静かで、そしてかすかに教室内や中庭での喧騒が聞こえてくるだけの廊下にて、穂乃果と海未とことりは、目の前で痛烈な威圧感を放ちながら
穂乃果達はそんな、普段の様子とは全く違う武司と対峙し、例え何があってもこの先には行かせないとする、武司の自分達に対する敵対心を感じて思わず困惑する。
一体何故、武司がここまでして自分達を止めようとしているのか――その理由が全くもって見当もつかなかったからだ。
すると武司は三人の心の困惑を感じ取ったのか、言い聞かせるように再度口を開いた。
「……成程、そのツラじゃまるで理解してねぇみたいだな、じゃあ今度は分かりやすいように言ってやるよ。
いいか? お前らがどんな覚悟で正也に告白するのを決めたのかは知らねぇが、大方、卒業して別れる前に、勝負決めてしまおうって腹だろ?
だったら……そんなくだらねぇ理由なら正也に告白なんてするなって話だ……どうだ、今度は分かったか?」
そんな武司の、三人に冷たく突き放すように言う無神経な言葉に、自らの覚悟を
「……何故、武司にそんな事を言われないといけないのですか? これは……あなたには関係の無い話のはずです」
「……ああ、無いな。俺はお前らと友達のつもりでなれ合ってる気は無いし、例えお前らが誰に告白しようが付き合おうが、それは自由だと思ってるぜ?」
「……だったら何故ですか、いい加減な理由で水を差すのはやめてください!」
そう問う海未に、武司はその理由をハッキリと告げた。
「それは……海未、絶対に勝ち目が無い相手に
「…………? そ、それは……どういう事ですか……?」
言っている事の意味が分からないといった表情で問う海未に対し、武司は問いを返す。
「あのなぁ……俺の方こそ逆に、お前らが一体なんの勝算があって正也に告白しに行くのか聞きたいぜ。
お前らは、自覚してるんじゃなかったのか?」
武司の言葉に、穂乃果とことりは二人して何かに気付いたように武司の顔から目を逸らし、対照的に海未はキョトンとした表情で首を傾げる。
「……自覚?」
その様子から、海未が本当に話を理解していない事を悟ると武司は、驚きで目を見開いた。
「おいおいマジかよ、本当に分かってないのか海未。もっとお前は聡い奴だと思ってたんだが……恋は盲目なんて、よく言ったもんだぜ。
でも……そこの二人は、もう俺が何を言いたいのか察したみたいだけどな」
武司はそう言って穂乃果とことりの方に目線を向けると、海未は質問の矛先を二人の方に向ける。
「……穂乃果、ことり? 武司は一体……何を言ってるのです?」
「――えっと……何となくそうじゃないかなぁって、思ってることはあるけど……その……」
「た、武司くん……でも……それは……」
穂乃果は海未に言葉を返そうとして言いよどみ、ことりは武司にそれ以上を言わせないように口を挟む。
“それ”を口に出してしまえば、言われてしまえば、もう二度と取り返しが付かなくなってしまいそうで。
しかし、そんな事を考えてためらう二人に、武司は容赦なく現実を叩き付けた。
「そうだよお察しの通りだ穂乃果、ことり。
残念だが正也はお前らの事を、そういう対象にはこれっっぽっちも見てないぜ。さっき正也と話してて確信した。だから、俺はここでお前らを止めに来たんだ
――言ってやるよ、もし賭けが成立するならその告白の結果に、俺はこの命を賭けてもいい。
「「―――っ!」」
――正也に“恋愛対象”として認識されていない。
それは穂乃果とことりが以前から自覚していて、でも同時に心のどこかで認めたくなかった事だった。しかしそれを武司の口から事実として突き付けられ、二人は苦い表情で顔を伏せた。
すると海未は、その事実を認めないかのように首を横に振って言った。
「な、なんでそんなことが分かるんですか……? 確かに正也はそんな態度をあまり見せる事はありませんが……しかし、正也が何を思ってるかなんて、実際に言葉で聞いてみなければわからないじゃないですか!」
「おいおい、随分と必死になって否定しようとするじゃねぇか海未。まぁ……認めたくない気持ちは分かるぜ? でもな、残念だが分かるんだよそれが……」
そう言って反論する海未に武司は、そう考えるに足る十分な根拠を語り始めた。
――それは武司が今まで、“
「――ほら、居ただろアイツ……ああ畜生、名前やっぱ憶えてねぇわ……“猫娘”でいいよな? あの猫娘に対する正也の態度が良い例だ」
「こんな時でも相変わらず、武司は名前を呼ばない人ですね……凛に、正也がどうしたって言うんですか?」
「えっ……!? た、武司くん……凛ちゃんの事、知ってたのっ?」
武司の口ぶりにこれから何を言おうとしているか察したことりは、驚きながら武司にそう問いかけた。
武司は呆れたように、首を横に振りながら答える。
「はぁ……ことり、なんで知ってたか俺に問うのは愚問じゃねぇか?
