もし良ければ、是非目を通して頂けると嬉しいです。
では、今回の話をどうぞ……
気が付くと俺の目の前に、
俺はいきなり目の前に現れた絢瀬先輩にびっくりして周囲を見回すと、今いる場所が俺がいつも見慣れた生徒会室の中だという事に気が付く。
そこで、立っている俺の正面を向く形で椅子に座る絢瀬先輩。
室内には夕日が射しこみ、先輩の特徴である金髪が、夕日の赤色に少し染められて琥珀色に近い輝きを放つ。
そんな輝きを
その光景を見て、脳で認識して、俺は悟った。
――ああ、これは夢だ。
『今までこんな私に付いてきてくれて……ありがとう、感謝してるわ』
『いえいえ、そんな事ないです! 俺が、自分の意志であなたに付いて行っただけですよ会長――いえ、
絢瀬先輩の言葉に反応するかのように、俺の口からは勝手に言葉が紡がれる。
俺が夢に見ているのは、今からほんの一年前の過去の記憶。
『いいえ、それでもよ
部費の件で他の部活と衝突があった時に、間に入って話を取りなおしてくれたり。
生徒会の会議の時に、場を和ませて皆が発言しやすい空気を作ってくれたり。
……その全部が、私には出来ない事だった。
だから、無理にとは言わないけど、そんな君に私からお願いがあるの』
『お願い……ですか? なにを……?』
そして、俺が絢瀬先輩と二人きりで話した――今も俺の思い出に刻まれて、消える事のない大切な記憶。
『――もし良かったら……正也君。私が卒業した後の、この学校を……生徒会を任されてくれないかしら? 君にだったら、任せられる気がするの』
『俺が……ですか? そんな!?
俺は絢瀬先輩みたいに“完璧な”生徒会長になんて、なれっこないですよ! 俺は……絢瀬先輩みたいに、1人で何でも出来るような特別な人間なんかじゃなくて……仲間に支えられてないと、ロクにカッコつける事も出来ないような……そんな、弱い人間で……!』
『それは違うわ、なにも私みたいな生徒会長になりなさいって頼んでる訳じゃないの。
だから、そんなに自分を過小評価しないで正也君。そんな君だから、出来る事がきっとあるって私は思ってるの。
私は、正也君は正也君なりの生徒会長をやって欲しいって思ってお願いしてるわ……それでも、ダメかしら?』
俺は、責任感が人一倍強くて他人に厳しく、それ以上に自分に厳しい……そんな凄い絢瀬先輩が、自分の事をそこまで高く評価してくれていた事がとっても嬉しくて。
だから……その時俺は、生徒会長なんてやれる自信は全く無かったけど、それでも決心したんだ。
自分を信じて任せてくれる絢瀬先輩の為に――俺が心から尊敬する先輩の為に、俺は―――
『絢瀬先輩がそこまで言ってくれるなら……わかりました!
俺、先輩の後を継ぐに相応しい、立派な生徒会長になってみせます!』
――生徒会長っていう、俺の身には過ぎた大役を、全力でやってみせようって決めたんだ。
ピピピッ! ピピピッ! ピピピッ!
けたたましい音を鳴らしながら、目覚まし時計が俺をさっきまで居た夢の世界から現実世界へと引き戻す。
「夢か……久しぶりに、絢瀬先輩の夢を見た気がするな」
そう呟いて、まだ朝日が昇っていない程の早朝ではあるが、俺はベットから体を起こす。
今日も今日とて、俺は早朝の新聞配達のアルバイトに向かうために早起きをする必要があるのだ。
それにしても懐かしい夢だった。そう言えば中学校を卒業してから、絢瀬先輩はあの音ノ木坂学院に入学したって聞いてるけど、今頃元気でやってるんだろうか?
