全身を紅蓮に染めたアカムトルムの咆哮とともに地響きが鳴り響く。
大地はその怒号に呼応するように割れ、その隙間からマグマが勢いよく噴き出してきた。
Moonと那由多はそれぞれの得物を構え直す。
Moonの銃槍が放熱していたバレルの冷却を終えたため、ガチャン!と歯切れ良い音と共に剥き出しとなったバレルをマズル側にずれていたバレルカバーが覆う。竜撃砲が再度撃てるようになったサインである。Moonはニヤリとほくそ笑むと叫ぶ。
「那由多!こっちの準備は完了だ!あとはSaiさんたちの準備が整うのを待つだけだな!」
「あ~い♪」
Moonは、SaiとJUNを視線で追う。既にSaiは大袋から作戦の要となるそれを取り出している。細いロープだった。
ロープには一定間隔で瓶が括り付けてあり中には蛍光色の強い黄緑色の液体が溶岩の赤を反射して更にその鮮やかさを増して揺蕩っている。Saiは矢の本矧(もとはぎ)と呼ばれる羽の根元部分にそのロープをきつく縛りつけた。
JUNもSaiに追い付くと弾を装填し、お互いに見合うと頷く。
JUNは矢に取り付けられ未だ袋から伸びている三メートルほどのロープを袋から出し切りそっと地面に置くと、軽弩をMoonと那由多の足元目掛けて構え放つ。勿論それはMoon達を狙ったものではなく、準備が整った合図を知らせるものだ。
「師匠、準備完了です!!」
JUNの放った弾がMoonたちの足元前方に突き刺さり、それに気付いたMoonと那由多はその弾を見るとJUN達の方を振り返る。
JUNはMoon達に手を軽く振っており、Moonは合図の返事である砲撃を上空目掛けて放つ。それを見たSaiはロープのついた矢を限界まで引き絞る。
「あちらも準備は完了したようだ。第二段階へと突入するとしようか。」
砲撃の轟音を体で感じながら、JUNは静かに言い放った。
「那由多、第二段階へ突入するぜっ!」
「よ~~~し♪じゃあ…」
「一時撤退!!」
「逃っげろぉ~♪」
同時に声を上げると、一目散にSaiとJUNのいる地点までアカムトルムに背を向けて全速力で駆け抜けた。
怒り狂ったアカムトルムがそんな二人を追わないはずもなく。
地響きを鳴らしながら一歩、また一歩とその距離を詰めて行く。
怒りに身を任せてMoonと那由多を追っていたアカムトルムは知らない。その先にSaiが、JUNが待ち構えていることを。
完全に自力では動かすことの出来なくなった下顎を地面に引き摺りながら、それでもなおMoonと那由多を丸呑みにしようとした瞬間だった。
「この一矢に全身と全霊をかけてっ!」
Saiの放った矢は鋭く空を裂きながら地面でとぐろを巻いたロープを率いてアカムトルムの大口の中へと姿を消す。
喉元深く突き刺さった矢に溜まらず、その場で甲高い悲鳴を上げて立ちすくむアカムトルムだったが、数秒後にはその場で倒れ込んだ。
Moonは大地目掛けて斜めに銃槍を突き刺し、竜撃砲のトリガーを引くとJUNの名を叫んだ。
「ヒーロー!!行けるぜ!!」
「承知っ。」
JUNがフルーティング(銃槍の柄部分)に飛び乗り、曲芸よろしく片足でバランスを取りながらしゃがんだことを確認するとMoonはトリガーを離し、同時に自らも銃槍を手から離した。地面からくぐもった高音を放ち、数秒後勢い良く地面から空中へと発射される銃槍とJUN。竜撃砲の反動を利用して上空高く舞い上がるとJUNはアカムトルムを冷たく見下ろす。
「名探偵、イン・ザ・スカイ。」
渋い声で決め台詞のように素っ頓狂な言葉を吐きながら、アカムトルムのやや上をアーチ状に飛び越えながら、限界ギリギリまで装填した貫通弾を全弾その背中目掛けて速射し、アカムトルムの背中をその鮮血で更に赤く染めていく。
JUNは全弾撃ち尽くすと空中で一回転して体勢を整え、静かに着地し誰に言うでもなく呟く。
「第二段階、完了。」
この第二段階とはアカムトルム討伐のことである。
ロープに巻き付けた瓶の中身は臨界極まる粘液であり、この粘液は宿主を離れ、地形などに付着すると爆発を起こす。その特性を利用して瓶の内側には宿主であるブラキディオスの体液が塗り込まれており、その状態では爆発することがないMoon特性「爆撃瓶」という代物である。
その「爆撃瓶」を万が一にも避けさせずにアカムトルムの体内に確実に送り込ませるために那由多は下顎を破壊し、Saiは確実に「爆撃瓶」をアカムトルムの口内へと射込んだ。