あれで本人は隠せてるつもりかもしれねぇけどな、客観的に見たらバレバレもいいとこだぜ、あの猫娘の正也に対する態度は露骨過ぎだろ……あんなの、幼稚園児が見ても一発で惚れてるって分かるわ」
「……嘘……凛が、正也の事を……!?」
「えええええっ!? 凛ちゃん……正ちゃんの事、好きだったのっ!?」
「…………ああ……幼稚園児以下が二人いたのか……」
そう言って、まるで信じられない事実を聞いたかのように驚く海未と穂乃果に、武司は頭を軽く押さえて呆れた。
そしてその後、気を取りなおしたように武司はさらに語る。
今から語る事が、穂乃果達にとって衝撃的な事実であることを分かっていながら。
「――ともかく、その前提で話を続けるぞ。
「「「…………えっ!?」」」
武司の言葉に、三人はさっき以上に信じられないといった表情で驚く。
それもその筈……穂乃果達は今まで、正也という男の子は恋愛といったものに一切興味がなくて、だから自分が好かれている事にも気づかないような、そんな恋愛に疎い性格なのだと思っていたのだ。
しかし、そんな三人の思い込みはたった今、見事にひっくり返ってしまった。
信じられない表情でポカンとする三人に、武司は言う。
「まぁ、驚くわな……俺だってそれ知った時、正也の前では必死に隠してたが、内心超驚いたぜ。全く……幼馴染の俺たちでさえ今まで分からなかったとはな、これだから隠し事が無駄に上手いんだよアイツは……要らねぇだろそんな特技」
「……本当なんですか、それは?」
「ああ、悪いがマジだぜ海未、実際にアイツの言葉で聞いたんだから間違いねぇ。
どうやら正也は、俺達が思っていたような、アニメや漫画によく居るテンプレ鈍感野郎じゃなかったみたいだぜ?
――さてお前ら……ここまで理解して、
武司はそう言って、三人をゆっくりと見回した。
「何が……おかしいというのですか?」
自分達にそんな問いかけをする武司に海未は、直感的に嫌な予感を感じながらも、そう言って武司に先の言葉を促した。
そして武司は、穂乃果達にとっては絶望的とも言えるその結論を口にする。
「なんで正也は、
お前らだって、今まで正也に何もしてこなかった訳じゃないんだろ?
正也が自分に向けられた好意にも気付かないような、そんな鈍感な男じゃないってんなら、なんでお前らはここまで正也に意識されてないんだ?
――そうだよ、答えは簡単だ。
正也にとってお前らの存在は“大切な親友”でどうしようもないぐらいに完結しきっていて、お前らを恋人にするなんてこれッッぽっちもアイツの頭に無いからだよ……だから、お前らはフラれるんだ、
「え………あ………ううっ……」
武司にハッキリと核心を突かれて論破され、ついに海未は何も言い返すことも出来ず顔を俯かせた。
「やっと分かってくれたみたいで良かったぜ海未。
――まぁ、これで分かったらもう正也に告白なんて馬鹿な真似はやめるこったな……お前ら四人は、これから先もずっと、今まで通りのぬるま湯みたいに仲良くやってる関係がお似合いだ」
そう言って武司は最後に再度三人に釘を刺し、そして俯いたまま何も言い返さない三人を見て、もうこれ以上言葉を重ねる必要は無いと判断し、その場から
「――俺の言いたい事は以上だ。ここまで言ったからにはもう俺の顔なんて見たくねぇだろうから、気ぃ使ってもう俺はお前らの前には顔出さないようにしてやるよ……じゃあな」
そして武司はそう言い捨てて元来た廊下を戻り始めた。すると――
「武ちゃん……それでも、どうしても前に進みたかったら……私達は一体どうしたら良いの?」
「……はぁ?」
そんな武司の歩みを呼び止める穂乃果の弱々しい声に、武司はその場で振り返った。
そして、まるで想定外の質問を返されたかのように頭をガシガシと掻きながら、困ったように口を開いた。
「そんなの……そりゃぁ、今までのやり方を反省してだな……その、もうちょっと積極的に攻めてみるとかなんとかしてやってみて……そして、少しずつ意識させていくように頑張ってから、それから正也に告白したらどうだ? そしたら……もう少し勝率は上がるんじゃねぇか?」
「あはは……それって、結構時間かかっちゃいそうだね……」
「ああ、きっと努力してもあの正也相手じゃ半年かそこらじゃ無理だろ、一年か……もしかしたら二年かかってもおかしくないかもな?
