一月は“行く”
二月は“逃げる”
三月は“去る”
昔そんな言葉遊びを聞いた事があったが、実際にそれを実感した事は今まで無かった。
しかし今日、俺はついにこの日を迎えて、初めてそれを実感していた。
「じゃあ父さん、俺はみんなが待ってるから先行くな」
「ああ、さっさと行け
「勿論! カッコよく壇上で決めてくるよ、しっかり見ててくれよな父さん!」
時期は三月の中旬。俺はついにこの日、中学生活の最期の日を迎えた。
家の玄関で自信満々にそう宣言する俺を見て、父さんはしみじみと言う。
「それにしても……案外我が子の成長ってのは早いもんだな。お前がランドセル背負ってビービー泣いてた頃がつい三ヶ月前のように思えるぜ」
「父さん、それ俺の黒歴史なんだからあんまり蒸し返さないでくれ、今はもう違う! そんな弱い頃の自分はとっくの昔に捨てたんだよ俺はっ!」
俺はそう強気に言いながらビシッと父さんを指差す。
でも、そんな俺の視線を真っ直ぐ受け止めながら父さんは、急に覇気をなくしたような声で言った。
「いや……本当に早すぎるぜ。お前は何時までも俺が守ってやらないとと思ってたけど、いつの間にか、逆に俺が迷惑をかけちまうことになるなんてな……本当に、すまなかった正也」
すると父さんは、普段は滅多に見せないような真面目な顔をして俺に頭を下げた。
それが借金の話をしている事を察した俺は、慌てながら言葉を返す。
「い、いいよ、謝らなくても! 借金は父さんが悪いんじゃないんだし、それに……父さんの為になる事を自分勝手に考えて、高校行かないって決めて行動してた俺も悪いんだし――」
そう、本当にあの日はどっちもどっちだった。
俺と父さんはお互いにお互いの為になる事を考えながら、その実、全くお互いの気持ちを考えていなかったのだから。……本当に、全くもって救いようのない話だ。
一歩間違えれば、あの日で俺と父さんの関係に、深い溝が出来てしまってもおかしくは無かった。
でも今、こうして父さんと普通に話せている。その事実だけでも、俺にとってはとっても嬉しい事だった。
だからこそあの日、家族会議という名を借りた俺と父さんの親子喧嘩を仲裁して、そして意固地になってしまっていた俺の気持ちを、優しく包んで素直にさせてくれた
だからいつか俺は、日与子さんにこの恩を返したい。
今はどうやって返せばいいのか分からないけど、とりあえず何か日与子さんが困った時には必ず力になろうと俺は決めているのだった。
俺はそんな想いを胸にしながら口を開く。
「――それに、そのお陰って言ったら変かもしれないけど……穂乃果や海未やことりと、また一緒の高校に行けるって思ったら、結局は結果オーライだったって思えるしさ。だから、気にしないでくれよ父さん」
「……そうか、ありがとう……本当にお前は、母さんに似て優しいな、正也」
そう言うと父さんは、やっと何か憑き物が落ちたような顔をして笑った。
……もしかしたら、父さんは今までずっと俺に罪悪感を持っていたのかもしれない。
俺なんて、ついさっきまで父さんに対して罪悪感なんてまるで持っていなかったのにだ。
なんだよ……俺なんかよりも、ずっと父さんの方が優しいじゃないか。
「ふぅ……じゃあ話はこれでやめだ。折角の正也のめでたい日なんだ、明るい話題しないとな――そうだ、高校と言えば、穂乃果ちゃんなんとか入試で合格点取ったらしいじゃねぇか! 頑張った教えてた甲斐あったじゃないか正也! 良かったな!」
俺がそんな事を考えていると父さんは、ようやくいつもの明るいノリを取り戻しながらそう言った。
やっぱり、さっきまでも真面目で優しい父さんも良いけど、こうして明るい父さんの方が俺は好きだ。そんな事を考えながら俺は口を開く。
「うん、でも一緒に自己採点してたんだけど、穂乃果のやつ合格点あるって分かった瞬間『奇跡だー! 正ちゃんありがとー!』って言って急に俺に抱き付いてきたから、軽く首痛めちゃったんだよな……まぁ、受かって嬉しいのは同じなんだから良いけど」
