今回は、前回の【個人話-ことり】Behind you (上)の続きとなります。
では、どうぞです。
――――俺にとって、ことりとは一体どんな存在なのだろう?
いつも優しい俺の大切な幼馴染?
笑顔がとっても可愛い俺の大親友?
俺が落ち込んだときに、優しく寄り添うように励ましてくれるとっても良い女の子?
そんな言葉の数々が頭の中でぐるぐる回る。
でも、いくら考えてもそれは、俺の中で一般的に“恋愛感情”と呼べるものとはほど遠くて……
だから、ことりに彼氏が出来るなら、それを俺は喜んで祝福すべきであって……決して、今こんな風に悩む必要なんてないはず……なんだけど
「くっそ……もやもやする……なんでだよ、相手の
海未は、漆山先輩のことを信用できないと言っていたが、俺はことりの人を見る目をある程度信頼していた。あのことりが優しい先輩だと判断したんだ……だから、その点に関しては少なくとも俺の心配は薄かった。
だから、ことりがどうしようとも反対する要素はなく、俺はむしろ祝福すべきなんだ。
でも、頭ではそれがわかっていても割り切れない
「ああ……もう! なんでなんだよ!」
俺は思わず布団をかぶり、布団の中で小さな声でそう叫ぶ。
その時、枕元に置いた目覚まし時計が、俺にバイトに行く時間を知らせる為にアラームを鳴らす。
……ああ、また今日もあまり眠れなかった。
俺は布団の中からゆっくりと起き上がり、早朝の新聞配達のバイトに行く為の準備を始める。
悩み過ぎてまともに手につかない学校の授業の復習を早々に放り投げ、午後11時に布団に入り、そのまま眠れずに現在午前2時――貴重な俺の3時間の睡眠時間が、今日も考え事で丸々潰れてしまった―――情けない。
「ずっと同じ事でウジウジ悩んで……今の俺、『カッコいい男』とは程遠いな……」
俺は誰に聞かせるでもなく、まだ朝日も差さない暗い室内で、一人そう呟いた。
■ ■ ■ ■ ■
「おはよー正ちゃん……」
「……おはようございます、正也」
「おお……おはよう穂乃果、海未……」
俺がことりと生徒会室で喧嘩別れをしてから、もう早4日経って月曜日のこと……俺と穂乃果と海未の三人は、いつも通り通学前の集合場所に集合していた。
土曜日と日曜日を挟んで月曜日――土日を挟めば、もしかしたらことりも冷静になって、今日は居るかもしれない……という淡い期待があった。
でもやはり現実はそうはいかないようで、俺が集合場所に一番乗りした時、そこにことりの姿が無かった事に俺は落胆していた。
全く勝手な話だ……ことりを怒らせたのは他でもない自分のせいだってのに……
「正ちゃん……目のクマすごいよ? 大丈夫?」
そう言って、穂乃果が心配そうに俺に問いかける。
しかし、その声もどこか元気がない……やっぱり穂乃果もことりの事が気になるんだろう。
「ああ……そんなにひどいか? そこまでひどくないと思ってたんだけどな……」
「……そんな眠れなくなるぐらいに心配になるんでしたら、あの時もっと早くことりを追いかけたら良かったんです」
そう言って、海未は俺にどこかトゲのあるような言い方で俺を責めた。
しかし、そう言う海未の目もとにも、俺と同じような理由で悩んでいたのか――それとも、もっと重大な事で悩んでいて眠れなかったのか、軽くクマが出来ているのが俺には分かる
でも、海未が俺に対する態度がキツくなるのも無理も無い話かもな……結局俺はあの日、泣きながら生徒会室から出ていくことりに、何も出来なかったんだから……
俺は、ことりが生徒会室から泣きながら出て行ったあの日の事を思い返す。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「もう……正ちゃんなんて……知らないっ……!」
そう言ってことりが生徒会室から飛び出した時、俺は軽くパニック状態に陥っていた。
ことりが先輩と付き合っているという話を教室で聞いてしまってから、俺はずっと頭の中が、俺自身なんなのかも分からないような思いに支配されてしまっていた。
