大老殿。
中央の玉座には巨体という言葉では言い表せないほどの巨躯を持った大長老が大きな椅子に腰を下ろしている。立ち上がれば大型モンスターを見下ろせるほどの体躯の大長老。彼がこのドンドルマの政を執り行っている。
荘厳な造りの石柱が連なり、中央に玉座、左手にクエスト受付場、右手には販売店があり更にその奥にはテーブルと椅子、そして様々なクエスト地点へと向かうための飛空艇の発着口が並んでいる。空は快晴。
「ひさびさに来たなぁ…懐かしいや。」
大長老への挨拶を済ませた後、どこか寂しそうな口調のMoonに気付いたのかSaiはやや上ずりの口調で「う、うわーー空が青いなぁーーー!」と場の雰囲気を和ませようと必死だ。Moonは小さく笑うと「ありがとな。」とSaiに微笑んだ。JUNはMoonの肩を優しく叩き、ハットを深く被ると「受付を済ませてくるよ。」と受付のカウンターへと向かい、竜人族の受付嬢に声をかけた。受付嬢はJUNのことを覚えていたらしく、切れ長の瞳で彼を捉えると小さく手を振る。
「あら、お久しぶりね、JUNさん。」
「お久しぶりですね。」
「ハンターを引退したって聞いたのだけれども、勘違いだったのかしらね。」
「今は名探偵をやっています。」
「…あまり自分を【名探偵】と呼ぶ人を私は知らないのだけれども、まぁ、置いておくとしましょう。それで、今日はどんな御用かしら?」
「この場所で貴女の前に私がいる。意味するものは一つでしょうね。」
「…JUNさんはいつまでたってもJUNさんね。…では、クエストを紹介するわね。」
クエストの受付嬢はカウンターに置かれた数千ページを超える辞書ほどの厚みを持ったクエスト紹介リストに目を落とす。白く細い指が流れるようにページを慣れた手つきで捲っていき、JUNが好みそうな現在受注可能なクエストを見つけ出す受付嬢。どういう経緯で仲良くなったのかは不明だが、この受付嬢はJUNの多くを知っているようだ。
指を止め、開いたページを指差す。
「これなんてどうかしら?JUNさんの好きな獄狼竜と黒狼鳥がメインターゲットよ?」
JUNは首を横に振ると、最近更新されたばかりの真新しいクエストの欄までページを飛ばし、数日前聞いたばかりのそのクエスト名を見つけると人差し指に弾くように2度そのページを叩いた。
受付嬢は小さな口を押えながら、驚きを隠せない様子だった。
クエスト成功率0%。未だ成し遂げられたことのないクエスト。
「【覇たる日輪に見ゆるは羅刹か黒き咆哮か】。今日はこれを受けるとしましょう。」
「…JUNさん…!あなた…っ!」
心配そうに見つめる受付嬢にJUNはハットを指で押し上げてニヒルに笑んだ。
「狩りから戻ったら、昔みたいに緑茶を煎れてもらえますか?」
「…残念だけど…。」
「おや…既に思い人がいましたか、これは失礼。今の言葉は忘れてください。」
「そうじゃないの。私は今でも…。でも…」
「…でも?」
「JUNさん、クエスト条件を満たしてないと思う…。」
受付嬢はクエスト帳に置いてあるJUNの手を両手で上から握りしめるとJUNの手を持ち上げる。
クエスト名や依頼主、メインターゲット等記載された下の欄に受注・参加条件というものがある。それを指差す受付嬢。
受注・参加条件
G級特別許可証の所持 及び 旅団に所属していること
旅団とは、気の合う仲間や師弟関係の者達が徒党を組み組織とした集団のことである。今も昔もJUNはどの旅団にも所属していなかった。そんなものに入らなくてもSaiやMoon、那由多たちとは毎日狩りに出かけていたし…と、そこまで思ってJUNは記憶を更に昔まで巻き戻す。Saiの自己紹介、Moonの自己紹介、那由多の自己紹介をそれぞれ思い出した