俺はそう言いながら、まだ軽く痛む首を抑えた。
それにしても、本当に穂乃果に勉強を教えるのは苦労させられた。
国語力は壊滅的、数学は小学校の九九が怪しいレベルという、なかなかに絶望的な状況から、答えが複数個存在する曖昧な国語は捨て……というか国語系得意な海未に教えるのを丸投げした。
そして、なんとか基礎を固めれば点数は確実にとれる数学を中心的にやったのが功を奏し、音ノ木坂学院の合格点をもぎ取ったのだ。
小学校の頃の算数の教科書と、九九暗記カードを引っ張り出してまで頑張って教えた甲斐があったよ本当……。
「おいおいクール気取りやがって、でも本当によかったな正也。これで正真正銘、一緒の高校に行けるじゃねぇか。……そう言えば、もうその事は穂乃果ちゃん達には言ったのか?」
「いや、言えてない。というか日与子さんが言うには、もうすぐ正式に共学化の話を公表するつもりだから言っても良いらしいんだけど……でも、手続きが遅れたとか何とかで理事会でまだ入学許可が通ってないらしいから、その件で連絡がくるまで待ってるつもり」
俺はそう言ってポケットから携帯を取りだす。
日与子さんは入学許可が通ったら電話をしてくれるらしい、だから俺はそれを待っているのだった。
黙ってるのは悪い気がするけど、でも折角なら正式に決まってからみんなにこの話をしたいと、そう思ったからだった。
「そうか、そいつは随分慎重だな。俺の息子らしくない、男だったらさっさと言って喜ばせてやりゃ良い物を……」
うるさい、流石に大胆さで父さんに比べられてたまるかっての。
そう思って俺は、前に日与子さんから世間話ついでに聞いた父さんの昔話を言ってやる。
「いいの、万が一って時もあるしぬか喜びさせたくないし。
それに俺は父さんみたいに、中学生でギター一本担いでアメリカ大陸横断の旅に出れるような、そんな行き当たりばったりの破天荒な性格してないから」
すると父さんは、明らかにうろたえた様子で頭を抱えた。
「ちょ、日与子だな! お前にそんな俺の昔の話をしたのは! “破天荒”じゃなくて、せめて“型破り”って言え! あの頃の俺は色々怖い物知らずだったんだよ!」
「はいはい、型破り型破り~」
「くそ……ついに息子にまで馬鹿にされ始めた。このままじゃ俺の父親としての威厳が……いや、もともと無かったか。はぁ、切ねぇなぁ……」
ため息をつく父さんに、俺は「でも、そういう所が一番父さんらしくてカッコいいよ」と言おうかと思ったが、でもやめた。
俺がそんな父さんを大好きだって事ぐらい、言わなくても父さんにはきっと伝わってるだろうから。
「じゃあ、みんなを待たせちゃってるし、俺そろそろ行くよ父さん、また学校で」
「あ、そうだ……思い出した! どうしても渡しときたいものがあったんだった。ちょっと待ってろ正也」
すると突然そう言って父さんは、学校に行こうとする俺を制止して家の物置の方にに引っ込んでしまった。
「えー! 急に何だよ父さん、もうそんなに時間ないんだけどー!」
そんな父さんに声をかけると、物置の方からなにやら黒いケースを背負った父さんが戻って来た。そして――
「ほら正也、俺からの一足早い卒業祝いだ」
「――えっ!? と、父さん……これって……!」
父さんから手渡された黒いケースを手に取り、中を確認して俺は驚愕した。
なぜならそれは俺にとって、記憶の奥の方に眠っていた大切な思い出を象徴するような物だったから。
「そうだ正也、お前にも昔弾いて見せた事があっただろ? 昔ギタリスト目指してた頃に買った、大切な俺の相棒だ。――お前にやるよ」
俺は再度手に持ったものを見つめる。
黒を基調としたシックなカラーリングに、丁寧に張り替えられられた銀色に輝く新品の六本弦。
そして、極めつけに特徴的なそのV字型のボディ形状。
紛れもないそれは、小さな頃の俺が憧れた、ギターを弾くカッコいい父さんが愛用していたフライングVタイプのエレキギターだった。
嘘だろ……なんでこれがあるんだ、だって父さんはこれを……!