だから海未に話を振られた時、俺は最初に、ことりに今思う――そのままの思いを吐き出そうと思ったんだ。
でも、俺の口から出ようとする言葉は、全くスジが通ってなくて――まるで幼い子供が吐くような意味の分からない言葉ばかりで……
……こんな滅茶苦茶な台詞を吐いて、ことりを困らせるなんて……俺の目指す『カッコいい男』がやる事じゃない。
俺はそう思って、結局なにも言うことが出来なかった――でもその結果、ことりを泣かせる事になるなんて、俺は思いもしなかったんだ。
だから俺は半ば呆然としたまま、ことりが生徒会室から出ていくのを見送ってしまった。
そのまま、どうしたら良いか分からずに呆然と立ち尽くす俺――するとそんな俺の右頬に、平手による思いっきり強烈な一撃が加えられる。
驚きと痛みで、俺はその平手打ちを加えた人物に目を向ける――海未だった。
「何やっているんですか正也っ!! 早くことりを追いかけてくださいっ!!!」
海未はその目に激しい怒りの色を滲ませ、ことりが出て行った方を指さしながら俺にそう叫ぶ。
そんな親友の
しかし、時既に遅し。廊下に出て急いで左右を見ても、ことりの姿は既にどこにも無かったのだった。
■ ■ ■ ■ ■
「―――全く、何やってんだろうな……俺」
そして、現在の月曜日に至る。
時刻は放課後――俺は生徒会の仕事を終え、何となく残って居たかった気分だったので穂乃果と海未に先に帰ってもらい、俺は一人生徒会室に残って、先週の木曜日の事を思い出しつつそう呟いていた。
あの後、結局そのまま俺達三人は遅刻ギリギリまでことりの事を待ってみたのだが、結局ことりは来ず、そのまま三人で学校へと登校した。
いつもの四人から、三人になった登校風景。
たった一人――ことりがいなくなっただけなのに、どうしても俺には大切な何かを失ってしまったような気がして。
『ねぇ……ことりちゃんが先輩と付き合う事になったら、穂乃果達、これからずっと三人だけで登校する事になるのかな……?』
その登校途中で、穂乃果が
「笑えない冗談はやめてくれよ穂乃果……」
俺はそう一人呟きつつも、穂乃果のそんな不安が的中しそうな気がしていた。
事実、ことりはあの日から教室で会っても俺達に全く挨拶もしてくれないし、目も合わせてくれなくなっていた。
休み時間になったらことりは、俺が話しかけようとする前にすぐに教室を出ていき、話かける暇を俺に与えてくれない。
そしてそれはお昼休みになっても同様で――ことりはすぐに何処かへと行ってしまっていた。
ことりがどこに行ったのか気になって、クラスの女子が騒いている話の内容に耳を傾けると――ことりと漆山先輩が一緒にお昼ご飯を食べていたという、要らない情報が手に入って、より一層俺の心の中でのモヤモヤが強くなったのを感じた。
しかし、そんな状況であってもことりは、しっかりと生徒会の仕事を休む事なくこなしてくれた。
それは、ことりが生徒会にもう来てくれないかもしれない――と予想していた俺にとってはいい事だった。
『……
『じゃあ、時間ですから帰らせてもらいますね』
しかし、ことりが事務的な会話しか話してくれなかったという事を除けばだが。
途中、穂乃果はそんなことりに対して何度も話かけようとしたのだが――取り付く島もなく、ことりはその全てに素っ気ない返答しか返していなかった。
まぁ、それでも……同じように話しかけても無視される俺よりは、全然マシな話ではあるが――だからその所為もあって、今日の仕事中の生徒会室の雰囲気は、本気で
「はぁ……どうしよう……」
俺はそう言いながら、生徒会室の机の上に力なく突っ伏す。
俺がこれからどうしたら良いのか――全く分からないのだ。
そもそも、俺がどうしたいのかもわかっていないのだからどうしようもならない。
なんでだよ――俺の信じる『カッコいい男』は、何も迷うことなく親友の幸せを願える人間の筈だ……だから、やる事は決まってるだろ?
なのに、なんで俺は素直に喜ぶことが出来ないんだよ……!?
こんなの――カッコよくない……カッコよくないだろ俺っ……!?