でもな、それでも勝算ゼロの今で告白するよりは、ずっとずっとマシだ。だから、早まったマネはするなよ――」
そこまで言って武司は言葉を一瞬止め、厳しい目つきで穂乃果を見つめてその先の言葉を紡ぐ。
それこそが武司にとって、さっきは言わずに去ろうとした、穂乃果達に対する最強の説得材料だった。
「そして……お前らは想像もしてないだろうけどな、下手したら今日告白する事で、それこそ正也と気まずくなって、もう二度と会えなくなっちまうかもしれないんだぞ? それでも……良いのか?」
そう、それが武司が予想する、穂乃果達が正也に対して告白する事で起こる最悪の結果だった。
そうなる理由を、武司はこう考察する。
正也は今まで、
だからその結果正也は、人の純粋な好意に対して、それにどう答えたら良いのか分からなくなってしまった。
それを証明するのは、先程の凛の一件で充分に事足りる。
凛をどうするつもりなのかと尋ねたあの時、正也は酷く動揺するばかりか、強く言わなけれは俺に、自分が凛に好かれている事を認めようともしなかった。それは、凛の事をどうするか決めているつもりであっても、心の中ではまだ迷いが残っている事の証明。
確かに正也は小学生の頃に比べると強くなったし、変わったと認めている。
だが、アイツはそれ以外の人間の本質的な根っこの部分……心だけは、まだ成長なんか全くしていないのだと、今回の件で改めて理解させられた。
だから、凛一人ですら正也は“そう”なってしまうのだから……三人で、しかも相手が穂乃果達だったら――多分正也はパニックを起こす、いや、“多分”ではなく“絶対に”起こす。そんな状況でオーケーを貰える可能性なんて――いや、それどころか、その後の関わり方まで影響を与えてしまうに決まっている。
武司はそう考え、穂乃果を必死で止めようとしているのだった。
そんな確かな根拠に基づく武司の言葉に、穂乃果はゆっくりと口を開く。
「それは…………よく……ないよ……」
その口から出てきたのは、武司の言葉を肯定する言葉だった。
そして穂乃果はそう呟いたのを最後に、黙って俯く。その様子に武司は、ようやく穂乃果が自分の意見を聞き入れてくれたと安堵して、一息ついた。
ここまで言えばコイツらは理解しただろう、自分達の置かれた恋愛面での圧倒的不利を。
悟っただろう、今告白する事がいかに無謀かを。
自覚しただろう、最悪の事態の可能性を。
今日この日の一番の最善は、何もしないでいる事だと分かってくれただろう。
最後にそんな風に考えながら武司は、何も喋らないならお前らと話す事はないとばかりに、その場を去ろうと穂乃果達から背を向ける。
――そうだ、それでいい。
武司はそう心の中で呟いて笑った。
これで武司は、小学生からの長い付き合いである女の子三人の真剣な恋心を、まるで武骨な理論武装で固めた拳のような言葉で殴り続け、ボロボロにしてその志を折るという所業を成してしまった。
そう、音ノ木坂の不良達の
そんな彼は間違いなくこの場では悪役で、悪役としての役割を全うしたとばかりに彼はまた笑う。
――正也、宣言通り全部終わらせてやったぞ……これでお前らはずっと仲良しで居られる。
……だったら、役目を終えた悪役はさっさと舞台から降りなきゃな。いくらお人好しでもあそこまでボロボロに言われたら、穂乃果達は俺の事を嫌うに決まってる。
アバヨお前ら……まぁ、お前らとツルんでた今までの俺の人生は、そこそこ楽しかったぜ。
そんな勝利宣言を心の中で誇らしげにして、武司はそのまま歩き出した。
その勝利の先は誰も居ない、一人孤独な嫌われ者としての道を。
しかし武司は――高坂穂乃果という少女を、甘く見ていた。
「……でも、
「――ハァッ!!??」
自分があれだけ無謀だと言った後であるのにも関わらず、もう勢いを取り戻したかのように平然とそう言ってのける穂乃果に、武司は信じられないと言った表情で振り返る。
――嘘だろ……コイツ俺の話聞いてたのか? ってかちゃんと耳付いてんのか?
今まで馬鹿だ馬鹿だと言ってきたが、まさかここまで馬鹿とは思わなかった……これならまだ小学生の方がマシな判断するぜ?
そう思って武司は、再度口を開く。
「お前……それ、ちゃんと考えてから言ってるのか? じゃあお前は正也にフラれて、しかも避けられても良いって言うのか……?」
「うん……武ちゃんが言ってくれたから、それはちゃんとしっかり考えたよ……でも、それでも私は正ちゃんに告白するって決めた!」
「はぁっ!? まてまてまてまて……お前意味わかんねぇ……意味わかんねぇよマジでよぉ……!」
武司は再度そう言うも、怯む様子も全くなく、決意を変える気配を見せない穂乃果に対し、最早戦慄すら覚えた。
武司は頭を抱え、必死で思考を巡らせる。
――なんなんだコイツ……!? “猪突猛進女”どころの騒ぎじゃねぇ……!
まるで…………こんなの……ブレーキが壊れてるF1カーが、そのまま擬人化したみたいな……!