俺はそんな想いで口を開く。
「これ、どうして俺にっ!? というか父さん、これもう借金のカタに売ったって言ってたんじゃ……」
「いや、売ろうと思ったけど出来なかったんだ。
だから俺の昔馴染の質屋の爺さんに、長期で預かって貰ってたのさ。
いつか買い戻すから絶対に保管しててくれってな、それをつい最近買い戻したんだよ。
正也――お前に、このギターを託すためにな」
「だ、だからどうして俺に!? だって父さん、確かこれ自分の命の次に大切な物だって言ってたじゃん! それをどうして――」
すると父さんは、俺の頭に手を置いてそのままワシワシと撫でながら言った。
「バーカ、大切だからこそなんだ。このギターは俺の魂の分身、弾かなかったら魂が腐っちまうよ。
だからこんな夢に枯れたオッサンなんかが持ってるより、息子のお前が持ってる方がずっといい……だってお前、ギター本格的に始めるつもりなんだろ? 病院で一人でギター弾いてる所見たって、ひかりが言ってたぜ」
父さんの言葉で、前に一人で病院でライブをやった事を思い出す。
そうか、あの時居ないと思ったけど実は母さん居たのか……! 見てたんなら言ってくれたらいいのに……!
……でも本気でギターやってるからって、流石に父さんの大切なギターを奪ってまでやりたいなんて、俺は思ってない。
「で、でも……それでもいいよ、俺には安い初心者用のクラシックギターがあるからそれで……」
「おいおい、元楽器屋の息子なのに楽器に疎いってのは父さん悲しいぞ。
楽器ほど値段に正直なもんはない。だから本気でやるならそれなりのモンが必要なんだよ。だから……受け取れ、正也」
そう言って頭から手を離して俺の目を真剣な顔で見つめる父さん。
真剣な父さんの表情に俺は覚悟を決め、手に持ったギターを肩にかける。
決めた覚悟は、父さんの想いをその身に背負う覚悟。
「……分かった、俺、このギターと一緒に好きな音楽やるよ。
父さんの分まで沢山弾いて、そしてもっともっと今以上にカッコよくギター弾けるようになってやる!」
「おう、それでこそ俺の息子だ! どうせやるなら夢はデカく、音楽アーティスト目指す勢いでやっちまえ! 父さんは応援してるからな!」
そんな調子の良い事を言って父さんは笑った。
もう、相変わらず調子いいんだから父さんは、俺が
でも――もしなれるんだったら、なっても悪くないかもな。
「――よし、引き留めて悪かったな、ほらさっさと卒業式行って来い正也」
「うん! じゃあ父さん、行ってきます!」
父さんに元気にそう言って俺は家のドアを開けた。
なんだろう、このやる気に満ち溢れた気分は……今なら、なんだって出来る気がする!
「――おい正也!」
「……え? なに父さん?」
すると、そんな俺の歩みを父さんが呼び止めた。
一体なんだよ父さん、折角今いい気分だったのに……
そう思っていると、父さんはバツが悪そうな顔で頬を掻きながら言った。
「その……あれだ、俺から渡しといて悪いんだが……今から卒業式だってのに、そのギター担いで行くのはちょっと目立ち過ぎないか?」
「あっ……ゴメン、今から部屋に置いてくるよ」
そう言われてギターを担ぎっぱなしだった事に気付き、俺はそそくさと部屋に置きに戻った。
ああくそう、中学最後の登校だってのにカッコつかないな俺って……!