「よう……ひでえツラしてんな、正也」
すると、いきなり真横から声がしたので、俺は驚いて横を見る――そこには
「驚いた……おい、いきなりそんな所に立つなよ武司……」
「いや、俺しっかりドアをノックしてからここに入ったぜ正也、お前……どんだけ周り見えてなかったんだよ……」
「……そっか、悪い。いや、ちょっと考え事しててな……」
俺は、軽く顔を俯かせながら武司にそう返す。
武司はそんな俺をみて、呆れた様にこう言った。
「はぁ……正也、お前がそんなシケたツラばっかしてるから、今日は海未のやつも機嫌が悪かったぜ?」
俺は武司のその言葉を聞きながら、ことりの件が原因で、最近海未ともあまりまともに話せていない事に気づいた。
そう言えば……海未も海未であの日から少し様子がおかしい。
あの真面目な海未が、最近授業中にも関わらず物思いにふけっていて、先生に注意されることが多くなっていたのだ。
あの海未が授業を放っておいてまで悩む事なんて――よっぽど重大だ。
でも、恐らくは自分の所為なのだろう。あの日俺がしっかりしていなかったから……その所為で海未は悩むことになってしまったんだ。
本当に……らしくない。こんなんで『カッコいい男』って言えるのかよ俺……。
「海未がそうなるのも仕方ないよ……だって俺は、行動すべき時に行動できなかったカッコ悪い男だからな……」
「違うな。海未が怒ってるのはそんな過ぎたことじゃ無くて、今のお前に対してだと思うぜ? なんだよそんなにウジウジしてしやがって……女かお前は」
俯きがちな俺に向かって、武司はそう言って厳しい目を向ける。
「なぁ……だったら俺はどうしたら良いんだよ? 『カッコいい男』だったら、こんな時悩まずに、ことりの事をまっすぐ応援できるはずなのに……全くそれが出来ないんだ。本当に俺はどうしたら良いんだよ……」
「…………はぁ、これは海未の奴がイラつくのも無理ないわな」
その時、武司が俺の言葉に対して何か言ったように感じたが、その声はあまりに小さかったので、俺は殆ど聞き取る事が出来なかった。
「今、なんて言ったんだ武司?」
「いや、なんでもねぇ……ところで、そんなお前に良いニュースを持ってきてやったぜ? 俺は海未に頼まれて、例の漆山先輩の事を調べてたんだが……問題なかった。校内でアイツに関する黒い噂は一切聞かなかったぜ。
とりあえず、現時点で調べた結果としては、アイツは裏表ない
海未……武司にそんなこと頼んでたのか。
俺は少し驚きつつ武司に尋ねる。
「そうか……それは良かったんだが、なんでそれを俺に教える? 普通に海未に言うだけじゃダメなのか?」
「いや、何となく……だな。通りがかった時にたまたま生徒会室を覗いてみたら、陰気臭い奴が居たから、ついでに教えてやろうって思ってな……」
「そうかい……気を使わせて悪かったな武司」
「あと、先週の木曜日に学校フケて……あの日、親友のお前に対して何も出来なかった俺に対する……罪滅ぼしのつもりなのかもな。
じゃ、俺は行くわ……この調査結果を海未の奴にも伝えてやらないと」
武司はそう言い残して、生徒会室から出て行った。
「武司……お前は本当に良い奴だよ。こんな不甲斐ない俺の親友には、もったいないぐらいの良い奴だ……」
俺はそう呟いて、ようやく帰る準備を始めたのだった。
武司の情報は確実だ。本当に先輩は裏表ない良い人なんだろう……良かった、少しだけ安心できたかもな。
俺はそう思いながら、でも、未だモヤモヤする心を払いきれずに家に帰った。
※ ※ ※ ※ ※
「さって……少し情報集めるのに
生徒会室を出た後、武司は歩きながらそう呟いていた。
最悪、海未に電話であの漆山とかいう奴に関する調査結果を報告しないといけないかもな――と思いつつ、武司は心の中に何か引っかかる物を感じていた。
「確かに……この学校であの男に関して調べても、何も悪い噂は聞かなかった。
しかもその上、調べても出てくるのは、あの男の人柄の良さを裏付ける情報のみ……だから、あの男の人柄に関しては問題ないと思うが……」
……しかし、どうにもクサイ奴だ。
武司は漆山という男について、正也には“優男”だと言ってしまったが、なにか直感に近いような嫌な予感を感じていた。
確かに、漆山は校内で悪い噂は聞かないのだが……逆に悪い噂が
「これは……海未に報告してからも、この件……もう少し調べる必要がありそうだな」
