夕食を済ませた俺と千葉は夜道を歩いていた。
「いやーすっかり夜になっちまった」
「そうだな。なあ、ビッチ先生の事は大丈夫なのか?」
千葉が聞いてきたのは姉さんの事だった。
「ま、バーさんがめんどうみるだろうし最悪、優奈が看てくれるかな」
「優奈?」
そーいや、千葉にはまだ話してなかったか。
「優奈は俺の妹な。今日は部活で帰りが遅かったから居なかったけど普段は大和屋の手伝いしてくれてるよ」
「仲が良いんだな」
千葉は羨ましそうに呟く。いやぁ……下が居るってのは意外と苦労があるんだよ。
「なんなら優奈が居るときにも来てくれや。ま、そんときゃ姉さんも一緒な気もするが」
「ビッチ先生も含めてワンセットなのか」
互いに笑いながら歩く
「此処まででいい。まだ家には遠いし鶴久の帰りが遅くなるぞ」
「ん、そっか……っと?」
千葉の家はまだ遠いらしく此処までで良いとの事だ。別れを済ませようとしたら丁度スマホが鳴った。
着信を見れば優奈からだった。
「どした優奈『お兄ちゃーん!』っと!?」
スマホを通して優奈の声が響く。
「妹さんか?」
音が大きかったから近くに居た千葉にも優奈の声が聞こえた様だ。
『お兄ちゃん!お姉ちゃんが酔っ払ってアタシに絡んできて『ちょっと優奈~ちゃあんと接客しなさ~い』ってキャー何処触ってんのお姉ちゃん!?』
スマホから聞こえてくる優奈の声。
どうやら部活から帰った後に姉さんに絡まれたらしい。
「悪り、帰るわ」
「そうした方が良さそうだな。つうか何してんだビッチ先生」
俺は片手を上げて謝罪をするが千葉は同意しながらもタラリと汗を流した。
「んじゃ、また明日」
「……ああ」
千葉に挨拶を済ませた俺は小走りに大和屋へ向かう
「鶴久!」
と思ったが千葉が俺を呼ぶ。
「また……遊びに行っても良いか?」
「ああ、来てくれ!」
千葉の言葉に俺は笑って返した。
「何このカオス」
大和屋に帰った俺はリアクションに困った。他のお客さんは帰ったようだが。
「すー……すー……」
「もうお姉ちゃん……起きてよ~」
酔っ払った姉さんが優奈に抱き付いたまま寝ていた。
「あら、お帰り」
「ああ、ただいま。つうか何この状態」
店の後片付けをしていたバーさんが俺を出迎える。
「久々に会って嬉しかったんだろうね。優奈も困ってる風だけどイリーナに会えて懐かしかったんだろうし」
「前に姉さんが来たのって確かバーさんの知り合いの……ロヴロさんが来たときだっけ?」
思い出すのは店に何度か来たロヴロさんの事。姉さんはロヴロさんに連れられて店に来ていたのだ。
「そーいや、姉さんが一人で来たのは今日が初めてか」
姉さんを優奈から引き剥がして背負う。
「とりあえず客間に運んどきな。優奈に頼んで布団は敷いてあるよ」
「はいよー」
俺は姉さんを背負ったまま返事をする
「ったく手が掛かるんだから」
「…………イリーナも元の仕事が大変なんだ。たまに愚痴でも聞いてやんな」
バーさんが珍しく姉さんを庇う発言をする。学校で姉さんの授業を終えた後に聞いた姉さんの本来の仕事。
それは国際的な殺し屋
「普段の仕事って……」
「イリーナ自身がいつか話すだろうから、ちゃんと受け止めてやんな。アンタがイリーナを姉と慕うならね」
バーさんの言葉には妙な重みがあった。
姉さんが殺し屋と聞いたときは確かにショックだった。
俺からしてみれば単に手の掛かる姉なのに。
しかもバーさんの口振りじゃまだなんか話してない事があるって訳ね。
「お兄ちゃん、早くお姉ちゃん寝かせてあげよ?」
「そうだな」
優奈に服を引っ張られながら俺は姉さんを客間に運んだ。
さて、明日は姉さんを起こすのも含めて早起きしなきゃな。
俺はそんな事を思いながら寝ている姉さんに布団を掛けた。