■ ■ ■ ■ ■
――以上をもちまして、千代田区立音ノ木坂中学校の卒業証書授与式を終了いたします。
――卒業生が退場します、参列者の皆様は盛大な拍手でお送りください。
「ああ……これで卒業したのか……実感ないなぁ、そう思わない
「そうだねぇ正ちゃん……実感ないよねぇ……」
卒業式は色々あった。
人前で喋るのが慣れてきた
そして、それを受けて対抗心に燃えた俺が、用意していたスピーチ原稿用紙を破り捨て、アドリブで壇上で答辞を読み上げるという、向こう三年間はこの中学で語り継がれそうなレベルの大演説をやってみせたのだ。
その後、司会の閉会の宣言の後、みんなから盛大に拍手で体育館から送られて教室に戻った。
そして俺と穂乃果は胸に卒業したことを示す造花をつけ今、二人して全身に感じる虚脱感に身を任せながら、お互い机に突っ伏しているのだった。
卒業式が終わって教室に先生が来るまでのこの時間、クラス内では他の生徒が中学最後の思い出にそれぞれのグループで固まって騒いでいる。
「いつまでそうしているんですか二人共、いい加減起きてしっかりしてください。そうしていても時間が戻る訳でもないんですよ?」
「まぁまぁ海未ちゃん、ことりだって寂しいなぁって気持ち分かるから」
そんなだらけている俺達を注意する海未を、優しくことりが宥める。
ああ、ありがとうことり、その心遣いだけて少し元気出てきたよ……。
俺は力が抜けた上半身に喝をいれ、なんとか身を起こす。
「――いや、頭ではわかってるんだけど、どうしても力が抜けちゃって……それにしても海未は大丈夫なのか? 寂しくないの?」
「当然、私も寂しい気持ちはあります。けど、そうやってだらけてしまう程ではないだけの話で……」
「ぶー、海未ちゃんは相変わらずクールなんだから」
「全く……私のどこがクールなんですか。ほら、正也が起きたんですから穂乃果もしっかり座って下さい」
「やだー! 穂乃果もうこのままずっとこの教室に居るー! 中学校卒業したくないよー!」
穂乃果は机にしがみついてガタガタと揺らした。
おいおい、さっきまで一緒に机に突っ伏してた俺も人の事言えないけど、それは駄々っ子レベルだぞ穂乃果。
「ああもう……! 子供ですか穂乃果は!」
そんな穂乃果を注意する海未。
すると、そんな俺達に突然声がかけられた。
「やっ、会長、穂乃果、海未、ことり! おっ久しぶり~! 相変わらず元気だね、アタシの事、覚えてる?」
栗色のポニーテールを揺らしながら、“その子”は俺達の肩を順番にポンっと叩いて行った。
俺はその子の姿を見て、驚愕で一瞬思考が停止した。
なぜなら、その子は“あの一件”からの今までの間、ついぞ学校で顔を見せる事が無かった子だったからだ。
すると、俺と同じことを思ったのか穂乃果と海未が固まる中、ことりが口を開いて言った。
「か、
「もち! 頑張ってなんとか保健室登校で、無事中学生活を達成しましたー! あ、卒業証書は校長室で貰って来たよ、特別扱いラッキー」
「よ……よかったぁ……おめでとう、果歩ちゃんっ!」
「あわわっ、くっつかないでよことりー。でも、心配してくれてアリガトね」
ことりに抱き付かれて笑うのは去年、『二次元文化歴史研究部』という、部活動の名を借りた違法なポルノ写真を裏で売りさばく悪質な集団の被害に遭い、恐喝されて無理やり際どいコスプレを着せさせられて写真撮影された上、それを無断で秋葉原の街で売りさばかれ、心に傷を負って不登校になってしまった子だった。その名前は
ちなみにその元凶の部は俺達が潰したのだか、果歩は不登校を止めることはなかった。
そして以前なんとか
「保健室登校って……い、一体いつから学校に来てたんですか果歩!」
「か、果歩! 学校来てたんだったら言ってくれよ! 俺達すっごい心配してたんだからな!」
「そうだよ果歩ちゃん! 連絡ぐらいしてくれたらいいのに!」
海未と俺がそう言って果歩に詰め寄ると同時、さっきまでの脱力は何処へやら、穂乃果も席から立ち上ってそう言った。
「あはは、ゴメンゴメン。いや、二学期の終わりごろに学校に行けるまでにはなったんだけど、まだちょっと本調子じゃなくって……一回行って、ダメって思ったらまた休んで、そして行ける時に行くって感じだったから、そんなんで連絡する訳にはいかないなって思って……さ」
果歩は申し訳なさそうに頬を掻いた。