―――黒い面が全く見えない人間ほど、信用できる人間からは程遠いのだから。
武司は調査続行の決意をしつつ、調査報告の為の電話を海未にかけた。
□ □ □ □ □
「じゃあ、ことりちゃん……今日はここまでだね、じゃあまた明日の朝に!」
「はい、今日は送ってくれてありがとうございました。また明日です……漆山先輩」
ことりはそう言って、帰り道で色んな所に連れて行って貰って、そして夕方になって家の近くまで送ってくれた先輩にお礼を言って別れます。
先週の木曜日から、今週の火曜日まで漆山先輩は、ことりが生徒会が終わるまでずっと学校に残って待っていてくれて、そしてことりの事を、色んな所に寄り道をしながら家まで送ってくれていました。
先輩のその気遣いは最近、正ちゃん達と顔が合わせにくくなっていたことりにとっては、とても助かっていました。
誰かとお話ししている間は、暗い気分にならなくても良くなるから……
「こんなつもりじゃ……無かったのに……」
ことりは、今日も正ちゃん達に冷たくしてしまった自分に、内心ガッカリしてしまいます。
でも、あの日から正ちゃん達に会ったら、ことりはどう接して良いのか分からなくて……
本来なら、穂乃果ちゃんと海未ちゃんと正ちゃんとことり……この四人でずっと仲良くいられる為に決めた事なのに――今はそれが逆に、私達の不仲を招いてるみたいで……本末転倒だなって……ことりは思っていました。
だからその思いを振り切るように、ことりは漆山先輩の事を知ろうと思いました。
高校にはスポーツ推薦がもう決まっていて、今は同じクラスの友達に勉強を教えているという事。
交友関係が広くて、他校にも友達が沢山いる事。
そして――家にいるお兄さんのお仕事をよく手伝わされているという事――これらの話を、漆山先輩は明るく、そして時には軽い愚痴っぽくことりに話してくれました。
「良い人……だなぁ……」
正ちゃん達と上手く仲直り出来なくて、少し落ち込んでいることりの事を気遣って、そして土曜日も日曜日も先輩は、わざわざことりの為に楽しい所に連れて行ってくれて……正直、感謝しかありませんでした。
だから、ついに迫った先輩の告白に対する答えの返答期日である明日の水曜日……ことりはとても悩んでいました。
この一週間で正ちゃんの事を頑張って割り切る為に、先輩は付き合っても構わないぐらいに良い人だっていう事がわかって……でも、いい人だからこそ、今の気持ちで付き合うって結論を出してしまうのも……本当に悪い気がして。
そんな思いを抱えながら家の前に着くと、そこには一人の人影が立っていました。
「やっと、帰ってきましたねことり……少し、私と話をしませんか?」
そこには――まるで、何かの覚悟を決めたような表情をして立つ、海未ちゃんが居ました。
□ □ □ □ □
ことりは海未ちゃんに連れられて、もう夕暮れ時で殆ど人が居ない公園まで来ました。
ことりは、今までここまで深刻な顔をした海未ちゃんを見るのは初めてで……きっと、先輩との仲を反対する話だって分かっているのですが、何かドキドキしてしまう心を抑えられませんでした。
「……ことりは……その………」
でも、海未ちゃんは公園に着いてすぐに何かを言うと思ったんですが……とても言いずらそうにして黙ったり、何かを話そうとして口を開いたりを繰り返していました。
――まさか
ことりは、何となくそんな海未ちゃんを見て、先輩との仲を反対するような事を話しに来たのではないという事を察しました。
それどころか……もしかしたら、ことり達の今までの関係を、決定的に変えてしまうかもしれないような事を……!
ことりは、そんな海未ちゃんが次に話す内容を聞きたくなくて、海未ちゃんに背を向け、必死で逃げようとしました。でも、そんなことりの姿を見て、海未ちゃんは逆に覚悟が決まったかのように、次の言葉を紡ぎました。
「……ことりもっ! 正也のことが……好きだったのですねっ……!!」
「―――っ!?」
逃げられませんでした。
海未ちゃんの言葉は、しっかりとことりの耳に届きます―――届いてしまいました。
「なんで……
ことりは別に好きな人居ないよ……じゃなかったら先輩のこともすぐに断ってるもん!」
つい、本音が漏れてしまいそうになった口を必死で閉じ、ことりは何とかごまかそうと言葉を紡ぎます。
「ごまかさないで下さいことりっ!