――いや、そんな心配はいらないか。
きっと俺の尊敬する先輩は、高校生になっても変わらずにいてくれるだろう。
確固とした自分を持ち、他者からどう思われようとも気にもせず。
日本人離れした、金髪碧眼の容姿に魅せられた人達をすげなく
どこまでもクールで、文武両道で、何でも自分1人で出来てしまうぐらいに多才で。
甘えを、妥協を、他力本願を、それら一切を認めない鋭く尖った生き方を貫いて。
まるで彼女の今までの人生に、“挫折”なんて二文字はきっと存在しなかったのだろうと思える程に、その
……そんな、俺にはない強さを持った、最高にカッコいい先輩で居続けてくれる。
「うん、絢瀬先輩なら大丈夫だ。あ~要らない心配しちゃったな……さて、今日も一日頑張りますか!」
俺はそう思ってベットから飛びだし、急いでバイトに行く準備を始める。
それに……今日は特別な日だ。
なぜなら、つい一週間前に生徒会役員選挙が滞りなく終わって新生徒会役員のメンバーも決定し、そして今日――朝の学校の朝会で、新生徒会引継ぎ式が行われるのだから。
■ ■ ■ ■ ■
その後、俺は家を早く出ていつも通りに新聞配達のバイトを終え、穂乃果達といつも通り一緒に学校に登校した。
そして現在、俺は新生徒会引継ぎ式にて、前生徒会代表としてスピーチをするために校長先生が話をしている体育館の外で、穂乃果達三人と共に出番まで待機しているのだった。
「おお……うちの中学って生徒数少ないってよく言うけど、それでもこうして全校生徒が体育館に揃うとそれなりの人数になるなぁ……なんかドキドキしてきた」
俺は中で全校生徒が校長先生の長い話を聞いてるのを見ながら、そう言って隣に立っている穂乃果にそう話かけた。
「もしかして緊張してるの? 正ちゃんは大丈夫だよ~だって、いつもこういう時はみんなの前で堂々と話せてるし」
そう言って、お気楽そうな笑顔で俺にそう言う穂乃果を見て、俺はため息交じりに言い返す。
「……はぁ、なんて言えば良いのか……一度舞台の上に立っちゃえば大丈夫なんだけどさ、その舞台に立つ前が緊張するっていう感じで……」
「何を言ってるのですか、今からそんな弱音を吐いていてダメですよ正也。
前生徒会代表として、正也がしっかりと堂々としたところを見せなければ、後に続く後輩に示しがつきませんから」
そんな俺に、海未が呆れた様子で言う。
海未の言葉が正論なのは分かってはいるが、でも緊張するものはするのだから仕方ない。
「そう言うんだったら、生徒会の代表としてだったら誰でもいいらしいし、俺の代わりに海未が喋ってくれよ。俺はぶっちゃけこの胸の動悸を抑えられる気がしないんだよ……」
「え……そんな…………わ、私は無理です! それに、正也が生徒会長なんですから、これは正也が頑張るべきことだと思います!」
俺がそう言うと、自分が舞台の上に立って話しているところを想像したのか、海未は顔を青くして俺にスピーチの役目を全力で押し付けに来た。
まるで手のひらを返したような反応だな……全く、海未は本当に恥ずかしがりなんだから。
海未は、生徒会の書記の仕事と剣道部の部長を兼任できるというハイスペックさと、真面目でハッキリとした性格を併せ持っていて、同性である後輩の女の子に“お姉さま”と呼ばれて慕われる程のカッコよさがあるらしい。
でも海未が、こうやって人前で恥ずかしがる所を知っている俺からすれば、他の生徒にどれだけカッコいいと呼ばれていても、海未は可愛い女の子だと俺は思うのだった。
「ほ~ら、恥ずかしいだろ? 俺もそんな感じ……それに、海未は話さなくても良いとしても、俺と一緒に壇上に上がるんだぞ? そっちこそ大丈夫か?」
「そ、それを思い出させないで下さい! ああ……意識したら急に頭が……」
海未はそう言うと、頭を抱えてその場にうずくまってしまった。
おいおい海未、いくら恥ずかしいって言っても、喋らないのにそこまで緊張するなんてどんだけ恥ずかしがりなんだよ。
もしかしたら俺以上に緊張してるんじゃないのか? そんなのでよく俺の事を注意できたな……まぁ、俺も緊張してるんだから海未のことは言えないんだけど。
「海未ちゃん……大丈夫だよ! そういう時は、みんなを野菜だって思えばいいってお母さんが言ってたよ!」
そう言って、穂乃果が緊張する海未の事を勇気付けにかかる。
野菜って……妙にシュールな発想だなぁ、