と、心の中で一瞬でそんな考えを巡らせると同時に、武司はふと、正也の口からついさっき熱く語られた、『高坂穂乃果』という少女についての話を思い出していた――
『確かにさ、武司が言うように穂乃果は、おっちょこちょいで失敗することがあったり……その他にも大雑把で適当な所が多い奴だよ。
――でもな、穂乃果は一度本気で“やる”って決めたことは他の誰が何を言おうと一切曲がらない、そんな強い意志を持った才能があるんだ。
“やるったらやる”――これは、穂乃果がやる気になった時の口癖なんだけどな……本当にその言葉通り、にアイツは一度決めたら、それがどんな無茶な事でも、そして俺達にどんだけ反対されても
そうだよ、だから穂乃果はスゴイ奴なんだ、幼稚園の頃からずっとそうだった。
俺が思わず尻込みしちゃうような事にも、平然と飛び込んで行って……そして俺達を引っ張って行ってくれるんだ。
だから俺は、例え他の誰が何と言おうと、穂乃果の事をスゴイ奴だって認めてる。
そんな穂乃果のすごさが、いつの日にか、お前にも伝わったらいいなって思ってるよ――武司』
ああクソッタレ……! あん時お前が言ってやがったのは、
思わず武司は内心でそう叫び、苦虫を嚙み潰したような表情になりながらも再度穂乃果の説得を試みる。
「チッ……! あのなぁ……! その猪突猛進な性格もいい加減にしないと、いつか痛い目を見るぞ穂乃果! 冷静に考えろよ、なにもこれから先ずっと告白するなって言ってるんじゃねぇんだよ俺は!
なにも今日で正也と永遠に離れ離れになる訳じゃねぇ、今は告白をやめて、そして少しずつ正也にアピールして、タイミングを見計らってからでも告白は遅くねぇんだよ! だから――」
後先を考えない穂乃果を止めるため必死でそう説得しようとする武司に、穂乃果は短く一言反論する。
「――その“タイミング”はいつ来るの?」
「っ……!? そ、それはだな……」
穂乃果の反論に武司は思わず言葉に詰まった。
そんな武司の隙を逃がさず、宣言するかのように穂乃果は言う。
その瞳は何処までも真っすぐで、進む先にある輝く未来を信じきったような、そんな眩しい輝きを放っていた。
「そうだよ……どうせ待ってても同じだもん!
それに、今告白しても絶対フラれちゃうなんて、そんなの武ちゃんが決める事じゃない!
確かに、武ちゃんが言ってるようにそれが難しいのは分かるけど……でも、このまま何もしないでいて、私達が全く知らない女の子に正ちゃんを取られちゃうより……今日告白した方が、どんな結果になっても後悔しない! だから……止めないで、武ちゃん!」
そんな穂乃果の宣言を聞いた武司は、暫く言葉を失った後、どこか吹っ切れたような呆れた表情で長い溜息をつく。
――それは武司が、高坂穂乃果という存在に負けを認めた瞬間だった。
「はぁぁ…………本っっ当に、どうしようもないぐらいに馬鹿なんだなお前は…………良いぜ穂乃果、そこまで馬鹿なら好きにしろよ。でも、俺がここまで忠告してもやる馬鹿なんだ……どうなっても、骨は拾ってやらねぇからな」
「うん……心配してくれてありがとう武ちゃん、私、頑張ってくるね」
「はいはい――で、海未とことりはどうするんだ? ぶっちゃけ言っちゃ悪いが、コイツもう自殺志願者に近いぜ? それでも……一緒に告白するってのか?」
武司は穂乃果の方を親指で刺しながら、海未とことりにそう問いかける。
しかし二人の表情を見た時、武司はもう聞く前に返ってくる答えを予想してしまっていた。
迷いのない表情で二人は、武司の問いに返答する。
「―――はい。告白する時は一緒だと先程決めたばかりですから」
「うん、ことりも……穂乃果ちゃんと海未ちゃんと一緒に頑張るって決めたから」
そんな予想通りのセリフを吐いた二人を見て、武司は不貞腐れたようにそっぽを向いた。
「……ったく……はいはい、結局、俺の忠告は全員スルーかよそうかよ、俺の覚悟と心配を返せってんだよ畜生。あーあ、余計なお世話で時間無駄にしちまった。やっぱ、俺みたいな喧嘩するぐらいしか能のない不良が、恋愛相談なんて慣れねぇもんするんじゃ無かったぜ。じゃあ俺は行くわ、もうどうでもいいが、お前らは精々告白頑張るこったなー」
武司はそう言って穂乃果達に背を向け、後ろ手に手を振りながらその場を去って行く。しかし、またその背中に穂乃果は声をかける。
「――待って武ちゃん、最後に、聞いて良い?」
「あ? なんだよ穂乃果、さっきから人が行こうとする時に何度も呼び止めやがって……なんの話だ?」
呼び止められて不機嫌な様子でそう問う武司に、穂乃果は恐る恐る言った。
「あの……なんで武ちゃんは、穂乃果達のこと友達だって思ってないのに心配してくれたの? 私達の事、どうでもいいって思ってたんじゃ……」
「はぁぁぁ…………そんな事かよ」
「あっ……ご、ごめん……怒っちゃった……かな?」
ワザとらしく大きなため息をつく武司に、穂乃果は申し訳なさそうな表情で謝った。
そんな穂乃果の問いに答えるように、振り返らないままで武司は言う。