その反応を見て確信しました……ことり……私に遠慮して先輩とつき合おうとしてるのでしたら、そんな事は辞めてくださいっ!
そんな自己犠牲のような気持ちで、私と正也の仲を応援されたとしても……私はなにも嬉しくなんてありませんっっ!!」
次第に熱を帯びていく海未ちゃんの言葉……私はその言葉から逃げるように耳を塞ぎます。
「やめてよ……海未ちゃん……っ! ちがうもん……ことりは正ちゃんの事なんて好きじゃないもん……この話……もうやめて海未ちゃん……おねがぁい……っ!」
「いくらことりのお願いでも……今回は聞くことが出来ませんっ!
私だって……本当はこんな事……気づきたくなかったんです……! でもあの日……生徒会室から出て行ったことりの様子を見たら……気が付いてしまったんですから仕方ないじゃありませんかっ!」
もう駄目。
これ以上海未ちゃんと話していたら、ことりの今までの決意が無駄になってしまうような気がして……ことりはこの場から逃げる事を決意しました。
そう思って、ことりはその場から走って立ち去ろうとしました――その時、海未ちゃんはことりの手を掴んで引き留めます。
「ことりはっ……! 本当にそれでいいと思っているんですかっ!?
自分の想いから逃げて……そして私達からも逃げて……!! そうやって逃げた先に、ことりの幸せはどこにあるんですかっ!? ことりの今やってることは、“優しさ”なんかじゃありません!!
そんなのは……傷つくのが怖くて逃げてるだけの……ただの
そんな臆病者の理屈に……付き合わされている漆山先輩に、逆に悪いと思わないんですかっ!?
お願いです……ことり……! もう一度自分の想いに……正也への想いに向き合って下さい……っ!!」
海未ちゃんは、肺の空気を吐き切るかのように、ありったけの想いをことりにぶつけてきました。
でも……ことりは……
「海未ちゃんには……ことりの気持ちなんてわかんないよ……っ! ことりは……海未ちゃんや穂乃果ちゃんや……そして正ちゃんみたいに……そんな強い人間なんかじゃないもん!!」
「あっ……ことりっ!! 待ってくださいっ!!」
本当は海未ちゃんが言ってることの方が正論なのは分かってるのに……ことりは海未ちゃんの手を振りほどいて逃げだしました。
そして、そのまま自分の家に逃げこんで……ことりを心配するお母さんの声を無視しながら、自分の部屋に入って鍵をかけ、そして制服も着替えずにそのままベットの中に潜り込みました。
「もう……どうしたら良いのかわかんないよっ……! 教えてよ、穂乃果ちゃん……正ちゃんっ……!」
ことりは泣きながらベットの中で、いつでも自分の事を引っ張って行ってくれた二人の名前を呼びます。
臆病者――そう海未ちゃんに言われるのも仕方ないのかもしれません。
自分の想いに素直でいたら――いつか、それが海未ちゃんと穂乃果ちゃんを悲ませてしまう結果になるかもしれないのが怖くて逃げて――結局は、私は誰も傷つけたくないだけの臆病者……。
いつも強くて正しくて――凛としてカッコいい女の子の海未ちゃん
元気いっぱいで、ことりたちの事をいつも引っ張って行ってくれる穂乃果ちゃん
そして――『カッコいい男』になるって言って、時々色んな失敗を繰り返しながら――それでも人より一杯努力して、目標に向かって進むのをやめない正ちゃん
みんな……ことりよりも凄くて、とっても強い――私の自慢の幼馴染で親友。
だから、良く考えたら……ことりみたいに弱い女の子なんて、正ちゃんにはふさわしくないよね――?
よし……やっとことりが正ちゃんを諦める理由がちゃんと見つかった――ことりはそう思って、正ちゃんの事を割り切ろうとしました。
―――え? そんな事ないだろ? ことりは強いって……だってさ、そんな風に自分が弱いって事を認めて、向き合う事が出来るのも……立派な“強さ”だって思うから!