そう思いながらも、俺は何となく穂乃果の言うようなリラックス方法を試してみた。
まず目を閉じて、舞台に上がった自分をイメージし、そして俺の目の前に広がる生徒のみんなが、全て野菜であるかのように思い込む――
目の前に広がる、トマト、キャベツ、カボチャ、白菜、ニンジンの山。
そして、その空間を前にしてポツンと1人佇む“人間”の俺。
俺はあまりの心細さに、後ろに居るであろう穂乃果達の姿を探して振り返る。
――しかしそこには、物言わぬ大根が三本だけコロンと転がっていた。
「私に……1人で舞台に立てと!?」
どうやら同じ想像をしたらしい海未の声で、俺は恐ろしい世界から現実に引き戻された。
「え、ええ……そこなの?」
「海未ちゃん……大丈夫?」
穂乃果が予想外と言ったような表情でそう言ったのに続き、ことりが海未を心配する声をかける。
「大丈夫ではないかもしれません……」
ことりの声に覇気も無くそう反応する海未。
うーん……ここまで俺以上に緊張されたら、逆に俺が冷静になって来たな。
やれやれ仕方ないか、全く……手のかかる俺の
そう思いながら俺は口を開く。
「そんなに恥ずかしいなら海未、前で話してる俺の後ろに立ってろよ。そうしてくれたら、何とか俺が海未のことを、みんなから見えないように隠してやるからさ。
海未がどうしても無理な事があったら、俺が助けてやる。
逆に、俺に無理な事があったら、海未が俺の事を助けてくれる。
そうやって、お互い出来ない事を助けあって乗り越えて、そして、自分に出来ない事が出来る相手の姿を見て、その姿に互いに闘争心を燃やしてまた努力する。
そんな俺達二人は“無敵”だって――小学生の時に誓い合っただろ?」
俺は海未に軽い笑顔で微笑みかけながら、過去に二人でした誓いを口にする。
その誓いは、俺達がまだ弱かった小学生の頃、弱い自分から脱却するために、互いに変わろうと努力を始めた時に2人で立てた誓い。
その誓いがあったから、俺は今日まで努力出来ていた――だから今度は、俺が海未を勇気付ける番だ……というその一心で、俺は言葉を紡いだのだった。
「……本当に、正也はズルいですね。そう言われてしまったら、私はここでうずくまっている訳にはいかないじゃないですか」
そう言って海未は立ち上がりながら、俺を強い眼差しでしっかりと見据えてきた。
その様子からは、さっきまでの弱々しさはまるで感じられない。
「そうでしたね……私は決めたのでした。あなたの隣に
「オッケー、それでこそ俺のライバルだ」
続けて自分に言い聞かせるようにそう宣言する海未に、俺は威勢よくそう言い返しながらも、内心少し困ってしまう。
隣に在り続けられるように頑張らなきゃいけないなんて、俺はそこまで俺は大層な存在じゃない。
……ただ俺は、人よりほんの少しだけ前向きで、そして親友が大切なだけの
だからむしろ俺の方が、海未の隣に在り続けられるような存在になるために毎日必死なぐらいなのにな……でも良かった。そんな俺でも、海未を上手く勇気付ける事が出来て。
と、俺が内心安堵した時に、穂乃果が俺と海未の会話に口を挟む。
「やっぱり、私達の中で海未ちゃんを焚きつけるのは正ちゃんが一番上手いね。ちょっとだけ穂乃果は嫉妬しちゃうかも……」
「穂乃果、私がさっきみたいな事にいつもなっているみたいな、そんな言い方はやめて下さい」
「いやいや、しょっちゅうさっきみたいな感じに海未はなってると思うぞ」
「うんっ。海未ちゃんはよく、恥ずかしい~っていう感じになってると思うなぁ……」
「……もう! 正也とことりまでそう言うんですか!?」
海未は俺達の追及に、怒ったようにそう言う。
……うん。そんな大きな声を出せるぐらいに元気が出たんなら、もう海未は大丈夫だろう。
するとその瞬間、体育館の中からずっと聞こえていた校長先生の声が途切れたのに俺は気が付いた。
さて、そろそろ俺達が壇上に呼ばれる頃だな……と思い、俺は少し自分に気合を入れる。
海未にあれだけ言っておいて、俺がダメなんて事――あっちゃいけないよな。
「よっし! 今から盛大にカッコつけに行きますか!」
「おおっ、正ちゃんが急にやる気満々だ!」
「ああ、もう緊張してもどうしようも無いしな! それに……生徒会長が替わる事に、みんなはそこまで関心持ってないだろうし、緊張するだけ無駄かなって思ってきた」
俺は穂乃果にそう言って、心にわずかに残ったプレッシャーを払いにかかる。