「【Star Of Fortune】旅団所属のSaiです!!今日からあなたのことを師匠と呼んでいいですか!!?」
「【毒物ショコラティエ】旅団所属のMoonでぃーす。JUNさん、だっけ?強いね。今度一緒に狩りなんてどう?」
「【ほぇ♪ほぇ♪ぐるーみんぐ☆】旅団所属の那由多だよ~♪ジエンさん、一緒にぽやぽやしよぉ~♪」
(…みんな枕詞の様になんとか所属とか言っていたな。あれか。)
「JUNさん、旅団…入ってた?」
「…ちょっとそこに小銭を落としてきたみたいなので、拾ってきます。話はまた後で…。」
親指で後ろを指しながら後ずさりをしようとしているJUNだったが、JUNが苦し紛れに指差した方向はどう贔屓目に見ても大長老の股の下だった。
JUNの隠しきれていない同様を当たり前のように察知すると、カウンターに頬杖を付きながら「ごゆるりと。」と微笑む受付嬢だったが、JUNの姿は既にそこには無く、やや離れたところでMoonを囲んでいるSaiたちの元へと走り去っていた。
「し、師匠?どうしたんですか?なんだか顔が赤いですけど…?」
「そ、そんなことはないさ。それよりも旅団に加盟していることが条件らしいね。あのクエストは。私はどこにも所属していなかったから、よく分からないんだけれど。適当にその辺の旅団に所属してしまっていいのかな?」
「ヒーロー、さすがにそれは無理じゃないか?旅団長の許可が必要だから。」
「ん~…クエスト受注前から事件は闇の中、かな。」
さすがに誰もがJUNが旅団無所属だったという事実を忘れていた。
しばらくの間。
「ヒ~ロ~が旅団長で作っちゃえばいいんだぁ♪私入るよぉ♪」
一斉に上げる「あっ…」の声。
そこからはテーブルで会話をしていたワトソンとエアリスも加わり旅団名を決めるため4人もテーブルに着いた。
あそこまで格好つけておいてまさかの受注不可能だったことで、顔から火が噴き出るかと思ったJUNだったがなんとか平静を取り戻し、会話を切り出した。
「旅団名か…ふむ…何がいいだろう?【May Tune Tea】とかかな。」
「えぇと、師匠。めいたーんてぃーって何ですか?」
「Saiさん、ごめんニャさいニャ。ウチのご主人はたまに正気かどうか疑いたくニャるときがあるニャ。」
「私は何でもいいよ、ヒーローが付けたい名前ならなんでも。私らも結局現在は無所属だし、そのままヒーローが作った旅団に所属すりゃ受けられんだろ、そのクエスト?」
「私もMoonと同じぃ♪ヒ~ロ~にお任せぇ♪」
「ヒ~ロ~ニャ~♪」
決定打のない会話はしばらく続くものかと思われたが、思わぬ人物が呆気なく解決することとなる。テーブルの上を鼻歌混じりにクルクルと楽しそうに回るように踊るピンク色のアイルー、エアリスだった。
突起物も何もない場所で足を滑らせその場にコロンと転び、旅団名がまとまらずに腕を組んでいた全員の注目を浴びたエアリスの憎たらしいほどに楽しそうな一言が全てを決めた。
「ところでヒ~ロ~って誰ニャ?まぁいいニャ♪私から見たらみんな英雄(ヒ~ロ~)ニャニャニャ~♪」
数分後、クエスト受付嬢の横に座る旅団関連を取りまとめる受付の前にJUNは立っていた。いささか、否、かなりその場から逃げ出してしまいたい衝動に駆られながら新設旅団申請用紙を受け取ると、JUNは自分の名前を旅団長に記載する。
「Hero」旅団はこうして産声を上げる。
彼らを待ち受けるものはただ一つ。
【覇たる日輪に見ゆるは羅刹か黒き咆哮か】。