―――む、まだ信じてないって顔だなことり……いいか、ことり……お前も強いっ! 俺達に負けないぐらい、強い女の子だって!
「―――っ!! 今そんな言葉思い出さないでっ……!!」
でも、ようやく見つけた諦める理由も……正ちゃんがことりにくれた沢山の言葉が、それを全て否定していきます。
「もう……嫌……どうしよう……どうしたら良いの? わかんないよ……正ちゃん……っ!」
ことりは――もう今夜は眠れそうにありませんでした。
■ ■ ■ ■ ■
「今日……かぁ……」
今日は水曜日……いつも通り一人欠けた寂しい三人での登校に、半ば慣れつつある自分に苛立ちを覚えながら学校に着いて――
そして、そのまま流れるように時は過ぎて放課後――俺はまた一人で、生徒会室内で物思いにふけっていた。
この日はラッキーな事かどうかは分からないが、生徒会の仕事が殆どなく、だから俺は本日の業務を一人で引き受けることに。
その旨を三人に伝えると、穂乃果と海未の二人は俺に何か言いたいことがあるみたいだったが、俺が『心配いらない』と言ってゴリ押しすると、しぶしぶ俺の意見に従って帰ってくれた。
しかし、そんな中ことりは何故か帰らずに、そのまま立ったままでいて――
そして、ことりは小さな声で俺にこう言った。
『今日……だよ?』
俺は驚いた。だって……今までロクに話もしてくれなかったのに、先輩に告白の答えを返す期日になって、ようやく俺に話をしてくれたのだ。
でも、俺はそんなことりに、自分の想いを全然整理なんて出来てない俺は、また……何を言ったらいいのか分からなくて。だからそのまま、また黙ったままでいた――いてしまった。
『……ごめんね……何でもないからっ……!』
だから俺は、そう言って悲しそうに走って去ってしまったことりを見て――最早自分に、軽く失望さえも覚えてしまった。
「何やってんだよ……俺は……!」
俺は一人になった生徒会室でさっきまでの情けない自分を思い出し、叫びだしたい思いを噛み殺しながらそう呟いた。
――こんなの違う……俺の目指す『カッコいい男』って……こんな弱い人間なのかよっ!
いつも迷わず、真っすぐ自分の意見を言えて――
誰からも頼られるような立派な存在で――
辛い時も苦しい時もいつも笑顔で、みんなに心配なんてかけなくて――
どんな事があっても、自分の感情に乱されることなく、いつもクールで――
そして――親友の幸せは素直に祝ってあげられるような……そんな存在で!!
でも、そう思っても今の俺は、そんな存在とは程遠いっ!!
なんで……なんでこうなっちゃうんだよ……俺、本当に最悪だ……
「わかった……わかったよ……もういいんだ、このままで……だって、先輩だって悪い人じゃないし、反対する理由だって……ハッキリしたものは無いし……だから、あとは俺が悩むのをやめれば良いだけなんだ……」
そうだ……そうだったんだよ。『カッコいい男』になる為には、こんな
――心を殺せ
――頭で考えろ
――理性のみで動ける人間になれ
そうすれば……きっと俺はこんなに悩む必要なんてないんだ。
俺は、そんな決意を固め始めた―――その時だった。
「正ちゃん……まだ居たの?」
その声に反応して、机の上で俯いていた顔を上げると、そこにはさっき帰ったはずの穂乃果がいた。
俺はふと窓の方を見る。すると、もう日がすっかり傾いていて、俺はここでずっと長い間考え事をしていた事に気が付いた。
俺は、こんな時間にわざわざ生徒会室まで戻って来た穂乃果の意図が気になって、穂乃果に尋ねた。
「穂乃果は……なんで戻って来たんだ?」
「私は、正ちゃんにやっぱり話があってきたんだ」
穂乃果は、そう言うと俺をしっかりと強い
――ああ……これは穂乃果お得意の、何を言っても聞かない……真っ直ぐな
俺は穂乃果を見ながら、そんな事を考えていた。
「正ちゃん、私はやっぱり……ことりちゃんが今のままで居たら良くないって思う!