そうだ、よく考えたら、俺が生徒全員の事を一方的に覚えているだけで、向こうが生徒会長の存在を意識しながら学校生活送ってるなんて事、あるはずがない。
だから緊張する必要もないだろう。そもそも、注目もあんまりされないだろうしな。
『校長先生、お話ありがとうございました。
では続きまして、新生徒会引継ぎ式を行います。まずは前生徒会の代表として、生徒会長だった織部正也さんに話して頂きます――どうぞ』
さて、ついに出番か……
俺はそのアナウンスを聞き、体育館の中の壇上に上がるために歩き始める。
「――正ちゃん、関心ないなんてそんなこと無いと思うよ。きっと、みんな正ちゃんの事大好きだもんっ」
すると、前に歩き出す俺の背中に、ことりからそんな声がかけられた。
「……え? ことり、それどういう意味?」
「正也、呼ばれてますから早く前に出て下さい」
「そうそう、早く早く~!」
「ちょっ……押すなって!」
俺は、ことりの言葉の真意を問いただすことが出来ないまま、穂乃果と海未に急かされて前に進む。
そして気が付いたら俺は、あっという間に壇上の上へとあがっていて、マイクを舞台進行の人から受け取っていた。
するとその瞬間、体育館内の生徒の目が一斉に俺に注がれるのを感じた。
な、何だこれ……校長先生の話を聞いてる時よりもみんな集中してないか? なにが起こってるんだよ……。
俺は目の前に広がる光景が想像とは違ったものだったので、思わず動揺してしまう。
緊張で心臓が激しくビートを刻み始め、プレッシャーで息が詰まりそうに苦しくなる。
ヤバい、このままだったら、何も俺喋れない……!
そう思った俺は、いつも通り一回目を閉じて深呼吸し、そして自分に言い聞かせる。
――落ち着け、意識を切り替えろ。
そして――いつもの“あの感じ”を思い出せ。
自分が思う『カッコいい男』を思いっきり表現する――あの爽快感をっ!
「――皆さんおはようございます! 前生徒会代表、生徒会長の織部正也です!」
俺は、マイク越しにみんなに向かって元気よく名乗りを上げる。
よっし……いつものスイッチ入った!
自分の思考がクリーンになっていくのを感じる。
緊張も、悩みも、迷いも、プレッシャーも、全てがこの瞬間だけは自分の頭の中から排除されていく。
――これは、俺の“特技”に近い何かだ。
目を閉じて意識を自分のなりたい存在――カッコいい男の理想図に集中し、そのイメージの自分になりきる。
すると、自分でも驚くほど素直に、スラスラと大勢の人の前で自分の思った事を喋れてしまうのだ。
生徒会長の仕事としてみんなの前で話す機会が多かったり、『
つまり、これは特技というよりは、一種の自己流の緊張克服術で、俺的には全くと言っていいほど自慢できるもんじゃないんだけど、それでも特技と言えば特技に近いものがあるだろう。
だから、そんな俺はこういう人が集まっている場で話す時――
「先代の生徒会長……俺にとって、本当に尊敬する先輩だった
それから今日までの一年間、俺は先輩に顔向けできるように一生懸命やってきました。
でも、時には仲間に迷惑をいっぱいかけて、そして、先生方にも沢山お世話になって……結局、あんな風になりたいとこの胸を焦がすほどに憧れた、先輩のみたいなカッコいい生徒会長にはなれなかったけど……。
でも、俺が頑張ってきた今日までの思いと、そして先輩の意思をまた未来に紡ぐ事が出来る“今日”を迎えられたのは、俺の仲間と先生方と……そして、この学校にいる人達全員の助けがあったからだと俺は思っています。
だからこの場を借りて、今この体育館の中に居る人達全員に言わせてください。
ありがとうございました! 本当に、感謝してます!」
――こういう風に、とってもカッコつけたセリフの言い回しになってしまうのだった。
でも、カッコつけてるとはいえ、語った言葉は本心だ。
体育祭は生徒全員の協力が無いと盛り上がらないし、文化祭は準備で沢山の生徒に手伝ってもらって初めて成立する行事だ。
だから俺は、今俺の後ろに居る穂乃果達のみならず、この学校に居る人達全員に助けられて、どうにかこうにかやってこれたんだって……この一年で、心からそう思ったんだ。
「俺は今日で、生徒会長の職を降ります。
だから、みんなの力を借りまくって――カッコつかない生徒会長だったけど、でも、そんな俺でも、最後に覚えていてくれたら嬉しいです!
