清々しいほどに晴れ渡った空。
ここはポテナイという町。
ドンドルマの南東に位置し、おだやかな気候と数多くの商業施設が特徴的な町である。
カジノ、闘技場など様々な商業施設が多く、多くのハンターや商人が集まる町。
一見治安の悪そうなイメージはあるのだが、一際能力の高い自警団の影響もあってか比較的住みやすい町としての評価が一般的となって記憶に新しい。
緩やかな勾配のある石畳がメイン通りの住宅街。メトライア住宅区域。そのシンメトリーな構図から「画家が好む道」という別名もある。
その一角にその店はある。
この町ではたった一つしかない施設。
この町ではたった一人しかいない専門家。
たった一人の名探偵のお話。
たった一人の元有名ハンターのお話。
探偵事務所「average hunter」。
物語(ミステリー)はいつもそこから始まる。
探偵事務所「average hunter」の一室。
彼はそこで生活をし、数々の難事件を解決したり、どうしようもないほどにお蔵入りにしたりしている。
名探偵JUN。
元々は一流のハンターとして世界中を飛び回っていたが、好奇心が強く謎解きに強い関心のあった彼はハンターとしての数多くの功績や地位を投げ打って探偵事務所を立ち上げた。
多くの人は彼を嘲笑った。
ハンターという職業は多くの危険を伴うが、それ以上の見返りがある。
一流ハンターであるならば、ギルドに在籍しているだけでも食うに困らないだけの生活が出来るのだ。出世してどこかの町のギルドマスターにでもなれば呼吸をしているだけでもお金が舞い込んでくる待遇だ。
または、自叙伝を書き溜めて販売をすれば、その印税だけで死ぬまで遊んで暮らせるハンターがいるほどだ。
昨年から「アイルーショップの店員さん」にその座を奪われたが、子供のなりたい職業ナンバーワンに輝いた夢のある職業としても紹介されていた。
そんな職業で地位も名誉も築いたJUNだったが、すんなりとそれらを捨て去り自らを名探偵と名乗ってこの探偵事務所を立ち上げたのだ。
そんな彼の一日は一杯の紅茶から始まる。
道路沿いに面している建物なのだが、陽の入りはあまり良くないその部屋。
中央には大きなテーブルがあり、その両端に大きめのソファ。
壁にはあまり凡人には理解出来ない絵画が飾ってある。おそらく夜中に子供が薄暗がりでその絵を見たら意味は分からなくて泣いてしまうような筆舌を許さないタイプの斬新な色合いと「何か」の絵だ。絵の右下にあるJUN直筆のサインだけが唯一読み取れる代物が数点。
紅茶などをしまう大きな棚の上には過去の思い出の品々だろうか。ガンランスの薬莢、折れた矢尻、大剣の切っ先など、少し埃をかぶったそれらが寂しそうにくすぶっている。
JUNは紅茶を運んできたアイルーにありがとう、と言うとゆっくりと匂いを楽しんでから、静かにカップに口を当てた。
一口飲み終え、カップをテーブルに置きながらJUNは天井を見上げながら呟いた。
「今日のダージリンもまた格別だよ、ワトソン君」
「アッサムですニャ。」
ワトソンと呼ばれた三毛のアイルーは間髪入れずに名探偵の名推理を冷たい口調で否定した。
ワトソンはJUNがこの町に引っ越す途中でファンゴの群れに襲われていたところを助けた野良アイルーだ。この探偵事務所の設立に大きく貢献したJUNの相棒である。
最初は優しい口調でJUNの間違い(ジョーク?)を正していたのだが、最近は辛辣な物言いさえも無くなり、やや冷たい口調で訂正してくる。無視を決め込んだ時期もあったが、JUNの「おやおや、言葉は無粋かな?」と半笑いで聞かれた時、彼女はどうしようもないほど戦慄したためせめて言葉は返そうと決意した。そして現在の冷たい口調なのである。
「時にワトソン君。今日の私たちの予定は?」
ワトソンは小さな溜息を吐くと、胸元にある小さなポケットから、これまた小さな手帳を取り出すと慣れた感じで爪を少し伸ばすとページを捲り出した。
「本日は正午から依頼者の来店がありますニャ。クライアントの名前は…。」
ワトソンの言葉を遮るようにドアをノックする音が鳴り響いた。
正午というにはまだ早すぎる。
ノックは2度3度と鳴り、まだまだ止む様子はない。それどころか子供の悪戯のように力強く、もうどちらかというと取り立て屋のそれのようにのべつ幕無し叩かれている。
幸いなことに探偵事務所は設立当初から赤字は出ていない。赤字になりそうだ、とワトソンが騒ぎ出すと、JUNが戸棚から「覇竜の極大牙」を数本取り出し道具屋に赴けば金はまさに魔法のように、湯水のように湧いてきた。そのため、形はどうあれ取り立て屋がそのドアを叩くことはないのだ。
二人はやや苦笑気味に顔を見合わせるが、ワトソンはすぐさまドアへと向かった。
「はい、こちらは探偵事務所average hunterですニャ。」
ビジネスライクな物言いが板に染み付いてきたワトソンのやや声高い口調と共にドアを開け、ようやくノックは収まった。
それと同時に部屋に響き渡るほどの元気な女性の声が木霊した。
「師匠―――っ!ユクモ村から遊びに来ましたーーーっ!」
JUNはゆっくりと立ち上がると、口の端を少し吊り上げ窓を見やる。
「物語(ミステリー)の匂いだ。」
ニヒルに笑むと、ワトソンとSaiの声を置き去りにし窓から外へ飛び出していった。
物語(ミステリー)はいつもそうやって始まる。
数時間後、ワトソンの嗅覚とSaiの容赦ない麻痺瓶付きの矢によってJUNは拘束され、部屋へと戻され物語(ミステリー)は始まる。