Moon。
ガンランスに砲弾と夢と浪漫を詰め込んで戦場を駆け抜けた女ハンター。
男勝りな勝気な態度とややエキセントリックな思考の持ち主のため、ギルドでもある意味有名な存在だった。
ガンランスの使い方が特殊であり、盾は携帯しない。
「そんな重い盾なんか持ってるから動きが鈍くなるんだ。」の一言で集会所のランスガンランス使いの雰囲気を一瞬にして緊迫したそれにすることが多々あった。
今、彼女はバルバレに住みかなり特殊な道具屋を経営している。
近隣住民は彼女を良い意味でも悪い意味でもこう呼んでいる。
「発明道具屋」と。
「決めたよ、那由多。私、発明王になる。」
JUN達と別れた後、彼女は周りの本気の制止を本気で押し切ってバルバレにて研究所を設立した。
那由多。
大剣の使い手。小さな体躯と天然ボケが過ぎる彼女は、ギルド内でもファンが少なくない存在だった。ファンクラブが出来た数少ないハンターである。
ただ、その腕前は目を見張るものがあり、ハンターデビューの際にハンター装備一式にてケルビ5頭の狩猟というクエストを受注するも、キリン5頭を狩猟して帰ってきたという偉業を成し遂げた。
ギルドマスターがその時に言った「これ、ケルビの角やない。キリンの蒼角や。」はその年の流行語にもなり、一躍有名人の仲間入りをした。
Moonと出会い、不思議な縁を感じたのかそれ以降ずっと一緒に生活をしている。
JUN達と別れた後もMoonの夢を叶えるため奔走した。
アイテムショップ「エンデデアヴェルト」
Moonが経営する道具屋。
そのカウンターに頬杖を付いてつまらなそうに溜息を吐くMoonがいた。
店内には客は一人もいない。
那由多が品出しをしている。
そんな様子を見ながら、Moonは再び深い溜息をついた。
「Moon、どうしたのぉ?」
調合が終わり、瓶詰も済んだ回復薬を一本ずつ棚に並べながら、いつものように楽しそうな口調でMoonの方を那由多は振り返った。
「また、これよ…。」
そう言って先ほど封を切ったばかりの封筒をつまらなそうに指で数回叩いた。
封筒には「道具特許会」と書かれている。
道具特許会とは、様々な道具の安全性や有用性を保証し、製造した者の権利を保障する機関である。商品化する道具などは一度ここで申請を受けることによって世界中に流通することが可能となる。
「あぁ、駄目だったんだね。【真・強撃瓶】。」
「【貴方様の製造された《真・強撃瓶》は強撃瓶の5倍の威力を発揮する瓶として、その威力は比類なき能力を発揮いたしました。が、瓶装着時に9割以上暴発を繰り返します。また、瓶ポーチ内での暴発も起きております。誠に残念ではございますが、《真・強撃瓶》の商品化は難しいものと思われ…】。あとはもういつもと同じ。あー、もう。あー・・・。」
そう言うと、Moonはやる気なくカウンターに項垂れた。
「いつももうちょいのところなのにねぇ。」
那由多の効果ゼロのフォローの甲斐なく、Moonは頭を垂れたまま手だけ左右に振った。
「自動砥石は…?」
「武器に装着していると、自動的に研いでくれるアイテムっ♪」
「装着していると…?」
「研ぎすぎて私の剣折れた♪」
「…元気ドリンコGは?」
「元気いっぱい♪眠くなくなるスーパーアイテム♪」
「飲むと…?」
「あの時私3日間眠れなくなった♪」
「…センサー除去装置は?」
「レアアイテムが出やすくなる、誰もが欲しがる魔法のアイテム♪」
「装着すると…?」
「あ~、確か【しかし、ふしぎなちからによってかきけされてしまった!】って聞こえた気がした♪」
こんな感じでMoonは何度も何度も道具特許会に申請書を送っては、「貴方様の今後のご活躍をお祈り申し上げます。」の封書に目を通している。
通常商品と同じように自作のアイテムも店頭には並べているが、残念なことに売れ筋は良くない。というか、悪い。悪すぎた。
JUNの探偵事務所同様実質連続赤字なのだが、那由多が「…ちょっと回復薬の素材集め行ってくるね♪」と店を出て数日後返ってくると金庫は「何故か」とてつもない額のお金が仕舞われていた。あまりにも不審に思ったMoonが問いただすと、【回復薬を取りに行ったら祖龍に襲われてしまい、仕方なく倒し、折角だから素材を持ち帰って売る】のだそうだ。
那由多は目を泳ぎに泳がせ、そう説明した。
あまりに嘘が下手過ぎる那由多を不憫に思いながらも注意し、今度そういうことをしたら本気で怒ると注意したMoonだったが、一般人が10年以上遊んで暮らせる額が金庫に眠っている。「今度」はもう来ないのかもしれない。
「あーあ。客も来ないし、那由~。酒でも飲みに行くか~?」
昼前である。
那由多が苦笑していると、店のドアがゆっくりと開いた。
「お客さん、いらっしゃいませぇ~♪」
那由多の人懐っこい応対に対して、Moonは既にやる気無くカウンターに突っ伏したまま軽く手を振っていた。
「当店ご自慢の超大型打ち上げ中型小タル爆弾はいかがですかぁ~♪って、あれ…?」
「わーーーー!那由多さんだぁーーーーー!」
「久しぶりだね、那由多君。」
Moonにとっても那由多にとっても聞き覚えるあるその声が店内に響いた。
Moonが勢い良く飛び上がり、二人に目を向ける。
Saiは既に那由多の手を取って上下にブンブンと引き千切れんばかりの勢いで振り回している。
「ヒーローとSaiさん!!」
カウンターを蹴るように力強く飛び越えてMoonはその勢いに任せてJUNに抱き付いた。
MoonはJUNのことを【ヒーロー】と呼ぶ。ピンチになると必ずJUNが状況を打破することから、いつからかそう呼ぶことになった。那由多もいつの間にかそう呼ぶようになり、誰も「JUN」と呼ばなくなったため、他の人に「JUNさん」と呼ばれても反応するのに時間がかかるほどJUNは自分の名称にアイデンティティを感じ難くなってしまった過去があった。
「ホントに久しぶりだねぇ♪二人ともどうしたのぉ~?」
那由多はSaiの強すぎる握手をやんわりと離し、JUNとSaiを交互に見詰めながら嬉しそうに話しかけた。MoonはJUNへのハグが終わると、Saiの頬っぺたに頬擦りをしながら嬉しそうに「そだそだ、どしたの?」と答えを促した。
当たり所が悪かったのかJUNは胸元を苦しそうに押さえながら言葉を発そうとするが、すぐにSaiが「お願いがあって遊びにきたんだよ!」と元気良く意味が分かり難い返答をした。
「ん・・・?w」
それぞれがそれぞれ、思い思いの意味深なリアクションをする。
これも彼と彼女達のいつものちぐはぐな会話。
いつも通りの懐かしき四重奏。