そうだったのか……それにしても、保健室登校とはいえ、しっかり学校来てくれてて良かったよ。俺はホッと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、クラスの仲良かった子にはもう大体話終わったし、アタシはあと花陽ちゃんにだけ会ってから帰るね。
実は情けない話で悪いんだけど、ちょっとまだ他の人の目線が多い所に長くいるのはキツくて……」
そう言って本当に限界が近いのか、少し身を震わせながら果歩は、抱き着くことりをやんわりと離す。
「本当に大丈夫……?」
「大丈夫、大丈夫! これでもちょっとずつマシになって来てるんだから。
この調子なら高校の新学期の頃には治ってるって~。じゃあ、アタシはこれで!」
心配する様子のことりに、あっけらかんと笑ってそう言う果歩。
それにしても、さっきからことりが随分と果歩に構ってるな……まぁ、それもそうか。
ことりが昔、困ってる時に助けて貰った事があるって言ってたっけ……果歩が元気になって良かったなことり。
そして去り際に、果歩は振り返って言った。
「そうだ、もう一つ言うことがあったんだった。
あのね、アタシ最初言ってた志望校変えてさ……穂乃果達が行くって言ってた音ノ木坂学院に行くことにしたから! 確かこのクラスでオトノキ行くのって穂乃果達三人だけだったでしょ? だから、これから高校でもよろしくね! じゃあねー」
「えっ……! う、うんっ! よろしくねー!」
そんな突然の宣言に、少し驚きながらも穂乃果は去って行く果歩に手を振った。
果歩、確かそう言えばUTX行くって言ってたのに何で急に……いや、詮索はやめておこう。
でも、ほんの少しだけ、俺達の行動が果歩の進路を変えたんだったら、それはとっても嬉しい事だな――なんて、俺は思っていたのだった。
「――果歩、変わっていませんでしたね」
「まだちょっと無理してるみたいだったけど、あの調子だったら大丈夫だろ……あれ? あの子達は何やってるんだろ?」
果歩の去っていった方を見つめる海未に俺がそう言っていると、教室の外から下級生の女の子たちがこちらを伺ってるのが見えた。
「あの……すいませ~ん……海未先輩は居ませんか?」
「わっ、私達はことり先輩に用があって来たんですけど……」
「え……はい、今行きますね」
「うんっ、ちょっと待っててねー」
その中一番小柄な女の子と、そして眼鏡をかけた大人しそうな女の子が二人でおずおずとそう言うと、海未とことりはそれに応じるように教室から出て行った。
ほほう、海未とことりのやつ、あれはきっと剣道部と手芸部の後輩の子達だな。卒業祝いに色々渡されるのだとかそういうのだろう。
沢山の後輩に慕われてて羨ましいな海未とことりは―――
――慕ってくれる、後輩、ねぇ……
そう考えてしまうと、真っ先に凛の姿が頭に浮かんできてしまう辺り、俺はもうある種の病気なんじゃないかと思ってしまう。
そう、あの日、凛が俺の事を好きだと知ったあの初詣の日から、ずっと考え続けた結果俺は、一つの結論を出したのだった。
結論が出たので俺はそれを凛に伝えに行こうかと悩んだが、でも俺は凛の口から好きだとハッキリ言われたわけじゃない。俺のカン違いだって事も万が一あり得る……そうだったら最悪だ。
だからこそこうして俺は卒業式の日になるまで何も出来ずにいて、これからどうするべきかを考えていたのだった。
「正ちゃん、何悩んでるの?」
すると穂乃果が、そう言って不思議そうな顔で俺を見た。
悩んでる……ねぇ……? いや、この気持ちはちょっと違うな。
「ううん、悩んでるっていうより……戸惑ってるっていうのが大きいかな……今まで考えたことも無い事考えてたからさ」
「そうなんだ――でも、同じだよ。
悩んでても戸惑ってても、正ちゃんなら自分がそれで良いって思う事をそのままにやったら、それがどんなことでも、きっと何とかなるって穂乃果は信じてるよ、頑張れ正ちゃん!」
「……あはははっ! なんだよそれは、俺の事過大評価しすぎだって穂乃果は……でも、そう言われたら何とかなる気がしてきたよ……ありがとう、穂乃果」
そんな無責任な、でも、それでいて穂乃果らしい俺への信頼からくるエールに、俺は勇気を貰った。
すると、丁度そのタイミングだった――
「正也先輩……今、お暇ですよね? 来て欲しい所があるんです」
――そう言って、教室のドアから俺を真っ直ぐ俺を見る