以上で俺からの話は終わります。長い話でしたが、聞いてくれてありがとうございました」
最後にそう言って締めくくり、俺はみんなに向かって一礼する。
それと同時に、さっきまでのある種の興奮状態がスッと消えていくのを感じた。
原因はわかる――きっと、この胸を満たす達成感の所為だ。
と、俺がそんな余韻に浸っていた時だった。
「「「「「「会長! 今日までありがとうございましたーーーー!!!」」」」」
そんな、沢山の人の声が聞こえて、俺は頭を上げる。
すると――
「サッカーの試合の助っ人に来てくれてサンキュー! お前、きっと練習すればいい選手
になれるぜーー!!」
「私のバンドのギターの子の代わりに、ギター弾いてくれてありがとーー! 会長! ギター弾けるんだったら言ってよ~! また良かったら一緒にバンド組もうーー!」
「正也くーん! みんなに配る予定だったプリントの整理よく手伝ってくれてありがとうー! 君のおかげで新人教師の私でも、何とかやれるって思えるようになったよーー!!」
俺によくサッカー部の助っ人を頼んできたキャプテンが。
学外でバンド組んでた委員長が。
俺が勝手に仕事を手伝っていた新人の先生が。
その他にも沢山の、今まで俺が手伝って助けてきた人が口々に俺に『ありがとう』と言っていた。
「わ、私の無茶なお願い……聞いてくれてありがとうございました! 織部先輩!」
「会長~~!! 私がどんな記事の内容書いても、なんだかんだ言って最後には許してくれる所、私は大好きですよーー!!」
「正也ーーー! お前が生徒会長やってたこの学校、賑やかで楽しかったぜーー!」
その中には
俺は後ろを振り返る。
すると、驚いている穂乃果と海未の真ん中で、ことりが『ほら、当たってるでしょ?』という笑顔で微笑む。
なんだよ……知ってたんなら教えてくれよことり。
俺はもう一度前を向き、まだ鳴りやまない拍手と感謝のコールを聞きながら、一年前の絢瀬先輩の言葉を思い出していた。
――そんなに自分を過小評価しないで正也君。そんな君だから、出来る事がきっとあるって私は思ってるの。
絢瀬先輩……あの時の言葉はこう言う意味だったんですね。
俺……あなたの思ってたような生徒会長になれましたか?
「本当に……みんなありがとう! じゃあ、いまから俺のする事が生徒会長としての本当の最後の仕事です! それは、生徒会長の仕事を引き継ぐバトンを手渡す事……!
だから、前に来てこのマイクを受け取って下さい――」
俺はそう言って、俺の仕事を引き継いでくれた後輩の名前を宣言する。
“そいつ”は二年生の生徒の列の中で、らしくもなくガチガチに緊張していた。
ああ……懐かしいなぁ、一年前の俺を見てるみたいだ。
そんな思いを抱きながら、俺は口を開く。
「音ノ木坂中学の新生徒会長――
凛は名前を呼ばれると、緊張がピークに達したのかピシッと固まった、それを両隣にいる花陽ちゃんと彩に肩を揺さぶられて戻り、ようやく前に歩き始めた。
――本当に、引き受けてくれてありがとう凛。
俺はそう思いながら、一週間前の月曜日に凛と話した内容を思い出す。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『――よっ、凛。足捻挫したって新聞で見たから心配で来てみたぞ、大丈夫か?』
『あっ、正也先輩! 大丈夫大丈夫、このぐらい全然平気にゃー。
一週間あったら普通に治るってお医者さんが言ってたから、それまでの我慢だって』
その日、足首の捻挫で陸上部の練習を見学していた凛を見つけた俺は、凛にそう言って話しかけると、凛はいつものような明るさで俺にそう返してきた。
怪我で落ち込んでたらどうしようって思っていた俺だったが、その反応をみて安堵する。
『そうか……なら良かった』
『そんな事言って、正也先輩は凛にラーメン奢る事にならなくて良かったって思ってるんじゃないの~?』
『そんな事ないっての、本気で心配したわ!』
俺はそう言ってムキになって言い返すと、凛は照れたようにして笑った。
『そう……なの? な、なんか照れるにゃ……』
