Hero   作:Gさん

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「思考の輪舞曲」

ネコタクに揺られながら、どうやってMoonが瀕死の重傷を負っても尚戦線に復帰することが出来たことや、那由多が戦闘中の記憶がところどころ途切れていること、冷たい紅茶をみんなと楽しみたいこと、クリア出来たことを心から感謝していることなどを語り合い、4人はベースキャンプへと戻る。

戦闘終了の狼煙を上げ、あとは飛空艇を待つだけとなった。

その場にゆっくりと座り込みベッドにもたれかかりハットを被り直すJUNが溶岩の照り返りで真っ赤に染まった空を見上げた。

 

「ようやく…第一のクエストクリアだね。」

 

「これが第一ということは、第二第三第四とかもう地獄しか待ってない気がすんだけど…。」

 

「…ははは…Moonさんは流石にそれは…ははは…」

 

「【カジキマグロ2万匹釣れるかな?】とかかなぁ♪」

 

「5匹吊り上げるクエストで、猛毒袋を池に流し込んで死んだカジキマグロを拾って納品した私には楽な作業だな!クエスト失敗になったけど。」

 

「…Moonさんの心の闇は深いね。」

 

「深い、です…。」

 

「闇落ちむ~~ん♪」

 

冗談を言いながら思い思いに真っ赤な空を見上げる。

遠くには飛空艇がこちらに向かっているのが分かる。

アイテムボックスからナルガが顔を出して、Moonの様子を伺っている。

それに気付いたMoonはナルガに手招きをした。

 

「相棒、終わったからこっちに来いよ。」

 

無言でMoonの傍に寄ったナルガだったが、Moonの手の届く距離まで近づいた瞬間にMoonに強引に抱き寄せられジタバタと暴れている。

 

「照れんな、照れんなって。お前のおかげで勝てたんだ、ありがとな。」

 

何かナルガが言おうと口を開いたのだが、Moonがきつく抱きしめたせいで「グニャッ」と声を上げてからは成すが儘となっている。恥ずかしそうだが、まんざらでもないのかそれを拒否する様子もない。

JUNがガラス瓶に入れて持ち込んできた温くなっている紅茶を携帯用の木製コップに注ぐ。

 

「ところで、ナルガ君はどうやってここに?」

 

「ニャ。なんかJUNさんみたいニャ赤い帽子をかぶった白いヒゲ生やしたおっちゃんが連れてきてくれたニャ。」

 

「白いヒゲ?」

 

「ウニャ。ご主人サマを助けたいと言ったら、お前さんニャら出来る出来る!って言って連れてきてくれたニャ。」

 

「…ひょっとしてそれって!!」

 

Saiが体を乗り出して会話に割り込み目を爛々と輝かせている。

 

「彼らかもしれないね…。」

 

「ニャニャ?」

 

嬉しそうに再び空を見上げるJUNとSai。

飛空艇は先程よりもこちらに近付いているため、その大きさが徐々に膨らんで見える。

 

ワトソン達と合流した4人は飛空艇に乗るとすぐに眠りに落ちた。

それだけ精神と肉体を切り詰めた戦いだったのだろう。

飛空艇が揺れようが、エアリスが上機嫌で歌おうがまるで反応することなく死んだように眠った。飛空艇がドントルマの発着所に到着し、寝ぼけ眼を擦りながら帰ってくるJUNたちを迎えたのは、JUNを良く知る竜人族の女性だった。

カウンターでそわそわしながらJUN達の姿を見るとやや小走りでJUN達の元へと向かうと自己紹介などを済ませたワトソン達アイルー組に会釈をすると通り過ぎてJUNの元へと向かってきた。

 

「JUNさん、おかえりなさい。」

 

「ただいま戻りました。」

 

「あのクエストを達成するなんて、やっぱりJUNさん達は凄いわ。ただ…」

 

「ただ…?」

 

両手を胸元で組みやや視線を下に見やりながら困った表情をする竜人族の女性の顔を見つめながら、JUNは促す。竜人族の女性はそれに気付き、ハッと驚いたようにJUNの顔を見て苦笑した。

 

「実は、第二のクエストは第一のクエスト達成後すぐに行われるの。」

 

「…ははは…えっ!!??」

 

「ごめんなさいね、JUNさん。そういうわけだからこれを受け取ってほしいの。」

 

二つの眼を見開いたまま茫然と立ち尽くし、手をだらんと下げたJUNの片手に竜人族の女性は持っていた紙を捻じ込むように握らせると申し訳なさそうに顔をしかめた。

 