「ああそうだよ、確かに俺は、お前らの事を“友達”なんてこれッぽっちも思っちゃいねえぜ? あくまでもお前らは俺にとって、俺の親友である正也の親友で――」
「む……そんな事何回も言わなくてもわかってるよ! 私が聞きたいのは、武ちゃんが何でわざわざここまでしてくれるのかって事で……」
穂乃果は武司に怒ったようにそう言って、今まで何度も口にされた穂乃果達に対する自分のスタンス語りを遮った。
しかし、そこで急に武司はそこで言葉を止め、数回深呼吸をして何かの心の準備をした後、穂乃果達三人の方を振り返りながら口を開く。
「――でもな、『親友の親友」って思うの……スッゲェややこしくて面倒くさいから! 俺はお前らの事を“友達”じゃなくて“
だから
そう言って激情のままに自分の本心を吐露する武司の顔は、まるで火山のように真っ赤に染まっていた。
そんな武司の本心を聞いた三人は、明るい表情になって笑って答えた。
「た、武ちゃん……!」
「武司……」
「う……うんっ! 全然文句ないよ武司くん、ありがとう」
それを聞いた武司は、これ以上照れた顔を見られまいと思ったのか、素早く再度前を向いて口早に言葉を紡ぐ。
「あーーもう! これだからお人好しは困るぜ、俺がちょっと甘い顔見せたらすぐに調子に乗りやがる、だからこんな事言いたくなかったんだよ!
そもそも、言葉にしなくてもお前らの事を
そんな男心もわからないんだから、お前らは正也の心をゲットできないんだよ! 今後はそういう所にも気を回せよ! いいか分かったな? これはお前らの数少ない男の
最後にそう言い残し、心なしか急ぎ足でズンズンと足音を鳴らしながら去って行く武司の背中に向かって、穂乃果達は言う。
それは、またの再会を約束する言葉だった。
「本当にありがとう武ちゃーん! また、武ちゃんが好きな穂乃果のお店の揚げまんじゅう食べたくなったら、遠慮なくうちに来てねー! 待ってるよー!」
「はい! もし武司が喧嘩ばかりでなくて武道にも興味があるなら、ぜひ私の家の道場に来てください、待ってますよー!」
「武司くんも、心配だから太ってばかりじゃなくて、ちゃんと健康にも気を遣ってねー! もし次会った時に武司くんがスマートになったらことり、武司くんに似合うカッコいい服作っちゃいますっ」
そんな三人に武司は、後ろ手を振りながら言った。
「……おう! また会おうぜ! じゃあなお前ら、高校でも元気でやれよ!」
武司は今度こそ、その場を去る為に歩き始める。
そんな三人の明るい声に送られながら行く道は、さっきとは見違えて輝いているように、武司は見えたのだった。
こうして、穂乃果と海未とことりの三人には、素直じゃないけど情に厚い心を持った、心優しい不良の親友が出来たのだった。
※ ※ ※ ※ ※
「……チッ……あーあ! 穂乃果の奴、去り際に俺にあんな恥ずかしい事言わせやがって……! 全く、これだからアイツらとツルむのは面倒くせぇ。アイツらあれで結構男からモテるらしいが、あんなのが良いとか言う男の神経が全く分かんねぇぜ俺には。
あ~あ、やっぱ慣れねぇ事はするもんじゃ無かったぜ」
穂乃果達に再会の約束と共に送られた後、武司は一人でそう文句を呟きながら廊下を歩いていた。
しかし、口ではそう言って偉そうに言いながらも、彼の口元は緩んでいて、誰の目から見ても嬉しそうなのは明白だった。
武司は表情が緩んでいるのに気が付き、両手で頬を叩いて表情を戻す。そして、気を取り直したように呟いた。
「――それにしても、この俺様が口喧嘩とはいえ、まさか喧嘩で負ける日が来るなんてな……穂乃果……アイツ、なかなか厄介な
考えるのは、さっきの話し合いでの穂乃果のあの、全ての理論をぶっ飛ばすかのような『超感情論』だった。
きっと、自分のやりたい事を前にした穂乃果は、自分のような反対する存在が居ても、先程のように軽く論破して、絶対に何があっても止まる事は無いのだろう。その事が、十分に分かったのだ。
武司は呆れたように言う。
「あーあ、それにしても正也は生徒会でよくあんな女を下に従えれたよな? あんなの、絶対“副会長”で収まる器じゃねぇぜ? アレは“生徒会長”やらせるのが一番適任だっての…………って、あれ? そういえば確か――」
武司はそう言って正也の名前を呟き――そして同時に武司は一つ、正也の口から以前聞いた事がある、とある重大な事件の事を思い出してしまった。
――それは去年の春。
高校の進路を決める時に穂乃果が、正也と一緒に居たいがために女子高である音ノ木坂学院に進学するのをやめて一緒に通う事が出来る普通の公立校に行くと言い出し、それに正也が反対したために、二人は本気の口喧嘩をしたことがあるという事を。
そして――その最終的な勝者の名前も。
武司はそこまで思い至った時、思わず口元に手を当て、信じられないとでも言いたげな目つきになりながら呟く。
――“その事実”は、気づかない方が良いことだという事も知らずに。
「……え? って事はアレか? あの穂乃果に正也は勝ったってのか?