『そうそう……なんだかんだ言って俺、後輩の中では凛と一番仲良いって思ってるからな! 当然だろ当然!』
『……か…じょがいるのに……凛にそこまで言うのはダメだと思う……』
『え? ゴメン、ちょっと最初の部分聞き取れなかったから、もう一回いい?』
『しーらない! 凛は何も言ってないにゃ!』
俺がそう言って尋ねると、怒ったようにそっぽを向いてしまった凛。
そんな凛の態度に疑問を覚えつつも、俺は本題の話を切り出した。
『まぁ、それはともかくとして……話があるんだ、凛』
『正也先輩……? どうしたの?』
『単刀直入に言うな、凛……次の生徒会長になってくれ。
陸上部と掛け持ちでやってもらう事になって、本当に無茶な事を言ってるのはわかってるし、無理強いをするつもりも無い。
でも俺は、お前にならこの生徒会を――いや、この学校を任せられる気がするんだ』
『え……ええ……! 無理無理無理……! 凛には無理だよ……凛は、正也先輩みたいなカッコいい生徒会長になれっこないもん……』
そう言って、俺の話に拒否の姿勢を示した凛。
――か、カッコいいって……なんかそんな事急に言われると照れるな……。
でも、その言葉が決定的な拒否の言葉ではないのを感じとり、俺はさらに押した。
そのセリフは、不思議と俺が一年前に貰った言葉と同じようなセリフになってしまう。
ああ……去年の絢瀬先輩は、きっとこんな気持ちで俺に頼んでいたのかもな。
『それは違うぞ凛――俺みたいな生徒会長になれって言ってる訳じゃない。
友達が多くて、元気溌剌で明るくて、何時だってポジティブな……そんなお前だからこそ、出来る事がきっとあるって俺は信じてるんだ。
だから……凛。俺は、お前なりの生徒会長になって欲しいって思ってお願いしてるんだ……それでも、ダメか?』
俺の言葉に、凛は悩んだような表情で俯いた。
でも……その後、迷いが少し残ったような……でも、志は強く秘めた表情で俺の事を見て凛は言った。
『わ……分かったよ。正也先輩がそう言うなら、凛……生徒会長やってみる!』
――これが、凛が生徒会長に立候補した理由。
そしてそれから一週間後、凛は見事一人しかいない生徒会長選挙の信任投票で、支持率98パーセントの高数字を叩き出したのだった。
■ ■ ■ ■ ■
「あーーー! つっかれたにゃ~!!」
新生徒会引継ぎ式が無事終わり、穂乃果達と新生徒会メンバーを引き連れた俺は、一旦生徒会室に戻った。
すると開口一番に、凛がプレッシャーから解放されたかのようにそう言うのだった。
「凛……お疲れさま、緊張してる中であれだけいい感じに喋れたなら、きっと俺より才能あるんじゃないか?」
「そうだよ凛ちゃん、上手く話せてたよ~! 穂乃果、凛ちゃんにならこの学校を任せられるって思ったもん! きっと生徒会長の才能あるよ凛ちゃん!」
「正也先輩……穂乃果先輩……それは言い過ぎだにゃ……」
凛は、顔を赤くして俯いてしまった。
きっと、頭真っ白で喋った内容なんてろくに覚えてないんだろうなぁ……分かるその気持ち、俺も最初はそんな感じだった。
『正直、自信なんてないけど……凛は頑張ります! 精一杯頑張ります!』
――でもそんな凛の、時々つまりながらにでも、紡いだ言葉、語った言葉には、嘘偽りはないのだと思えるぐらい、しっかりとしたものだった。
「凛ちゃん、大丈夫だよ……私は、凛ちゃんの話聞いてて安心したもん」
「か~よち~ん……ありがとにゃ~!」
凛はそう言うと、傍にいた花陽ちゃんに抱き着いた。
――と、ここで何故花陽ちゃんが居るのかの説明をしないといけないな。
なにを隠そう、ここにいる花陽ちゃんはなんと、凛の為に生徒会の副会長に立候補してくれたのだ。
流石幼馴染、その絆は固いな……俺と穂乃果達みたいな感じに近いものを感じる。
「さて、ここで会長……いえ、正也先輩。私に何か一言ありませんか?」
そう思った時、俺の隣に立っていた彩から、そんな声が投げかけられた。
あれ? なんでここにいるんだろうコイツ……? おっかしいなぁ、今は生徒会の関係者以外ここには居ないはずなんだけどなぁ……?
