッと行く!」
俺の言葉に矢田は強めに背を叩いた。背中は痛かったが気合いは入った。いざ行かん速水の所へ!
◇◆sideイリーナ◇◆
その場に居合わせたのは偶然だった。花火会場までの近道として通り掛かった所で見てしまったのは弟と教え子の告白。
私はドキドキとその告白を見ていたが紅は桃花の告白を断っていた。
そう……やっぱり紅は凛香の事が好きなのね。
桃花に後押しされる形で紅は凛香の所へと走っていった。桃花はお面を被ったまま、その場に立っている。まったく……どいつもコイツも世話が焼けるんだから。
「まったく……桃花を振るなんて信じらんないわね」
「ビッチ先生!?」
さっきまで居なかった私に驚く桃花。いい加減ビッチ呼ばわりは止めなさいよ!
「桃花、ちょっと来なさい」
「ちょっ……ビッチ先生?私は大丈夫だから……」
私に手を引かれて桃花は戸惑っている。ガキが生意気に強がってんじゃないわよ。
「大丈夫……には見えないわね」
「ビッ……先……せ……」
私は指で桃花の付けているお面をズラす。お面の下には涙をポロポロ流す桃花の顔。
「まったく……泣きたいなら泣いときなさい」
「……う……ひっ……くっ……」
私は桃花を引き寄せて自分の胸に埋める。すると桃花は我慢していた分の涙が溢れ出てきていた。
紅……アンタ、こんな良い子を泣かせたんだから凛香にちゃんと告白しなさいよ。
私は小さな溜め息と共に泣き続ける桃花の頭を撫で続けた。