武司が気づいてしまったその事実は――思い込んだら一直線で、決めた事は必ずやり通す穂乃果が、
その事実は、穂乃果は正也の行動によって、自分の意見を変える事があるという事を示唆していて――
――そして、それは裏を返せば、
「は……はははっ……やっぱ正也、お前とんでもねぇ奴だよ……」
そう呟く武司の声色には、知らず知らずの内にとんでもない権利を得てしまった自分の親友に対する、少しばかりの畏怖の感情があった。
そして武司は、その気付いてしまった事実は、自分の胸の内だけに留めておこうと心に決めたのだった。
自分の言動が穂乃果の意志を知らず知らずの内に変えてしまっている可能性があるという事を、あの心優しい正也が知ったら絶対に気に病むに決まっているからだ。
――すると、そんな武司の前方から、ボロボロの制服姿で精魂が尽き果てたような、足取りのおぼつかない様子で歩いてくる男子生徒がいた。
その男子生徒は武司の姿を確認すると、顔に生気を少し取り戻したように明るい表情で言う。
「よ、よぉ……武司……さっきぶりだな……」
「しょ……正也!? お……お前その姿……随分と手厚く祝われたんだな……」
その男子生徒は、先程やっと後輩達から解放されたばかりの正也だった。
武司はさっきの事もあって正也の姿を見て一瞬驚くも、後輩達から祝福を受けたボロボロの正也の姿を見て、思わず苦笑いを浮かべた。
なぜなら正也は、みんなに引っ張られてシワだらけの学ランのボタンはおろか、ワイシャツのボタンですら袖のボタンに至るまでひとつ残らず奪い去られていて、ロクに前をとめることが出来ず、学ランの前とワイシャツを全開にして中の黒い肌着を露出するといった、まるでどこぞのヤンキー崩れのような格好をしていたからだった。
「全く……あいつら容赦なかったよ……しかも、見てくれよこれ……」
正也はそう言うとポケットから何かを取りだし、“それ”を武司に見せた。
武司は正也から“それ”を受け取ると、しげしげと見つめた。
「うん? ――おいこれ、学ランのボタンじゃねぇか、全部取られたんじゃなかったのか?」
「ああ……なんか知らないけどさ、『“そこ”のボタンは残しておいてあげますから、先輩が渡したい人に渡してくださ~い』とか意味わからないこと言って、この部分のボタン一個だけ残されたんだよ。全く……ここまで取るならいっそ、全部取れよって思わない?
だから一つだけボタンあってもなんか見栄え悪いから、さっき階段上がる途中で引き千切ってきたんだよ」
呆れながらそう言う正也に、武司はニヤッと意地の悪い笑みを浮かべながら言った。
「へぇ……ははっ、成程……あいつら、中々心憎いことしてくれるじゃねぇか。良かったな正也、お前を慕ってくれる後輩は全員お前の事をよく考えてくれてるみたいだぜ?」
武司はそう言って、手に持った
後輩達がこれを本人から奪い取らずにそのまま残したという事は、正也がこれを必要とするであろうことを悟っていたのだという確信を得ながら。
「ほぉ……この惨状を見てもそんな事が言えるか武司……」
そんな武司に正也は自分の制服を指し示しながら抗議の視線を送るも、武司はそれを笑ったまま受け流した。
「はははははっ! まぁ……それが分からないなら、お前の目指す『カッコいい男』ってのはまだ遠いって事だな。これからはもっと励めよ」
「くっそ……なんだってんだよ一体……」
正也は武司に意味深な返しをされ、不貞腐れたようにそっぽを向く。
すると、そんな正也に武司は、さりげなくこんな問いを投げかけた。
「……なぁ、お前はところでそのボタン、欲しいって言いそうな奴に、誰か心当たりはあるか?」
「えっ? な、なんだよ急にそんな質問……」
「いいから答えろ、その制服の第二ボタンを欲しがりそうな奴をな。……別に急かしたりしねぇからよ、ゆっくり考えてくれ」
そんな武司の突然な問いに困惑しながらも正也は、暫く何かを考えた後、顔を赤く染めながら恐る恐る口を開いて言った。
「え……ええっと……も、もし、俺が自惚れてなかったら、それは……凛の……事だったり……?」
すると案の定な正也の答えに、武司は深い深いため息をついて両目を手で覆った。
「はぁぁぁぁ……そうだよなぁ、お前の頭に思い浮かぶのはソイツしか居ねぇよなぁ……はぁぁ……どうすんだあいつら、もうこれ惨敗確定したようなもんじゃねぇか……。なんとか止めてくれねぇかな……」
「…………? なぁ、今日は変な事ばかり言って本当にどうしたんだ武司? どこか体の調子でも悪いのか?」