「――お、彩か? 凄いな……いくら取材熱心とは言え、新生徒会引継ぎ式が終わった直後でインタビューとか仕事が早いな。
でも生徒会の関係者以外は、今は休み時間だから、とっとと生徒会室から出て行ってくれよ、あとで凛がインタビュー受けてくれると思うからさ」
「……正也先輩、現実を受け入れるのは辛いとは思いますが、受け入れましょう。
この、生徒会書記“兼”会計の、
「クソ最悪だぁぁーー!!! 極悪パパラッチがついに権力を手にしたぞーー!!」
俺はこの世の終わりが来たかのような気分になる。
そう、なんと……ここに居る物好きの新聞記者は、友情の為とか何とかぬかして、どうしても集まらない生徒会の残り二つの席を、両方とも兼任してしまったのだった。
「御手洗さん……大丈夫ですか? 両方とも兼任してしまって、新聞部もやめないのですよね?」
「海未先輩……ご心配なく! 新聞部仕込みの素早い筆記スピード! そして、秋葉原の隠れた名店、『
「わぁ……彩ちゃんすごいねぇ……」
ことりはそう言って、驚いたような表情で見つめる。
全く、ことりの言う通り無駄にハイスペックだよな
その情熱をもっと新聞書く事以外の他の事に回せば、もっとすごい奴になれると思うのに……。
「まぁ、でも……予想してた事とはいえ、他に誰も立候補が居なかったから、正直すっごくありがたい事にはありがたいんだけどな。
ありがとう……彩、大変だと思うけど、二人の力になってやってくれ」
でも、もしかしたら凛と花陽ちゃんの二人より仕事が多くなると思うのに、迷わず職を兼任してくれた彩に恩義を感じたので、俺はそう言った。
――すると、さっきまで和やかだった生徒会室内の空気が、一瞬でフリーズする。
「し、ししししし正也先輩が、私にお礼を言った……!!??」
「こ、これはきっと明日雪が降るにゃ……」
「織部先輩……!?」
「正ちゃん……!? 大丈夫? 熱でもあるの!?」
「正也……何か悩みがあるなら、相談してくださいと私は言ったじゃ無いですか……!」
「正ちゃん……大丈夫? 大丈夫じゃ無かったら、ことりが保健室に連れて行ってあげるよ?」
「なんだんだよみんなぁ!? 俺が彩に礼を言っただけでなんでそこまでになるんだよぉ!?」
俺は、口々にそんな事を言うみんなに対して、盛大にツッコむ。
おいおい、俺そこまで彩に対して辛辣だったか? あっ……辛辣だったわ。
これは流石に俺も反省が必要かもな……。
――と、そんな風に俺が納得した時、生徒会室の扉が急に勢いよくバァンと開き、武司が中に入ってきた。
「――っ!? びっくりするじゃ無いですか! 武司、以前から私はここに入る時ノックしてから入ってくださいと言ってましたよね!?」
「ああ……すまん忘れてた、そんな事より俺は正也に用事があるんだ」
驚いた海未に、そう言って注意を受けるも、武司はそんなのどこ吹く風というように聞き流し、そして俺に向かって口を開く。
「おい、正也。急で悪いが担任の先生がお前の事を呼んでるぜ、そこの“猫娘”への生徒会の業務引き継ぎ説明は、穂乃果たちに任せてお前はこっちに来いってよ、だから行くぜ」
「先生が……はいはい、仕方ないな。ごめん穂乃果、任せていいか?」
いきなりそんな事を言う武司に、俺は『やっぱりか』と思いながら穂乃果に後の事を任せる。
「うん……良いけど、先生に呼ばれるなんて正ちゃんどうしたの?」
「いやいや、対した事無いって大丈夫! ちょっと話があるだけだから。
じゃあ、凛、花陽ちゃん、彩……三人とも、これから生徒会よろしくな、また分かんない事があったらいつでも俺を頼ってくれよ!」
「わかったよ正也先輩、だから凛たちの事はいいから、早く行って欲しいにゃ」
「ありがとう凛! じゃあ、俺はこれで……行ってくる!」
俺は凛の言葉を聞いて、心置きなく生徒会室を武司とともに後にしたのだった。
■ ■ ■ ■ ■
「――なぁ、武司……先生から何の用で俺が呼ばれたか聞いてるか?