Moonが背中に砲撃を繰り返したことにも理由があり、JUNが空中から撃ち込んだ貫通弾が確実にアカムトルムの体内を「貫通」するために背中の硬い鱗を破壊しておく必要があったのだ。
JUNはSaiの撃ち込んだ矢がどこに刺さったのかを洞察し立体的に位置を考察した後で、上空からアカムトルムの中に取り込まれた「爆撃瓶」を射抜く。
それが意味することは、「爆撃瓶」によるアカムトルムの内部爆発だ。
アカムトルムは甲高い奇声を発しながらのたうち回る。
口から黒煙や血を吐きながら必死にもがいていたが、やがて大きな音を立てて倒れ込むと動かなくなった。
アカムトルムの討伐を確認すると四人は勝利に酔いしれるわけでもなく、次の作戦へと移行する。
「Moonさん、すぐに戻り玉を。アイテムボックスからアレを。」
「了解っ!」
Moonが腰から下げた小さな袋から拳サイズの玉を取り出すと、地面に勢い良く投げつけた。玉は上空に向けて緑色の煙を上げる。
もどり玉は人知を超えた発明で瞬時に使用者をベースキャンプに運ぶための奇跡染みた発明品ではなく、ギルドに雇われ現地にて待機しているネコタクシー、通称「ネコタク」と呼ばれるアイルーの集団がその煙を察知して使用者をベースキャンプへと連れて行ってくれるアイテムである。そのため、煙をアイルーたちが感知するまでに若干のタイムラグがある。
今回はこの煙とタイムラグが大きな要因となってしまった。
「Moonさん、うしろ!!!」
煙に巻かれながら、Saiの悲鳴に近い叫び声を聞いたMoonは言われた通りに後ろを振り返った。その瞬間、丸太のような図太い腕がMoonに襲い掛かる。
煙が死角となって発見の遅れた金獅子ラージャンはMoonの後ろから現れ、一瞬にして距離を詰めるとMoon目掛けてその剛腕を斜め上に振り上げたのだった。
咄嗟に銃槍を持ち上げて直撃を免れたつもりだったが、銃槍はいとも簡単にひしゃげ、銃槍を構えた腕ごと完膚なきまでに粉砕した。自らの骨が砕ける音をMoonは初めて耳にした。まるで紙屑を投げ捨てるようにMoonの体はその圧倒的な膂力で空高く吹き飛ばされた。
(なぁんだ…戻り玉じゃなくてもベースキャンプ戻れるじゃん…。作戦を…続け…なきゃ…。)
空へ勢い良く舞い上がりながら、朦朧とした意識の中でそんなことを考えていたMoonだったが、そこで静かに意識を失った。
「っ貴様ぁぁ――――――――――っ!!」
Saiが目を真っ赤にしながらラージャン目掛けて矢を放つ。矢は鋼のように硬化したラージャンの腕に直撃したが、矢尻を歪な形に変形させて地面へと空しく落ちた。
それでも止める事無く矢筒から矢を引き抜くと恐ろしい速度で乱射するが、滲んだ瞳ではその目指す的を射ぬこと難しく。
「那由多君っ!!急いでもどり玉をっ!!」
JUNの叫び声が響くが、那由多は放心状態なのか大剣をその場に落として佇んでいた。
那由多の反応を見たJUNが舌打ち一つ。
「Saiさん!!私は一旦ベースキャンプに戻ります!!ラージャンを牽制していてください!!那由多君を頼みます!!」
怒号に近いJUNの叫び声を聞き、Saiは「わ゛がり゛ま゛じだぁ゛――っっ!!」とほぼ号泣に近い状態で矢を射ながら答える。
遅ればせながらやってきたネコタクアイルーたちは状況が分からず立ち竦んでいたが、JUNの怒号を聞くと蜘蛛の子を散らすように岩穴へと逃げ込んでしまった。
その様子を尻目にもう一度舌打ちを打つJUNは、ポケットからもどり玉を取り出し、地面に叩き付けようと振り上げたとき、目の端で黒く蠢くそれを捉えた。
ティガレックス亜種だった。
ティガレックス亜種は、JUNたちを発見すると地を這うように走り込みJUNに飛び掛かってきた。
「くそっ!こんな早く登場とはねっ!!」
戻り玉を投げ捨てると、軽弩を構えてティガレックス亜種の頭部目掛けて放つ。
直撃はしたものの高揚しているせいか照準が狂い、ティガレックス亜種への致命傷には至らない。
放心状態の那由多とティガレックス亜種を少しでも距離を離すようにJUNは興奮冷め止まぬ脳を無理矢理にでも回転させて、ティガレックス亜種の視線を自分へと釘付けにさせることで精いっぱいだった。
Saiは涙を拭いながら矢を番え放ちラージャンとの距離を縮めてJUNの指示をなんとか忠実にこなしている。
那由多は何かをぶつぶつと呟きつつ、ふらふらと覚束無い足取りでMoonが吹き飛んでいった方角へと歩いている。
ラージャンとティガレックス亜種の咆哮が溶岩島を響(どよ)もした。
戦いはまだ終わらない。