付き合うってどんなものなのか、穂乃果にはまだハッキリわかんないんだけどさ……でも、絶対今のことりちゃんみたいに、毎日悲しそうな顔しないといけない事とは違うって事ぐらいはわかるよっ!」
「穂乃果……?」
穂乃果の口から紡がれるは、ハッキリとした強い意志。
それは、何があっても挫けないと決めた……何度も俺達を引っ張って行ってくれた
「それに……正ちゃんだってそうだよ! 毎日毎日ずっと考えこんで……何にも行動してない!
どうしたの正ちゃん? らしくないよ……穂乃果にとっての正ちゃんは、いつもやる気と元気は人一倍で、悩んだら考えこんでばっかりじゃなくてすぐに行動できる――穂乃果の自慢の親友だもん!」
穂乃果の想いが伝わる。きっと穂乃果もこの結論を出すまでに、今日まで穂乃果なりに、いっぱい悩んでくれたんだろう……。
だって……今こんなにも俺に勇気と元気をくれているんだから。
「だからっ……そんな風なことりちゃんと正ちゃんの事は、もう見てられないからっ……! だから、正ちゃん……私から“依頼”があるの」
俺は穂乃果が言った言葉に、不意を突かれたように驚く。
だってそれは……俺が、みんなからカッコよく頼られる生徒会長になる為に、一人で勝手に始めた事だったからだ。
「依頼って……まさか穂乃果、知ってたのか?」
「知ってるよ……正ちゃんは生徒会長になってから、学校のみんなのお願いを色々聞いて回ってるんだよね? だから――今回は穂乃果からの依頼!
――正ちゃん!
「俺が……一番やりたい事?」
「そうだよ正ちゃん! 穂乃果にはわかるよ……正ちゃん、ことりちゃんに何か言いたいことあるんだよね?
ねぇ、正ちゃん……正ちゃんが目指してる『カッコいい男』っていうのは、自分の想いを押し殺して、自分のやりたい事をやらない人の事なの!? そんなの絶対間違ってるよ!
だから……もうカッコよくなくても良いから……正ちゃんの一番言いたい事をことりちゃんに伝えてあげて……きっと、ことりちゃんはその言葉を待ってると思うからっ!!」
俺が、ことりに一番伝えたいことは……
―――正ちゃん! 演劇部の人から貰った衣装を手直ししてみたの、きっと正ちゃんに似合うと思うから着てみて……おねがぁい!
―――見て見て、クッキー焼いてみたの……今回はことりの自信作っ! きっと美味しいと思うからみんなで食べてっ!
―――泣いてるよ正ちゃん……大丈夫? うん……わかった。正ちゃんが話したくないなら、ことりは何も聞かないから……だから、せめて正ちゃんが泣き止むまで、ことりが傍に居てあげるね……
決まってるだろ……そんなのっ……!!
穂乃果の言葉で次々に記憶の海からあふれ出ることりとの思い出。その暖かな言葉に背を押されるように決意したその瞬間、俺の頭の中でずっと渦を巻いていた霧が、一気に晴れるのを感じた。
カッコいいとか――カッコ悪いとか――もうそういうのは、今だけは考えないっ!!
正直、上手く言葉にならないけれど―――でも、今はただこの
「ありがとう――穂乃果……なんか俺、吹っ切れたわ」
「正ちゃん……うんっ!」
穂乃果は、目に涙を滲ませながら笑顔で頷く。
本当……穂乃果、お前はスゴイよ――俺の足が止まってしまいそうな時は、いつも穂乃果が俺の手を引っ張って行ってくれる。
今日、穂乃果がここに来てくれていなかったら、きっと俺はとんでもない間違いを犯してしまっていたかもしれなかった。
――ありがとう、穂乃果。
だから俺は、そんな穂乃果に……多分穂乃果が一番見たかったと思う、俺の最高にカッコつけなセリフと笑顔を決めて、こう宣言する。
――え? 無駄なカッコつけだって? 良いだろ――だって、今から最高にカッコ悪いところをことりに見せるんだからさ――せめて今だけはカッコつけさせろよ。
「穂乃果……俺の目を覚まさせてくれてありがとう……!