そう言って正也は頭を抱えてうめく武司にそう問うと、武司はイラっとした顔で言葉を返した。
「チッ……とりあえずお前のそのマヌケ顔に、俺の心労を知れって意味を込めて一発お見舞いしたいと思ってる」
「ちょっ……お前のストレートはシャレにならないからやめてくれ! お前一回、拳で教室の壁に穴開けた事あったろ!? あれ生身で受けたら死ぬってマジで!」
「冗談だよやんねぇよ……まぁ、もう後はなるようになるしかないか、色々訳わかんねぇ事言って悪かった正也、深く気にすんな」
「……今日の武司はずっとそれだよな、なんか子供扱いされてるみたいだ俺」
「実際、子供だから仕方ないんじゃねぇか?」
「何様のつもりだよ、お前は俺と同い年だろ! ……まぁいいけどさ別に、お前が聞いてほしくない事だったら何も聞かないよ」
正也は武司の言い方に納得していない様子だが、そう言ってそれ以上は何も聞かないのだった。
そんな、色々事情を知っているようでまるで状況を悟っていない正也に、武司はしばらく逡巡するように黙って、そして言った。
「なぁ正也、多分俺……お前らの事……大好きなんだと思う」
「え……? 武司……?」
そんな、らしくもなく素直な台詞を吐く武司に正也は困惑した。しかし武司はそんな正也に構わずに語る。それはまるで、自分の欲しいものを駄々をこねてねだる少年のような言葉だった。
「……小学生の頃、気に入らない奴を殴る事しか考えてなくて独りぼっちだった俺に、お前は手を差し伸べて俺の世界を広げてくれた。
だから俺は、その広がった明るい世界で、お前と穂乃果と海未とことり……お前ら四人が色々馬鹿やって騒いでるのを眺めるのが……好きなんだよ……!
俺は、それが見られるなら何をしたって良いと思う。今も……そして、これから先もずっとだ」
「武司……」
「
そんな武司の振り絞るような言葉に、正也は目を見開いて武司の顔を見つめた。
正也にとって、武司がこんなにも自分の気持ちを吐き出す所を見るのは、小学生の頃に喧嘩したあの日に、涙ながらに自分の抱えた孤独を語ってくれた時以来だったからだ。
だから正也はそんな親友の為に、一切の迷いがない表情で宣言した。
「勿論だろ! 俺は三人の事が大好きだし、俺の方から三人と離れる事なんて絶対ない! だから……安心してくれ武司」
「――そうか……お前がそう言うなら……安心だ」
そう言うと武司はまるで子供のように安堵した表情を見せ、そしてその数瞬後、気づいたようにハッとなっていつも通りの不機嫌な表情に戻る。しかしその顔は恥ずかしさで真っ赤に染まっていた。
「……チッ、無様な所を見せたな。まぁ、分かってくれりゃいいんだよ……じゃ、俺は自分のクラスに戻らせて貰う」
そう言って武司は、逃げるようにさっさと背を向けて歩き始める。
そんな武司の似合わない照れたような態度に、正也は思わず笑ってしまいそうになった。
♪~♪~♪~
しかしその時、武司の歩みを止めるように、廊下に携帯電話の音が鳴り響いた。
正也は慌てて自分のポケットを探り、自分の携帯を取り出す。
しかし、鳴っているのが自分の携帯でないことを確認すると、正也は目に見えるように落ち込んだ。
そんな正也の慌てようを振り返って目の当たりにし、武司は先程の恥ずかしい話の流れを振り切るように、平常なフリを装って言った。
「お……おい正也、どうしたんだよそんなに慌てて?」
「い、いや……なんていうかその、俺今進路の関係で連絡待っててさ、その電話かと思って……」
「……はぁ? なんだよそれ、合格発表みたいなもんか?」
「う、うーん……まぁ、近いと言えば近いっていうか――って、それより、俺じゃ無かったら電話は武司の方じゃないのか? 早く出ろよ、元生徒会長としては咎めるべきだろうけど、卒業式の日ぐらい校内での電話使用は大目に見てあげるからさ」
「……おい、自分が真っ先に電話に出ようとしてて大目に見るとかよく言えたなお前。……まぁ、確かに俺のみたいだな」
正也にそう言われ、ようやく武司は自分の携帯を取り出し、携帯を耳に当てて話を始める。
「――おう、俺だが用件はなんだ? …………? ……へぇ……成る程、面白そうじゃねぇか。分かった、今からそっちに行って詳しく話を聞かせて貰う」
武司は尊大な態度で電話先の人物と話をし、そして笑って電話を切った。
そんな武司の電話での話しぶりに、正也は気になって尋ねた。
「武司……さっきの電話は誰からなんだ?」
「ああ、何でもねぇよ――こんな俺様をわざわざ指名するような物好きな先生方と、ちょっくら会ってくるだけだ」