廊下を二人で歩きながら、俺は武司にそう訪ねた。
「――いや別に? だいたい、俺はいっつもあの先生に呼び出し食らってばかりだからな、いちいち呼ばれる理由を聞く習慣が無かったんだよ……内容が気になったんだったら、悪い事したと思ってるけどよ」
「そうか……なら良いんだ」
そう武司に言って、俺は再び前を見て歩き続ける。
……よかった。俺が呼ばれた理由を知られてないみたいで。
そう思い俺は、実はさっきからずっと武司に対して張っていた警戒を、ようやく解いたのだった。
そんな俺に対して、武司がなんとはなしに口を開いた。
「なぁ……正也、ところであの“猫娘”の事だけどよ……俺、やっとお前がアイツをやたら生徒会長にって推してた理由……分かったぜ」
「“猫娘”じゃ無くて、ちゃんと凛って言えよ……まあいいけどさ、で、そうなのか?
じゃあその理由、当ててみろよ?」
ニヤッと笑ってそう言う武司に、同じような笑顔で笑って返す俺。
そんな俺を見て、武司はそのままの笑顔でこう続けた−−−−
「それは…………ぶっちゃけ、愛だろ?」
「――何故そこで愛ッ!?」
そんなトンチンカンなふざけた解答に、俺は全力でそう武司にツッコミを入れる。
「悪い悪い、冗談だって……。
でも、お前あの“猫娘”の事は気に入ってるよな?
……気持ちは分かるぜ? だってアイツ、お前の昔の姿にそっくりだもんな。
前の生徒会長の背中を追い続けてたお前は、同じように自分の背中を追っかけてくれるアイツが他人とは思えなくて、そして、後を継いでもらうならあの“猫娘”に……って思ったんだろ?」
「……それだけ、って訳じゃ当然ないぞ? 他にも凛には良い所はいっぱいあるんだ……だから俺は……」
「否定しないって事は、八割当たりってことだな、よっし! 俺の勝ちだ!」
「くっそ……! そんなに俺分かりやすいか?」
「ははは! お前が分かりやすいんじゃなくて、幼馴染の俺だからこそ分かるってだけだっての。
実際、お前は隠し事が結構上手い方だからな……本気でお前が隠した隠し事は、きっと俺だけじゃなくて、穂乃果達だって気づかないだろうよ−−−−」
「本気で隠さないとバレるってなんだよ……幼馴染って、俺の想像以上に凄い存在なんだな」
俺は武司に自分の内心を見透かされて、悔しい思いで歯噛みする。
流石、俺の幼馴染だ……あれ? 武司にバレたってことは、もしかしたらきっと穂乃果達も気づいてるなこれは……あれ? な、なんか恥ずかしいぞこれ!?
全く、幼馴染とは恐ろしいな……もっと今後も気をつけないと。
「っと、そんな話をしてるうちに職員室前だな……じゃあな正也、俺は先に教室に戻ってるわ、なんの話かは知らないが、精々先生に絞られてくるんだなー!」
――と、二人でそんな他愛もない話をしているうちに、職員室に着いたのに気付いた武司は、そう言って
「お、おう……送ってくれてサンキューな、武司!」
俺は去って行く武司に、少し戸惑いながらそう言った。
あれ? なんだよ武司……職員室に用事あったんじゃないのかよ?
わざわざ俺の為に遠回りしてくれるとかどんだけ良い奴なんだ、そんなんで良くこの学校の“番長”やってられるな……。
俺は去って行く武司の背中を見ながら、そんな事を思ったのだった。
「さて……行きますか……」
俺は、職員室の中に入る前にそう呟いて自分に気合を入れる。
生徒会のあれこれも終わったし……さて、俺が今まで先送りにしてきた問題だけど、そろそろ向き合う時が来たのかもな。
先生が俺を呼んだ理由に目星はついていた。
俺は、この前配られた進路希望調査のプリントに、こう記入したのだから――
3年 1組 織部 正也
中学卒業後の進路 ―― 就職
―――主人公は、中学三年生です。
はい、ここまで読んで頂いて、誠にありがとうございました!
今回の話で、ようやく前振りが終了しました……
次回からこの章のクライマックスに向けて突き進んでいくつもりです。
では、この度評価を付けて頂いた方に感謝の意を述べさせて頂きます。
シベリア香川さん
本当に、ありがとうございました!
この他にも感想を書いて頂いた方や、お気に入り登録して下さった方にも心からの感謝を……
では、誤字脱字や感想などがございましたら、是非お気軽に感想にお願いします!
―――最後に、少し連絡します。
私のマイページの活動報告欄に、ちょくちょくこの作品のテンポの都合上書ききれなかったショートストーリーを台本形式で公開してますので、宜しければそれも合わせて是非どうぞです!