その依頼――この
――――明日は、ちゃんと“4人”で学校行こうぜ! 穂乃果!」
「うん……うんっ……! ファイトだよ……正ちゃん!」
穂乃果のその言葉を聞き、俺はことりの元に向かうために生徒会室から走って出る。
「待ってろ……ことりっ!」
ことりにどう思われようとも、俺の本心をそのまま伝えに行くために……一週間前に、ことりに伝えようと思って、結局伝えられなかった言葉を届ける為に。
※ ※ ※ ※ ※
「正ちゃん……良かった……今の正ちゃんなら、きっと大丈夫」
正也が出ていき、一人になった生徒会室で、穂乃果は安心そうに呟く。
「結局、私の言いたかった事は、全部穂乃果に言われてしまいましたね」
――
生徒会室の入口より、そう言いながら海未が穂乃果の元に歩み寄る。
「あー……見てたんだ海未ちゃん。あはははは……恥ずかしいなぁ……」
「――でも、正也の背中を押して、本当に良かったんですか穂乃果?」
海未は、穂乃果に対してそう問いかける。
その目は……本来なら恋敵であるはずのことりを手助けして、本当に良かったのかという疑問の色をのぞせていた。
そんな海未の目を見て、穂乃果は海未の言いたいことを悟る――悟ってしまう。
「――ああ、やっぱり海未ちゃんも……
「――確証は無かったんですが、その反応を見ると、穂乃果も……なんですね」
互いの
でも、その後少しの沈黙の後、穂乃果はしっかりと海未の目を見つめ、明るく笑ってこう言い放つ。
「海未ちゃん……穂乃果はね、正ちゃんの事は好きだけど……でも、海未ちゃんとことりちゃんの事も大好きなんだ。
だから……出来る事ならみんなで納得できるような、そんな終わり方が良いって思う!
ことりちゃんだけを悲しませちゃう……こんな終わり方なんて、絶対嫌だから!
だから、もう一回ことりちゃんに会って、我慢しなくて良いんだよって……でも負けないよって……言ってあげたいから!」
「――流石、私達は幼馴染ですね……私も、穂乃果と同じです」
そして、スッキリとした笑顔の二人の想いは……やがて一つの結論を導きだした。
それは、この世で最も優しい――恋の宣戦布告。
「よしっ! そうと決まったらさっそく穂乃果達も、ことりちゃんを探しに行こう!
正ちゃん一人だけに任せておく訳にはいかないからね!」
「はい! 先に見つけたら、私達が先輩の手からことりを奪い取ってやりましょう!」
「そうそう! 『ことりちゃんには、もう既に心に決めた人が居るんです!』って言ってやろう!」
そう言って二人は、生徒会室から出ようとした――その時。
「はぁっ……! はぁっ……! 穂乃果っ、海未っ……! 正也の野郎はいねぇか!?」
生徒会室の入口から息も
「ど、どうしたの
「武司っ!? どうしたんですか!?」
そんな尋常でない様子の武司に、急いて駆け寄る穂乃果と海未。
そして、武司はそんな二人に対して口を開く。
「そうだ……お前らでもいいじゃねぇか……焦んなよ俺っ……! 穂乃果っ! 海未っ! 早くことりのやつを探せっ!」
「う、うん……! 今から探しに行くつもりだったよ武ちゃん?」
「じゃあ、急いで探せっ!! すまんっ……海未! この間、あの野郎について調べたのは、全部間違いだったっ!!」
「武司……一体、漆山先輩の何が分かったっていうんですか!?」
「ああ……畜生っ! いいか、よく聞け……あの野郎は………!」
そうして、武司は漆山という男について、判明した新たな事実を二人に伝えた。
それを聞いた海未と穂乃果は顔を一瞬で青ざめさせ、急いて武司と共にことりを探しに走る――
―――そして、ことりの迷いから始まったこの事件は、様々な想いを巻き込みながら……ついにクライマックスを迎えようとしていた。
ここまで見て下さり、ありがとうございました。
では、ここで新たに評価をして下さった方々に、感謝の意を述べさせて頂きます。
西部荒野に彷徨う海賊さん、カタクラさん、山本36さん、塩釜HEY!八郎さん、ヌールさん
以上五名の方、本当にありがとうございました!
また、感想を書いて下さった方や、お気に入り登録して下さった方にも心からの感謝を……
では、誤字脱字、意見や感想などございましたら、是非感想欄にお願い致します。