「これが第二のクエストの内容よ。でも、今すぐ出発というわけじゃないの。」

 

「・・・」

 

「依頼主が変わり者でね、ちょっとした難問を用意したらしくて…。」

 

「・・・」

 

「そこに書かれた暗号を解いた者こそクエストを受ける権利があるって…聞いてる、JUNさん?」

 

「あ、はい・・・」

 

「そういうわけだから、私は何もしてあげられないけれど、頑張ってね、JUNさん。ちなみに受注期限は明日のこの時間まで。それまでに答えられなかったら、残念だけれどもクエスト失敗になるわ。」

 

「そう・・・です・・・か・・・。」

 

「もう一度第一のクエストを受けてもらわないと第二のクエストを受けることは出来ないから気を付けてね。」

 

JUNと何か所縁のある女性とのやり取りだったので口を挟めなかったSai達だったが、JUNの様子が明らかに硬直したまま動かない状態であり、かつ竜人族の女性が去って行ったのを確認するとそそくさとJUNの方に取り囲む3人。

3人とも先程までの疲れも吹っ飛んだように生き生きとした顔でJUN達の会話内容を聞こうと躍起になっている。これが女性というものなのか、と思考が定まらないままJUNはふと思った。

JUNが手にした紙を見つけ、Moonは驚愕としながらその手を指差す。

 

「お、おい、Saiさん、これは世に言う…。」

 

「こ、こいぶみですか!?」

 

「ラブレタぁ~♪」

 

キャーキャーと甲高い声が大老殿を響き、大長老が咳払いを一つ。

周りの衛兵たちも冷たい視線をこちらに向けていることに気付き、JUNは小声で竜人族の女性が伝えた内容を皆に伝える。

 

「はぁ!?ひ、ヒーロー!ちょっとその紙見ようぜ!あれもう一回とかありえねぇから、マジで!」

 

「そうだね。とりあえずは見てみよう。」

 

JUNは折りたたまれた紙を開き、テーブルの上に置く。

第二のクエストが書かれたであろうその紙を。

全員が顔を近付け食い入るようにそれを見る。

 

 

大老殿出口でクエスト報酬金と第一クエストの報酬である「紅蓮に燃ゆるリング」の引換券を受け取る。「始まりの四元素」はそれらの券を4枚揃えないと手に入れることは出来ないことを聞き、四人は更に落胆しながら帰路につく。

ドントルマの大広場に出る頃には既に夕刻。4人とアイルー3匹は歩く。エアリスと那由多が楽しそうに鼻歌を歌っているが、JUNとSai、Moonは沈黙を守ったまま歩く。

ナルガとワトソンは最後尾でぎこちなくではあるがお互いの身の上話などをしている。

 

「…さっぱりわかんねぇ。」

 

「ですね。私も何がなんだか…。」

 

「…。」

 

JUNの落ち込み方が尋常ではないことを見るとMoonはJUNの背中をパンっと叩き微笑む。

 

「期待してるぜ、ヒーロー!こういう謎解きはきっとヒーローならすぐ解けるぜ!」

 

「そうですね!!師匠は謎解きとか上手そうですもの!!」

 

「…あ、あぁ、そのことなんだが…」

 

「ん?どったの?」

 

「もう暗号は解けているんだ。」

 

「え!?師匠凄すぎです!!私にはただの詩としか思えなかったのに!!」

 

「私なんて怪文書の類にしか思えなかったぜ。」

 

「コツがいるんだよ…ただ…ん~…。」

 

JUNはポケットから四つ折りに戻した紙を更に解き直して見つめる。

 

「どうしたものか…。」

 

小さく呟くと宿のドアを開けた。

食事の時間になったら合流することを告げ、JUNはワトソンと部屋へと戻ると先程の紙をテーブルに置いて、見つめる。自分の推理が間違っていることを願いながら、その内容を呟いた。

 

祖なる者

弥勒峠の

朱の両の

雛鳥嘶き

風見見ん

 

嘶く者無く檄も無く

身は滅びとも弩は濁らん

 

是をば狩らんや 狩りの詩

か…。」

 

JUNの声が空しく部屋に響いた。

 




JUNの最後の発言が次のクエスト内容となっています。
お暇な方は解いてみてくださいね。

ヒント1
上段、五列はクエスト内容を示し
中段、二列が解読するためのルールを示してます。
下段、一列は意味は無く、ただの詩です。

ヒント2
全てを「ひらがな」にしてみると分かりやすいかもしれません。

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