「へっ……? 先生? 今の電話の相手先生からだったの!? お前って先生にあんな上から目線の態度なの!?」
「悪いが、俺様の辞書に“年功序列”の文字は刻まれてねぇのさ。――じゃ、そう言う事だから俺は行かせてもらうぜ、また後でな正也ー!」
そう言って、武司は足早に階段の方に向かう。
そんな武司の後ろ姿に正也は、なんで先生方から校内放送じゃなくて生徒一個人に直で電話が入るのかという疑問や、先生方が一体武司に何の要件があるのかという疑問を投げかけたかったが、悩んでいるうちに姿が見えなくなってしまい断念した。
「ああ……もう、仕方ないな武司は……。まぁでも、ああして調子に乗ってるぐらいが一番アイツらしいか」
そんな武司を見送った後正也は、軽く苦笑交じりにそう呟いて教室に戻った。
その後正也は、そのパンクな服装でクラスの皆から大爆笑されて恥ずかしい思いをしたり、穂乃果達に話しかけたら挙動不審な態度をとられ、自分が三人に何かしてしまったのだろうかと頭を悩ませたりしながらも、涙ながらに教壇に立つ先生の話を聞いて最後のホームルームの時間を過ごしたのだった。
※ ※ ※ ※ ※
――体育館裏の人気の無い空間で、
考える事は勿論、尊敬する先輩であり、そして初恋の相手である織部正也の事。
凛という少女は今まで、クラスの他の女の子の恋の話を聞いていて、ほんの少しだけ羨ましいけど自分には無縁の話だなと思っていた。
しかし今自分は、この体育館裏にその諦めていた無縁な話の当本人として立っている。
その事を改めて考えると、凛は緊張でまた心臓の音がうるさく鳴り響くのを感じた。
出会った最初は、不自然にカッコつけたりキザっぽかったりして、なんて変な先輩なのだろうと思った。
しかし、そのイメージが段々と面白い先輩に変わり、そして頼れる先輩だと思えるようになった時、何となく仕事を手伝いたくなったり一緒に居ると楽しいと感じるようになって……そして今は、ずっと一緒に居たい存在になってしまったのだ。
しかし、そんな自分の想いを悟った時、凛は幸せな気持ちを感じると同時に、深い悩みを抱えてしまった。
なぜなら、正也のような人気があってカッコいい先輩に、可愛くもなく、そして時には道行く人に男の子と間違われてしまうような、そんな男の子っぽい自分に、どうしても釣り合っているように思えなかったのだ。だからさっきは逃げてしまった。
今だって、屋上での友達からの励ましのお陰でなんとかこうして再度この場に立ててはいるが、でも自身への不安がすべて消えたという訳では無かった。
――不安になりそうな心を、なんとかして押さえつけているだけの勇気をもらったから、凛は今この場所に逃げずに居られる。
「彩ちゃん……ありがとにゃ」
凛は小声でそう呟いて、この中学校で花陽以外で新たに出来た親友の名前を口にする。
そう、凛は見ていたのだ。屋上に彩が飛び込んできたあの時、平然とした顔で振る舞っていたが、その額には拭いきれていない汗が光っていた所を――それは、学校中を必死に走り回って凛を探していたという証拠。
だから、自分の為にそこまでしてくれた彩の為にも、そして、同じように自分を探してくれた花陽の為にも頑張りたい――いや、頑張らなくてはならないのだ。
凛はそんな覚悟を支えに、今この場に立てている。
告白しても結果はどうなるか分からない。でも、それでも、気持ちを伝える努力からは逃げてはいけないと思ったから。
そして、ついにその時は来た。
走って来るような足音と、荒い呼吸音が聞こえる方向に凛が顔を向けるとそこには――
「……はあっ……はあっ……! 良かった……今度は居たぁ……」
――そこには、まるで交通事故にでもあったのかと問いたくなるぐらいにボロボロでヨレヨレの制服を着て、そして急いで走って来たかのように息を切らせる正也が居た。
そして正也はそのまま息を整え、真っすぐ凛の目を見据えながら言った。
「じゃあ、彩から話があるって聞いて来たんだけど……話、聞かせて貰ってもいいかな凛?」
そう正也が言った瞬間、凛は先程から緊張で早鐘のように鳴り響いていた心臓の鼓動が、より一層早くなるのを感じたのだった。
武司くんは頭脳労働もこなせる、何気にハイスペックな優しいひねくれ者です。
では、ここまで読んで下さりありがとうございました。
また、前回の更新で高評価をつけて下さった
Tiyaさん、本当にありがとうございます。
では、次回もまた読んで頂けると幸いです。